JRRCマガジンNo.228 塞翁記-私の自叙伝21

半田正夫

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JRRCマガジン No.228 2021/1/21
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どうぞご期待ください。

さて、本日のメルマガは、2021年最初の半田先生の塞翁記、
著作権思想普及のための寄付講座についてです。
固有名詞もあり興味深い方もいらっしゃるのではないでしょうか。

前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/handa/

◆◇◆半田正夫弁護士の塞翁記━━━━━━
           -私の自叙伝21
第11章 青山学院大学教授時代③
        
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■日本レコード協会寄付講座の実施
1991年の夏、日本レコード協会のY氏から、同協会では創立50周年の記念事業のひとつとして、著作権思想の普及のため、都内2つの大学に著作権講座を寄付しようと計画しており、青山学院大学をその候補のひとつに考えているが、青山学院大学ではそれを受け入れる用意があるかとの打診があった。願ってもない申し出であり、さっそく法学部長と相談のうえ、もしそのようなことがあれば喜んでお受けしたい旨を申し入れた。
その当時、大学への寄付講座というものは国立大学ではすでに行われていたようであるが、私立大学としてはまだどこも手掛けていない状況にあった。もちろん青山学院大学でも前例がなく、そのために急遽、規則作りからスタートすることになった。準備万端整ってから正式に寄付講座の受け入れが決まったのは同年12月。講義の具体的実施については私に一任されたのである。

一任された私は、次の2点を基本方針としてプランの設定を行った。すなわち、①青山学院大学では私が着任して以来,著作権法の講義を通年4単位の授業として実施しているので、これと内容的に重複しないよう配慮する必要があるところから、講義のタイトルを「レコードと法」とし、CDレンタルの問題をはじめとし、レコード産業のかかえる法律上の諸問題をあらゆる角度から検討することとし、私の担当する著作権法の授業とタイアップすることによって、著作権法全体をより深く理解してもらえるよう努めること、②開かれた大学の要請に応えるため、毎週、学内外からその道の専門家を招いて話をしていただき、そうすることによって講義に活性化をもたらし、受講生の興味と関心とを引き起こそうと意図したことである。

この基本方針に基づき、講義の内容として3本の柱を立てた。
第一の柱は、「わが国におけるレコード産業の発展と法」と題し、レコードの輸入から始まって、戦前における著作権法の発展過程を、桃中軒雲右衛門事件、プラーゲ事件などの著名な事件を織り交ぜながら論じ、次いで、戦後のレコード産業の復興から、新著作権法の制定、CDの登場にいたるまでの音楽著作権の推移について検討することにした。
第二の柱は、「レコード製作者の権利と著作隣接権制度」と題し、著作権法におけるレコード製作者の権利の具体的内容について解説したのち、レコード産業をめぐる法律上の諸問題、とくにCDレンタル、報酬請求権制度の採用、再販価格維持と独禁法、レコードの並行輸入など、当面する課題の現状と解決のための処方について論じてもらうことにした。
そして第三の柱は、「レコードの製作と流通」と題し、作詞家、作曲家、歌手、シンガーソング・ライターなどに創作にあたっての苦労話を聞く一方、レコード流通の実態について、レコード製作者と特約店との間の契約書をもとに法的検討を行うことした。

このような構想のもとに講義スケジュールを作成したが、開講に当たって危惧した点が2つあった。1つは、こちらが最も適当と思われる時間帯にはすでに他の科目が必修科目として組み込まれており、それを避けようとすると早朝か夕方遅くしか空いていないということであった。外部の講師を招くことを予定していたことから、外部の講師が本学に来やすい時間帯に設定しなければならず、そのためには必修科目と競合してもあえて強行するしかなかった。そのため受講生が少ないことが懸念された。

だが、この点は杞憂に終わった。開講時、250名定員の教室は超満員、廊下に溢れるほどの盛況であり、結局、教室の適正規模を考え、先着220名に受講者を限定せざるをえないという嬉しい悲鳴をあげるハメとなったのである。
 
危惧した2つめは、外部から招いた講師はいずれも著名な方々ばかりであったため、急用で突如休講となり、講義にアナが空くことはないだろうかということであった。多忙な方々ばかりなので、スケジュールの調整に手間取り、やっとのことで年間スケジュールを組み上げていただけに、急に休まれると、次週担当者を繰り上げて講義をしていただくという離れ業は不可能であったからである。幸いにも講師の方々の積極的なご協力によりこのような事態にはいたらず、ことなきを得たのであった。

トップバッターを担当された倉田喜弘氏が初期の珍しいレコードを持参されての興味溢れる話題の数々、二番バッターを担当された大家重夫教授のプラーゲ旋風の顛末についての熱弁、いずれも当方の期待どおり、いやそれ以上のすばらしい講義で、ねらいはまさに当たったという感が深く、目を輝かせて聞き入っている学生の横顔を見ながら、大学の閉鎖的な壁を取り払い、外部からの新鮮な風を入れることが今後の大学にいかに必要であるかを、つくづくと思い知らされることとなったのである。

この講義は学生の評判を呼んで、一躍青山学院大学の目玉講義のひとつとなったが、学外でも有名となり、NHKテレビの朝のニュース番組に取り上げられたり、朝日新聞1面の「時の話題」として紹介されたりしたのである。このような優れた内容の講義をただ聞き流すだけではもったいないと思い、これを録音したテープを起こして500頁強の大部な本とし、題名を「レコードと法」として刊行し、国会図書館をはじめ、県立図書館、大学付属図書館などに送付したのである。
そして、学内外からの好評に後押しされて、翌年以降も趣向を替え、題名も替えて講義を続行、それは「音楽と法」、「メディア文化と法」、「情報化社会と法」、「マルチメディアと法」のタイトルのもとに、それぞれ刊行したのである。日本レコード協会からはもっと継続してもよろしいとの意向を受けていたが、面倒な事務を担当して私をサポートしてくれていた三浦正広助手が他大学の助教授として赴任することとなったため、やむを得ず5年間で終了する運びとなった。この間、講義を担当していただいた各界著名人は延べ120名に達した。これらの講師は私と一面識もないにもかかわらず、電話一本で快諾されたことが成功の元となったことは間違いないと確信している。
 この寄付講座をきっかけに、青山学院大学においては寄付講座が激増し、産学連携のユニークな講義が続出するにいたったことも、私の自慢のひとつである。

つづく

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