JRRCマガジンNo.288 実演家等の権利について(その3)

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JRRCマガジン  No.288 2022/10/6
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◆今回の内容
【1】川瀬先生の著作権よもやま話
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皆さま、こんにちは。

ようやく秋も深まってまいりました。

さて、今回の川瀬先生の著作権よもやま話は、
「実演家等の権利について(その3)」です。

バックナンバーは下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
【1】実演家等の権利について(その3)
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6 実演家の権利
(4)権利の内容
③著作隣接権(許諾権)
 実演家の著作隣接権(許諾権)は、録音権・録画権(91条1項)、放送権・有線放送権(92条1項)、送信可能化権(92条の2第1項)、譲渡権(95条の2第1項)及び貸与権(95条の3第1項)の5種類の権利から構成されています。また、先述したようにこれらの権利の働き方には様々な例外措置が定められていますので、ここでは、実演を先に整理したとおり「生の実演」、「レコードに固定(録音)された実演」及び「映画の著作物に録音・録画された実演」の3つの利用を念頭に置き説明をします。

ア 録音権・録画権(91条1項)
 実演家の実演は、最初は全て生の実演です。歌手や演奏家の場合は、舞台、スタジオその他の場所を問わず生の実演が行われますし、俳優等についても同様です。また、映画の製作現場でも俳優の生の実演が撮影されます。そうした生の実演を録音又は録画する場合にこの権利が働きます。

 また、録音とは「音を物に固定し、又はその固定物を増製すること」(2条1項13号)をいい、録画とは「影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製することをいう」(2条1項14号)と定義されているところから、生実演の録音・録画だけでなく、当該録音物・録画物の増製(録音・録画)についても原則権利が働くことになっています。

 ただし、1つ例外がありまして、実演家の許諾を得て「映画の著作物に録音・録画された実演」については、これをいわゆるサウンドトラック盤(録音物)に録音する場合を除き、以後の録音・録画については権利が働かないことになっています(91条2項)。
なお、録音物に関する除外規定ですが、実演家の権利を働かないようにするのは、映画の著作物を映画の著作物として利用する場合に限定すべきであるという考えに基づいています。
またこの場合、録音・録画だけでなくそれ以外の放送・有線放送、送信可能化、譲渡についても権利が働かないことになっています(92条2項2号ロ、92条の2第2項2号、95条の2第2項2号)。

 これをワンチャンス主義といっています。映画作品の場合は、もともと主役から端役まで多数の実演家が参加して製作されるものですので、契約処理の簡便化のため、最初の出演契約の際に、映画作品の二次利用(パッケージ販売・貸与、放送、ネット配信等)の際の追加の報酬の支払いその他の利用条件について取り決めをしておかなければならないという意味です。以前の映画作品については、出演契約は主として口頭契約であり、この利用条件に関する取り決めもなかったところから、過去に出演した映画作品が二次利用されたとしても特別な場合を除き追加の報酬等は主演級も含めて一切ないと聞いています。ただし、最近では主演級に限って言えば利用条件に関する契約を締結する場合もあると聞いています。
 なお、このワンチャンス主義の規定(91条2項)は、実演を映画の著作物に録音・録画する場合の例外規定ですので、劇映画やミュージックビデオの場合は理解しやすいのですが、放送番組(ドラマ)の場合については、番組の製作実態を整理したうえで理解する必要があります。

放送番組のうちドラマについては、劇映画と同じような製作方法により作られています。すなわち俳優と出演契約を結び、俳優の実演を録音・録画し、それを編集した上で、ドラマを完成させ、それを放送するという手順です。
 しかしながら劇映画とドラマとの決定的な違いは、劇映画における出演契約には俳優の実演を録音・録画する許諾が含まれているのに対し、ドラマの出演契約には実演の放送の許諾は含まれているものの、録音・録画の許諾は含まれていない場合が多いということです。
 それでは何故放送局は事前に俳優の実演を録音・録画し、ドラマを完成させることができるのでしょうか。それは放送局は一時的固定制度(44条1項、102条1項)や放送等のための固定制度(93条)、すなわち権利制限規定により放送のための技術的手段として実演の録音・録画が可能となっているからです。
 したがって、この場合、放送前に完成したドラマは権利制限により録音・録画されていることになり、ワンチャンス主義(91条2項)の適用はないことになりますので、ドラマの二次利用については実演家の権利が働くことになります。

 なお、このワンチャンス主義の適用があるかどうかについては、その製作実態を見て判断されることになります。ただし、著作権法では、著作物、実演等に係る契約規定として、著作物、実演等の放送又は有線放送の許諾には、契約で別段の定めをしない限り、録音・録画の許諾は含まないものとするという特則があります(63条4項、103条)。この規定は、放送番組の制作実態から、事前に録音物・録画物を作成し、それを用いて放送等が行われることが常態化している放送界であっても、放送界の実態を理由に、放送局側から録音・録画の許諾も当然あったと主張できないことになります。例えば著作権譲渡契約における二次的著作物の創作権(27条)及び利用権(28条)に係る権利留保については推定規定(61条2項)ですので、対価の額その他の実態を踏まえた反証の成立により推定が覆ることもありますが、「含まないものとする」というのは一種の強行規定ですので、実演の録音・録画を許諾するとの契約を結ばない限り、原則として許諾はなかったものとして取り扱われます。

イ 放送権・有線放送権(92条1項)
 生実演又は当該実演を録音・録画したものを用いて放送又は有線放送をする場合に原則として権利が働きます。

 原則としてと書いたのは、これらの権利についても適用除外が多いからです。録音・録画権(91条)のところで説明した映画の著作物に係るワンチャンス主義やこれから説明する放送権・有線放送権に関する適用除外については、劇映画等や放送番組に係る実演家との利用契約については、映画製作者や放送番組製作者にできるだけ委ねて、実演家やレコード製作者の権利行使が作品の二次利用等をできるだけ妨げないように、実演家等保護条約等の条約の内容も踏まえて制度設計されています。

 それでは適用除外について説明をします。
 まず、放送される実演を有線放送する場合です(92条2項1号)。もともと有線放送局はテレビ放送を受信できない難視聴対策として普及しました。最初のころは、有線放送局も小規模で、事業としても大きなものではありませんでしたので、実演家の有線放送権は適用しないことにしました。この条文の解釈において注意すべき点としては、本件については、同条同項2号のように適法要件がないので違法な実演の放送においても適用除外されるということです。
 ところで、有線放送局は当初は難視聴対策の一環で事業を展開していましたが、その後、事業の大規模化、サービスの拡大等が行われ、今日では一つの事業分野を形成するまでに成長しました。そうしたところから、2006(平成18)年の著作権法改正で、新たに94条の2が設けられ、有線放送局に対し、当該有線放送が営利目的等で行われる場合には実演家に相当な額の報酬を支払うことを義務付けました。

 次に、実演家の許諾を得て録音・録画されている実演(92条2項2号イ)及び映画の著作物に実演家の許諾を得て録音・録画されている実演(92条2項2号ロ)の放送又は有線放送は適用除外されます。この規定で注意を要するのは、この適用除外は実演家から録音・録画の許諾を得ているものが適用除外になるということです。
したがって、例えば、市販の音楽CD(商業用レコード)を用いて行う放送等すなわち「レコードに固定(録音)された実演」が放送等されたとしても実演家の放送権等は原則働きません(92条2項2号イに該当)。
また、劇映画の複製物の提供を受けて放送局が放送等を行っても同様です(同号ロに該当)。なお、舞台で行われている漫才等の演芸を実演家の許諾を得て固定カメラで撮影した録画物は、一般に映画の著作物とは言えませんが、そのような録画物を用いて放送等をするに当たっては、イ号が適用され放送権等が働かないことになります。
一方、先述したとおり、放送等の実態としては、放送等の前に実演を録音又は録画したものを用いて放送等を行うのが常態化しています。このような場合、放送局は実演家から放送の許諾を得れば、権利制限規定を用いてで演を事前に録音・録画することが可能となっています(44条1項 102条1項、93条)。
そして、放送局は実演家から得た放送の許諾に係る放送ができるのは当然のことですが、それ以外にも、契約に別段の定めがある場合を除き、①当該放送局が行う再放送、②放送局が作成した放送番組の複製物の提供を受けて他の放送局が行う放送及び③放送局から有線等の通信回線を通じて放送番組の供給を受けた他の放送局が行う同時又は異時の放送についても放送できることになっています(93条1項)。
この中でも②と③の規定は、日本放送協会(NHK)と民間放送局との放送スタイルの差を踏まえてできた仕組みといわれています。すなわちNHKについては、実演家から放送の許諾を受ければ全国放送が可能です。しかし、民間放送については原則放送エリアごとの許可制になっていますので、ネット系列を形成し、いわゆるキー局といわれる放送局がネット局である地方局に放送番組を供給することにより、全国的な規模での番組視聴が可能となっています。本条は、この特徴に配慮した規定と言うことができます。なお、この場合、実演家の利益に配慮し、①から③の放送が行われた場合は実演家に相当の報酬を払うことになっています(94条2項)。この場合、報酬を支払いのは放送番組の提供又は供給を受けた地方局ではなく、それを提供等したキー局が報酬を支払うことになります。なお、本件の特例は、有線放送局には適用がありません、あくまで放送局間の番組利用に関する特別な仕組みであることに注意してください。

 次回は、送信可能化権(92条の2)、商業用レコードの二次使用料請求権(95条)、譲渡権(95条の2)及び貸与権等(95条の3)について説明します。

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