JRRCマガジンNo.283 実演家等の権利について(その1)

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JRRCマガジン  No.283 2022/8/4
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています
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◆今回の内容
【1】川瀬先生の著作権よもやま話
【2】日本複製権センター創立30周年記念 著作権セミナーのお知らせ
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残暑お見舞い申し上げます。

さて、今回の川瀬先生の著作権よもやま話は「実演家等の権利について」です。どうぞお楽しみください。
バックナンバーは下記からご覧いただけます。
⇒https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
【1】実演家等の権利について(その1)
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1 はじめに
 わが国の著作権法では、著作物を創作した著作者は狭義の著作権制度で保護しています。一方、著作権法では、著作物を創作してはいないが、著作物の伝達に重要な役割を果たしている実演家、レコード製作者、放送事業者及び有線放送事業者の4者を著作権に隣り合わせの権利という意味において著作隣接権制度で保護しています。
 この著作隣接権制度は、現行法の制定時(1970(昭和45)年)に初めて整備されました。その理由ですが、旧法では、様々な事情から「演奏・歌唱」及び「録音物」を著作権で保護していましたが、現行法の制定作業の過程で、著作隣接権を保護するための国際条約である「実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約」(実演家等保護条約又はローマ条約)に近い将来加盟することを念頭に置き、同条約の内容を盛り込んだ制度整備を行うことにしました。
 このことから、現行法では、新たに著作隣接制度を創設し、創作者の保護と伝達者の保護を分離することとし、国際条約で保護を求められていない有線放送事業者を除く3者を保護対象としました。なお、その際これまで著作権で保護していた「演奏・歌唱」及び「録音物」については、著作隣接権制度へ移行する措置が行われました。

 その後、都市型大規模有線放送の出現や有線放送事業者の自主制作番組が増加している等の状況を踏まえ、有線放送事業者を放送事業者と同様に著作隣接権者として取り扱うために1986(昭和61)年に著作権法改正が行われました。なお、有線放送事業者については、現在においても国際条約における保護対象になっていませんので、わが国の独自の措置ということになります。
 なお、著作権法上、著作隣接権は許諾権のことを指しますが(89条6項)、本稿では許諾権、報酬請求権、人格権を厳密に分けて使っていません。例えば、著作隣接権制度という用語は許諾権以外の権利も含み、実演家等に関する権利の制度という意味で使っています。

2 実演家等の権利と国際条約
 著作者の国際的な保護を定めたベルヌ条約は1886(明治19)年に創設条約が作成され、以後著作物利用の多様化や新しい著作物の出現に伴い、何回も条約を改正しながら今日に至っています。
 一方、著作隣接権に関する条約の歴史は比較的新しく、著作隣接権に関する最初の条約である実演家等保護条約は1961(昭和36)年に作成されました。条約の起草者は、各国が条約に加盟しやすいように、条約により求める権利の水準は最低限の保護に留めること、条約上定められた権利についてのみ内国民待遇とすること、条約の発効後行われた実演等についてのみ保護すること(不遡及の原則)等の配慮がされたものの当初は加盟国が増えず、現行法の制定時ではまだ11か国しか加盟していなかったこと等の理由から、わが国も同条約の加盟を見送りました。なお、同条約には、現行法制定後20年近く過ぎた1989(平成元)年に加盟しました。
 実演家等保護条約の作成後、同条約への加盟が進まなかったところから、当時世界的に蔓延していたレコードの海賊盤を撲滅するための条約である「許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約」(レコード保護条約)が1971(昭和46)年に作成され、わが国も1978(昭和53)年に加盟し、初めて著作隣接権に関する国際的ネットワークに参加しました。

 また、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)ウルグアイ・ラウンドの交渉結果を踏まえWTO(世界貿易機関)設立協定が1994(平成6)年に作成されました。WTO設立協定には知的財産の保護について定めた「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)が附属されていますが、その中で実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護が盛り込まれています(TRIPS協定14条)(わが国は1995(平成7)年に加盟)。
 次に、ネット社会の到来を踏まえ、1996(平成8)年に、実演及びレコードのネット時代における保護の水準を定めた「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約」(WIPO実演・レコード条約又はWPPT)が、「著作権に関する世界知的所有権機関条約」(WIPO著作権条約又はWCT)とともに作成されました(わが国は両条約とも2002(平成12)年に加盟)。WIPO実演・レコード条約は、WIPO著作権条約がベルヌ条約の加盟国においては、ベルヌ条約の保護水準より高い保護を与えるいわゆる2階部分を構成する特別な取決(ベルヌ条約20条)であるのに対し、他の著作隣接権関係条約とは別の独立した条約です。

 なお、WIPO実演・レコード条約のうち実演の部分は、いわゆるレコード実演に限定した保護でしたので、いわゆる視聴覚的実演の保護については同条約作成後も検討が続けられ、2012(平成24)年に「視聴覚的実演に関する北京条約」が作成され、わが国は2014(平成26)年に加盟しました。また、放送機関の権利に関する条約については世界知的所有権機関(WIPO)において現在検討中です。

 最後に、環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定 未発効)の多くの部分を組み込んだ「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(いわゆるTPP11協定)においても、実演及びレコードの保護について定めています(2018(平成30)年発効)。

3 出版者と著作隣接権制度
 実演家等については著作物の伝達に重要な役割を果たしているところから著作隣接権制度により保護をしています。
 出版者はグーテンベルクの印刷術の発明以来、著作物の伝達者として最も重要な役割を果たしてきました。しかしながら、先述した国際条約においても出版者を国際的に保護する条約は存在しません。また、各国法制を見ても、例えば英国のように組版に係る権利である版面権を認めている国もありますが、それは当該国の独自の政策的判断によるものです。
 欧米諸国では出版者に著作隣接権を付与するべきであるとの主張が強く起こらなかったようです。この原因ですが、少なくとも言語の著作物に関する権利は、もともと出版者の権利から出発し、長い年月をかけて著作者の権利に移行する中で、契約により著作者から著作権の管理を任され、著作者の権利を活用しつつ出版者の利益も確保するという契約システムが形成されたところから、出版者独自の権利を求める必要がなかったのではないかと考えます。
 わが国の場合、旧法から出版権の設定制度が存在していましたが、現行法もその制度を引き継いでいます。出版権の設定制度は、著作権者と出版者の間の出版権設定契約により、出版者に出版に係る独占的・排他的な権利を与えるもので、著作権や著作隣接権のように事実行為があれば権利が自動的に発生するものではありません(79条、80条)。また、権利が及ぶ範囲が出版に係る利用行為に限定されており、例えば企業や団体における内部利用のための複製には対応できません。

 また、わが国では、音楽出版者と作詞家・作曲家の関係のように、作家が分配を受ける権利等の留保条件を付けて音楽出版者に著作権を譲渡し、音楽出版者が著作権者として著作権管理を独占的に行うという実態があります。しかし、出版界の場合は、出版者に委ねられた作家の著作権管理の権限は非独占的な場合が多く、作家が著作権を出版者に譲渡することは、一部の分野を除き行われていません。
このようなことから、欧米諸国に比べて、わが国の出版者は不安定な立場におかれていると考えられます。
 なお、現行法制定後、企業・団体等における文献複写の拡大に対応して出版物の複写に関する報酬請求権を与える制度や、ネット社会の到来を控えて、出版者に著作隣接権を付与することが検討されました。しかし、出版者に固有の権利を与えることについては、産業界や著作者側からの慎重論等もあり、結局制度改正はおこなわれず、2014(平成26)年の著作権法改正により出版権の設定制度を電子出版にも対応できるように改正が行われました。

4 旧法下における演奏歌唱と録音物の保護 
 蓄音機用音盤(レコード)に録音された浪花節が著作物かどうか争われた刑事事件で当時の大審院(現在の最高裁)は、浪花節の演者が楽譜を用いないで新曲を創作したというためには、作曲に係る新旋律が定型化され、反復演奏が可能な程度になることが必要であり、即興演奏については原則著作権の保護はないと判断し、一審及び二審の判断を覆して、被告人に無罪を言い渡しました(桃中軒雲右衛門事件大審院判決(1914(大正)3.7.4判決))。
 当時浪花節のレコードの海賊版の横行に頭を痛めていた業界等からの要望もあり、1920(大正9)年の著作権法(旧法)改正により、著作物の例示に「演奏・歌唱」を加えるとともに(旧法1条の改正)、他人の著作物を無断でレコードの録音する行為を著作権侵害としました(旧法22条の6(録音権)の創設)。また、1934(昭和9)年の著作権法(旧法)改正により、他人の著作物を適法に録音した録音物を著作権で保護することとしました(旧法22条の7の創設)。
 なお、演奏歌唱及び録音物を著作権で保護したのは浪花節に関する大審院判決やレコードの海賊版の横行の対策として行われたものであり、現行法では、これらの保護は著作隣接権制度に移行されました(原始附則2条3項、15条)。

次回は保護の体系、権利の享有、保護期間等について説明します。

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【2】日本複製権センター創立30周年記念 著作権セミナーのお知らせ
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おかげさまで日本複製権センター(JRRC)は昨年創立30周年を迎えました。
創立30周年を記念いたしまして9月30日(金)の午後にオンラインセミナー(無料)を開催いたします。
開催のテーマは、「著作権等の集中管理の現状と課題」です。デジタル・ネット社会の到来を踏まえ、著作権等の集中管理の将来を関係者と一緒に考えていきます。
この問題はわが国のみならず国際的にも大きな課題ですので外国からの招待者に基調講演を行っていただきます。また権利者、利用者及び有識者によるパネスデイスカッション等も予定しています。
詳細については当センターHPをご確認ください。
https://jrrc.or.jp/educational/seminar/
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