JRRCマガジンNo.284 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)6 著作権の客体(2)

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JRRCマガジン  No.284 2022/8/25
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◆今回の内容
【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)6
【2】日本複製権センター創立30周年記念 著作権セミナー受付日程のお知らせ
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みなさまこんにちは。

暑さもようやく峠を越したようです。
みなさまにおかれましても気候による影響が少ないことをお祈りしています。

さて、今回は今村哲也先生のイギリスの著作権制度についての続きです。
どうぞお楽しみください。

バックナンバーは下記からご覧いただけます。
⇒https://jrrc.or.jp/category/imamura/

◆◇◆イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)━━━
 Chapter6. 著作権の客体(2)
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1 はじめに
イギリス著作権法では、著作権の著作物(works)について、(a)「文芸、演劇、音楽又は美術のオリジナルな著作物」、(b)「録音物、映画又は放送」、(c)「発行された版の印刷配列」というふうに、3つのカテゴリーに分けて、8つの種類の著作物を規定しています(イギリス著作権法1条1項)。

前回は、(a)「文芸、演劇、音楽又は美術のオリジナルな著作物」について解説したので、今回は、このうち(b)「録音物、映画又は放送」、(c)「発行された版の印刷配列」について解説します。

2 録音物、映画又は放送
 2.1 録音物
録音物(sound recording)とは、(1)音を録音したものであって、そこから音が再生できるもの、または、(2)文芸・演劇・音楽の著作物の全部または一部を録音したものであって、そこから当該著作物またはその部分を再生する音を生じさせることができるものをいいます(イギリス著作権法5A条1項)。

(1)の部分は、人の話し声や野生動物の鳴き声などの音の録音など、基礎となる著作物が存在しない録音を対象とすることを意図しており、(2)の部分は、それ自体が別の著作権の対象である可能性がある著作物の実演の録音を対象とすることを意図しています(G. Harbottle, N. Caddick, U. Suthersanen, Copinger and Skone James on Copyright (18th edition, Sweet & Maxwell 2021) para. 3-245)。

もっとも、(1)でいう音の録音は、(2)の著作物を実演の録音も含むと思われるので、論理的にみると(2)の分類は、確認的な意味をもつにすぎないということもできるでしょう。

日本の著作権法では、レコードの定義において「音を固定したもの」(日本著作権法2条1項5号)としているだけなので、固定する対象が著作物か否かについて区別を設けていません。しかし、固定される「音」から、著作物の実演ではない音を除外していませんので、イギリス法と同じように、たとえ自然物の音であっても、それを固定すればレコードとして成立し得ます。

映画に付随する録音帯(サウンドトラック)に関しては、映画のサウンドトラックとしての側面と、録音物としての2つの側面を有しています。

映画に付随するサウンドトラックは、原則として、映画の一部分として取り扱われます(イギリス著作権法5条のB(3))。サウンドドラックを含む映画を上映することは、録音物としてのサウンドトラックの再生とはなりませんので(第5条のB(3)(a))、映画の著作権者から許諾を得れば足りることになります。

「文芸、演劇、音楽又は美術のオリジナルな著作物」と異なり、録音物の保護に関して、オリジナリティの要件求められていません。また、同様に、「文芸、演劇、音楽又は美術のオリジナルな著作物」と異なって、固定の要件も法定されていませんが、これは録音物の場合には、媒体に固定がなされることが当然の前提となっているからです。

 2.2 映画
映画とは、「いずれかの手段により動画を再生することができる何らかの媒体上の記録物」をいいます(イギリス著作権法第5条のB(1))。

映画についても、オリジナリティの要件(「Chapter4. 基本的な概念(3)―オリジナリティの要件」参照)は求められていません。ただし、単に過去の映画から複製した映画には、著作権は成立しないとされています(第5条のB(4))。

イギリス著作権法において「著作者」とは、著作物を創作する者とされていますが(9条1項)、映画の場合には、製作者及び主たる監督が著作者とみなされます(9条2項(ab))。製作者及び主たる監督が同一の者でない限り、作成された映画は「共同著作物」として取り扱われます(10条1A項)。

ここで「製作者」とは、録音物又は映画に関係では、「録音物または映画の製作に必要な手配を行った者」と定義されています(178条)。主たる監督については、法律上の定義はありませんが、映画の作成に創作的な管理を行っていた者を指すであろうと考えられています(Laddie Prescott and Victoria (Laddie et al.), The Modern Law of Copyright, vol.1, 5th ed., LexisNexis Butterworths, 2018, p.451)。

 2.3 放送
放送とは、「視覚的影像、音、その他の情報の電子的送信(electronic transmission)であって、(a)公衆の構成員が同時に受信するために送信され、かつ、それらの者が適法に受信することができるもの、又は(b)公衆の構成員に提供するために送信する者が独自に決定する時間に送信されるもの」と定義されています(6条1項)。

「電子的送信」には、有線と無線の両方の手段による伝送を含んでいます。この点は、放送事業者と有線放送事業者とを区別して、著作隣接権の保護を規定している日本の著作権法と異なっています。

この放送の定義は、ラジオ放送、テレビ放送、地上波、衛星放送、アナログ放送、デジタル放送を含むものです。しかし、(a)において、同時受信という条件があるため、オンデマンド送信は除外されています。

(b)の「公衆の構成員に提供するために送信する者が独自に決定する時間に送信されるもの」という定義ですが、例えば、公衆が出入りできる会場での表示するために中継されたライブイベントの映像を再生または上映するための送信を対象としています(Jonathan Griffiths, Lionel Bently, William R. Cornish, 2 International Copyright Law and Practice UK § 2 (2021))。

インターネット送信(internet transmission)は、原則として放送から除外されていますが、放送に含まれるいくつかの例外があります(6条1A項(a)-(c)号)。その例外の一つは、放送と同時になされるインターネット送信です(6条1A項(a)号)。この点は、放送のインターネット同時配信を、放送とはみなしていない日本の著作権法とは異なっています。

3 発行された版の印刷配列
 3.1 保護の沿革
イギリス著作権法では、発行された版の発行者に対して、著作者の著作権とは別個に著作権が与えられています。いわゆる版面権と呼ばれるものであり、端的にいえば、出版社に与えられる著作隣接権のようなものです。この版面に関する権利の独自の保護制度は、日本の著作権法には存在しません。イギリスにおけるこの制度は、1956年著作権法において採用されたものです。

イギリスでは、1880年から1920年頃、アーツ・アンド・クラフツ運動の展開とともに、活版印刷のデザインにも発展が生じました。

その後、第一次世界大戦以降、フォトリソグラフィ技術(写真石板術、写真平版技術)の発達により、出版者による活版印刷技術・労力が他の出版者に流用されるという事態が生じました。

著作権が残存していれば手だてがあるものの、シェークスピアなどの古典を発行する場合、著作権は切れているために版面が流用されるという状況に対応する手段がありませんでした。

1935年には、出版社協会の証言に基づいて、国際著作権部門別委員会の勧告(活版印刷のデザイン保護をベルヌ条約に導入することの勧告)にまで至りましたが(1952 Report of the Copyright Committee (Gregory Report, Cmnd. 8662))、第二次世界大戦の影響もあって新たな権利の導入は迅速には進みませんでした。

1952年になり、著作権委員会(グレゴリー委員会)報告書が出版者の権利の導入を提案し(1952 Report of the Copyright Committee (Gregory Report, Cmnd. 8662))、1956年著作権法15条(Copyright Act, 1956: 4 & 5 Eliz. 2, Ch.74)で導入されました。

この権利は現行の著作権法(1988年CDPA)でも引き続き採用されました。

 3.2 保護の内容
著作権のある文芸作品に版の権利も発生する場合、出版物に二重の著作権が成立しており、版面を複写コピーする場合、内容をなす著作物の著作権と版面の著作権の双方を処理しなければならないことになります。

また、著作権の保護期間が満了している著作物も、新しい版に著作権が成立する場合、版の著作権を処理する必要がでてきます。

発行された版の印刷配列の保護対象として、版には一定の類型の著作物(文芸、演劇又は音楽の著作物)を含むことが必要とされていますが、この中に美術の著作物は含まれていません(8条1項)。

既存の版をコピーしたに過ぎない場合には、新たな版の保護は与えられません(8条2項)。権利を取得するのは発行者であり(9条2項(d)号)、典型的には出版社です。

権利の保護期間は、最初の発行から25年間です(15条)。主張できる権利は、複製、複製物の公衆への配布のみであり、通常の著作物の著作権よりも限定されています。発行された版の印刷配列の複製権は、集中管理団体によって管理されています。

4 おわりに
今回みた幾つかの著作権の客体のなかで、最も特徴的なのは、版面権でしょう。

イギリスにおいて版面の保護が成立した沿革に鑑みると、この権利の創設はその当時の出版に関する技術を背景にしていたとものと思われます。

現代のように、DTP(デスクトップパブリッシング)技術などの発展により、版自体の作成コストが低下した時代において、この権利を新たに創設することは、条約上の要請もないなか、社会的合意を得るという点で難しいかもしれません。

日本でも、出版者に対し隣接権を付与することについては、何度か議論された経緯があります。近いところでは、平成26年の著作権法改正時にも、そうした隣接権創設の議論が生まれました。その際も、結局のところ、電子書籍に対応した出版権の整備という結果に落ち着いたことは、記憶に新しいところです。

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【2】日本複製権センター創立30周年記念 著作権セミナー受付日程のお知らせ
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おかげさまで日本複製権センター(JRRC)は昨年創立30周年を迎えました。
創立30周年を記念しまして9月30日(金)にオンラインセミナー(無料)を開催いたします。
今回のテーマは、「著作権等の集中管理の現状と課題」です。
デジタル・ネット社会の到来を踏まえ、著作権等の集中管理の将来を関係者と一緒に考えていきます。
この問題はわが国のみならず国際的にも大きな課題ですので外国からの招待者に基調講演を行っていただきます。
また権利者、利用者及び有識者によるパネルディスカッション等も予定しています。
参加者募集については8月30日(火)15:00 から下記JRRCのHPにて行います。ぜひ、皆様ご参加ください。

JRRC著作権セミナー

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