JRRCマガジンNo.269 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)1

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JRRCマガジン  No.269 2022/3/17
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◆今回の内容
【1】イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)
【2】日本漫画家協会賞 作品募集について
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みなさまこんにちは。
陽射しも春めいてまいりましたがいかがお過ごしでしょうか。

本号からは明治大学の今村哲也先生のイギリスの著作権制度について解説していただきます。
今村先生は現在明治大学情報コミュニケーション学部教授であり、ご専門は知的財産法(著作権)です。
先生は我が国におけるイギリス著作権制度の第一人者であり、
文化審議会著作権分科会の専門委員として、我が国の著作権制度の改正等にもご尽力されています。
なお、先生はJRRCの理事としてJRRCの発展にもご貢献いただいています。

どうぞお楽しみください。

◆◇◆イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)━━━
  Chapter1. イントロダクション
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明治大学の今村哲也と申します。今回からは、こちらのメルマガにおいて、「イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)」と題しまして、イギリス著作権法についてご紹介をさせていただくことになりました。
単にイギリスの著作権法だけをみても、とっかかりがないので、適宜、日本の著作権法と比較しながら、共通点と相違点を探っていきたいと思います。比較をすることにより、単にイギリス法を知るだけではなく、イギリス法と日本法の双方のより深い理解を得ることができればと考えています。大きな期待は、互いに苦悩のもとになりますので、ぜひ気軽に読んでいただけますと幸いです。
まずは、イギリス著作権法の立ち位置を考えていきたいと思いますが、そもそもイギリス著作権法というのは何でしょうか。
たとえば、日本の著作権法は何ですか?と聞かれたら、普通の人は1970年に制定された現行の「著作権法」(昭和45年法律48号)を答えると思います。法学の素養のある方ですと、「それは制定法で、しかも形式的意味での著作権法ですね。法源という意味では、必ずしも「著作権法」という名前はついていない、著作権に関連する法令のほか、関連する判例法も含みます」と答えるかもしれません。
イギリスの場合も同様で、制定法なら「Copyright, Designs and Patents Act 1988」で、それが関連する法令により補充されるとともに、判例法も含みます。もちろん、イギリスは、判例法主義を基本とする英米法系(コモン・ロー系)なので、判例法の重要性は日本とは異なる部分があります。ただ、制定法がすでにあるので、判例法主義といっても、日本のような大陸法系(シビル・ロー系)とは程度の違いにすぎない部分もあるでしょう。
以下では、上記の「Copyright, Designs and Patents Act 1988」を「イギリス著作権法」と呼ぶことにします。
次に、イギリスの著作権法の歴史は、たいへん古いということがいえます。
イギリスにおける最初の著作権法であり、世界の著作権法の歴史においても重要な意味をもつアン法(Statute of Anne)は、1710年に成立しました。日本における著作権の保護のはじまりがいつとみるのかは、いろいろな見方があると思いますが、1899年の旧著作権法、あるいは1869年の出版条例と比較しても、その歴史は長いといえます。
更に重要な点として、日本の旧著作権法は、1886年に制定された著作権に関する最初の多国間条約であるベルヌ条約にあわせて編纂されたものですが、イギリスの最初の著作権法はそうした国際条約よりも前に制定されているわけです。
もちろん、現在のイギリス著作権法は、日本と同様に、ベルヌ条約などの著作権に関するさまざまな多国間の国際条約の影響を受けています。ただ、単に影響を受けているというよりも、国際的な著作権の問題に関する国際交渉の歴史を紐解くと、影響を与えてきたと言ったほうがよいかもしれません。
そして、英連邦の存在も、国際的な著作権法の形成に大きな影響をあたえています。この点は、日本とは大きく違う部分があるでしょう。たとえば、現在のインドの著作権法などをみても、現行のイギリス著作権法におけるユニークな部分の共通点をいくつも見出すことができます。
また、イギリスが日本と決定的に相違する点として、EUの加盟国であったという点があります。
イギリスは、1973年にEUの前身であるEC(ヨーロッパ共同体)に加盟しました。それ以降、著作権法を含むあらゆるイギリス法の側面に、EU法の影響が及ぶ結果となりました。イギリス国内法に対してEU法の優越を定める1972 年欧州共同体法(European Communities Act 1972)は、イギリスの大学における著作権法の講義でも最初に強調されます。
EUでは1999年以降、著作権に関連する多くの指令を採択しており、また、EU司法裁判所による指令の解釈も、EUにおける著作権法の法理を確立してきました。
EUにおける指令というのは、ディレクティブと言いますが、EU加盟国はこの指令の内容に沿った国内法を実装する必要があります。また、加盟国は、EU司法裁判所の判例法に沿った解釈をする必要もあります。したがって、EUの加盟国であったイギリスは、EU法の影響を大きく受けて、変容をしてきたわけです。
ところが、イギリスは2020年のEU離脱協定に基づき、2020年1月31日午後11時(グリニッジ標準時)にEUからの離脱を完了しました。
いわゆるブレクジットです。EU法が適用される移行期間は同年12月31日午後11時でしたが、それもすでに経過しています。1972 年欧州共同体法は廃止されました。
そうすると、イギリスの著作権法の立場はどうなるでしょうか。EU法のくびきを逃れ、ピュアなイギリス著作権法に戻るのでしょうか。日本の著作権法の置かれる立場と似たようなものになるのでしょうか。
そんなことはない、というのが結論です。2018年EU(離脱)法(以下、EU(離脱)法)により、1972 年欧州共同体法は廃止されました。
しかし、EU(離脱)法は、「保持されたEU法(retained EU law)」を定める部分があり、すでに国内法に実施された指令、イギリス法に直接適用される規則などは、そのまま有効です。すべて取り消されて、EU加盟前の法律に戻るということはありません。たとえば、イギリスがEUに加盟してから、著作権の保護期間の延長(著作権法12条)、カリカチュア・パロディ・パスティーシュに関する権利制限(18A条)、公衆への伝達権(20条)などが、EU法に由来する規定として導入されてきましたが、それらには変更がありません。他方で、EUの孤児著作物スキームがイギリスには適用がなくなることや、いくつかの部分で影響がでてきています。

もっとも、離脱をするわけですから、もはやイギリス議会は、EU離脱後にEUが定める著作権に関するルールを導入する必要はありません。
また、EUの加盟国は、EU指令の解釈の法律問題について、国内裁判所から、EU司法裁判所に対して照会する手続きがあります。イギリスはEUを離脱するので、もはやイギリスの裁判所は、指令の解釈について、欧州司法裁判所に問題を照会することはできません。

では、イギリスの裁判所は、EUの判例法を全く無視するのでしょうか。そんなことはありません。この点は、EU(離脱)法に定めがありまして、まず、裁判所は、引き続き離脱後以降の欧州司法裁判所などによる判断を考慮する権限を有しています(EU(離脱)法6条2項)。
また、イギリスの最高裁判所を除いて、裁判所は「保持されたEU法」の部分について、離脱後に変更がない限りは、保持された判例法(離脱前の国内判例法、EU判例法)にしたがって解釈することになります(EU(離脱)法6条3項)。

実際にどのように裁判所の実務が動いていくのかは、わからない部分がありますが、イギリスの著作権法が、EU加盟がなかったこととして再出発するということではない、ということはたしかです。

以上、大きな視点から、イギリス著作権法の立ち位置という点で、日本の著作権法との相違点をみたものですが、制度の内容をみていくと、共通点・相違点が更にいろいろとあります。たとえば、イギリスの著作権法には、日本のような著作隣接権の制度はありません。レコードも放送も「著作物」に分類され、レコード製作者や放送事業者は「著作権」を持ちます。
また、イギリス著作権法のモラルライツ、日本で言う著作者人格権ですが、これは放棄することができます(譲渡はできません)。日本ではおそらく譲渡も放棄もできないというのが通説だと思います。
イギリス著作権法には著作物のリストが定められていますが、これはクローズドリストで、これ以外のカテゴリを認めないものと考えられています。日本でも著作物のリストが10条に定めていますが、「著作物の例示」にすぎません。

日本には存在しない制度もたくさんあります。発行された版の印刷配列の著作権、公共貸与権、タイプフェイスの保護、追及権、フェアディーリングという考え方、カリカチュア、パロディ又はパスティーシュの権利制限、写真及び映画のプライバシー権、国王の著作権(Crown Copyright)、小児病院のための規定(ある種の永久著作権を定めるピーターパン法)、拡大集中許諾制度、など、他にもたくさんあります。
これらの制度のなかには、EU法に由来するものもありますが、イギリス独自のものもあります。そして、イギリスも日本も、著作権に関連する多くの国際条約に共通して加盟しているので、ミニマム・スタンダードの部分では共通項が多くあります。ただ、条約は妥協の産物ですから、詳細をみていくと、こまかな部分で数多くの違いがあります。
更に、日本にあってイギリスにない制度もいくつかあります。たとえば、日本の著作権法にある私的録音録画補償金制度は、イギリスにはありません。この制度はもともとドイツ由来ですが、イギリス著作権法には、権利制限について補償金を条件に認めるという発想が基本的にありません。

以上のように、著作権法については、イギリスにしかないもの、日本にあってイギリスにはないもの、両国に同じような制度にあるが少し違うものがあります。
法制度についてサイコロを振って決める国はありません。制度があること、ないことにそれぞれ理由があります。このシリーズでは、こうした点に着目しながら、イギリス著作権法の特徴を、日本法との共通点・相違点の比較という視点からみていく予定です。

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【2】日本漫画家協会賞 作品募集について
当センター会員団体の公益社団法人日本漫画家協会からのお知らせです。
日本漫画家協会では、作品を募集されています。
クリエーターの方でご興味がおありの方は下記当該協会のHPにてご確認ください。 

2022年度第51回日本漫画家協会賞 作品募集


尚、本件に関しては当該協会実行委員会様に直接お問い合わせください。
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