JRRCマガジンNo.235 著作物とは何かについて(その6)

川瀬真

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JRRCマガジン No.235 2021/4/1
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。

みなさま、こんにちは。
4月1日になると新しい環境で少し気が張っている方もいらっしゃるこ
とと思います。そんな初日こそ何かを始めるにはもってこいですね。

「著作権とは何か」については、今回で終わりますが、今まで見逃した
方もバックナンバーから続けて読んでみてはいかがでしょうか。

前回までのコラム
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━

 著作物とは何かについて(その6)

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5 著作権法で明記されている著作物でないもの
著作権法では、著作物の定義を規定(2条1項1号)するとともに、著作物の種類別に著作物の例示を規定(10条1項)しています。
本稿では、著作物の例示を参照し、著作物であるものとそうでないものについて判例等を紹介しつつ説明してきました。
今回はこのテーマでの最終回ですので、これまでとは反対に著作権法で明記されている著作物でないものについて解説します。

(1)「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の事件の報道」(10条2項)
現行法の制定時からある規定です。著作物の定義に該当すれば著作物であり、該当しなければ著作物でないということですので、この規定は本来著作物でないもの、すなわち人事異動、死亡記事、お知らせ記事等誰が書いても同じような表現にしかならない記事等が著作物でないことを確認的に規定したものです。
何故このような規定が設けられたかですが、1970(昭和45)年に制定された現行法の前の著作権法(以下「旧法」といいます)の規定との関係で、解釈上の誤解を生じさせないための規定と考えられます。すなわち、旧法には次のような規定がありました。

第十一条 (著作権の目的とならない著作物)
左に記載したるものは著作権の目的物と為ることを得ず
一 法律命令及官公文書
二 新聞紙又は雑誌に掲載したる雑報及時事を報道する記事
三 公開せる裁判所、議会並政談集会に於いて為したる演述

この規定は、著作物だが著作権を付与しない場合を定めたものですが、著作物性とその用途を分析した上で、現行法では、上記の1号については「権利の目的とならない著作物」(18条)として旧法11条と同様に権利性を否定しました。
また、上記の3号については、著作権保護を認めた上で、「政治上の演説等の利用」(40条)に該当するものは権利制限の対象としました。
上記の2号が現行法の10条2項に関連するものです。
現行法の制定に当たりその内容を検討した著作権制度審議会の答申説明書では、「現行法(筆者注 「旧法のこと」)の規定では、新聞紙等に掲載されたものであれば、著作物たるの要件を備えたものまでが保護の対象から除外されるように解される余地があるので、
より適切な表現を検討すべきものとした」(著作権制度審議会審議記録(一) 昭和41年11月 文部省 57・58頁)との記述がみられるところから、著作物でないものを的確に表現するために「事実の伝達に過ぎない」という一文を加えた上で、このような表現の規定にしたものと考えられます。
なお、反対に、現行法では新聞や雑誌の通常の記事については一般に著作物であることが明らかになったともいえるのですが、
「時事問題に関する論説の転載等」(39条)等の権利制限規定を設け利用の円滑化を図っています。

(2)「プログラム言語」、「規約」及び「解法」(10条3項)
コンピュータ・プログラムが著作権法上の著作物であることを明確化した1985(昭和60)年の著作権法の改正の経緯は前回説明したとおりですが、法改正に当たり政府部内で調整した結果、プログラムの保護と利用の円滑化を図るためのいくつかの規定を整備しました。
その一つが、プログラムの作成に用いられる「プログラム言語」、「規約」及び「解法」については著作権が及ばないことを明確化することです。
前回説明したとおり、プログラムの法的保護の問題は、IBMコンピュータの接続情報の不正入手が1つのきっかけになっていました。
著作権は表現の保護ですので、保護のあり方についてはおのずと限界があります。例えば、著作物の無断複製は原則著作権侵害になりますが、その保護は著作物に具体化されている問題解決に至るまでの解明方法等、すなわちアイデイアに相当する部分には及びません。
このようなことから、改正当時、プログラムの著作権法による保護についてどこまで保護されるのか曖昧な点もあったことから、保護の限界を明確化するため本規定が制定されました。
最初に、「プログラム言語」ですが、日本語や英語が著作権法で保護されないのと同様に、コンピュータに作成者の指令を伝える手段である「プログラム言語」について、著作権法による保護がないことを明確化しました。これにより、例えばある会社が独自で開発した「プログラム言語」を用いてプログラムを作成したとしても、著作権侵害にならないことが明確になりました。
 次は「規約」です。例えばスポーツのルールは著作権法上の保護対象にならないアイデイアに属するものですので、例え他人が考案した新しいスポーツであったとしても、そのルールに基づきスポーツをすることは著作権侵害にはなりません。
これをプログラムの作成という視点で考えると、例えばプログラムとプログラムを連結させデータの交換をし情報処理を行うとき、その連結点における接続のルールすなわち「規約」が一致している必要があります。したがって、「規約」を用いてプログラムを作成することは著作権侵害にならないことを明確にしたのが本規定です。なお、「規約」に基づいて作成されたプログラムの著作物を無断複製する行為は著作権侵害になることはいうまでもありません。
最後に「解法」です。「解法」とは、「問題を解決するための手順や計算方法」すなわちアルゴリズムのことをいうとされています。「規約」の所でも説明したように「解法」もアイデイアに該当するので、著作権法上の保護はありません。
したがって、あるプログラムを解析した上で「解法」を抽出し、その「解法」に基づき新たにプログラムを作成すれば、同じ機能を有する新たな著作物が創作されたことになり、著作権侵害にはならないことになります。民間企業では、既存プログラムの解析チームと新たなプログラムの作成チームを完全に隔離し、著作権侵害の疑義が生じないようにしているところもあると聞いています。
なお、プログラムの場合、プログラムの使用者の指令に従い情報処理を行うための道具ですので、その表現よりもアイデイアの保護の方が重要であるとの意見もあるところです。そのため、プログラムについては一定の条件の下で特許法による保護も行われています。 

「著作物とは何か」については、これで終わります。次回からは、著作者の権利(著作者人格権及び著作権(財産権))の内容について解説をします。なお、公衆送信権については、すでに説明をしていますので省略します。

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