JRRCマガジンNo.212 学校等の教育機関における著作物等の利用について(その1)

川瀬真

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JRRCマガジン No.212 2020/8/6
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

みなさまこんにちは。
今年の夏は情勢も気象も例年にない状況ですね。
子供たちはあっという間に夏休みに入りました。

休み短縮で宿題も少なめなのですが、
感染防止のために集団指導が難しく、進度が遅い授業を補講するためのひとつとして、
縦笛の練習をYoutubeを見てするようにとの課題がありました。

見てみると、限られた予算と時間とスキルの中でどうにか手元を大きく映そうと角度を工夫したり、
一歩間違えば世界中の人が見ることができる媒体に顔を出したくない先生への配慮か、
口元より上を映さないようにするなど、授業制作に苦労されていることが感じられました。

今日のコラムはそんな先生方のインターネット上での著作物利用についてです。

教育目的の利用については、教育機関における遠隔地教育を権利制限の対象にした著作権法の改正が、
2018(平成30)年に行われ、2020(令和2)年4月28日に急きょ施行されました。

前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━

 学校等の教育機関における著作物等の利用について(その1)

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~ネットを活用した教育と著作権の関係を中心にして~

1 はじめに

著作権法では、複製、公衆送信等の著作物等の利用につき著作権を認める一方で、
公益、社会慣行等の理由により、権利者の許諾を要しない利用を認めています。
これを一般に「著作権の制限」といい、その利用を認めた規定を「著作権の制限規定」と呼んでいます。
 
著作物等の教育利用については、公益性のある利用であるため、多くの国で著作権の制限が行われており、
わが国でも同様です。教育利用に関する著作権の制限規定はかなり多くあり、
また最近のネット社会の到来に伴い教育関連の制限規定の改正も何度か行われています。
 
今回は、著作物等の教育利用に関する著作権の制限規定について、
ネットを活用した教育という側面に視点を当てつつ解説していきます。

2 大学等の教育機関における著作物等の利用

著作物等は様々な機関で利用されていますが、教育機関における著作物等の利用は、
企業における著作物等の利用と異なり、利用の目的が多様であり、
その中には公益性があり著作権の制限規定の適用がある利用もあることから、
教育機関全体でみると、権利者の許諾が必要な行為と許諾が必要でない行為が混在していることになります。
 
この点について、大学を例として、そこで行われる著作物等の利用行為を分類した上で、
著作権の制限規定の適用を整理すると次のようになります。

(1)授業における著作物等の利用

大学は教育機関ですから、授業における著作物等の利用が主たる利用になります。
この利用については「学校その他の教育機関における複製等」(35条)や「営利を目的としない上演等」(38条1項)の適用があります。
なお、新型コロナ問題でにわかに注目を浴びているネットを活用した授業については、2018(平成30)年の著作権法改正で35条が改正され、
公衆送信による授業(遠隔地授業等)にも権利制限が拡大されました。
この改正35条は、新型コロナ対策のため、2020(令和2)年4月28日に急きょ施行されたところです。

(2)入試問題等の作成のための著作物等の利用

入試問題に限らず、定期試験等の問題に著作物等を利用する場合には、
「試験問題としての複製等」(36条)の適用があります。
例えば、国語の入試問題に現代小説の一節を使う場合がこれに該当します。
 
なお、2003(平成15)年の36条の改正により、複製・配布だけでなく、
公衆送信による試験も権利制限の対象になりましたので、いわゆるインターネット入試も可能となっています。

(3)学生の個人的利用、学生のサークル活動等における著作物等の利用

学生の個人的利用やごく親しい友人間での利用については、
「私的使用のための複製等」(30条)に該当する場合があります。
しかし、クラブ活動やサークル活動の場合は、一般に私的使用のための利用とは言えず、
また、(1)の授業にも該当しないため、原則として権利者の許諾が必要です。

(4)教職員の会議、研修会等における著作物等の利用

一般に権利制限の対象とはならないので、企業等の団体における業務上の利用と同様、
原則として権利者の許諾が必要です。

(5)教職員の執務参考資料として著作物等の利用

(1)との関連で、教員等が授業の準備のために行う著作物等の複製(35条)等の場合を除き、
原則として権利者の許諾が必要です。業務上の利用という面では(4)と同様です。

(6)教員の研究活動における著作物等の利用

論文作成に当たっては、引用(32条)による利用に該当する場合が多いと思います。また、研究の方法により、
「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」(30条の4)、
「電子計算機における著作物の利用に付随する利用等」(47条の4)、
「電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等」(47条の5)
等の制限規定が適用される場合があります。
それ以外については、原則として権利者の許諾が必要です。

(7)図書館における情報提供のための著作物等の利用 

大学図書館は、「図書館等における複製等」(31条)が適用される図書館(施行令1条の3第1項第2号)ですので、
学生、教員等の利用者の求めに応じ、権利者の許諾なしに一定の条件で複製物の提供等が可能です。

(8)大学の広報活動における著作物等の利用

(1)から(7)までは、主として大学における内部利用のための著作物等の利用ですが、
それ以外にも例えば、広報誌、大学HP 等による外部に対する情報提供のために著作物等を利用する場合が考えられます。
このような場合については、原則として権利者の許諾が必要です。
 
(1)から(8)まで大学における著作物等の利用について、利用を分類してみましたが、
著作権の制限規定の対象内の利用と対象外の利用が混在していることを改めて理解していただけたと思います。
また、著作権の制限規定も、例えば35条であれば権利制限の対象になる利用行為について様々な条件が付されているので、
教育目的という理由だけで全ての行為が権利制限の対象になるわけではありません。 

3 授業における著作物等の利用

これまで説明したように、教育機関における著作物の利用は多様ですが、
教育機関の主たる業務は教育ですので授業における著作物等の利用に焦点を当てて説明します。

(1)「学校その他の教育機関における複製等」(35条)の仕組み
①制限規定の内容
35条は、1970(昭和45)年の現行法の制定時から存在する制限規定の一つです。
制定時は、教員が授業用の資料として著作物を複製し履修者に配布することを無償で行うことができる規定でした。
その後、2003(平成15)年の改正で、著作物の利用主体を教員(授業を担任する者)に加えて、履修者(授業を受ける者)に拡大した上で、
当時実施されつつあった対面授業(教員と履修者が1つの教室の中で行う授業)の同時遠隔地授業(対面授業の様子や
そこで利用されている資料を同時に公衆送信し遠隔地の会場にいる履修者に授業を行うこと)についても無償で行うことができるようになりました(改正前35条2項)。
さらに、2018(平成30)年の改正では、それまで対面授業の同時遠隔地授業だけが権利制限の対象であったのを、公衆送信による授業等全般に拡大したうえで、
対面授業の同時遠隔地授業以外の授業等については、権利者が被る不利益が大きいとして、権利者に対して補償金の支払いを義務付けました(35条2項)。
制限の内容を定めた改正35条1項の条文は次のとおりです。

なお、同条2項は、公衆送信による授業等を行った場合は補償金の支払いが必要なこと、
同条3項は同条2項の例外として対面授業の同時遠隔地授業のための公衆送信には補償金を支払う必要がないことを定めています。
なお、同条3項の取扱いは、改正前は無償で授業を行えたことによるもので、いわゆる既得権を考慮した措置です。

第三十五条 
学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、
その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、
若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、
又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。
ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、
公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 
この条文の解釈については、権利者、利用者及び有識者から構成される
「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」が定めた「改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)」(以下「運用指針2020」という)
に詳しく説明されていますので、それを参照してください。

なお、「令和2(2020)年度版」の意味ですが、
関係者フォーラムでは2020(令和2)年の夏をめどに運用指針のとりまとめを進めてきましたが、
新型コロナウイルスの流行により、改正35条が急遽2020(令和2年)4月28日に施行されたことにより、
それに間に合うようにいくつかの論点を残したまま取りまとめたことから、
2020(令和2)年度だけ有効である運用指針という意味でこのような名称になったところです。
なお、残された課題については、現在フォーラムで検討中です。

②2018(平成30)年の改正により拡大された利用形態例
新たに権利制限の対象となった公衆送信を用いた授業等の主たる利用例は、次のとおりです。

(ア)対面授業の異時遠隔地授業
対面授業で利用されている資料(著作物)を一旦複製し、サーバーにアップロードした上で、異時に公衆送信して行う授業のことです。
なお、対面授業の同時公衆送信による授業は先述したように無償でできます。

(イ)予習、復習のための自宅学習
運用指針2020の『用語の定義④「授業」』でも説明されているとおり、予習又は復習については改正35条の「授業の過程」に該当するとされています。
例えば、予習のためにあらかじめ教員が授業当日に使用する資料(著作物)を履修者に公衆送信を用いて提供したり、復習のために当日の授業を録画し、
そこで使われている資料(著作物)とともに、同様の方法で履修者に提供することが該当します。

(ウ)スタジオ型の遠隔地授業
スタジオ型の授業とは、スタジオ内で履修者を入れずに行った授業を、
同時か異時かにかかわらず、公衆送信により行う方式の授業のことをいいます。
例えば、通信過程の学校や社会人向けの大学院等ではこの方式の授業が行われる場合が多いです。

(エ)クラウドサーバーを使った対面授業
2003(平成15)年の改正において、対面授業の同時遠隔地授業が新たに権利制限の対象になりましたが、
当時の対面授業については、教員等が資料(著作物)を複製し履修者に配布するという方法が主流でした。
 
また、仮に学校内のネットシステムを使って履修者に資料(著作物)を送信する学校があったとしても、
それは学校内に設置された送受信設備を使って行う方法であり、
著作権法上は「同一構内」における送信として、公衆送信には該当しないことになり(2条1項7号の2括弧書)、
そもそも公衆送信権は働かないことになります。
 
その後の通信技術の発達、経済性やセキュリティ対策の問題により、最近では民間企業のクラウドサーバーを使って送受信を行うようになり、
教育機関においても同様のシステムの導入が進んでいます。
先述したように「同一構内」の送信というためにはサーバー(送信・受信設備)が学校内にあることが条件ですので、
例えばサーバーが学校外の民間企業の敷地内にあるとすれば「同一構内」における送信には該当せず、一般に公衆送信に該当することになります。
以上の点から、このような形式の授業については、もちろん権利制限の対象にはなりますが補償金の支払いが必要になることになります。
 

次回は、補償金の収受について、
指定管理団体方式という特別な制度により補償金の支払と権利者への分配が行われることになっていますので、それについて説明をします。
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