JRRCマガジンNo.277 著作者の権利について(その14)

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JRRCマガジン  No.277 2022/6/9
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています
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◆今回の内容
【1】写真家の田沼武能先生の訃報に接して
【2】川瀬先生の著作権よもやま話
【3】著作権講座中級オンライン開催について
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皆さまこんにちは。

あじさいの色が美しく映える頃となりました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は「著作者の権利について」の続きです。どうぞお楽しみください。
バックナンバーは下記からご覧いただけます。
⇒https://jrrc.or.jp/category/kawase/

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【1】写真家の田沼武能先生の訃報に接して
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写真家の田沼武能先生が6月1日にお亡くなりになりました。
田沼先生はわが国を代表する写真家として写真芸術の発展に多大な貢献をされ、2019年には写真家として初めて文化勲章を受章されました。
写真家としてのご功績はこの場で説明する必要もありませんが、一方で田沼先生は写真家の地位向上や著作権の保護にも力を尽くされてきました。
日本写真著作権協会の会長として、写真著作権の保護期間の延長や保護期間の遡及適用の課題に取り組まれ、散逸しがちな写真の保存・活用にも尽力されていました。
田沼先生は、このように著作権界にとっても多大な貢献をされた方であり、田沼先生の突然の訃報は著作権界にとって大きな衝撃でした。
私は、現在、写真家をはじめ著作者の著作権をお預かりしている著作権等管理事業者の代表として著作権保護に取り組んでおりますが、今後も田沼先生の志を真摯に受け止め、誠心誠意業務に取り組んでいかなければならないことを改めて自覚させられたところです。
田沼先生 安らかにお休みください。

                公益社団法人日本複製権センター代表理事 川瀬真
◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
【2】著作者の権利について(その14)
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9 著作権(財産権)について
(1)著作権の性質
  説明済み

(2)支分権の内容について
ア 複製権
イ 上演権・演奏権
ウ 上映権
エ 公衆送信権・伝達権
オ 口述権・展示権
以上説明済み

カ 頒布権(26条)、譲渡権(26条の2)及び貸与権(26条の3)
この3つの権利は、著作物の複製物を公衆に譲渡又は貸与することを内容としています。具体的には、出版物、音楽CD、フイルム・ビデオ・DVD等の販売等の譲渡や貸与に及ぶ権利であり、いわば著作物の流通を支配することができる強力な権利といえます。したがって、権利の内容を定めるに当たっては、著作権関係条約の内容、所有権や特許権・商標権等の他の知的財産権等との整合性を図りつつ、利用の円滑化に配慮した制度設計を行っています。

(3つの権利の創設経緯等)
ところで、読者の方は、複製物の譲渡又は貸与に関する権利であれば、(後で権利の内容について詳しく説明しますが)頒布権のように譲渡と貸与の両方の行為を1つにまとめた権利にするか、両方の行為を別に定める必要があるのであれば譲渡権と貸与権の2つの権利にすればいいのであって、なぜ性格の違う3つの権利を定める必要があるのかと素朴な疑問を持たれると思います。

確かに米国法、英国法、ドイツ法等のように著作物一般に頒布権を認める方法を採用している国は多いので、わが国も同様の方法により権利を定めた方がわかりやすいと考えますが、頒布権等の制定については、わが国独特の経緯があり複雑性を残したまま現在に至っています。

その経緯について説明をしておきます。

著作物の複製物を頒布(公衆への譲渡及び貸与)する権利については、ベルヌ条約の創設条約(1886年)以来、著作者の権利として明記されていませんでしたが、1948(昭和23年)に作成されたベルヌ条約ブラッセル改正条約では映画の著作物についてのみ頒布権を著作者に認めるよう定められました。わが国は1962(昭和37)年から旧法の全面的な改正作業に着手しましたが、当時の改正作業の目標の一つは、同条約の水準を満たした著作権法を制定することにより、同条約への加盟を果たすことでした。
そのため1970(昭和45)年に制定された現行法では、同条約の内容に従い映画の著作物についてのみ頒布権(26条)を定めたところです。なお、わが国は同条約に1974(昭和49)年に加盟しました。

その後わが国では、1980(昭和55)年から貸レコード問題が起こりました。当時は、著作物の複製物を貸与する権利は映画の著作物だけに認められていましたので、その他の著作物については、違法複製物と承知の上で頒布する行為はみなし侵害(113条1項2号)になる以外、適法に複製された正規品の貸与に関する権利はなく、市販のレコードやCDが貸し出されてお店が利益を得ていても、映画の著作物の複製物を貸与しているビデオレンタル業者の場合と異なり、音楽等の著作者には一切利益が還元されず、権利者が不利益を被っているということが問題になりました。
この問題については、1984(昭和59)年に著作権法の改正が行われ、映画の著作物以外の著作物の著作者に貸与権を与えることにより法的な整備が行われました(26条の3)。
なお、同時にレコードに係る実演家及びレコード製作者にも貸与権等(95条の3,97条の3)が与えられることになりましたが、ここでは著作隣接権関連については説明しません。
この時点で、映画の著作物には頒布権が、映画以外の著作物には貸与権が与えられたことになります。

なお、この日本発の貸レコード問題は世界的な問題として取り扱われたこともあって、1994年作成の「世界貿易機関を設立するマラケッシュ協定」(WTO協定)の附属書である「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)や1996年作成の「著作権に関する世界知的所有権機関条約」(WIPO著作権条約)では、レコードに収録された著作物について原則として貸与権を与えることを求めています(TRIPS協定14条4項、WIPO条約7条(1))。
一方、譲渡権については、WIPO著作権条約において、貸与権の付与と同時に全著作物の著作者に著作物の複製物を公衆に譲渡する権利の付与が義務付けられました(同条約6条(1))。
先述したようにベルヌ条約では映画の著作物のみに頒布権を認めればよかったのですが、WIPO著作権条約では著作物一般に譲渡権を認める必要が生じましたので、国内で何か問題が発生したわけではありませんが、1999(平成11)年の著作権法改正により、映画の著作物以外の著作物について譲渡権が創設されたところです(26条の2)。

以上のように、わが国の頒布権等については、時系列にいうと頒布権、貸与権及び譲渡権の順で創設されたことになります。
仮にこの3つの権利を整理するとすれば、譲渡権の創設時に行うのがよい機会であったと思いますが、特に譲渡に係る権利については、頒布権は著作物の複製物が最初に譲渡されると以後の再譲渡には権利が働かないという仕組(権利消尽の原則)にはなっておらず、消尽の原則を採用している譲渡権とは同じ譲渡に係る権利とはいえその内容が全く異なるため、既得権の問題等から調整はできなかったと思われます。
このようなことから、わが国では、頒布権、貸与権及び譲渡権が併存する形になっており、権利の内容を理解するうえで難しくしています。
それでは、以下3つの権利の内容について説明をします。

(ア)頒布権(26条)
(頒布の定義)
頒布とは、「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含む」(2条1項19号)と定義されています。頒布の内容ですが、定義規定の前段については、公衆の定義(2条5項)から公衆とはいわない特定かつ少数の人に例えば出版物を譲渡してもそれは頒布とはいわないことになります。
一方後段は映画の著作物又は映画の著作物に複製されている著作物を「公衆に提示することを目的として」譲渡等すれば頒布になるということですので、例えば映画会社が劇場での上映のために映画フイルムを特定された1つの映画館に貸与しても頒布になることになります。

(頒布権の内容)
頒布権の内容は、映画の著作物自体の権利(26条1項)と映画の著作物に複製されている著作物(音楽、写真、美術作品等)の権利(26条2項)の2つに分けて次のように定められています。
26条1項 著作者は、その映画の著作物をその複製物により頒布する権利を専有する。
26条2項 著作者は、映画の著作物において複製されているその著作物を当該映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有する。
このことから、例えば音楽の場合、ミュージックビデオ(音楽の演奏の様子を撮影・編集して作成した映画の著作物の複製物)の譲渡等については、映画の著作物自体の頒布権(同条1項)が働くのと同時に音楽の著作物の頒布権(同条2項)が働くことになります。
一方、音楽CD(音楽の演奏を録音し作成した音楽の録音物(複製物))の譲渡等については、音楽の著作物の譲渡権(26条の2)又は貸与権(26条の3)が働くことになり、同じ音楽の著作物であっても、映画の著作物に複製されている場合とそうでない場合は、同じ利用方法であっても権利の働き方が異なることに注意が必要です。
また、頒布の定義の後段を見ても分かるように映画の著作物の頒布権というのは、映画フイルム1本であっても高い経済的付加価値があることに鑑み、公衆への複製物の譲渡等だけでなく、例え特定少数への譲渡等であっても、それが個人視聴の目的ではなく、例えば公の上映や公衆送信の目的であれば、頒布権が働くことになっています。

さらに、先述したように複製物の譲渡に関する権利については、複製物が一旦権利者の許諾を得て譲渡されたとしても、消尽の原則は適用されず、特約がない限り、法律上は複製物の再譲渡(例えば中古販売)にも権利が及ぶことになっています(この点は、2002(平成14)年の最高裁判決により映画の著作物の頒布権の働き方に関する解釈が示されていますので後で説明します。)

最後に、頒布権の行使に当たり、一般に頒布先、頒布期間や用途の取り決めが行われますが、この条件に違反した場合、頒布権侵害に問えるかどうか、すなわち第三者に対抗できる物権的効果があるかどうかの問題があります。
現行法の制定の際は、映画フイルムしかなかった時代であり、もともと頒布権は全国の映画館の数より圧倒的に少ない映画フイルムを秩序立てて映画館から映画館へ提供していく契約ルール(配給制度)を基にして創設されたものといわれています。したがって、頒布先や頒布期間については、物権的効果があるとし、用途制限については、例えば頒布権者と上映権者が違う場合、上映権者が許諾して上映が行われている、また、権利制限による非営利・無料の上映(38条1項)が行われているにもかかわらず、頒布権侵害が問われる等の混乱が生じる可能性があるので、現行法の起草者は否定的でした(加戸守行著「著作権法逐条講義(七訂新版)」2021(令和3)年、著作権情報センター 204頁・205頁)。

なお、一般に映画の著作物の著作権は一義的には著作者に発生する権利であり、頒布権も他の権利と同様に、「著作者は、・・・・権利を専有する」という規定になっています。しかしながら、映画の著作物については、著作者(監督等(16条))が映画製作に参加することを約束している場合には、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」(2条1項10号)である映画製作者(映画会社)にその著作権が自動的に帰属することになっていることに注意が必要です(法定帰属 29条1項)。したがって、実務的には、頒布権を含む著作権については、映画会社(映画製作者)に帰属している場合がほとんどであると考えられます。

(パッケージソフトと頒布権)
頒布権は、先述したとおり映画フイルムの配給制度を基にできた権利といわれていますが、現行法の制定以降、映画の流通が大きく変化したのは、いわゆるビデオテープ、DVD、BD等のパッケージメデイアの開発・普及が契機でした。このパッケージメデイアに映画の著作物を複製したパッケージソフトは、コンパクトで手軽に扱えるので、消費者を対象とした販売、レンタル、中古販売等の様々な新しいビジネスを生むことになりました。

これらのビジネスにおいて特に問題になったのは中古販売です。先述したとおり映画の著作物以外の著作物には譲渡権(26条の2)が認められていますが、この権利は一旦適法に複製物が譲渡されるとその後の再譲渡には譲渡権が適用されないため、例えば古本屋、中古レコード店等のような中古販売は権利者の許諾なしに行えることになっていました(消尽の原則)。一方、頒布権には消尽の原則は適用されないので、映画の著作物を複製したパッケージソフトについては、中古販売も権利者の許諾なしにできないことになります。同じパッケージソフトにもかかわらず、本やレコードは中古販売が自由にできて、映画ソフトはできないというのは違和感があるところでした。

この映画の著作物を複製したパッケージソフトの中古販売に関する最高裁の判例があります(2002(平成14)年4月25日判決)。
この事案は、ゲームメーカが、ゲームソフトの中古販売店を頒布権侵害で訴えたものです。すなわち、ゲームソフトはプログラムの著作物であると同時に、利用者の操作によって画面に映し出される連続的な影像は映画の著作物でもあるので、ゲームメーカに無断で映画の著作物であるゲームソフトの中古販売を行うのは、映画の著作物の頒布権を侵害するという主張です。
これに対し、最高裁は、事案のゲームソフトは映画の著作物であることを認定したものの、頒布権は映画フイルムの貸与を前提とした配給制度の慣行があったこと等から設けられたものであり、公衆への提示を目的としない家庭用ゲームソフト機器用のパッケージソフトについては、市場における商品の円滑な流通を確保する等の点から、一旦適法に譲渡されれば、映画の著作物以外の著作物を同様に、以後の再譲渡には頒布権は及ばないという判断をしました。

したがって、この最高裁判決から、映画の著作物としてのゲームソフトだけでなく、劇映画、放送番組、音楽イベント等の映画の著作物が録画されているパッケージソフトも含めて、パッケージソフトの中古販売は原則として頒布権は働かないという整理が行われたといえます。
なお、例えば特許法や商標法においても譲渡に関する権利が認められており、条文上は消尽の原則は採用されていませんが、両法とも最高裁判例により、一定の条件の下に権利の消尽を認めています。

次回は、譲渡権(26条の2)と貸与権(26条の3)について説明をします。

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【3】著作権講座中級オンライン開催について
今年度最初の著作権講座(中級)オンラインは、7月6日(水)に開催予定です。
詳細は今後のJRRCメールマガジンにてお知らせ予定です。

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