JRRCマガジンNo.268 著作者の権利について(その11)

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JRRCマガジン  No.268 2022/3/3
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◆今回の内容
 川瀬先生の著作権よもやま話
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皆さまこんにちは。

3月になり、都内もようやく春めいてきました。
皆さまはいかがお過ごしでしょうか。

さて、複製利用について著作権法に抵触するかどうかのお問い合わせを時々いただきます。
当センターの複写及び電磁的複製利用許諾契約の利用範囲については下記よりご確認いただけます。
年度の途中でもご契約は可能です。
⇒https://jrrc.or.jp/digital_lic/

それでは、本日の著作権よもやま話は前回の続きをお楽しみください。
バックナンバーは下記からご覧いただけます。
⇒https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
 著作者の権利について(その11)
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9 著作権(財産権)について
(1)説明済み
(2)支分権の内容について
ア 複製権(21条)
支分権の中で最も基本的な権利です。
 
著作権の起源は、15世紀半ばに発明されたグーテンベルクの印刷術の普及といわれています。印刷術の発明・普及により、著作物が大量に複製され、頒布されるようになり、多くの人が幅広い知識を得られるようになりました。人間の知的活動にとってこの出版という行為は革命的な出来事でした。一方で、著作物を出版するには多大の費用が生じるにもかかわらず、出版された出版物の海賊版の販売が横行し、最初に出版した出版者の利益を脅かす事態が生じました。
 
このような経緯を経て、各国では出版者に専売権を与え、海賊版の作成提供者を取り締まる法律が作られました。その後様々な経緯を経て、18世紀以降出版者の保護から著作者への保護に移行してきました。世界最古の著作権法は英国のアン法(1710年制定)といわれていますが、この法律はそれまで出版者に与えていた出版の権利(複製・頒布)を著作者の権利に置き換えるものでした。なお、演奏権、上演権、放送権、翻訳権等の複製権以外の権利が認められるようになったのはもっと後のことです。
 
複製とは、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製する」(2条1項15号)ことをいいます。したがって、有形的に再製されていればいいので、紙、電子媒体等の支持物の種類は問いません。例えば、オルゴールですが、円筒の形状のものに突起があって、その円筒を回すことにより、突起が金属製の板をはじき、結果として音楽が演奏されます。このことから、音楽はオルゴールという装置に複製されているということになります。歌碑のように石に歌詞が刻まれたり、手ぬぐいに民謡がプリントされた状態も、音楽が石又は手ぬぐいに複製されているということになります。
 
また、一時的複製も複製です。一時的複製というのは、例えばパソコンのキャッシュのように送信された著作物を視聴するための技術的手段として一旦パソコン内に蓄積することをいいます。このキャッシュは次々に来る情報により上書きされたり、一定の時間がたてば消去されたりしますが、複製自体は十分安定的なものですので、これも複製に該当することになります。一方、例えばプログラムはコンピュータの内部記憶装置に瞬間的に複製され実行されることになりますが、このように瞬間的又は過渡的な複製については、著作権法上の複製にはなりません。
 
さらに、言語の著作物の暗号化やプログラムのソースコードをオブジェクトコードに変換する行為についても、厳密にいうと表現は変わるかもしれませんが、一定のルールに基づき機械的に忠実に変換されるので、これも複製と解されています。
 
なお、次のような利用行為は、典型的な複製とは異なりますが、著作権法上は複製として取り扱われます。
 
まず、脚本等の演劇用の著作物については、「当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、録画すること」(2条1項15号イ)は複製に該当することになっています。例えば脚本については、一般に脚本を読んでそれを演じるという行為が介在しますので、脚本を有形的に再製しているかどうか疑義が残るところですので、その疑義を払しょくするためにこの規定が置かれています。
 
次に、建築の著作物については、「建築の図面に従って建築物を完成すること」(2条1項15号ロ)が複製に該当することになっています。例えば、東京五輪のメインの会場になった国立競技場は建築家の隈研吾氏の基本設計によるものですが、別の場所に国立競技場と同一の競技場を無断で作ったとすれば、これは国立競技場を有形的に再製したことになりますので、隈氏の著作権を侵害したことになります。
それでは、国立競技場がまだ建設されていないときにその設計図が流出し、別の人が隈氏の了解を得ずにまだ建築されていない国立競技場と同一の競技場を作ったときは、どう考えればよいのでしょうか。
著作物がまだ創作されていないので著作権侵害にならないということであれば、隈氏は大きな不利益を被ることになります。したがって、この規定を設け、まだ建築物が建築されていなくても、既に建築の著作物は建築済みというフィクションの下に、建築の著作物の複製という取扱いにするのがこの規定の趣旨ということになります。

イ 上演権・演奏権(22条)
複製権(21条)を有形的利用権と呼ぶのに対し、上演権・演奏権(22条)から貸与権(26条の3)を無形的利用権と呼んでいます。この無形的利用権に共通するのは、著作物を公衆に提示又は提供するための権利ということであり、利用の態様によりいくつかの権利に分かれています。
上演権及び演奏権については、著作物を演ずるというところが共通しているため1つの条文にまとめられていますが、音楽を演奏(歌唱を含む。2条1項16号括弧書)するのが演奏権、演奏以外の方法で著作物を演じるのが上演権(2条1項16号)というように両者は全く異なる権利です。
なお、上演権における著作物を演じる行為の範囲ですが、「実演」の定義(2条1項3号)を見ても分かるように、脚本を演劇的に演じることだけでなく、振付(著作物)に従って舞うこと、ラジオドラマや朗読会における俳優が行う脚本や本の朗読のように単に著作物を読み上げる(口述)のではなく演ずること(口演)、詩吟や浪曲のように著作物を朗詠することなども含む広い概念です。

上演権及び演奏権だけでなく、上映権(22条の2)、伝達権(23条2項)、口述権(24条)及び展示権(25条)には、「公に」という用語が上演、演奏等の利用行為の前に付されています。公にという用語は、「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」(22条)と定義されており、また「公衆」とは、著作権法では公衆の定義を定め、不特定者に加えて、「特定かつ多数の者を含む」(2条5項)とされています。
さらに「特定」の意義については、一般的な解釈より狭く、著作物の提供者から見て特別な人的結合関係がある者すなわち家族、親しい友人、職場の上司などのことをいうと解されていますので、例えば、一定の条件を満たせば誰でも入会できるグループにおける主催者と会員の関係は特定ではなく不特定の関係と考えられます。
また、多数ですが、一般的には多数とは50人程度を指すといわれていますが、著作権法上の多数は、著作物の種類や性質、利用形態等を総合的に勘案して権利を及ぼすことが社会通念上適当かどうかで判断する必要があるとされ、判例では20人程度への提示であっても多数と判断された例もあります。
 
このことから、例えば子供が家族の前で音楽を演奏する場合は、公に音楽を演奏していることになりませんので、そもそも演奏権の対象にならないことになります。一方、ライブ会場にお客さんが一人しかいない場合やフアンクラブの会員を対象としたコンサートであっても不特定者に対する演奏になり得ますので原則演奏権が働くことになります。ちなみに、お客さんが一人も入っていなくても、その会場で公に聞かせることを目的として演奏が行われていれば原則演奏権が働くことになります。
 
ところで、上演、演奏及び口述については、会場等において生で上演等が行われる場合は当然のことながら公の上演等に該当しますが、著作物の上演等が一旦録音又は録画され、その録音物又は録画物を用いて公衆に提示される場合の取扱いが問題となります。
 
著作権法では、上演等には「著作物の上演、演奏又は口述で録音され、又は録画されたものを再生すること(公衆送信又は上映に該当するものを除く)」(2条7項前段)を含むとされているので、例えば音楽CDを用いたレコードコンサートも音楽の演奏に該当することになります。ただ、少しややこしいのは括弧書の意味です。

まず、「公衆送信に該当するものは除く」の意味です。レコードコンサートは上記のとおり音楽の演奏に該当しますが、それを放送、有線放送、ネット配信等の方法により公衆送信し、それを受信してスピーカーから音楽を流す場合、これは音楽の演奏には該当しないことになります。
そしてその行為は、送信装置から受信装置までの行為は公衆送信、そしてスピーカーから音楽を流す行為は公の伝達という構成になります。著作権法では、このように著作物を公衆に提示する行為については、公衆送信を受信して行う行為は著作物の種類や再生方法を問わず伝達権(23条2項)の対象、それ以外については上演権(22条)、演奏権(22条)、上映権(22条の2)又は口述権(24条)の対象というように整理されています。

次に、「上映に該当するものを除く」の意味です。上記の定義では、「録画されたものを再生すること」も著作物の上演等に該当するとしています。「録画」とは「影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製すること」(2条1項14号)とされており、要するに静止画ではなく動画を複製することとその複製したものを更に複製することを意味しています。また、上映とは、著作物を「映写幕その他の物に映写すること」(2条1項17号前段)であり、劇場等のスクリーンだけでなく、テレビ・PC等の受像機、建物の側面に設置している大画面モニター等を通じた再生を指す広い概念です。なお、動画の再生だけでなく、静止画の投影も上映とされています。

例えば、劇場にてお芝居の様子を一台の固定カメラで録画した場合、それは演劇脚本を上演した単なる録画物ですので、当該録画物を用いてその内容を映写幕やモニターを使い再生すれば、それは演劇脚本の上演と考えられます。ただし、この映像作品が単なる録画物ではなく、そこに編集が加えられ、その編集に創作性があると認められれば、その作品は映画の著作物として取り扱われるわけですので、この映画の著作物の上映に伴って演劇脚本の上演が再生されるとすれば、それは演劇脚本の上演ではなく上映と考えられるので、このような規定が置かれています。

以上のとおり録音物又は録画物を用いた著作物の上演等の取扱いについては特別な取り扱いがされていますが、これとは別に著作物の上演等を「電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く。)」(2条7項後段)も上映等に含むとしています。
これは公衆送信の定義に関連しますので詳しくは公衆送信の説明時に行いますが、例えばコンサートホールで音楽が演奏されているとしますと、その音をマイク設備を通じて同じ会場又は同一建物の別の会場のスピーカーから流すことがよく行われていますが、このような形態の利用は著作権法上公衆送信による利用とは言わないので、音楽の演奏として取り扱うということになります。

この上演・演奏・口述と上映の関係、またこれらと公衆送信・伝達の関係は著作権法で厳密に整理されていますので、それを理解するには時間がかかると思います。しかし、それを理解しないと、ある著作物の利用行為についてどの支分権が働くのかわからなくなりますので、上映権や公衆送信権・伝達権の解説の際にも重ねて説明をしたいと思います。

次回は、上映権と公衆送信権・伝達権の解説をします。
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