JRRCマガジンNo.287 トークンと著作権法1 トークンとは何か?

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JRRCマガジン  No.287 2022/9/22
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◆今回の内容
【1】トークンと著作権法1 トークンとは何か?
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みなさまこんにちは。

読書の秋がやってまいりました。

今回は原謙一先生(西南学院大学法学部 教授)の連載が始まります。
原先生は、横浜国立大学大学院のご出身でご専門は民法(債権法)です。
横国大ご卒業以来、知的財産法の分野でもご活躍されており著作権に関する論文も多く執筆されています。
今回はITを活用して著作権や著作権に関する最近の取引等について詳しく説明して頂きます。
これから欠かせない分野としてお楽しみいただければと思います。

今後のバックナンバーは下記からご覧いただけます。
⇒https://jrrc.or.jp/category/hara/

◆◇◆ トークンと著作権法 ━━━━━━━━━━━━━
       第1回:トークンとは何か?
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1 はじめに
 西南学院大学法学部の原謙一と申します。今回から、「トークンと著作権法」というタイトルで、近時、活用が盛んなトークンと著作権法の関係をご紹介します。よろしくお願い申し上げます。
 さて、トークンとは、皆さんにお馴染みのものとして、ビットコインやイーサと呼ばれる暗号資産のほか、NFTがあります。これらは著作権法の領域と如何に関係するのでしょう。
 トークンは数種の技術を用いた存在です。その存在が法律と如何に関係するかを語るには、まず技術を知る必要があります。そこで、今回はトークンに用いられている技術について、簡単にご紹介します(そのため詳細を省いている点がありますが、ご了承ください)。
 ここでは、XさんがAさんから5ビットコインの送信を受け、Bさんから2ビットコインを、Cさんからも1ビットコインを、それぞれ送信された状態を前提に、その後、XがYさんに7ビットコインを送りたいという例で考えてみましょう。

2 トークン送信のための暗号化
 ビットコインのようなトークンはPCやスマートフォン上の電子的なウォレットで送信されます。ウォレット内では、ビットコインをやりとりするために必須の秘密鍵と公開鍵というペアの電子的なキーが生成され、他者とトークンをやりとりするためのアドレスも生成されます。これらを用いて、前記1のXがYに7ビットコインのトークンを送信します。
 秘密鍵はデータを閉じるために用い、この秘密鍵で閉じたデータは、それとペアになっている公開鍵でしか開けることができず、これらの鍵を用いてトークンを送信します。まず、秘密鍵は、その名のとおり誰にも知らせずに自分のウォレットに保管しておきますが、公開鍵も、その名のとおり他者に送信・公開されます。すなわち、Xのウォレット中では、秘密鍵と公開鍵のペアが生成され、Xは、秘密鍵を用いて、①「自分が7ビットコインをYへ送信する」という取引指示のデータ(これを「トランザクション」という)を閉じ、②自分の公開鍵とあわせて送信することで、ビットコインのようなトークンを取引するための送信がなされるのです。
 このように、鍵は、Xが自分の保有するトークンを送信した事実を検証するために用いられます。Xの送信した②の公開鍵は、それとペアになった秘密鍵で閉じたものを開けることができます。したがって、②を用いることで①の取引指示のデータを開くことができるわけですが、それを開いた人物には、①が②の公開鍵と対応するXの秘密鍵で閉じられたことを認識させます。そして、秘密鍵はXのウォレットから取り出されることはなく、Xのみが知り、Xのみが用いることのできるものです。よって、②の公開鍵で①の取引指示を開いた人物は、この取引がX自身に指示されたものであることを確認できるというわけです。
 よって、トランザクションを秘密鍵で閉じた①によって、取引が正しいことが証明されるのであり、①を「電子署名」と呼び、これは二つの鍵で構成される「公開鍵暗号技術」を基礎としています。

3 暗号化されたトークン送信後の検証
 前記2のとおり、Xは暗号化による電子署名の技術を用いてトークンを送信しましたが、これはメールのようにXからYへ直接にトークンを送信するものではありません。トークン取引を希望する者は、ピアツーピア(P2P)という技術によってネットワーク上で結ばれた多くの人々に向けて取引をする旨の送信を行うことになります。つまり、前記1の具体例でいえば、ビットコインを保有する多くの人々が参加するネットワークが存在しており、Xは、自らのつながっている他の参加者に向けて、前記①・②を送信するのです。
 ここで、前記2の取引の真正さを証明する検証作業(これを「プルーフ・オブ・ワーク」と呼ぶ)がなされます。つまり、①が②をもって開くことができるかなど、Xの取引が真正なものであるとの確認が、ネットワーク参加者によってなされるのです。この確認作業は多くの参加者による競争によってなされます。というのも、最速で以上の確認をすませた者には、自動的に報酬としてトークンが付与されるからです。つまり、前記1の例では、Xの取引の正しさを最も早く確認した人には、自動的にいくらかのビットコインが与えられることになっています。
 このように、新たなトークンを得るために、前記のプルーフ・オブ・ワークという取引の検証作業がなされるので、この行為は金の採掘(mining)に例えられ、「マイニング」と呼ばれ、また、確認作業を行う者は「マイナー」と呼ばれます。マイナーが報酬を求めて競争的にトークンの確認を行うには、それなりの機器を用意し、電気代をかける必要もあります。そこで、トークン取引は第三者による確認システムを採用しているものの、費用を投じたマイナーが対価を求めて正当な確認作業を動機付けられる(正確な確認がなされる)ことになるのです。

4 検証を経たトークンの連鎖的な記録
 電子データは複製可能ですが、暗号化による電子署名の技術(前記2)と報酬を求めた第三者の検証システム(前記3)を組み合わせることによって、特定の信頼された管理者なしに、多くの参加者だけでトークン取引が実現されています。そのため、以上は中央集権的でなく、分散的なシステムと呼ばれます。ここにブロックチェーンが関連しています。
 前記3の検証作業によって、取引を最速で確認した者が報酬を得るには、確認だけでなく、確認した取引を記録する作業も必要です。前記1ではXからYへのビットコインの送信の例を取り上げましたが、ビットコインの取引はXY間だけでなく、同じ時点で他にも大量になされています。したがって、マイナーは10分程度の単位で、その間になされる相当数の取引を検証することになり、そこで検証に成功した者が10分間の複数の取引を1つの塊(ブロック)にまとめてネットワーク上に記録するわけです。
 この塊(ブロック)には、10分単位の数々の取引だけでなく、それ以前の全ての取引記録も圧縮されて同時に記録されています。このような記録の塊(ブロック)が10分単位で連鎖してつながっているものを「ブロックチェーン」と呼んでいます。ある時点の取引の他、それ以前の全ての取引が記録され、次々に連鎖するため、取引の記録を改ざんしたいという者がいれば、1つのブロックだけでなく、過去に遡って全てのブロックを改ざんしなければいけません。
 しかも、ビットコインのようなトークンのブロックチェーンは公表されており、誰でも閲覧可能です。マイナーであれば、基本的に、この情報を全て自らの機器に複製もしています。ということは、不正な改ざんを行いたい者は過去の全てのブロックだけでなく、ブロックチェーンの情報を有するマイナー全員の機器全てにアクセスし、内容を書き換える必要が生じますが、これは事実上不可能に近いわけです。
 そこで、ブロックチェーンは(多くの人に公開された「パブリック型」と呼ばれるものならば)、強固に情報を記録する技術といえます。これが特定の管理者によって中央集権的になされるのではなく、前述のように、分散的になされるがゆえに、ブロックチェーンは分散型台帳技術とも呼ばれるのです。

5 トークンの当初の用途
 こうして、ブロックチェーン上の記録まで至ると、前記1の7ビットコインはXではなく、Yに帰属するものと扱われるようになります。このように、トークンというのは、複数技術によって構成される強固な情報の記録とその移転に、人々が一定の価値を見いだしているというに過ぎません(別に物理的に価値ある財産がXからYへ移転することはないのです)。
 ただ、単なるデジタルな記録ですが、そこに大きな価値が見込まれているため、たとえばビットコインであれば、2022年の9月時点において、1ビットコインが300万円近い価値を有し、これが支払いなどに利用される可能性もあります。たとえば、XがYへの借金返済のために7ビットコインを送信することもあるわけです。
 注意しなければならないのは、以上の支払いという利用は、銀行口座のように8万円から7万円を差し引くというものではないということです。先の例では、Xが5ビットコイン、2ビットコイン、1ビットコインを保有しており、そこからYへ7ビットコインを送信しました。「5+1」では不足するので、「5+2」ビットコインをまとめて送信しました。
 しかし、仮にXがZへ4ビットコインを送信する場合、5ビットコインから、Zへ4ビットコイン送信し、同時に、1ビットコインは自分に戻す取引をしなければなりません。つまり、単純に積み重ねられた金額(8ビットコイン)から送信する分(4ビットコイン)を控除するのではなく、自分が取得したビットコインの単位(5ビットコインや2ビットコインというひとかたまり)で利用しなければならないということです。
 そこで、ビットコインをはじめとしたトークンは、通貨のように理解され、当初は「仮想通貨」と呼ばれましたが、実際に支払いに用いられることは少ないようです。それは、前記のような複雑な仕組みと10分単位で決済がなされるという遅さ(クレジットカードのように瞬時の決済ができない)という問題があるでしょう。また、店舗にとって導入が容易なQRコード決済などが拡大したということも関係するかもしれません。
 そのため、ビットコインのようなトークンは決済利用ではなく、暗号的に実現される投機・投資商品的な位置づけとの評価が定着し、これを規制する資金決済法も「暗号資産」との名称で法制度を用意しました(資金決済法2条5項が「仮想通貨」から名称変更)。

6 トークンの新たな用途とその課題
 以上のトークンは、記録技術を前提とする点で著作権法と接点を持ちます。というのも、ビットコインのようなトークンは記録の際に80バイトほどの文字を入力する余地があります。したがって、Xが、デジタルアートを創作し、そのデータをサーバーに保存し、保存先のアドレスをトークンにのせてブロックチェーンに記録できるわけです。すると、XからYへアドレスをのせたトークンが移転し、そのトークンの新保有者Yは前記のデジタルアートの新権利者であることを示すこともできるのではないかと考えられました。
 1ビットコインは他のビットコインと価値が同じであり、ビットコイン同士はいずれも同様の価値であり、お互いに代替的です(それゆえ通貨のように利用できるわけです)。しかし、前述のようにデジタルアートの情報が記録され、特定の色づけがなされたビットコインは、もはや他のビットコインと意味合いを異にするともいえるので、「カラードコイン」と呼ばれることもあります。
 このように、あたかも著作権者を示すためにトークンを用いる可能性が模索されましたが、問題はサーバー上のデジタルアートが削除されたらどうするのかということです。また、特定の色づけがなされたものの、相変わらず決済に利用できないわけではないビットコインは権利の存在を示すに足りるのかとの疑問もあります。
 こうして、カラードコインのような用途は、ビットコインのようなトークンから、イーサというトークン(イーサリアムというブロックチェーン上のトークン)に主戦場を移し、NFTの名の下に検討が進んでいます。そこで、次回はNFT(非代替性トークン)の技術などをご紹介する予定です。

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JRRC代表理事 川瀬 真

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