JRRCマガジンNo.278 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)4

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JRRCマガジン  No.278 2022/6/16
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◆今回の内容
【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)4
【2】著作権講座中級オンライン開催について(無料)
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みなさまこんにちは。

梅雨に入り、すっきりとしない毎日が続いています。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

今回は今村哲也先生のイギリスの著作権制度についての続きです。
どうぞお楽しみください。

バックナンバーは下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/imamura/

◆◇◆イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)━━━
 Chapter4. 基本的な概念(3)―オリジナリティの要件
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1. はじめに
今回は、イギリス著作権法における、オリジナリティの要件について説明をします。

2. オリジナリティ要件が求められる著作物
イギリス著作権法には、著作物に関してオリジナリティの要件がありますが、当該要件が課せられているのは、文芸、演劇、音楽又は美術の著作物だけです。イギリス著作権法では、著作物を(a)「文芸、演劇、音楽又は美術のオリジナルな著作物」、(b)「録音物、映画又は放送」、(c)「発行された版の印刷配列」と8つの種類の著作物を3つのカテゴリーで分類しますが(1条1項)、(b)および(c)の類型の著作物には、オリジナリティの要件はありません。

3. オリジナリティとは何か
オリジナリティの要件は、日本の著作権法の著作物の定義における「思想又は感情を創作的に表現したもの」という文言における、創作性の要件(2条1項1号)に近い概念であるといえます。

日本の著作権法でも、「創作性」について定義はありませんし、それが何を示すのかについては、表現の選択の幅理論などさまざまな考え方があります。イギリス法でも、オリジナリティとは何かについて、正確に述べることは難しいと言われています(Bently, Lionel; Sherman, Brad. Intellectual Property Law, 5th ed., OUP, 2018, p.93)。

4. オリジナリティ要件の2要素
イギリスの著作権法における権威あるテキストでは、オリジナリティの要件については、相互に関連する次の2要素が関わっていると説明がされています(G. Harbottle, N. Caddick, U. Suthersanen (Harbottle et al.), Copinger and Skone James on Copyright (18th edition, Sweet & Maxwell 2021) para, 3-186)。

4.1. 他人の著作物のコピーにはオリジナリティはない
第1に、「著作物は他の著作物から隷属的(slavishly)に複製されてはならないという意味で、著作者に由来するものでなければならず、・・・そのような場合、複製を行う者は通常、その複製物に対する著作権を取得することはない」ということです。ただし、いわゆる二次的著作物(派生的著作物)のように、「著作者が自分と他者に共通する知識を利用したり、既存の素材を利用したりする場合でも、その著作物はオリジナリティがある場合がある」とします。

要するに、他人の著作物をそのままコピーすることは、オリジナリティがないということを原則とし、二次的著作物の場合には例外であることを意味します。この点は、日本の「創作性」の要件と考え方と同じです。日本でも、既存の著作物の模倣は、模倣者自らの創作性が表現されていないから、模倣者の著作物にはならないものの、模倣しつつも、独自の創作的表現が付加されていれば、二次的著作物として保護されるとの説明がなされます。同じでよかった。少し安心しましたね。

4.2. 些細ではない労力、技能、判断を費やしたこと
第2は、「著作物の創作において、無視し得るか又は些細な程度といえる努力や必要な技能を超えるものを費やしたことが必要である」というもので、イギリスの判例法はこの考え方を用いています。

つまり、オリジナリティを認めるハードルないし閾値は、あるにはあるが、非常に低いレベルに設定されているということを意味します。その理由は、こうした努力や技能の量を正確に計るのは、ほぼ不可能であるからです。

結果として、オリジナリティの要件が必要な著作物の類型において、オリジナリティが欠如すると判断された裁判例は少ないようです。

フェイスペイントに関する事案や、「弁護士の日記」といったタイトルに関する事案において、些細な労力しかないということでオリジナリティが否定されたことが紹介されることがあります(Merchandising Corporation v. Harpbond [1983]FSR3, Rose v. Information Services Ltd [1987] FSR 254)。

第2の要素に関しては、創作性要件を緩やかに解する日本の著作権法の創作性判断と同様の部分があります。ただ、日本の場合、緩やかに解することを説明するのに、著作者の何らかの個性が表現されていればよい、という表現の仕方をするのが一般的です。

日本において創作性を判断する際に、著作者の何らかの個性が表現されていればよいという見方は、著作者の個性を反映している表現であるから、自明の理として、その成果を保護しようと考える自然権的な発想が強いのだと思われます。

イギリスでは、少なくとも著作権法に関しては、どちらかといえば功利主義的な発想が強い国です。オリジナリティのハードルが低いのも、(1)著作権によるインセンティブがなくても生み出されるような些細で努力による実体のない著作物は保護しなくてもよいという考え方を前提としつつ、(2)とはいえ、著作権を与えるのに必要な努力や技能の量を正確に計るのは基本的に不可能なので、低いハードルとして設定しておく、ということであると整理できるでしょう。 

この点を明らかにしたLadbroke v. William Hill 事件(Ladbroke(Football)Ltd v William Hill(Football)Ltd [1964] 1 WLR 273)において、貴族院は、フットボール・プール(フットボールの試合を対象にした賭け事)のクーポン(顧客が一定数の試合の結果に賭けることができるように配置されたサッカーの試合の表)を、クーポンに情報を付与するベッティングシステムの考案に費やされた技能、判断、労力(skill, judgment or labour)に基づいて、オリジナルの編集物であると扱いました。 

実際にどのようなクーポンであったのか関心のある方は、ケンブリッジ大学知的財産法・情報法センター(CIPIL)のウェブサイトでご参照ください:https://www.cipil.law.cam.ac.uk/virtual-museum/ladbroke-v-william-hill-1964-1-all-er-465 

ちなみに、オリジナリティの要件を考えるときに、この労働、技能、判断といった文言を法令用語のようにあまり硬直的に理解する必要はないようで、判例では「仕事」、「資本」、「努力」、「勤勉」、「時間」、「知識」、「嗜好」、「工夫」、「経験」、「投資」( ‘work’, ‘capital’, ‘effort’, ‘industry’, ‘time’, ‘knowledge’, ‘taste’, ‘ingenuity’, ‘experience’, ‘investment’)という言葉も使われることがあるとイギリスの教科書では説明されています(Bently, Lionel; Sherman, Brad. Intellectual Property Law (5th edition, OUP, 2018) p.97)。

日本の著作権法で、こうしたクーポン(表)の著作物性の編集物としての創作性を判断する場合、素材の選択又は配列について、著作者の個性があらわれているかどうかが基準となるでしょう。少なくとも、クーポンの作成に際して多大な費用や労力を要したかどうかは、決定的な基準にはなりません。相当の労力をかけたとしても、誰が作っても同じ表になるものだとすれば、編集著作物としては保護されないことになります。

では、イギリスの著作権法では、「単なる労力」であったとしても些細ではない労力を費やしたものであれば、たとえ誰が作っても同じものになるとしても保護されるのでしょうか。イギリス著作権法の伝統的なオリジナリティの要件によれば、こうした場合でも、オリジナリティの要件を満たす可能性がありそうです。

5. オリジナリティ要件とEU判例法との関係
EUでは、著作権制度のハーモナイズが、欧州司法裁判所の判例法の形成とともに進んできました。

欧州司法裁判所の判例では、Infopaq事件(Infopaq Int v. Danske Dagblades Forening, Case C-5/08 [2009])や、Premier League事件(Football Association Premier League Ltd and ors v. QC Leisure and ors and Karen Murphy v. Media Protection Services Ltd, Joined Cases C-403/08 and C-429/08 [2011])などその後のいくつかの判例に基づいて、情報社会指令の下で保護されるすべての著作物は、「著作者自身の知的創作物」(author’s own intellectual creation)であることを求められます。

EU判例法における「著作者自身の知的創作物」の要件の下では、誰が作っても労力さえかければ結果が出るような「単なる労力」の結果物について、著作物性を認めることはできないでしょう。

イギリスがEUの構成国であれば、EU判例法の「著作者自身の知的創作物」の要件よりも緩やかなオリジナリティの要件を残して、「単なる労力」の結果物にオリジナリティを認めることはできなくなる状況でした。EU指令を充足していないことになるからです。そのため、欧州司法裁判所の判例が「著作者自身の知的創作物」の要件を示したことは、イギリス著作権法の考え方に大きなインパクトを与えました。

イギリスはEUを離脱しましたが、イギリス議会で新たな立法がなされたり、最高裁判所(the Supreme Court)・控訴院(Court of Appeal)による判例変更などがなければ、いわゆる「保持されたEU法・EU判例法」が有効なので、オリジナリティ要件に関連するEU法のルールも影響を与えます。

今後は「保持されたEU判例法」とイギリス著作権法の解釈が矛盾する状況について、イギリスの裁判所がどのような態度をもって臨むのかということになるでしょう。欧州司法裁判所の判例を懐疑的にみていくのか、あるいはそれに順応する形で運用していくのか、ということです。

6. おわりに
これまでイギリス著作権法は、欧州司法裁判所の判例の影響を受けてきました。著作物性に関するオリジナリティの解釈も伝統的な解釈の再検討を余儀なくされてきた経緯があります。Infopaq事件などで示された「著作者自身の知的創作物」の要件は、伝統的なイギリス著作権法の観点からは疑義がありました。

いわゆる「保持されたEU判例法」を変更する権限のある最高裁判所・控訴院が、オリジナリティ要件に関してどのように対応していくのか、今後が注目されるところです。

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【2】著作権講座中級オンライン開催について(無料)
今年度最初の著作権講座(中級)オンラインを7月6日(水)に開催いたします。
参加ご希望の方は、後述の著作権講座受付サイトより期限までにお申込みください。
締 切:2022年6月24日17:30
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