JRRCマガジンNo.305 実演家等の権利について(その6)

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JRRCマガジン  No.305 2023/1/26
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◆今回の内容
【1】川瀬先生の著作権よもやま話
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皆さま、こんにちは。

1月もあとわずか、まだまだ寒い日が続きます。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、今回の川瀬先生の著作権よもやま話は、
「実演家等の権利について(その6)」です。

川瀬先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
【1】実演家等の権利について(その6)
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8 放送事業者の権利
(1)放送とは
 放送とは、「公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信」(2条1項8号)と定義されています。

 現行法制定時は、「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信の送信を行うこと」と定義されており放送法上の放送と同じ表現でしたが、1997(平成9)年の著作権法改正により、新たに公衆送信の概念を設け、放送・有線放送とネット送信を分けて整理しました。その際に「公衆送信」を「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(括弧書省略)を行うこと」(2条1項7号の2)と定義した上で、上記のように放送の定義には「同一の内容」と「同時」という言葉を入れて再定義しました。ただし、定義の変更はありましたが、放送の概念を変更したわけではありません。

 なお、放送法は、2010(平成22)年に全面的に改正され、有線テレビジョン放送やIPマルチキャスト放送についても放送として取り扱われることになりました。すなわち、通信と放送の融合の一環として、無線通信、有線電気通信及びいわゆるネット送信という送信方法を区別せず、放送の概念で整理できるものについては原則として放送法の中に取り込んだことになります。

 一方、著作権法では公衆送信という新たな概念により放送等について整理したとはいえ、放送、有線放送、自動公衆送信(送信可能化を含む)及びその他の公衆送信という利用行為の違いにより権利の働き方が異なること、当該行為を行う者が著作隣接権者としての保護の対象になるかどうかなどについて厳密な区別がされています。したがって、例えば有線放送もIPマルチキャスト放送も放送法上は放送ですが、著作権法上は、前者は有線放送、後者は自動公衆送信になることになります。また、放送法上は当該放送等を行う者は両者とも放送事業者になりますが、著作権法上は、前者は有線放送事業者、後者は著作隣接権の保護対象外というということになります。

(2)放送事業者とは
 放送事業者は放送を業として行う者のことをいいます(2条1項9号)。業というのは反復継続を意味しますが、営利・非営利は関係ありません。また、放送事業者の定義はこの一文だけですし、著作権法は放送法のような事業規制法でもないので、放送法で規制の対象外の例えばミニFM放送の放送局も放送事業者として保護されますし、アマチュア無線機を使って定時送信を繰り返していれば、当該発信元も放送事業者として保護される可能性はあります。

(3)保護を受ける放送
 保護を受ける放送については、日本国民である放送事業者の放送、国内にある放送設備から行われる放送及び条約上保護義務を負う放送の3種類です。
日本国民は法人を含みますので、日本国民である放送事業者の放送とは、いわゆるNHK、放送大学学園、民間放送局等の放送のことを指し、テレビかラジオ、アナログかデジタルかは問いません。国内の放送設備からの放送ですが、例えば日米安全保障条約に基づく米軍の放送局がこれに該当します。

(4)権利の内容
①体系
 放送事業者の権利は、許諾権のみで報酬請求権は認められていません。権利の内容としては、複製権(98条)、再放送権・有線放送権(99条)、送信可能化権(99条の2)及びテレビジョン放送の伝達権(100条)の4種類です。

②複製権
 複製権の内容ですが、「その放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、その放送に係る音又は影像を録音し、録画し、又は写真その他これに類似する方法により複製する」(98条)ことをいいます。著作物や実演・レコードの場合は、例えば著作物の場合であれば、著作物を複製する権利と定めているのですが、放送の場合は「放送に係る音又は映像を」と少し異なった形で規定しています。これは、放送というのは無線による公衆への送信行為が保護対象ですので、複製についてはその送信電波に乗っている音と影像を複製するという構成にしています。写真等による複製とは、テレビの画面を写真に撮ることが典型的な利用例です。

 なお、録音及び録画は、録音又は録画したもの(固定物)を増製する行為も含みますので(2条1項13号、14号)、例えば放送番組を一旦録音・録画して、その固定物を増製して海賊版のソフトを多数作れば、後者の行為も含めて放送事業者の複製権を侵害することになります。

 また、保護対象は無線による公衆への送信行為ですので、例えば、民放の場合、キー局の放送を受信して、ネット局が放送したものを録音又は録画した場合、放送番組の内容が同じであっても、キー局の複製権ではなく、ネット局の複製権が働くことになります。

③再放送権・有線放送権(99条)
 権利の内容ですが、「放送を受信してこれを再放送し、又は有線放送する」(99条1項)ことをいい、放送の再送信に係る権利を定めています。

 「放送を受信して」行う再送信については、同時再送信だけでなく、一旦一時的に固定してその固定物を用いて行う再送信も権利が働きます。また、キー局とネット局の関係ですが、ネット局はキー局が電波塔から発信した電波を受信して放送しているわけでなく、キー局から専用回線を通じて直接提供された信号を放送していることから、再放送権が働く利用ではありません。

 ところで、放送法では、「放送事業者は、他の放送事業者の同意を得なければ、その放送を受信し、その再放送をしてはならない。」(放送法11条)とされています。放送法上の放送については、通常の無線による放送事業者だけでなく、有線放送事業者やIPマルチキャスト放送事業者を含む広い概念ですので、放送の再送信については、原則として放送法上の同意権と著作隣接権が二重に働くことになっています。放送事業者は、従来、放送法上の同意権に基づいて放送秩序を形成し、著作隣接権の行使は保留してきました。
 しかしながら、有線放送事業者との関係では、放送法上の裁定制度(放送の再送信について当事者間の協議が成立しない場合における強制的同意制度)(放送法144条)により、放送対象地域の区域外の再送信も裁定により再送信可能となる事例が増えてきたところから、放送事業者は著作隣接権を行使して再送信に係る使用料を徴収することを決め、一般社団法人日本テレビジョン放送著作権協会(JASMAT)を2001(平成13)年に設立し、著作権等管理事業法に基づく登録を経て、有線放送事業者から使用料を徴収している実態があります
 なお、放送の有線放送については適用除外があります。放送法では、放送の受信障害区域内で放送の有線放送を行う者に対し、放送の有線放送を義務付ける規定(放送法140条)が定められていますが、この義務再送信については放送事業者の有線放送権が働かないようにしています。

④ 送信可能化権(99条の2)
 権利の内容ですが、「放送又はこれを受信して行う有線放送を受信して、その放送を送信可能化する権利」(99条の2第1項)と定めています。送信可能化の意義については、著作物の公衆送信の所で説明していますのでそこを参照してください。

JRRCマガジンNo.271 著作者の権利について(その12)

 なお、送信可能化権の条項にも③で説明した放送法上の義務再送信と同様の定めがあります(99条の2第2項)。これは、IPマルチキャスト放送は、放送法上はネットを活用した放送という位置付けであり、放送法140条の義務再送信の適用があるのですが、著作権法上は、同放送は自動公衆送信と位置付けられており、著作権法上と放送法上の取扱いが異なるため、著作権法では99条と99条の2の両条に同様の規定を置いて、放送法との均衡を図っています。

⑤ テレビジョン放送の伝達権(100条)
 権利の内容ですが、「テレビジョン放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、影像を拡大する特別の装置を用いてその放送を公に伝達する権利」(100条)としています。著作物に関する伝達権(23条2項)と異なるのは、権利が働く範囲が「影像を拡大する特別の装置」を用いる場合に限定されていることです。

 典型例としては、ビル等の側壁に設置された大画面の受信装置を用いてテレビのニュースやスポーツの番組を流すことが該当します。なお、技術の発達により一般家庭用の受信装置も大画面化が進んでいますが、本条では「特別の装置」を用いることが要件になっていますので、例えば家電量販店で販売されている家庭用の受信装置であれば一般的には特別の装置とは言わないと考えます。

9 有線放送事業者の権利
(1)有線放送とは
 有線放送とは、「公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信」(2条1項9号の2)と定義されています。放送の定義との違いは、無線通信か電気通信かの違いだけで、それ以外の文言は同じです。

(2)有線放送事業者とは
 有線放送事業者は有線放送を業として行う者のことをいいます(2条1項9号)。典型例としては都市型か地域型かにかかわらずCATV事業者が該当します。なお、有線放送の場合も放送法上の規制範囲とは無関係ですので、住宅地や団地・マンション等の共同受信システム、防災用の有線放送システムも有線放送に該当する場合があるので、このような場合も自治会や行政庁が有線放送事業者になる可能性はあります。
 また、お店や共同住宅等に音楽を配信している音楽有線放送局も有線放送事業者に該当すると考えられます。

(3)保護される有線放送
 先述したように有線放送の保護はわが国の独自の措置ですので、日本国民の有線放送事業者の有線放送又は国内にある有線放送設備から行われる有線放送に限られています(9条の2)。なお、放送を受信して行う有線放送は保護対象外であることに留意する必要があります(9条の2第1号括弧書)。

(4)権利の内容
 権利の内容ですが、複製権(100条の2)、放送権・再有線放送権(100条の3)、送信可能化権(100条の4)、有線放送テレビジョン放送の伝達権(100条の5)の4種の権利があります。権利の具体的な内容については、放送事業者の場合と内容が少し異なる時もありますが、原則としては放送事業者の場合と同様ですので、ここでは説明を省略します。

今回で、実演家等の権利については終了です。次回は、2021年の著作権法改正で導入された放送の同時再送信等に係る仕組みについて解説をします。

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