JRRCマガジンNo.356 フランス著作権法解説7 著作権の例外規定

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JRRCマガジン  No.356 2024/2/8
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◆今回の内容
【1】井奈波先生のフランス著作権法解説
【2】【2/21開催】JRRC無料オンライン著作権セミナー開 催のご案内(受付中!)
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皆さま、こんにちは。

立春とは名ばかりの肌寒い日が続いております。
いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は井奈波先生のフランス著作権法解説の第7回目です。

井奈波先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/inaba/

◆◇◆【1】井奈波先生のフランス著作権法解説━━━
第7回 著作権の例外規定
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1 はじめに
 前回は著作財産権について説明しましたので、今回は著作財産権の例外について説明します。著作権に対する例外規定は、従前、きわめてシンプルでした。しかし、情報社会指令を国内法化した2006年法以降、順次、新たな例外規定が創設されています。
 フランス著作権法は、例外となる使用方法を限定列挙し、柔軟性よりも、法的安全を重視しています。
 その内容には、①私的な上演・演奏、②私的複製、③要約および短い引用・新聞雑誌の論説紹介(プレス・レビュー)・公の演説の伝達・競売のための美術の著作物の複製・研究における説明目的の利用、④パロディ、⑤電子的データベースの内容にアクセスするために必要な行為、⑥一時的複製、⑦障害者のための利用、⑧図書館等による保存目的または研究調査目的の利用、⑨報道目的の美術の著作物等の利用、⑩テキストおよびデータマイニング、⑪公道に恒久的に設置された建築の利用、⑫教育における説明目的の例外、⑬入手不可能な著作物の利用、の各例外があります(122-5条①~⑬、文中①~⑬は号に対応)。そのほか、コンピュータ・プログラムに関する例外規定があります(122-6-1条)。
 これらの例外のうち、日本にはないものとして、パロディが挙げられます。パロディの例外は法典化当初から存在し、フランス著作権法の特徴といえるものです。今回は、パロディに関する新しい判例を紹介します。

2 「例外」の意味
 パロディの解説の前に、何気なく使っている「例外」の意味について確認したいと思います。
 フランス著作権法の条文上、上記に列挙した①~⑬は「例外」といわれています(122-5条3項には、「本条に列挙する例外は…」と規定されています)。これに対し、欧州の情報社会指令5条は、表題を「例外および制限」としています。欧州司法裁判所2013年6月27日判決VG Wort事件34項は、排他的権利が完全に排除される場合を「例外(exception)」、排他的権利が制限される場合を「制限(limitation)」としています。フランスの学説では、「制限」は、排他的権利が報酬請求権化した場合をいうものとする見解もあります。
 条文では「例外」とされていても、そもそも排他的権利の限界(limite)となる場合もあります。ことの性質上、排他的権利の対象となる利用行為自体が成立しない場合が限界に該当します。たとえば、上記①私的な上演・演奏(122-5条1項1号)は、例外の一つに掲げられていますが、家族内の上演・演奏は公衆への伝達がないため、そもそも排他的権利の対象となる利用行為としての上演・演奏に該当しない行為であり、限界に該当する場合といえます。
 条文では「例外」に位置づけられるものの中には、一般法を理由とするものがあります。要約および短い引用は、表現の自由に基づく例外といえます。パロディも表現の自由に基づく例外です。表現の自由に基づく例外は、排他的権利の「限界」の性質を有するものではないかという問題があり、答えは明確ではありません。

3 パロディについて
 パロディについて考えるにあたり、最近の判例であるマリアンヌの胸像事件(破毀院2019年5月22日18-12.718)を紹介します。  この事件は、フランスの週刊誌「Le Point(ルポワン)」が、雑誌の表紙に水没しそうなマリアンヌの胸像を掲載したため、胸像の著作者アラン・アスランの相続人が著作権侵害で訴えた事件です。

マリアンヌは、フランスを擬人化した女性であり、ドラクロワの絵画「民衆を導く自由の女神」でフランス国旗を振って先導する自由の女神がマリアンヌです。アラン・アスランのマリアンヌは、ブリジット・バルドーを模したものという特徴があります。問題となった雑誌の表紙に記載されているタイトルは、“Les naufrageurs  Corporatiste intouchables, tueurs de réforme, lepéno-cégétistes…  la France coule, ce n’est pas leur problème”(「難船略奪者たち 糾弾不可な組合主義者、改革の抹殺者、ルペン的労働総同盟組合員…フランスは沈みつつあるが、それは彼らの問題ではない」)というもので、左翼批判といえます。問題の著作物は、記事のタイトルとともに、フランスが沈みつつある様を、水没しそうなマリアンヌの胸像で示したものとなっています。では、このような雑誌の表紙にパロディの例外は成立するのでしょうか。
 パロディの例外について、フランス著作権法は、「パロディ、模作および風刺画。ただし、当該分野のきまりを考慮する」と規定しています(122-5条1項④)。ここで、「パロディ、模作および風刺画」という3種類が掲げられていますが、これらに厳密な区別はなく、パロディがこれらを総称して汎用的に用いられています。
 本件の結論からいうと、判例は、パロディの例外に該当することを肯定しています。その理由を見ていきます。判例は、パロディに該当するかどうかを次の3つの基準により判断しています。つまり、①ユーモラスな性格を持つこと、②パロディのもととなった著作物との混同のおそれがないこと、③元の著作物の著作者の正当な利益を害しないこと、3点です。①ユーモラスな性格を持つことという要件について、判決は、雑誌の表紙が記事の内容を説明することを目的とし、フランス共和国が沈没するというユーモラスな暗喩を構成すると判断した原判決を支持しています。②の混同のおそれについて、判決は、問題となった表紙の写真は、作品に独自の要素を加えて作品を部分的に複製したもので、元となった胸像との混乱は生じさせないと判断しています。さらに、判決は、③著作者の利益に対する不均衡な侵害を構成するものではないと判断しています。
 個人的な感想を述べると、確かに問題の写真はユーモアといえばユーモアかもしれませんがさほど面白おかしくもないですし、胸像と合成写真では混同のおそれが生じないのも当然で、これでパロディの例外が成立するなら、幅広い例外が認められそうです。特に、本件の場合、マリアンヌの胸像を使いたければ、パブリック・ドメインになっているものを使えばよいので、敢えて著作権があるものを使う必要もなく、著作者の利益を害しないとの点も疑問です。
 ここでさらに問題となるのが、元の著作物とは無関係に、記事に関連づける形で著作物を使って良いかという点ですが、判例によれば、このような使用方法でも良いという結論になります。パロディが元の著作物に関連するものでなくてもよいとの見解は、フランス独自のものではなく、欧州司法裁判所の判例(2014年9月3日C-201/13 Deckmyn事件)において採用されたものです。Deckmyn事件は、コミック作品が政治批判のために使われた場合に、パロディの例外に該当するかが争われた事件で、パロディに該当するための条件が先決問題として欧州司法裁判所に付託されたものです。欧州司法裁判所は、先決問題の判断において、まず、パロディの概念はEU法の自律的概念である、と判断しています。 これは、加盟国の法に明示的に定められていないEU上の規定は、EUにおいて統一的な解釈が与えられなければならないことを意味しています。その上で、判決は、①パロディはユーモアや嘲笑の表現であること、②既存の作品との相違を示す一方で既存の作品を想起させること、③著作権とパロディの例外を主張する利用者の表現の自由との公正なバランスをとること、を要求しています。また、本判決は、パロディが元の著作物と関連することは条件でないことにも言及しています。
 マリアンヌの胸像事件判決は、概して、欧州司法裁判所の判決を踏襲したものといえます。しかし、どこで表現の自由と著作権とのバランスをとるのか、という点は、欧州司法裁判所の判決もフランス破毀院の判決も、明らかではありません。マリアンヌの胸像事件でいえば、死亡した著作者の相続人に文句を言わせるよりも、新たな表現を考慮したのかもしれませんし(著作者人格権の回で取り上げた判例でも、死亡した著作者の相続人による著作者人格権の主張は否定されています)、著作物それ自体が商業利用されたわけではない点も考慮されたのかもしれません。生存している著作者自身が訴えた場合にも同じ結論になるのか、興味があるころです。

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