JRRCマガジンNo.282 著作者の権利について(その16)

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JRRCマガジン  No.282 2022/7/28
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています
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◆今回の内容
【1】川瀬先生の著作権よもやま話
【2】日本複製権センター創立30周年記念 著作権セミナーのお知らせ
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皆さまこんにちは。

7月も最終週ですね。
まだまだ蒸し暑い日々が続いていますが、
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は「著作者の権利について」の続きとなりました。どうぞお楽しみください。
バックナンバーは下記からご覧いただけます。
⇒https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
【1】著作者の権利について(その16)
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9 著作権(財産権)について
(1)著作権の性質
説明済み

(2)支分権の内容について
ア 複製権
イ 上演権・演奏権
ウ 上映権
エ 公衆送信権・伝達権
オ 口述権・展示権
カ 頒布権・譲渡権・貸与権
以上説明済み

キ 二次的著作物の創作権(27条)と二次的著作物の利用権(28条)
(ア)二次的著作物の創作権(27条)
 著作者は、「その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利」を有しています。また、その行為の結果できた作品を二次的著作物と総称しています(2条1項11号)。
例えば、日本語の小説を英語に翻訳した小説、小説を脚色化してできた映画脚本や演劇脚本、脚本を映画化してできた劇映画、放送番組、アニメ等の動画作品等は一般に二次的著作物に該当します。

 この二次的著作物の創作行為については、民謡「江差追分」に関するノンフィクション「北の波濤に唄う」と題する書籍(著作物)の著作者が、それを素材にして制作されたテレビ番組の関係者を翻案権等侵害で訴えた江差追分事件の最高裁判決(2001(平成13)年6月28日)により、その概念が整理されています。そこでは「言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう」としています。

 また、上記の判断を前提として、著作権法は表現の保護であることから、「既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは 事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのが相当である。」とし、当該テレビ番組は当該著作物に依拠して制作されたものではあるが、江差町を紹介するためのありふれた事実や著作者の独自の考え方(アイデイア)において 同一性が認められるにすぎないので、翻案権は侵害していないと判示しました。

 著作権は表現の保護であり、事実やアイデイアは保護しないことになっています。例えば、複製とは印刷等の方法により有形的に再製することをいいますので、複製権については表現の保護という原則との関係で齟齬が生じません。

 しかし、二次的著作物の創作権は、そもそも表現の変更を伴う創作行為に係る権利ですので、表現の保護との関係で整理が必要です。上記の最高裁判決から、表現の保護とは、私たちが一般に知覚可能な外面的表現だけでなく、著作物の「表現上の本質的な特徴」も保護の対象に含まれることになります。
表現上の本質的特徴とは、例えば、小説等の言語の著作物であれば、基本的な筋、仕組み、構成等のこと、音楽であれば、旋律、リズム、楽器の構成等のことを指すといわれています。しかし、例えば、プログラムのように、規約(例えば、インターフェイス情報のようなプログラムとプログラムを連結させるための特別の約束事)や解法(いわゆるアルゴリズムのこと)は著作権保護の対象外であるとの確認規定(10条3項2号、3号)もあるので、プログラムにおける表現上の本質的特徴というのは何かと問われると答えが難しいと思われます。また、音楽やイラスト等のように同じような作品が多数存在している分野では、翻案等の認定は事実上より厳格にならざるをえないと考えます。

 それでは、二次的著作物の創作権については創作行為の内容に従い説明します。
なお、条文上は、翻訳、編曲、変形及び翻案という4つの行為に分けて規定していますが、著作物の「表現上の本質的な特徴」が保護されるという点では変わりがなく、翻訳、編曲及び変形に該当しない行為であって、そこに創作行為が介在するものは全て翻案になるところから、この4つの行為を別個の行為として考える必要はないと考えます。

(翻訳権)
 翻訳とは、ある国等で利用されている言語(表現の手段としての文字その他の記号及びその体系)で書かれた著作物を、別の言語を用いて表現し直すことをいいます。
 なお、翻訳行為は人間の創作行為ですので、例えば、文章を点字やモールス信号に、またプログラムのソースコードをオブジェクトコードに変換するなどの機械的な変換は、複製に該当することになります。
また、著作権法には、プログラム言語(10条3項1号)そのものは著作物でないとの確認規定(10条3項1号)がありますが、プログラム言語の変換については、そこに人間の創作行為が介在しているとすれば、翻訳ではなく翻案に該当することになります。なお、古典書の訓読文を翻訳ではなく翻案とした事例もあります(「将門記」事件東京地裁判決(1982(昭和57).3.8)).

(編曲権)
 編曲の問題が生じるのは事実上音楽の著作物に限られています。一般に編曲とはアレンジのことをいい、主旋律を維持しつつ、和声とリズムを加え演奏できる状態におくことをいうとされています。オーケストラ演奏のように多数の楽器編成で演奏できるようにするため、元の楽曲と異なるスタイル(JAZZ風、ボサノバ風)等で演奏するため、また演奏者の独自色等を出すため等その形態は多岐にわたるといわれています。
既存の曲の公表後に創作された新曲が既存曲の編曲権を侵害するかどうかが争われた「どこまでも行こう事件」の東京高裁判決(2002(平成14)年9月6日、上告棄却・確定)では、編曲の定義を上記の江差追分事件における翻案の定義をそのまま引用した上で、音楽の構成要素である旋律、和声、リズム、形式の4つの要素を部分的・断片的にみるのではなく旋律全体を比較すると、既存曲特有の創作的表現が使われているとして編曲権侵害を認めました。
音楽関係の著作権等管理事業者は、一般に編曲権は管理していないので、編曲をするためには著作権者である音楽出版社又は作曲家から直接許諾を得る必要があります。レコーデイングやコンサートではアレンジが頻繁に行われていると考えられますが、実務的にはどのような契約処理が行われているのか私はよく知りません。

(変形権)
 美術の著作物、写真の著作物等について表現形式を変更する場合のことをいいます。
 例えば、写真の著作物を見て、写真全体の構図をそのまま使い美術作品に仕上げること、絵画や漫画など平面的な作品を彫刻やフィギュアーのような立体的な作品にすることが該当します。

(翻案権)
 条文上は翻案の例示として、脚色することと、映画化することの2つの行為が明記されていますがそれ以外の利用についてはその他翻案する行為として包括的に規定されています。
 その他の行為の中でもよく問題になるのは要約(ダイジェスト)と抄録(アブストラクト)です。要約とは、例えば論文の場合、論文を全部読まなくても、要約を読めばおおむね論文の内容を理解できる程度にまとめたものことをいいます。抄録については、その内容により指示的抄録と報知的抄録に分かれるといわれていますが、例えば指示的抄録は、内容は本文を読まないとわからないが、何のテーマで書かれているかは理解できる程度のものといわれています。報知的抄録とは、簡単ですがある程度内容を概括できるものといわれています。
 このことを整理すると、要約は一般に二次的著作物と考えられていますので、第三者が要約を作成するためには原著作物の著作権者から翻案の許諾が必要になります。また、要約者は当該要約の著作者になることになります。抄録の場合は、少し複雑です。まず翻案権が働くかどうかですが、指示的抄録の場合は一般的には翻案権は働かないと考えられます。報知的抄録の場合は、概括の程度によって働く場合と働かない場合があると考えます。また、抄録自体が著作物かどうかですが、誰が書いても同じような文書にしかならない程度のものは著作物とはいえません。抄録した者の創作性が表れていれば著作物ですが、この場合も翻案行為が介在するかどうかによって、新著作物と二次的著作物の二通りに分かれます。理論的にはこういうことになります。
 なお、翻案に関する判例は多いですが、江差追分事件の最高裁判決以降は、当該最高裁の考えを踏まえ判断している例がほとんどです。ただし、言語、写真、漫画、映像作品等の著作物の種類により著作物の「表現上の本質的な特徴」は異なることから、データ及びアイデアは保護されないことは共通しているものの、類似性とそれが翻案権侵害になるかどうかの認定には分野によって特徴があることが分かります。

(イ) 二次的著作物の利用権(28条)
 二次的著作物も著作物ですから、二次的著作物の著作者には著作権が与えられることになり、二次的著作物を複製等の方法で利用する場合は、二次的著作物の著作者の許諾が必要になります。
一方、二次的著作物の原著作物の著作者は、原著作物に係る著作権は与えられるものの、二次的著作物は原著作物に依拠しているとはいえ、原著作物とは別個の著作物ですので、何らかの手当をしないと二次的著作物が利用されたとしても著作権が働かないことになってしまいます。
 そこで、本条を定め、二次的著作物が利用されたときは、原著作物の著作者も二次的著作物の著作者と同様の権利が与えられることが明確化されました。例えば、翻訳書を出版するときは、翻訳者の複製権及び譲渡権が働くことになりますが、原作者についても翻訳者と同様の権利を持つことになるので、出版者は原作者と翻訳者の双方から許諾を得なければならないということになります。

以上著作者の権利の解説は終わります。次回からは、著作隣接権者である実演家、レコード製作者、放送事業者及び有線放送事業者の権利を解説します。
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(注)お詫びと訂正
JRRCマガジン No.280 2022/7/14に掲載された私の記事の中でレンタル店の数を「最大は1996(平成8)年の約6000店」と書きましたが、正しくは「最大は1989(平成元)年の約6000店」でした。
この場でお詫びと訂正をさせていただきます。
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【2】日本複製権センター創立30周年記念 著作権セミナーのお知らせ
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おかげさまで日本複製権センター(JRRC)は昨年創立30周年を迎えました。
創立30周年を記念しまして9月30日(金)の午後にオンラインセミナー(無料)を開催いたします。
開催のテーマは、「著作権等の集中管理の現状と課題」です。デジタル・ネット社会の到来を踏まえ、著作権等の集中管理の将来を関係者と一緒に考えていきます。
この問題はわが国のみならず国際的にも大きな課題ですので外国からの招待者に基調講演を行っていただきます。また権利者、利用者及び有識者によるパネスデイスカッション等も予定しています。
詳細については当センターHPをご確認ください。
⇒https://jrrc.or.jp/educational/seminar/
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