JRRCマガジンNo.355 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)22 権利の例外(5) フェアディーリング⑤

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JRRCマガジン  No.355 2024/2/1
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◆今回の内容
【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)
【2】【2/21開催】JRRC無料オンライン著作権セミナー開催のご案内(受付中!)
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皆さま、こんにちは。

まだまだ寒さが厳しいですが、このところ日が長くなったように思えます。
いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は今村哲也先生のイギリスの著作権制度についてです。

今村先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/imamura/

◆◇◆【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)━━━
Chapter22. 権利の例外(5):フェアディーリング⑤
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                              明治大学 情報コミュニケーション学部 教授 今村哲也

1.はじめに

イギリス著作権法の第1部「著作権」の第3章は「著作物に関して許された行為」を規定しています。この第3章には、第28条から第76A条まで規定があります。

それらの規定の中には、「フェアディーリング」という要件がある場合と、それがないため「フェア」という要件を裁判所が判断しない場合との2種類が存在します。

今回は、前回に引き続き、フェアディーリング規定のなかから教育のための説明に関する規定をみていきますが、併せて、教育機関による著作物に関連するその他の著作権の例外規定についても紹介します。

2.教育の場面での著作権の例外規定

教育の場面での著作物利用に適用される著作権の主な例外規定は、イギリス著作権法32条から36A条までの6箇条に規定されています。

(1)教育のための説明(32条)

著作権法32条は、授業における説明を専らの目的として著作物を利用する場合における著作権の例外を定めています。その条件は、(a)非商業的な目的であること、(b) 授業を行い若しくは受ける者が行うこと(準備をする者も含む)、(c)十分な出所明示を伴うこと(実際上不可能である場合を除く)であり、加えて「フェアディーリング」(本連載Chapter17を参照)であることが求められます。

説明することが専らの目的になっていますので、例えば、板書で専ら説明するための著作物の利用が該当しますが、それ以外にも、試験問題の作成や、生徒への問題の伝達及び問題の解答を行う者に対しても、この規定が適用されます(32条2項参照)。

また、契約によって32条で許される複製物の作成を禁止等する場合、その契約条項は執行不能とされます(32条3項)。たとえば、教育機関に教材を販売する契約を締結する際に、教員が教材に含まれる著作物をホワイトボードに板書したり、それを用いて試験問題を作成することを禁止する条項があったとしても、それらは無効だということです。ただし、契約条項が無効であるのは、これらの行為がフェアディーリングの範囲で行われる場合に限られます。

これらの行為について、日本の著作権法では、たとえば、授業中の板書による複製については著作権法35条1項により認められるでしょうし、試験問題の作成については、試験問題の性質に応じて、授業内での試験でしたら35条1項、入学試験でしたら36条の規定で、許諾を得なくても行うことができるでしょう。

(2)教育上の使用のためのアンソロジーへの挿入(33条)

著作権法33条は、発行された文芸又は演劇の著作物からの短い章句を一定の条件を満たす収集物に挿入することは、その挿入される著作物自体が教育機関における使用を意図したものではなく(教育機関向けに出版された文芸作品等からの挿入はNGということです)、挿入が十分な出所明示を伴う場合(実際上不可能な場合を除く)には、その著作物の著作権を侵害しないとされています(33条1項)。

一定の条件というのは、当該収集物が教育機関での利用を目的としており、そのことが題号や広告に際しても示されていること、また、その収集物は、主として著作権が存続していない資料から構成されるものであることです(33条1項(a)(b))。

したがって、たとえば収集物の表紙に「教育利用のみ」などと記したりしなければなりませんし、作成する収集物の大部分の素材は、著作物性がない部分であるか、あるいは著作権の存続期間が満了したものでなければなりません。

収集物の出版自体が非営利であることは求められていませんので、作成される収集物を商業的な出版社が発行しても構いません。しかし、「同一の著作者が作成した著作権のある著作物からの3以上の抜粋を、5年の間に同一の出版者が発行した収集物に挿入すること」は許されていません(33条2項)。

したがって、同じ出版社がある特定の著者の作品のなかから短い章句を3つ以上使う場合、5年に一度しかできないということになります。

これらの行為について、日本の著作権法では、ある教員が自分の授業において利用するためにそうした収集物を作成するということであれば、35条の規定が適用されるでしょう。他方で、出版社からそうした収集物を発行する場合、35条は適用されないので、著作権者からの許諾が必要です。ただし、いずれの場合も、短い章句の利用が引用の条件を満たす場合には、32条の適用可能性も考えられるところです。

(3)教育機関の活動の過程における実演・演奏・上映(34条)

著作権法34条は、教育機関の活動の過程において著作物を実演し、演奏し、又は上映することは、「公の実演」(Chapter14. 著作権(4)参照)ではないこと定めています。

この規定はすべての教育機関の活動に対して適用されるわけではなく、聴衆が「教育機関における教師及び生徒並びに教育機関の活動に直接関係する他の者」であること、また、実演する者は、授業の過程であれば、教師若しくは生徒であることが求められますし、その他、授業の目的と関係がある者に限られます(34条1項(a)(b)参照)。

また、録音物、映画又は放送についても、授業の目的であれば、演奏や上映を行っても著作権侵害にはなりません(34条2項)。したがって、授業中にレコードを再生して、生徒に聞かせることは、音楽の著作物に関する実演権だけでなく、録音物に関する演奏権も害しません。

これらの教育機関の活動の過程における行為について、日本の著作権法では、営利を目的としない上演等について権利制限を定めている38条1項の規定が適用されるでしょう。

ただし、日本法の場合、「当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。」としていますので、この点については、イギリス著作権法とは適用範囲が異なります。

イギリス著作権法は、34条が適用される教育上の使用はそもそも「公の実演」ではないとしているので、実演家や口述を行う者に報酬が支払われたとしても、著作権の例外として、無許諾で利用することができます。適用する場面によっては、日本法とイギリス法の帰結に微妙な違いがでてくることでしょう。

なお、イギリス法の34条2項との関係で、レコードの再生について、日本では、レコード製作者は、録音物を再生することについて演奏権を有していないので、そもそも問題になりません。

(4)教育機関による放送の録音・録画(35条)

35条は、授業で使用するために放送を録音・録画する場合について、教育目的が非商業的であること、十分な出所明示を伴うこと(不可能である場合を除く)を条件として、著作権の侵害とはならないことを定めています。また、同条では、録音・録画物を教育機関が非商業的目的で生徒又は教職員に対して電子的ネットワークにより伝達する場合についても定めています(35条2項、3項)。

(5)教育機関による著作物の抜粋の複製等(36条)

著作権法36条1項は、教育機関は(または教育機関のために)、(a)非商業目的の授業のために作成されること、(b)十分な出所明示が伴うこと(実際上不可能である場合を除く)ことを条件に、関連する著作物の一部を複製することができることを定めています。

この規定で対象となる著作物は「関連する著作物」とされています。関連する著作物とは、放送と、他の著作物に組み入れられていない美術の著作物は除かれています(36条4項)。放送は35条で対応しています。美術の著作物は、他の著作物に組み入れられている場合だけ、36条が適用されます。

また、同条では、抜粋の複製物を教育機関が非商業的目的で生徒又は教職員に対して電子的ネットワークにより伝達する場合についても定めています(36条2項、3項)。

複製が許される分量には定量的な限定があり、任意の12ヶ月の間に、著作物の5%を超えない範囲とされています。分量の計算に際して、他の著作物に組み入れられている著作物については単一の著作物として取り扱われます。

興味深いのは、36条の規定は、ライセンスの制約を受ける例外規定(an exception subject to licence)であることです(36条6項)。これは、36条の例外規定(つまり、任意の1年間で5%までの複製)は、ライセンスが利用可能な場合で、複製を行う者がその事実を認識していたか、認識するべきであった場合、その範囲においては、適用されないということを意味します。

簡単にいうと、教育機関にとって利用可能なライセンスがない場合だけ、36条の例外規定が適用されるということです。このような権利の制限・例外規定については、ライセンス優先型権利制限規定と称されることもあります。

この仕組みは、教育機関にとって利用可能なライセンス・スキームを集中管理団体が提供するインセンティブとなっており、実際にイギリスでは、出版物等の複製権等の権利を集中管理しているCLA(Copyright Licensing Agency)によって、教育機関向けのブランケットライセンス(包括利用許諾)が幅広く提供されています。

日本の著作権法でも、学校その他の教育機関における複製、公衆送信、公の伝達は権利制限になっておりますし(35条1項)、そのうち授業目的で行われる公衆送信の一部は、授業目的公衆送信補償金の対象となっていますが(35条2項、140条の11以下)、ライセンス優先型権利制限規定といったものはありません。

(6)教育機関による複製物の貸与(36A条)

36A条は、著作物の著作権は、教育機関による著作物の複製物のレンタルにより侵害されないと規定しています。

日本では、教育機関による著作物の複製物の貸与は、学校図書館による図書の貸し出しも含めて、非営利の貸与として著作権の制限規定が適用される場合が多いでしょう(日本著作権法38条4項)。

3.おわりに

今回は、教育機関による著作物の利用に関連する著作権の例外規定を見ていきました。

日本の著作権法において、教育機関が利用可能な権利制限規定と比べると、概ね共通していると言えますが、いくつかの違いがあることも分かります。

なかでも、イギリス著作権法36条のライセンス優先型権利制限規定は、権利の制限や例外とライセンスの区別を硬直的にとらえるのではなく、許諾権を正面から認めながら、ライセンス・スキームの発達を促すという興味深い機能を果たすものです。

日本でも、権利の集中管理などのライセンススキームの発達が望まれるにも関わらず、それが未発達である分野において、解釈論や立法論の範囲で、こうした考え方を取り入れることも検討に値するのではないかと思います。

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