JRRCマガジンNo.229 著作物とは何かについて(その4)

川瀬真

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JRRCマガジン No.229 2021/2/4
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歴代一位の興行収入を更新したことで話題になっている漫画、アニメ映画ですが、
登場するキャラクター商品を手に取ることも多いのではないでしょうか。
さて、今回はのよもやま話は、キャラクターを含む美術の著作物関係と、
地図、設計図、図表やグラフの著作物関係についてです。

前回までのコラム
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━

 著作物とは何かについて(その4)

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4 著作物かどうかの具体例(続き)

(2)美術の著作物関係
④キャラクター
キャラクターについては、一般に漫画、アニメ等の主人公などの登場人物の容姿、容貌、性格、特徴等のことをいい、抽象的な概念と考えられています。このキャラクターをおもちゃ、人形等の玩具や文房具等に使用する権利を一般に「商品化権」といいますが、この用語は法律上の用語ではなく、いわゆる業界用語というものです。対象となる作品や利用方法により、著作権法、意匠法、商標法、不正競争防止法、民法(不法行為、契約等)等の法律で保護されていますが、キャラクターの中でもいわゆる漫画キャラクターは、漫画という美術の著作物の利用に係る問題ですので、著作権法による保護を基本とし、不正競争防止法等の他の法律がそれを補完するという形で運用されています。

まず、キャラクターの著作物性ですが、著作権法は表現の保護ですので、頭の中にあるイメージの状態では保護の対象にならず、それが何らかの方法により外部に表現されていることが必要です。「抽象的な概念」であるキャラクターですが、過去の判例には、連載漫画のどの部分を特定することなく漫画を見た人がこれはサザエさん一家の漫画と認識すれば著作権侵害を認めた事例(「サザエさん事件」東京地裁判決<1976(S51).5.26>)もありました。

しかしながら、「ポパイネクタイ事件」最高裁判決(1997(H9).7.17)では、キャラクターそのものは、「抽象的な概念」である思想感情を創作的に表現したものではないとした上で、「一話完結形式の連載漫画においては、著作権の侵害は各完結した漫画それぞれについて成立し得るものであり、著作権の侵害があるというためには連載漫画中のどの回の漫画についていえるのかを検討しなければならない。」とし侵害された漫画の特定が必要だとされました。また、連載漫画の回数を重ねると漫画がその都度作成されることになりますが、同一登場人物に新たな筋書を付して漫画を作成すれば、後続の漫画は前作の漫画の二次的著作物と解されるが、二次的著作物の著作権は新たな創作性を加えた部分のみに生じることから、登場人物の漫画に創作性が加えられていなければ、第一回目に公表された漫画が侵害されたことになるとしました。

要するに、例えばドラえもんというキャラクターであれば、雑誌で公表された第一回目とそれ以降の漫画を比較して、ドラえもんの容姿等に変化がなければ第一回目のドラえもんの漫画が侵害されたことになります。また、漫画読物という意味では、第一回目とそれ以降の漫画ではストーリー等が当然のこととして違いますので、仮に最終回の漫画読物が無断利用されれば、最終回の漫画読物が侵害されたということになります。

なお、漫画が団体名義で公表されている場合は、その著作権は公表後70年まで保護されることになるので(54条1項)、漫画キャラクターが何時公表されたということは、保護期間を計算するうえで重要な要素になります。一方、ドラえもんの場合は、藤子不二雄又は藤子・F・不二雄(本名 藤本弘)という周知の変名で公表された著作物であり、保護期間は死後起算ですので(51条、52条2項1号)、漫画キャラクターが何時公表されたかどうかは少なくとも保護期間の計算においてはあまり気にしなくてもいいことになります。
また、キャラクターの場合は、利用者側の技術力やキャラクターが取っているポーズ等によっては第一回目の漫画と完全に一致しないことがよくあります。また、故意に一致しないようにレイアウトを少し変えている場合もあります。

この点について前記最高裁判決では、「複製というためには、第三者の作品が漫画の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく、その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りるというべきである。」とし、前述のサザエさん事件の考え方と同様に柔軟に解釈しております。

(3)地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物関係
①地図
地図には、測量や調査の成果を一定のルールに従って再現した実測図(例えば国土地理院の2万5千分の1の地図)とそれを活用した編集図があり、編集図の中には、例えば国土地理院の5万分の1の地図、道路地図、住宅地図、観光地図、鳥瞰図等様々なものがあります。

地図の著作物性については、小説や絵画と異なり、測量や調査から得られた事実を基に表現するものですので、表現の方法に一定の制約があることは間違いありません。そういう性質がある中で、地図の作成に当たってどのような行為を創作性の判断基準にするかが問題となります。この点について、新選組ゆかりの多摩地方の史跡等を紹介した書籍(多数の史跡案内等の地図を含む)が無断複製された事件において、裁判所は地図の著作物性を判断する場合の考え方について次のように判示しています。

「一般に、地図は、地形や土地の利用状況等を所定の記号等を用いて客観的に表現するものであって、個性的表現の余地が少なく、文学、音楽、造形美術上の著作に比して創作性を認め得る余地が少ないのが通例である。それでも、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験、現地調査の程度等が重要な役割を果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表われ得るものということができる。」(「ふぃーるどわーく多摩事件」東京地裁判決<2001(H13).1.23>)
本事件では、各地図について「情報の取捨選択及びその表示方法」を総合的に考慮した結果、一部を除き著作物性ありと判断しました。

こうした考え方は他の判例でも使われており、住宅地図、鳥観図、観光案内図、Web掲載地図等多くの分野で著作物性を肯定する判決があります。
ただ、前述したように地図についてはもともと表現の方法に一定の制約があるところから、地図であれば著作物であると直ちに評価することはできません。その著作物性の有無は個別の事例に基づき判断されることになると考えます。

なお、著作権法10条はあくまで例示規定ですので、地図の中でも、例えば観光地図や鳥観図については、同時に美術の著作物としての性質を備えているものもあることに注意が必要です。
また、国土地理院の地図ですが、測量法29条で測量成果の複製は原則として国土地理院の長の承認が必要となっています。これは、利用者には最新の測量成果を利用してもらう等の意図から設けられた規定と言われています。

②設計図
設計図は、建築物・庭園等の工作物、機械類、工業製品等様々なものを対象としています。これらの対象物には建築物・庭園等の工作物のように設計図に従い完成したものが著作物である場合もありますし、機械類のように完成したものが一般に著作物でない場合もあると考えられます。

一般に設計図は、対象物を製作するために作成されるものですので、設計図の表し方には一定のルールがあり、その表現の方法には一定の制約があると考えられます。したがって、この点を考えると地図と同様ですが、設計図はそこに表現されている製品等の対象物を正確に再現するためのものですので、地図よりも更に表現方法の自由度が低いのではないかと考えられます。

このようなことから、設計図についてはその限られた範囲の中で設計者の創作性が加わる余地は低いことになりますが、従来から創作性の評価に当たっては、対象物の形状、寸法、色彩等に係る創意工夫も含め行うこととしていました。そのため著作物(例えば、建築の著作物)を製作するための設計図については、その著作物性の認定に有利に働くことになりますし、完成品が著作物でなくても設計図の著作物性が認められる可能性は高くなります。しかしながら、近時では対象物の形状等に関する創意性を考慮せずに、作図における創意性のみで判断するという見解もみられるところです。

なお、設計図に従って対象物を製作することは、特許権等の実施に相当する行為ですが、著作権法では実施権を認めておらず著作権が働く行為には該当しません。著作権法上の複製権は、著作物を有形的に再製する場合に働く権利ですが、設計図と対象物は表現形式が全く異なるので複製には該当しません。しかし、例外的に建築の著作物については、建築図面に従って建築物を完成させることを建築の著作物の複製としています(2条1項15号ロ)。これは設計図の作成者に一見実施権を認めたとも思える規定ですが、建築図面に従って完成したとしたならばできるであろう観念上の建築の著作物を複製したという一種のフィクションにより成り立っている取扱いです。

③図表、グラフ
図表やグラフについては、一般に調査や研究の結果得られたデータを加工することにより作成されます。また、図表の作成に当たっては、そのデータの推移や傾向を示すため、どのような項目分けをするのか、グラフであれば棒グラフか曲線グラフか折れ線グラフかどれを選択するのか、また読み手に見やすいように単位、項目の配列、色彩等をどうするのか等様々な工夫がされることになります。そして、その表し方に創作性があれば著作物として保護されることになります。

図表やグラフについては、一般的な手法が使われる場合が多いので、著作物と判断される裁判例は少ないようです。また、著作物性を認めた裁判例を見ても、争点になっている複数の図表を一つ一つ検証した上で、その一部分につき著作物性を認めた事例が多いです。
裁判所が著作物性の認定に消極的なのは次の判決文によく表れています。

「実験結果等のデータをグラフとして表現する場合,折れ線グラフとするか曲線グラフとするか棒グラフとするか,グラフの単位をどのようにとるか,データの一部を省略するか否かなど,同一のデータに基づくグラフであっても一様でない表現が可能であることは確かである。
しかしながら,実験結果等のデータ自体は,事実又はアイディアであって,著作物ではない以上,そのようなデータを一般的な手法に基づき表現したのみのグラフは,多少の表現の幅はあり得るものであっても,なお,著作物としての創作性を有しないものと解すべきである。なぜなら,上記のようなグラフまでを著作物として保護することになれば,事実又はアイディアについては万人の共通財産として著作権法上の自由な利用が許されるべきであるとの趣旨に反する結果となるからである。」(「学位論文事件」知財高裁判決<2005(H17).5.25>)

これは、学位論文に掲載されたグラフについて著作物性を否定した事例ですが、上記判決文の「なぜなら」以下に示されているように図表やグラフを保護することにより実質的にデータ保護につながることを回避するため、創作性の認定を厳しくしているとも取れます。

この判例を見て、報告書、論文等に掲載された図表・グラフを見ますと、著作物と評価できるものは結構少ないのではないかと思います。

 次回は、映画とプログラムの著作物の両方の特性を併せ持つビデオゲームを中心に解説します。

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