JRRCマガジンNo.306 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)11 著作権(1)

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JRRCマガジン  No.306 2023/02/02
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◆今回の内容
【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)11
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皆さま、こんにちは。

今年も雪まつりの時期になりました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は今村哲也先生のイギリスの著作権制度についての続きです。

今村先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/imamura/

◆◇◆イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)━━━
 Chapter11. 著作権(1)
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                 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授 今村哲也

1.はじめに
今回は、イギリスにおける著作権、つまりコピーライトについて、日本法との比較を視点に見ていきます。日本では、広義の著作権を著作者人格権と著作財産権(教義の著作権)と区別することがありますが、その著作財産権とも呼ばれることがある権利にあたる部分です。以下では単に著作権とします。

2.著作権の内容
イギリス著作権法(1988年著作権・意匠・特許法(以下、著作権法という))では、著作権について、複製権(17条)、頒布権(18条)、レンタル・レンディング権(18A条)、公の実演・上演・演奏権(19条)、公衆への伝達権(20条)、翻案物の作成・利用権(21条)を規定しています(16条1項)。

ここでは「著作権」と表現しましたが、法律上は「著作権により制限される行為」とも表現されています(16条1項参照)。一般的に権利というのは他人の何らかの行為を禁止できる法的な地位をさすので、言っていることは同じことです。もちろん、これらの行為を許諾する権利も有しており、そのことを指して許可権(authorization right)と表現し、上記に述べた権利の一つに加えて捉える見解もあります(L. Bently, B. Sherman, D. Ganjee, P. Jonson, Intellectual Property Law (6th edition, OUP, 2022) p.155)。

この許可権に関連して、イギリス著作権法では、日本の著作権法とは異なり、著作権者としての正当な権限がない場合に、他人に著作権に関して許可(authorize)する行為も、著作権の侵害となることが規定されています(16条2項)。

また、イギリス著作権法では、すべての種類の著作権について、「著作物全体又はそのいずれかの実質的部分」に対して、著作権により制限される行為が及ぶとする規定が設けられています(16条3項(a))。日本の著作権法でいうと、著作物の類似性の問題に関わる部分です。また、「直接的に又は間接的にその行為を行うこと」に対しても権利が及ぶとされています(16条3項(b))。

著作権侵害の成否について、行為者の主観は考慮されません。故意であろうが、過失であろうが、他人の著作物を無断で複製すれば、権利制限に該当しない限り、差止めという救済の対象になります。
これに対して損害賠償による救済に関しては、行為者の主観が、その成否等に影響を与えます。イギリスの著作権に関する損害賠償については、日本と似たような部分もありますが、イギリスにはコモン・ロー下で発展した懲罰的賠償制度もありますし、著作権法に追加的賠償制度(著作権法97条2項、191J条)が用意されているなど、多くの違いがあります。ただし、懲罰的賠償に関しては、被告が原告の権利を無視し、たとえ賠償金を払っても自分が得すると計算して行動にでたような場合に命じられるもののようですが、これについては、「一般的に、懲罰的損害賠償は、侵害が特に利益をもたらすかどうか(あるいは商業的な観点からは無意味であるか)は重要ではない、という原則に反するため、そのような損害賠償が認められることは稀であろう」とも言われています(L. Bently, B. Sherman, D. Ganjee, P. Jonson, Intellectual Property Law (6th edition, OUP, 2022) p.1374)。 

3.著作物の種類と与えられる権利
すべての種類の著作物の著作権者が、これらの著作権をすべて有するわけではありません。日本法でも、たとえば口述権や展示権が、その性質上、特定の種類の著作物にだけ与えられることをご存知の方もいるでしょう(日本著作権法24条、25条)。イギリス法でも、著作物の種類によって与えられている権利が異なっています。

イギリス著作権法では、著作権の著作物(works)について、(a)「文芸、演劇、音楽又は美術のオリジナルな著作物」、(b)「録音物、映画又は放送」、(c)「発行された版の印刷配列」というふうに、3つのカテゴリーに分けて、8つの種類の著作物を規定しています(イギリス著作権法1条1項)。

著作物のうち、(a)「文芸、演劇、音楽の著作物」は、上記の著作権をすべて有します。しかし、美術の著作物の場合、公の実演権がありませんし、美術の著作物のなかでも、建築の著作物と応用美術についてはレンタル・レンディング権がありません。特に興味深いのは、日本の著作権法と異なり、美術の著作物に翻案権がないことです。

(b)「録音物、映画又は放送」には、上記の権利のうち、翻案権がありません。放送については、レンタル・レンディング権もありません。 (c)「発行された版の印刷配列」が有するのは、複製権、頒布権のみです。

4.複製権
複製権は、すべての種類の著作物に与えられています(17条1項)。

日本法の著作権法では、複製についての定義規定があり(日本著作権法2条1項15号柱書)、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」と規定されるとともに、脚本その他これに類する演劇用の著作物と、建築の著作物について、特別な定めも置いています。

イギリスの著作権法では、「複製」について、著作物の種類ごとに定義規定や説明の規定を置いています。それぞれ簡単に見ておきましょう。

(1)文芸、演劇、音楽又は美術の著作物
「文芸、演劇、音楽又は美術の著作物」については、「著作物をいずれかの有形形式に再製すること」とし、「著作物を電子的手段によりいずれかの媒体に蓄積することを含む」としています。たとえば、書籍をコピーしたり、電子的にスキャンして保存することが含まれますし、絵を版画にしたり、写真を絵にしたり、歌を録音したりすることは複製になります(L. Bently, B. Sherman, D. Ganjee, P. Jonson, Intellectual Property Law (6th edition, OUP, 2022) p.158)。こうした点は、日本の著作権法と大差ないといえるでしょう。

美術の著作物に関しては、2次元の著作物から3次元の複製物を作成すること、3次元の著作物から2次元の複製物を作成することも、複製に該当するとしています(17条3項)。

イギリス著作権法でも、複製と翻案を区別しています。翻案の定義は、別に規定されていますので(21条3項)、複製は、翻案に当たるような行為を除いたものとなります。

日本の著作権法の場合、二次的著作物の作成・利用権はすべての著作物にあります(日本著作権法27条・28条)。これに対して、イギリスの著作権法の場合、二次的著作物の作成・利用権に相当する翻案物の作成・利用権について、これが与えられる著作物(文芸、演劇、音楽の著作物)と与えられない著作物(たとえば、美術の著作物)とがあります。

ただし、複製といっても、幅はあるのであって、デッドコピー(完全な複製)だけを対象とするのではなく、「十分な客観的な類似性」があれば、複製には該当します(See G. Harbottle, N. Caddick, U. Suthersanen, Copinger and Skone James on Copyright (18th edition, Sweet & Maxwell 2021) para, 7-15(以下、Copingerとして引用))。

ではどういう場合に「十分な客観的な類似性」があるといえるのでしょうか。

一つ目は、侵害しているとされる作品が、何らかの実際の意味において原告の著作物を表しているものでなければならないことであり、これは被告が原告著作物を単に使用したかどうかではなく、複製をしたのかどうかを問うということであって、常識的な観点から答えるべき問題であると言われています(Copinger 7-15)。

具体的には、説明からなる文芸著作物については、その説明によって物品を作成することによって侵害されない、回路図のような美術の著作物は、どんなに詳細に説明したとしても、言葉によって内容を説明することによって侵害されることはない、といったことが挙げられています(Copinger 7-15)。

「常識的な観点から答えるべき問題」といわれても、やや分かりにくい感じはしますので、他の例を挙げると、ある人がレシピの指示通りにケーキを焼いても、レシピという文芸的な作品の複製権を侵害することはないが、その理由は、保護されるのは文芸著作物としてのレシピの知的創造物(intellectual creation)であって、ケーキという創造物それ自体ではないことからである、といった説明があります(L. Bently, B. Sherman, D. Ganjee, P. Jonson, Intellectual Property Law (6th edition, OUP, 2022) p.159)。

二つ目は、客観的な類似性が十分であることです。これは、被告の著作物が、原告の著作物を表しているとしても、それと著作権のある著作物との間に十分な客観的類似性がなければ、侵害は成立しないということを意味しています。

たとえば、被告が原告の著作物を参考にしていたとしても、故意にあるいは単に下手すぎて、類似していないというケースです。ただし、十分な客観的類似性の有無について、「問題となるのは、著作物の実質的部分(著作者の知的創造の表現である要素を含む部分という意味での)が複製されたかどうかという点であり、おそらく日常の著作権法で生じる最も一般的かつ最も困難な問題であろう」と指摘されています(Copinger, 7-15)。

(2)録音物、映画又は放送
イギリスの知財分野で有名な裁判官であるアーノルド判事は、録音物、映画、放送、そして発行された版の著作権を「シグナル著作権」という概念で整理しています。シグナル著作権は、基本的にコンテンツ(たとえば、録音物なら歌詞、楽曲など)の表現に権利が及ぶものではありません。同判事は、コンテンツとなる著作物を保護する著作権のことを「コンテンツ著作権」と呼んでいます。

「シグナル著作権」という概念について少し説明をしておきます。アーノルド判事は、「文学、演劇、音楽、美術の著作物(つまりコンテンツ)の著作権は、著作者が記録したシグナルや媒体、出版社が発行した媒体をコピーしなくても(それらが異なっていたとしても)、侵害されることがある、というのがよく知られた法理である。これに対して、録音物、映画、放送、発行された版(つまりシグナル)の著作権は、「著作者」によって作成された信号をコピーすることによってのみ侵害される可能性がある」と述べています(R. Arnold, ‘Content Copyrights and Signal Copyrights: The Case for a Rational Scheme of Protection (2011) 1 QMJ1P 276)。

たとえば、録音物に対する著作権は、同じ曲をリメイクするような行為については、シグナルを利用していない以上、録音物の著作権者の著作権は及ばないわけです。

先ほど、文芸、演劇、音楽又は美術の著作物の複製については、客観的類似性というやや幅のある概念が出てきました。これに対して、録音物、映画又は放送については、著作物全体又はそのいずれかの実質的部分を複製するということが問題となってきます。

過去の裁判例では、90分のフットボールの試合の映画から数秒を用いた場合に、映画の著作物の実質的部分と判断された事例があります(Football Association Premier League Ltd v QC Leisure [2008] EWHC 1411 (Ch) [209])。

なお、映画又は放送に関しては、複製に関する説明がなされており、「映画又は放送の部分を構成するいずれかの影像(any image)の全体又はいずれかの実質的部分の写真を作成することを含む」とされています(17条4項)。基本的な読み方としては、映画の1フレームから単体の写真を作れば映画の複製になること、また、1フレームの一部分を利用する場合、実質的部分といえるかが問題となることを含意するように読めます。ただし、実際のところは、そう単純ではないようです(See A. Speck, et al (eds), Laddie, Prescott and Vitoria: The Modern Law of Copyright (5th edn, Lexis Nexis 2018) paras 7.60- 7.63)。

(3)発行された版の印刷配列
 発行された版の印刷配列に関する複製権の範囲は非常に狭いものであり、「その配列のファクシミリ複製物を作成すること」に限定されています。ファクシミリ複製物には、拡大や縮小を含むと定義されていますが(178条)、これは「複写、コピー、デジタルスキャン、ファックスなどの方法による複製に限定されているように思われ、それ以上のことはできない」と言われています(L. Bently, B. Sherman, D. Ganjee, P. Jonson, Intellectual Property Law (6th edition, OUP, 2022) p.159)。

5.おわりに
 今回は、著作権のうち複製権についてみていきました。次回は、これ以外の著作権について見ていく予定です。

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