JRRCマガジンNo.271 著作者の権利について(その12)

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JRRCマガジン  No.271 2022/4/7
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◆今回の内容
 川瀬先生の著作権よもやま話
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皆さまこんにちは。

花の色が美しい季節になりました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は「著作者の権利について」の続きです。どうぞお楽しみください。
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◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
  著作者の権利について(その12)
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9 著作権(財産権)について
(1)著作権の性質
説明済み
(2)支分権の内容について
ア、イ 説明済み

ウ 上映権(22条の2)

上映とは、「著作物(公衆送信されるものを除く。)を映写幕その他の物に映写することをいい、これに伴って映画の著作物において固定されている音を再生することを含む」とされています(2条1項17号)。
すなわち著作物を映写することですから、映画等の動画作品の映写はもちろんのこと、スライドを使った投影等の静止画の映写も上映に含まれることになります。
また、映画の著作物の上映に伴い、映画に複製されている言語、美術、写真等の著作物が映写されることになりますが、この行為も上映ということになります。
ただ、音楽の場合、楽譜が映写されれば、言語の著作物等と同様に上映になるのは明らかですが、音楽の演奏が映画に固定されそれが映画の上映に伴い再生される場合も上映といえるかどうかについては疑義が生じるところから、このような行為も上映に含まれることを明らかにしています(2条1項17号後段)。

なお、映画の上映に伴い、原作や脚本が上映されたといえるかどうかですが、映画の著作物は原作又は脚本の二次的著作物ですので、原作又は脚本とは別の著作物という扱いになり、当該映画の上映に伴い原作や脚本が上映されたとはいえません。
そうすると映画の上映に伴い原作又は脚本の上映権は働かないことになりますが、原作者又は脚本家には二次的著作物の利用権(28条)が与えられているので、映画製作者が有する上映権と同種の権利を原作者等も有することになり、原作者等の利益は守られることになります。なお、このことについては、二次的著作物の利用権の解説の際に詳しく説明します。
また、「公衆送信されるものを除く」の意味ですが、これは前回に上演等と公衆送信・伝達の取り扱いの違いで説明したことと同じで、例えば、同じモニターを使って映画を視聴しているとしても、ビデオ、DVD等の録画機器を用いた映画の再生は上映、ネットを使ったVOD(Video On Demand)サービスによる映画の配信・再生は、公衆送信・伝達になるということです。

次に、上映権ですが、この権利は「著作物を公に上映する権利」(22条の2)ですので、著作物の種類を問わず上記の上映の定義で説明した行為が行われれば原則として権利が働くことになります。
なお、このように現行法では上映権については著作物の種類を問わないことになっていますが、これは1999(平成11)年の著作権法の改正に基づくものであり、それまでは映画の著作物に限定して上映権が与えられていました。

エ 公衆送信権(23条1項)・伝達権(23条2項)
 これまで説明してきたように、著作物を公衆に送信する行為と、送信されたものを受信装置を用いて視聴可能な形で再生する行為は、見方によっては一体の行為ともとれるわけですが、ダウンロード型の配信サービスのように送信された著作物が必ず伝達されるわけではないので、わが国の著作権法では、これらを別々の行為ととらえ、それぞれの行為に権利を付与しています。これが公衆送信権と伝達権の関係です。

(公衆送信の定義)

公衆送信とは、「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うこと」(2条1項7号の2)をいいます。

公衆の定義については、これまで説明したとおり、不特定者又は特定かつ多数者への提示・提供のことをいいます(2条2項)。

公衆送信の定義については、上演等の他の権利との整合性や著作物の種類の特性等も踏まえて整理されていますので、かなり複雑な定義になっています。

まず、公衆送信から除かれる送信ですが、公衆によって直接受信されることを目的としていない送信です。これは、著作権法上公衆とはいえない特定かつ少数者への送信のことをいい、例えば家族、親しい友人、職場の上司等への電話、ファックス、メール等による送信が該当します。

次に、括弧書に該当する送信で、送信行為と受信行為が同一の構内で行われるものです。例えば、コンサート会場には通常マイク設備が整備されており、出演者の歌唱や演奏はマイク設備を通してコンサート会場やロビー等にある多数のスピーカに送信され、それを通じて会場の内外にいる参加者に伝達されます。
なぜこのような行為を公衆送信から除外する必要があるのかというと、仮に音楽を参加者に直接聞かせることを演奏とし、マイク設備を用いて送信することを公衆送信とすれば、これらの行為は音楽の利用という点では事実上一体の行為にもかかわらず、演奏権者と公衆送信権者が異なる場合、それぞれの権利者から許諾を得る必要が生じることになります。したがって、同一構内における利用については、社会実態に合わせて公衆送信ではなく、上演、演奏、上映又は口述に該当すると整理されたところです。
なお、括弧書の中にある括弧書の意味ですが、例えば雑居ビルでは、フロアー又は部屋ごとに借主(占有者)が違いますので、例えば、ある会社が10階建てのビルの1階から5階までを借りているとすれば1階から5階までを同一構内として取り扱うという意味です。なお、同じ会社でも東京本社と地方の支店は、組織としては一体かもしれませんが、物理的には別々のところに存在しますので、同一構内とはいいません。

次の、括弧書の中の括弧書ですが、著作物の中でもプログラムについては、同一構内の送信であっても公衆送信になるという意味です。
プログラム以外の著作物については人間が知覚することにより著作物を享受することになるので、送信を受信して行う著作物の提示は、上演、演奏、上映又は口述のいずれかに該当することになります。一方、プログラムは、電子計算機にプログラムを使用させある結果を得るためのものであり、プログラムの電子計算機による使用については権利化されていませんので、同一構内におけるプログラムの送信を公衆送信の定義から除外してしまうと、プログラムを1つだけ購入し、それを同一構内にある多数の電子計算機からの求めに応じ、その都度送信して使用させても権利が働かないことになるので、権利者の利益を守るためにこの除外規定が設けられています。
なお、プログラムを電子計算機の記憶装置に一旦複製し、当該複製物を用いて電子計算機で使用する場合は、当該複製について原則として複製権が働くことになります。

(公衆送信の種類)

次に、公衆送信の種類について説明します。
現行法が制定された1970(昭和45)年当時、公衆送信に該当する利用は放送と有線放送だけでした。放送とは、「公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信」(2条1項8号)のことをいいます。
また、有線放送とは、「公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信」(2条1項9号の2)のことをいいます。両方とも「無線通信」か「有線電気通信」の送信だけの違いであって、それ以外の定義は同じです。「同一の内容の送信が同時に受信される」という文言は、次に説明するいわゆるリクエスト型の送信と区別するために設けられたものです。
リクエスト型の送信とは、利用者の求めに応じ送信する形態のものをいい、この形態は「自動公衆送信」とそれ以外の送信に分けられます。
自動公衆送信とは、「公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)」(2条1項9号の2)のことをいいます。ネット上のサイトから情報を入手する形態が典型例です。
「放送又は有線放送に該当するものを除く」の意味ですが、誰かがリクエストをすれば、そこでスイッチが入り視聴者全員に同時に送信されるような形態を想定しています。

一方、それ以外の送信ですが、例えば、口頭、郵便、メール等による依頼者からのリクエストに応じ、当該依頼者に対し、必要な情報を電子メールやファックス等で送信するものが該当します。このような形態については、手動公衆送信といってもいいかもしれません。

なお、リクエスト型かどうかにかかわらず、例えば、事前に登録しておいた希望者にファックス等で一斉に送信するいわゆる同報通信といわれるものも公衆送信に該当し得ることに注意が必要です。

(公衆送信権の内容)
公衆送信権とは、「著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利」(23条1項)のことをいいます。

現行法が制定された際、著作物を公衆に送信する権利は、その利用実態から放送権と有線放送権の2つの権利に限定されていました。その後、1980年代になってデータベースのオンラインサービスが開始され、いわゆるリクエスト型の送信が始まりました。このサービスは当時有線電気設備を使った形態のものしかなかったところから、1986(昭和61)年の著作権法改正で有線放送権を有線送信権に改め、いわゆるリクエスト型の送信も権利が働くことを明確化しました。

その後、1996年にWIPO(世界知的所有権機関)において、ネット等の新技術を用いた著作物の利用について著作者の権利を強化するための条約である「著作権に関する知的所有権機関条約」(WIPO著作権条約)が作成されました。その8条には次のような定めがあります。

「(前略)、文学的及び美術的著作物の著作者は、その著作物について、有線又は無線の方法による公衆への伝達(公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置くことを含む。)を許諾する排他的権利を享有する。」

現行の公衆送信権は、WIPO著作権条約に加入するための保護水準を満たすために1997(平成9)年の著作権法改正で定められたものです(条約加入は2002年)。
主な改正点は、リクエスト型の送信については、従来は有線電気通信設備を用いたものに限定(有線送信権)していたのを、無線又は有線の区別をなくしたうえで、1つの権利にまとめたこと、WIPO著作権条約8条の括弧書の要件を満たすため「送信可能化」の定義を設け、自動公衆送信については、送信可能化を行った時点で公衆送信権が働くことにしたことの2点です。
この送信可能化の定義ですが、「次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすること」(イ・ロは略)(2条1項9号の5)をいいます。
要するに自動公衆送信の準備行為であるアップロードされた状態のことです。例えばYou Tubeを検索して求める情報があればその箇所をクリックすると自動的に情報が送られてきます。システム側はリクエストがあればいつでも送信できる準備をしてリクエストを待っている状態ですので、まさにこの状態が送信可能化ということになります。
自動公衆送信に送信可能化を含ませることにより実務的には大きな利点があります。
すなわち、著作権者が公衆送信権侵害で訴えようとした際に、どの著作物が誰に何回送信されたかを立証するのは容易ではありませんが、現行法の内容であれば、アップロードされていることを立証すれば、それだけで公衆送信権侵害が成立することになります。権利者側の立証負担ははるかに軽減されることになります。

次に、送信可能化の定義における「次のいずれかに掲げる行為」の内容(上記イとロのこと)ですが、条文を読んでもなかなか理解しにくいので、ここではその概要だけ説明しておきます。
まず、送信可能化には、蓄積型と入力型の2種類があります(イ関係)。
また、蓄積型はさらに記録型、追加型及び変換型の3種類に分かれています。
記録型というのは、自動公衆送信装置に接続されている記録媒体(いわゆるサーバー)に情報を記録(複製)する方法です。この場合、複製権もあわせて働くことになります。
追加型というのは、情報の記録は行われず、すでに情報が記録されている記録媒体をサーバーに組み込んで行う方法です(レーザー・ディスクカラオケの時代にカラオケ業者が定期的にお店を巡回し、新曲が記録されているレーザー・ディスクを装置に組み込んでいたことを思い出してください)。
最後に変換型ですが、例えばサーバーにすでに情報が記録されているが、その形式だと公衆送信ができないのでその情報の形式を公衆送信可能な形式に変換する方法です。

入力型というのは、サーバーに情報が連続的に入力されますが蓄積を伴わない方法です。例えば、インターネットを使った音楽、スポーツ、芸能等のライブ配信が典型的な例です。
この場合、ライブの途中でリクエストをしても最初から視聴することはできず、放送や有線放送と同様に途中から視聴することになります。

なお、これまで説明してきたのは自動公衆送信装置とサーバーが接続されていることを前提にしていますが、自動公衆送信装置とサーバーを接続する行為も送信可能化になります(ロ関係)。

ところで、わが国の送信可能化とWIPO著作権条約8条括弧書(「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置くことを含む。」)の関係ですが、わが国政府は当初入力型の送信可能化も条約上の義務であるとしていましたが、IPマルチキャスト放送に係る権利関係を整理した2006(平成18)年の著作権法改正時に条約加盟国の見解、文献調査の結果等も参考に再度検討した結果、入力型の送信可能化については条約上の義務ではないとその解釈を変更しています。

(伝達権の内容)

伝達権は、「公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利」(23条2項)のことをいいます。
この権利は、これまで説明したように放送、有線放送、リクエスト型送信等の送信の形態を問わず公衆送信を受信して同時に著作物を公に伝達する場合に働きます。
例えば、音楽有線放送の場合は、放送局から音楽の演奏が公衆送信され、各お店に設置されたスピーカを通じてお客さんに音楽の演奏が伝達されます。このように伝達権が働くためには公衆送信と同時に伝達が行われることが要件です。
例えば、夜間のうちに各お店に新曲を配信し、一旦お店の録音機器に録音(複製)した上で、お店の営業時間中は当該機器を用いて音楽を再生している場合は、原則として配信は公衆送信権、録音は複製権、音楽の再生は演奏権が働くことになります。

なお、テレビ放送やラジオ放送の場合も伝達権が働きますが、民生用の家庭用受信装置を用いて伝達するとき(例えば、食堂においてあるテレビでお客さんに番組を見せることを想定してみてください)は、営利・非営利を問わず伝達権が働かないことになっています(38条3項後段)。

次回は口述権(24条)及び展示権(25条)について解説をします。

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