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JRRCマガジン No.293 2022/11/8
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています
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◆今回の内容
【1】川瀬先生の著作権よもやま話
【2】著作権講座(中級)オンライン開催について
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皆さま、こんにちは。
穏やかな小春日和が続いていますが、
皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
さて、今回の川瀬先生の著作権よもやま話は、
「実演家等の権利について(その4)」です。
川瀬先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/kawase/
◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
【1】実演家等の権利について(その4)
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6 実演家の権利
(4)権利の内容
③著作隣接権(許諾権)
ア 録音権・録画権(91条1項) 説明済み
イ 放送権・有線放送権(92条1項) 説明済み
ウ 送信可能化権(93条の2)
本権利は、インターネットに係る権利関係を整備したWIPO新条約(WIPO著作権条約及びWIPO実演・レコード条約 いずれも1996年作成)の加盟を目的とした1997(平成9)年の著作権法改正により整備されました。著作権の場合は、条約上、著作物の公衆への伝達一般について著作者に許諾権を与える必要があるので、著作物の送信可能化行為については公衆送信権の一部の行為としました。
一方、実演・レコードの場合については、条約上は、生実演の放送等の公衆伝達については許諾権の付与が必要ですが、レコードの放送等の公衆伝達については報酬請求権の付与で足りるとする規定の構造から、わが国の場合、著作隣接権者には、公衆伝達と送信可能化を分離した上で、送信可能化権を付与することにしています。
送信可能化の意義については、公衆送信権のところで説明していますのでそれを参照してください。
→ JRRCマガジンNo.271 著作者の権利について(その12)
なお、この場合、インターネットを通じたライブ送信については、一旦情報をサーバーに蓄積(送信可能化)し、リクエストに応じて異時に送信するいわゆる蓄積型自動公衆送信とは異なりますが、上記の記事でも解説していますとおり、サーバーに情報を入力し続けるいわゆる入力型自動公衆送信に該当するので、サーバーにて送信可能化が行われていることになります。
また、上記のとおり著作権と著作隣接権では、権利の構成が異なりますが、自動公衆送信についていえば、送信の前提として、蓄積型か入力型かにかかわらず、どちらも必ず送信可能化行為が行われますので、事実上の効果としてはほとんど差はありません。
送信可能化権の適用除外については、放送権等の場合(92条2項2号)と同様の規定(92条の2第2項)が設けられていますが、両者は録音物の取り扱いで大きく異なります。すなわち、放送権等の場合は実演家の録音の許諾を得た録音物を用いた放送等が適用除外になるのに対し、送信可能化の場合、録音物は適用除外にならないということです。具体例ですが、例えば、放送局が市販の音楽CD等(商業用レコード)を用いて音楽番組を放送したとしても、当該録音物に係る実演家から放送の許諾を得る必要はありません。
一方、ネット送信の場合は、送信可能化権が働くので当該実演家の許諾が必要ということになります。なお、この場合、放送等の場合は、実演家の許諾は必要ありませんが、実演家には別途商業用レコードの二次使用料請求権(95条)が付与されていることに注意が必要です。この内容については別途説明をします。
ところで、最近は、放送局等が番組の放送と同時又は異時に同じ番組をネットで送信することがよく行われています。最近では、放送の同時配信、追っかけ配信及び見逃し送信が事実上1つのパッケージとして行われることも多いところから、2021(令和3)年の著作権法改正により、放送番組の配信利用に関する円滑化方策として、著作物、実演及びレコードに係る権利制限等が整備されました。この改正の内容については、著作物の利用と合わせて別途説明します。
エ 譲渡権(95条の2)
実演家は、自らの実演が録音又は録画された録音物又は録画物を譲渡により公衆に提供する権利を有しています。この権利は著作者の権利と同様の権利ですが、実演家の許諾を得て録画されている実演及び映画の著作物に録音・録画されている実演については、原則適用除外されています(95条の2第2項)。
また、一旦他人に譲渡された録音物又は録画物の国内消尽又は国際消尽の取扱いについては、著作物の場合と同様です(95条の2第3項)。
著作物の譲渡権に関する国内消尽等の取扱いについては、次の記事を参照してください。
→ JRRCマガジンNo.280 著作者の権利について(その15)
オ 貸与権等
貸与権については、いわゆる貸レコード問題を経て、1984(昭和59)年の著作権法改正により、著作者、実演家及びレコード製作者に貸与権が認められました。
ただし、実演家等の貸与権については、貸レコード業者の存続、条約上の義務等も念頭に置きながら設けられた権利であったところから、商業用レコードの貸与により公衆に提供する権利とされる一方で(95条の3第1項)、許諾権が及ぶ期間は商業用レコードの発売後1ヶ月から12ヶ月の間で政令で定める期間とされました(政令で12ヶ月とされています)(95条の3第2項、施行令57条の2))。また。許諾権終了後著作隣接権の存続期間内は報酬請求権を与えられました(95条の3第3項)。
すなわち、実演家等の貸与に関する権利については、商業用レコード発売後1年間の貸与権(許諾権)と後69年間の報酬請求権という変則的な構成になっています。
実演家等の貸与権の取扱いについては、次の記事の著作者の貸与権の解説で詳しく説明していますので参照してください。
→ JRRCマガジンNo.280 著作者の権利について(その15)
④報酬請求権
先述したように実演家等の権利の特徴は、許諾権と報酬請求権により構成されていることです。実演家については、
ア 放送される実演を営利目的等で有線放送した場合(94条の2)
イ 商業用レコード(音楽CD等の市販用レコード)を放送又は有線放送した場合(95条1項)
ウ 商業用レコードを貸与権(発売から1年間)消滅後に貸与した場合(95条の3第3項)に報酬請求権が与えられます。
これらの報酬請求権の特徴は、実演家には放送権、有線放送権及び貸与権が与えられていますが、それらの権利(許諾権)の適用を除外した上で、利用の円滑化を図る一方で権利者保護を図るため改めて報酬請求権を与えているという構成になります。
また、何度も説明しているように、許諾権は利用の可否を決めることができる権利ですが、報酬請求権は債権的な権利であり、利用された場合は金銭的な対価を請求できるだけという内容になっています。
このうちアとウについては、放送権・有線放送権及び貸与権の項目で説明済みですので当該項目を参照してください。ここでは、イの商業用レコードの二次使用料請求権について説明をします。
(ア)録音物を用いた放送等に関する旧法の取扱い
旧法では、音楽、演奏・歌唱及び録音物は著作権で保護されていましたが(旧法1条、同22条の7)、録音物を用いた興行(演奏等)及び放送については、例えそれが商業的な利用であっても、出所の明示を条件に、自由に利用できることになっていました(旧法30条第8)。したがって、旧法下においては、例えばラジオの歌番組で市販の録音物(LPレコード)を用いて音楽を再生(放送)しても放送局は、当該録音物に係る作詞家・作曲家等、演奏・歌唱者及び録音物製作者の著作権は権利制限の対象になり、無許諾・無償で利用することができました。
(イ)現行法における著作隣接権制度の創設と国際条約
旧法における録音物の取扱いについては、旧法下における我が国の特殊な事情等を踏まえ、利用者の利便性を重視する制度になっていましたが、現行法の制定に当たり、著作隣接権制度を創設し、演奏・歌唱及び録音物の保護は同制度に移行した上で、将来における実演家等保護条約への加盟を想定し、同条約の内容に沿った形で制度設計がされたところです。
商業用レコードの二次使用料請求権については、実演家等保護条約に定めがあります(同条約12条)。商業用レコードは、レコード店等を通じて個人に販売され、買った人がそれを視聴し、音楽を楽しむというのが通常の利用方法であり、そのレコードが放送や有線放送に利用され放送局等が多大の利益を得るというのは本来想定外の利用でした。また、商業レコードが放送等に利用されることにより、実演家の出演機会が奪われることになりました(いわゆる機械的失業)。
このようなことから、商業用レコードの本来の利用目的とは異なる利用(二次利用)を行い、それにより利益を得ている放送局等は、ある種被害を被っている実演家及びレコード製作者にその利益配分をするのが適切であり、特に実演家については機械的失業の対する補償という意味も含めて、この二次使用料制度が実演家等保護条約に盛り込まれました。わが国もこの考え方に従い、商業用レコード二次使用料請求権の制度を創設しました。
なお、実演家の機械的失業には、2つの意味があります。1つは商業用レコードを何度も利用されることにより、当該レコードに固定されている実演家以外の実演家の出演機会が失われるという意味と、もう1つは、当該レコードに固定されている実演家の出演機会が失われるという意味です。
本来機械的失業の補償の意味は前者のことをいうと聞いていますが、これをストレートに制度設計に生かすことは難しく、権利構成については、商業用レコードに実演が固定されている実演家に二次使用料請求を与えるという構成になっています。
ところで、実演家等保護条約では、商業上の目的のために発行されたレコード又はその複製物が放送又は公衆への伝達に使用される場合には、使用者は実演家又はレコード製作者に単一の衡平な報酬を支払われるとしております(同条約12条)。ただし、同条については、各国が制度整備をしやすいように、二次使用料請求権を定めないこと、権利が及ぶ範囲を限定すること等の適用除外に関する留保宣言を行うことができることになっています(同条約16条)。このことからわが国は、例えば権利の及ぶ範囲については放送又は有線放送に限定すること、外国人の保護に当たっては相互主義(条約によって内容が違います)を採用すること等の留保宣言をしています(H元.10.3外務省告示514号)。
なお、現在隣接権関係の団体が、商業用レコードの演奏権を認めるように主張されていますが、この主張は公衆への伝達に関する留保宣言を撤回又はレコード演奏が該当するように修正してほしいということに通じることになります。
なお、1994年作成のWTO設立協定(TRIPS協定)にも実演等の保護義務が定められていますが、同協定では二次使用料請求権の創設は条約上の義務になっていません。また1996年作成のWIPO実演・レコード条約においては二次使用料請求権を付与するための規定(同条約15条(1))が定められていますが、同条約も実演家等保護条約と同様、適用除外に関する留保宣言を行うことができます(同条約15条(3))。わが国は、商業用レコードの二次使用料請求権について、相互主義の内容は異なりますが実演家等保護条約とほぼ同様の留保宣言をしています(H14.7.12外務省告示301号)。
(ウ)商業用レコードの二次使用料請求権の内容
(商業用レコードとは)
これまで何度も出てくる商業用レコードという用語ですが、ここで改めて説明をしておきます。商業用レコードとは、「市販の目的をもって製作されるレコードの複製物」のことをいいます(2条1項7号)。LP、CD,テープその他記録媒体の性質を問いません。
ただし、レコードとは録音物のことをいいますので(2条1項5号)、例えばDVDやBDのような映像を伴うものについては、一般には映画の著作物又は創作性がなければ単なる録画物として取り扱われていますので、商業用レコードとはいいません。
なお、商業用レコードには、レコードを送信可能化したものを含むことになっています(94条の3第1項)。これは、ネット社会の進展により、それまでは商業用レコードという商品を購入し、又は提供を受けて放送等で利用するのが通常であったのが、最近では、商業用レコードは発売されていないが、配信音源を用いてネットで音楽等が提供される場合も多くなり、放送局等でもこの配信音源の提供を受けてそれを放送等に利用することが多くなっています。
そのような実態を踏まえ、2016(平成28)年の著作権法改正により、上記の考えが導入され、二次使用料請求権については、配信音源を用いて放送等を行っても請求できるとされました。
(商業用レコード二次使用料請求権の内容)
二次使用料の支払い義務者は放送事業者と有線放送事業者です。この放送事業者等が実演家の許諾を得て録音されている商業用レコードを用いて放送又は有線放送を行った際は当該実演家に二次使用料を支払わなければならないことになっています。
なお、例えば放送事業者が放送したものを有線放送事業者が当該放送を受信して有線放送した場合も二次使用料は支払わなければなりませんが、ビルや山等の障害物のため放送の受信が困難な地域における有線放送のように、非営利かつ無料で行われる利用については、二次使用料の請求権が働かないとされています(95条1項括弧書)。
(外国の商業用レコードへの適用)
レコード実演に関する国際的保護については、実演家等保護条約、WIPO実演・レコード条約及びWTO設立協定(TRIPS協定)において保護義務を負うものが保護されることになっています(7条)。ただし、二次使用料請求権の規定があるのは、実演家等保護条約とWIPO実演・レコード条約ですが、保護の方法については、両条約とも留保宣言することができるので、その留保宣言に従い、例えば条約加盟国で二次使用料請求権を認めていればわが国でも認める又は認めている範囲内で認める等の特別な取扱いができることになっています。
したがって、外国のレコード実演がわが国で二次使用料請求権が付与されるかどうかを検証するためには、当該国がどの条約に加盟しているのか、当該国の二次使用料請求権の内容と留保宣言の内容等を確認した上で、判断をする必要があります。
ところで、これまで説明してきた留保宣言の内容ですが、実演家等保護条約とWIPO実演・レコード条約とでは、留保宣言中の相互主義の内容が異なっているので、著作権法でもどの条約と保護関係があるかによって、その取扱いを分けて規定しています。
まず、実演家等保護条約との関係ですが、同条約にかかるわが国の留保制限を踏まえ、相手国で二次使用料請求権を認めていない場合はわが国では認めないが、一部でも認めていればわが国は内国民待遇を適用しわが国の実演家と同様の権利を付与するが、保護期間は相互主義を採用する旨を規定しています(95条2項、3項)。
一方、WIPO実演・レコード条約との関係では、同条約にかかる我が国の留保宣言を踏まえ、相手国が二次使用料請求権を認めていない場合はわが国も保護しないことはもちろんですが、一部に限って認めている場合は、相手国が認めている範囲内でしか認めないという相互主義を規定しています(95条4項)。
わが国の放送等の実態を見ると多くの外国盤が放送等に使われています。またその中でも米国盤が圧倒的に多いと考えられます。米国は実演家等保護条約に加盟していませんが、WIPO実演・レコード条約に加盟していますので、二次使用料請求権が米国盤にかかる実演家等に支払われているか気になるところです。
米国の場合、録音物は著作物として保護されていますが、公衆への伝達(実演)に関しては、デジタル音声送信権しか認めておらず(106条(6)、映画等の視聴覚著作物の送信は除外)、しかもデジタル送信であっても無料放送、無料放送を受信して行う再送信等については権利が及ばないことになっています(米国法114条(d))。
したがって、上記の相互主義の原則から、米国盤に係る二次使用料請求権が認められる範囲は、音楽専門デジタル放送等に限られていると考えられますので、NHKや民間放送局の負担増はほぼないものと考えられます。
(商業用レコード二次使用料の請求方法)
請求の方法については、二次使用料請求権は、レコードに録音されている実演家に付与されるものですので、本来は個々の実演家が放送局に請求することになります。
しかしながら、個々の実演家が請求すると二次使用料の支払い事務が煩雑になることから、実演家で構成される団体で文化庁が指定した団体があるときは、当該団体を通じてのみ権利行使できるとし二次使用料実務の一元化を図っています(95条5項~14項)。
現在公益社団法人日本芸能実演家団体協議会が指定されており、当該団体を通じて権利行使が行われています。
なお、二次使用料の額ですが、毎年放送事業者等(例 NHK)又はその団体(例 日本民間放送連盟)と協議して定めることになっています(95条10項)。
ところで、貸与権の消滅後に与えられる貸与報酬請求権の行使ですが、この権利についても指定団体制度が適用されており(95条の3第4項)、二次使用料の場合と同じ団体が文化庁から指定されています。
なお、貸与権の行使と貸与報酬請求権の行使を一体的に行うことが可能なように、貸与権の許諾の対価である使用料を請求する権利と貸与報酬請求権を同団体で一体的に取扱うことが認められています(95条の3第5項)。
次回はレコード製作者の権利について解説します。
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【2】著作権講座(中級)オンライン開催について
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ご好評につき著作権講座(中級)オンラインを次の日程にて開催いたします。
開催日程:2022年11月22日(火) 10:00-16:30
プログラム予定
10:30 ~ 12:00 知的財産法の概要
著作権制度の概要1(体系、著作物、著作者)
13:00 ~ 15:20 著作権制度の概要2(権利の取得、権利の内容、著作隣接権)
15:30 ~ 16:30 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
※最新の話題は講座内で説明予定です。
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受付開始予定:2022年11月10日 15:00~
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