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JRRCマガジン No.285 2022/9/8
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています
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◆今回の内容
【1】日本複製権センター創立30周年記念著作権セミナーのご案内
【2】川瀬先生の著作権よもやま話
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皆さま、こんにちは。
朝夕はしのぎやすい季節になってまいりました。
今週は台風の影響が心配ですね。どうぞお気をつけください。
さて、今回の川瀬先生の著作権よもやま話は、
「実演家等の権利について(その2)」です。
バックナンバーは下記からご覧いただけます。
⇒https://jrrc.or.jp/category/kawase/
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【1】日本複製権センター創立30周年記念著作権セミナーのご案内
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公益社団法人日本複製権センター 代表理事・理事長 川瀬 真
おかげさまで日本複製権センター(JRRC)は、昨年の9月で創設30周年を迎えることができました。これも権利者、利用者等関係者のご支援の賜物と感謝しています。
JRRCでは、この30周年を記念して著作権セミナーを計画しました。セミナーは昨年実施する予定でしたが、コロナ禍の拡大や前理事長の急逝という出来事もあり、実施を1年遅らし、本年の9月30日に行うことにしました。
テーマの設定については、JRRCが著作権の集中管理事業を行っているところから、「著作権等の集中管理の現状と課題」にしました。著作権等の集中管理の促進については、デジタル・ネットワーク社会の到来とともに、権利者の利益を守りつつ作品の二次利用を促進するための手段として注目されており、政府の知的財産推進計画でもその充実が提言されています。また、この問題はわが国だけのものではなく国際的な視点からも重要視されています。
本セミナーでは、基調講演として、言語の著作物等の集中管理団体の国際組織である世界複製権機構(IFRRO)CEO・事務局長のキャロライン・モーガン氏には集中管理に関する国際的な現状と課題について、また、担当課長として著作権等管理事業法の制定に携われた吉田大輔著作権情報センター附属著作権研究所副所長には、わが国の現状と課題について講演をお願いしております。
また、これらの基調講演を踏まえ、私が進行役になりパネルデイスカッションを行います。パネルデイスカッションは、吉田副所長にも参加していただき、権利者側として毎日新聞社の福井明氏、また、利用者側として武田薬品工業の村松健一氏をお迎えし、討議していく予定です。
討議の内容ですが、今のところの私の考えでは、デジタル・ネットワーク社会の到来と言語等の著作物をキーワードにし、著作権そのもののあり方について従来の考えを改める必要があるのか、権利者の許諾権を保護し利用の円滑化を図るために集中管理方式はどうあるべきか、知的財産推進計画2022でも提言している「簡素で一元的な権利処理の仕組み」を構築するためにはどのような方策が考えられるのか等について議論を行いたいと考えています。
私自身は、著作権の集中管理方式のあり方は、時代とともに変化するとしても、その意義は変わらないのではないかと考えています。パネルデイスカッションの議論を通じて、権利者、利用者及び学識経験者というお立場からご意見をいただき、集中管理の意義や今後のあり方はどうあるべきなのか等について少しでも明らかになればと考えています。
著作権セミナーの受付は8月30日から開始しています。このメルマガからも受付先にリンクを張っていますので、興味のある方はぜひご参加ください。
詳細については次の当センターHPをご確認ください。
◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
【2】実演家等の権利について(その2)
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5 権利の享有、体系、保護期間等
実演家等の権利は、実演を行ったとき、音を最初に固定したとき、放送又は有線放送を行ったときに自動的に発生します(89条5項)。これは著作者の権利と同じです。
また、実演家等には、著作権と同様、財産権としての著作隣接権が与えられるほか、実演家については実演家の人格的利益を保護するための実演家人格権が、実演家及びレコード製作者には、実演等の利用を許諾はできないが、利用された場合は報酬を請求できる権利(報酬請求権)が与えられています。商業用レコードの二次使用料請求権(95条1項、97条1項)や貸与報酬請求権(95条の3第3項、97条の3第3項)が代表例です。
また、特に実演家の権利(財産権)については、本来は許諾権に抵触する利用であっても、適用除外される利用が多くあり、許諾権自体が変則的で限定的な権利になっています。
一方、著作者の権利(財産権)は、利用行為ごとの許諾権を基本とし、適用除外については、例えば譲渡権の消尽規定等特別な場合以外は行われていません。また、権利者の利益を不当に害しない利用については権利制限の措置で対応しています。その措置は無許諾・無償を原則としていますが、必要に応じ著作者に補償金請求権を付与し、無許諾・有償とする場合を定めています。最近の改正ですと2018(平成30年)改正により導入された授業目的公衆送信補償金制度や2021(令和元年)改正による図書館等公衆送信補償金制度が代表例です。
このように特に実演家の権利は、著作者の権利に準じた権利制限の適用があるほか、様々な適用除外規定もあるので、実演家の権利を理解することを難しくしています。これは、実演家等保護条約における実演家の権利の内容が、多数の実演家が参加している映画や放送番組等の二次利用や商業用レコードの放送等への利用の円滑化を念頭に置き、できるだけ権利処理の簡便化を図るとともに、著作権の行使を妨げないような形式で権利を認めるという配慮が働いているからだと考えます。
なお、実演家人格権や著作隣接権等の権利の移転、共有著作隣接権の行使等の取扱いについては原則著作権と同様です。
また、保護期間については、原則実演後及びレコードの発行後70年間、また放送後及び有線放送後50年間です(101条)。
保護期間に20年の開きがある理由ですが、先述したように著作隣接権制度は実演家等保護条約の保護水準を踏まえ制度設計されたところから、現行法制定の際は同条約の最低限の保護期間である実演等後20年という期間になりました。その後の国際的動きの中で保護期間は30年に延長され、1991(平成3)年の著作権法改正により実演等後50年に改められました。その後、TPP交渉の中で保護期間は、著作物、レコード実演及びレコードについて70年を原則とする旨の合意が成立し、TPP協定が作成されました。TPP協定は結局米国の離脱で発効されませんでしたが、その考え方の多くを踏襲したTPP11協定の発効に合わせて著作権法が改正され、同協定が発効した2018(令和元)年12月30日以降は、著作物、実演及びレコードの保護期間が70年に延長されることになりました。
この改正に当たっては、わが国は、TPP11協定で保護対象になっている実演等に限って保護期間を延長するという判断をしたため、放送及び有線放送については、保護期間を50年に据え置かれました。
なお、実演ですが、TPP11協定は、実演の対象をレコード実演に限定していますが、わが国ではレコード実演と視聴覚実演の保護期間を分けて定めるという方法は採用していないので、実演の保護期間は実演の種類を問わず延長しています。
また、もともと実演等の保護期間は著作物のように死後起算を原則としてないので、ある時点である著作者の作品群の保護期間が一斉に消滅することはありません。例えば、ある歌手(実演家)の歌唱(実演)は、時間の経過とともに少しずつ消滅していくことになるので、利用者側から見ると、その歌唱がいつ行われたかによって、同じ曲を歌っていたとしても歌唱の時期により権利が存在していたり消滅していたりとすごく複雑です。また保護期間の特例措置もありより複雑にしています。
なお、実演等の保護期間については、特例措置も含め過去の記事に詳しく説明していますので、興味のある方はそれを参照してください。
6 実演家の権利
(1) 実演とは
実演とは、「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。」と定義されています(2条1項3号)。
実演の保護については、著作物の利用に関連する制度ということから、原則的には著作物を演じるという行為に限定しております。実演家等保護条約においても同様の考え方です(同条約3条(a))。
ただし、現行法の制度設計を考える際に、例えば、同じ演芸の舞台で漫才、落語及び奇術が行われるとして、漫才師と落語家は実演家としてその演技が保護されるにもかかわらず、奇術師の演技は保護されないというのは保護の均衡を欠くとの意見等もあり、括弧書を設け、奇術、サーカス、物真似等の著作物を演じることと同様の行為で、芸能的性質を有する行為も実演としています。
実演に該当するかどうかについてよく議論されるのは、スポーツ競技における演技との関係です。一般的には、スポーツ競技は、選手が著作物を演じているとはいえず、その演技が芸能的性質を有していることもないので、実演とは言えないとされています。しかしながら、例えば、ダンスなどの要素を含むアイスダンスや新体操の床演技等については、振付の著作物といえるかどうかわかりませんが競技の手順(構成)が存在しますし、演技を見て観客が感動することも事実です。私見では、スポーツの意義や演技の目的に照らせば実演とはいわないと考えますが、議論の余地はあると考えます。
また、実演の定義の中にある口演と口述権における口述の違いについては、口述権の説明の際に説明しましたが、改めて説明しておきます。口述とは、「朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達すること(実演に該当するものを除く)」(2条1項18号)と定義されています。括弧書の意味ですが、一般的には口演は口述の一種ですが、著作権法では口演は口述には該当しないということです。例えば、詩の朗読会で素人が詩を棒読みすれば口述ですが、俳優が情感を込めて読み上げれば、それは詩を演じていることになり口演すなわち実演になるということです。権利関係においても、一般に前者は詩の口述権が働き、後者は詩の上演権が働くことになります。著作権法上、実演家はプロである必要はなく、素人でも著作物を演じているといえれば実演家になるところから、口述か口演かの区別は難しいところですが、情感を込めて朗読しているかどうかで判断するしかないのではないかと考えます。
(2) 実演家とは
実演家とは、「 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者」(2条1項4号)をいいます。実演家については、実演を行う者だけでなく、実演を行わせる者、すなわち、指揮者や演出家も実演家として保護されることに注意してください。例えば、オーケストラの演奏を考えた場合、作曲家・作詞家は著作者として保護され、それを演奏・歌唱した演奏家・歌手は実演家として保護されるにもかかわらず、指揮者には何の権利も与えられないということになれば、保護のバランスを欠くことになります。
(3) 保護を受ける実演
わが国の著作権法で保護される実演ですが、大きく分けると、国内において行われた実演、保護されるレコード(レコード製作者が日本国民(日本法人等を含む)又はレコードに固定されている音が最初に日本で固定されたもの)に固定された実演、及び条約(実演家等保護条約、WIPO実演・レコード条約、WIPO設立協定(TRIPS協定)及び視聴覚的実演に関する北京条約)上保護義務を負う実演等の3つに分かれます。
なお、著作物の場合は、日本国民の著作物に限定していたのを、国内において行われる実演に拡大し、条約上の保護義務とは関係なく外国人も保護することにしています。実演はオーケストラ等に限らず、POPS等の分野においても単独で実演することは珍しく、例えば、コンサート等においてもメインのアーテイストは外国人であっても、バンドやコーラスは日本人で編成され又は日本人が加わっていることはしばしばあることです。このように実演については、集団実演の要素が強いにもかかわらず、日本人の実演だけを保護するのはバランスを欠くので、外国人の日本公演であれば保護することにしています。
(4) 権利の内容
①体系
何度も言いますが、実演家の権利は、他の著作隣接権者と異なり非常に複雑です。これは先述したように、実演家の権利は実演家人格権と財産権、しかも財産権は許諾権と報酬請求権の実質的に3種類に分かれている上に、例えば、許諾権にはいくつかの行為について適用除外が定められているなどの例外措置が多くあります。また、生の実演以外に、固定された実演は、「レコードに固定(録音)された実演」及び「映画の著作物に録音・録画された実演」の実質的に2種類に分かれ、利用方法によりそれぞれが異なる権利の働き方をします。
②実演家人格権
現行法の制定当時、実演家等保護条約の内容に従い実演家の権利を整備しましたが、実演家の氏名表示については、芸能界において表示の慣行があったものの、同条約には実演家人格権の定めがなかったところから法制化は見送られました。ただし、現行法の制定の際、参議院の文教委員会では、実演家の人格権の保護について早急に見直しを行い制度の改善を図る旨の附帯決議が行われており、芸能界等においては実演家の人格権問題に強い関心があったとことが伺えます。
その後、情報通信技術の発展を踏まえ実演の改変利用等が国際問題となり、1996(平成8)年作成のWIPO実演・レコード条約では、音の実演に限定してはいますが、実演家の氏名表示や実演家の声望を害する実演の改変に関する権利を定めることが求められることになりました(同条約5条)。
この条約の作成を踏まえ、2002(平成14)年の著作権法改正により、実演家人格権の制度が創設され、実演家の氏名表示権と同一性保持権が定められました。
なお、著作者人格権の場合、公表権が認められていますが、実演家の実演というのは、ほとんどの場合、公衆への提供・提示を目的として行われるものですので、実演を承諾することと実演の公表に同意することとは同義であると考えられるため、公表権は定められていません。
ア 氏名表示権
実演家は、「その実演の公衆への提供又は提示に際し、その氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるものを実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利」(90条の2)が与えられます。氏名表示権は、著作者人格権の氏名表示権に準じて定められています。なお、「その他氏名に代えて用いられるもの」とは、タレントなら愛称等のことをいい、例えば木村拓哉さんであれば「キムタク」がこれに相当します。
なお、氏名の表示や省略、情報公開に伴う氏名の取扱いについては、著作者人格権に準じた取扱いがされています(90条の2第2項・3項・4項)。
イ 同一性保持権
実演家は、「その実演の同一性を保持する権利を有し、自己の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変を受けないものとする」(90条の3第1項)と定められています。著作者人格権の同一性保持権と違うのは、当該同一性保持権は著作者の意に反する改変を阻止する権利とされているのに対し、実演家の同一性保持権は、自己の名誉又は声望を害する改変を阻止する権利とされていることです。この権利の性格の違いについては、過去に解説をしているので、興味のある方はその解説を参照してください。
また、同一性保持権が適用されない場合についても、著作者人格権のように例示規定はありませんが、著作者人格権と同様に「実演の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変又は公正な慣行に反しないと認められる改変」(90条の3第2項)については、適用しないとされています。
次回は、実演家の財産権について説明をします。
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