JRRCマガジンNo.213 EUにおけるマージ理論

山本隆司

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JRRCマガジン No.213   2020/8/13
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みなさまこんにちは。
今週は夏休みを取られている方も多いのではないでしょうか。
子供の頃の夏休みの宿題の定番といえば自由研究でした。
休み明けの学校には完全に親のサポートが垣間見える「力作」揃いで、
お子さんの自由研究に付き合う親御さんも大変です。
誰のための宿題なのかと思ってしまう面もありますが、
子供ならではの発想から発明品が生まれるきっかけとなるのも自由研究です。

今日のテーマは発明と著作権の関係についてです。

自由研究の際の著作物利用や、権利についての質問は事務局にも多く寄せられます。
ただ提出して展示して終わりではなく、学校の先生方にはこの宿題を契機に、
知的財産に関する問題にも触れていただけたらと思います。

前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/yamamoto/

◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義(90) ━

  -EUにおけるマージ理論-

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2020年6月11日、欧州司法裁判所は、
情報社会指令(Directive 2001/29/EC)に定める著作権による保護がアイデアに拘束された製品の形状に及ぶかという問題について、判決を下しました。
 
この事件では、原告は、3つに折りたたむことが可能な自転車を発明(特許はすでに消滅)し、販売していました。
被告は同様の自転車を販売しました。原告は、ベルギー(リエージュ)の裁判所に、自転車の外観の類似を理由に著作権侵害で提訴し、
被告は外観の類似は技術的要件に制約(dictate)された結果であると主張しました。
ベルギーの裁判所は、
「技術的結果を達成するために必要な形状は著作権の保護から排除される」と情報社会指令を解釈すべきかという問題を、
欧州司法裁判所に付託しました。

欧州司法裁判所は、まず、情報社会指令で保護される「著作物」の要件として「創作性」(originality)と「表現」(expression)の要件を挙げます。

そのうえで、形状が技術的考慮によって制約される場合であっても、創作性の要件を満たすものには著作権の保護があるとします。
創作性の認められる場合について、「形状が技術的結果を得るために少なくとも部分的に必要な場合であっても、
形状の選択を通じて、著作者が自由かつ創造的(creative)な選択によって創作的方法でその創造的能力を表現し、] その個性を反映する方法で製品を設計したといえる形状の製品には、著作権の保護が適用される」と判示しました。

技術的要件に制約された製品の問題は、アイデアに拘束された表現に対する著作権による保護があるかどうかの問題の一適用場面です。
これについて、第1の問題は、著作権による保護はアイデアにも及ぶのか、それとも表現にのみ及ぶのかというものです。
欧州では、アイデアに著作権の保護が及ぶことを問題にはしていませんでしたが、
いまでは、アメリカで生まれた「アイデアと表現の二分法」という法理がプログラム指令や情報社会指令によって浸透しています。
日本でも、いまでは、著作権による保護は表現にのみ及びアイデアには及ばないことが判例上も確立しています(江差追分事件・最判平成13年6月28日)。

第2の問題は、表現がどのようにアイデアに拘束されている場合に、創作性が認められないのかというものです。

まず、アイデアに不可避の表現には創作性が認められない(マージ理論)ことには異論がありません。
つぎに、アイデアの表現方法が複数ある場合に、創作性が認められるかという点については、議論があります。
中山信弘教授は「選択の余地」自体が創作性だという立場に立つので、創作性を認めることになります。
しかし、判例・通説は、アイデアの表現方法が複数ある場合でも、その中のありふれた表現をとる場合には創作性がない(ありふれた情景の法理)と考えています。
たとえば、「ノンフィクション小説事件」(知財高裁平成22年7月14日判決)は「特定の思想を表現する方法に多数の選択肢があるとしても、
その選択された表現自体がありふれたものであれば、これに創作性を認めることができない」と判示しています。

以上の点について詳しくは、拙稿「『創作性』概念の再構成」(コピライト2019/4)をご参照ください。
さて、以上の点から本件の欧州司法裁判所の判決を評価すると、著作権による保護は表現にのみ及びアイデアには及ばないこと、
およびアイデアに不可避の表現には創作性が認められないことは、明確にされています。
他方、アイデアの表現方法が複数ある場合については、その中で選択した表現が「創作的」であれば著作権の保護があるとは判示していますが、
どのような場合に創作的であるのか、創作的でないのかの基準は(創造的(creative)な選択、創作的方法、個性の反映以外)示していません。
少なくとも中山説を採らないことは明らかですが、ありふれた表現に対する創作性を否定する「ありふれた情景の法理」を採用するのかどうかは明確にしていません。
 
以上
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