JRRCマガジンNo.254 アメリカ著作権法のABC 3.1976年法(アメリカ連邦著作権法)の主な特徴

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JRRCマガジン  No.254 2021/10/21
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◆今回の内容
【1】白鳥先生のアメリカ著作権法のABC Chapter3. 1976年法(アメリカ連邦著作権法)の主な特徴 
【2】日経紙等利用許諾の申込みについて
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みなさまこんにちは。

本日のメルマガは、今年度から新連載の白鳥先生のアメリカ連邦著作権法のABCの続きです。
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◆◇◆アメリカ著作権法のABC━━━━━━

Chapter3. 1976年法(アメリカ連邦著作権法)の主な特徴 

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3.1  イントロダクション
さて、本連載も3回目となり、いよいよ「ABC」の「C」に突入してまいります。
「C」と申しますのは、大方のお察しのとおり、「Copyright」です。ただ、アメリカ著作権法にいう「Copyright」とは何を指すのでしょうか。
今回は、1976年法(現在のアメリカ連邦著作権法)について、その特徴をみていきたいと思います!

3.2  条文構成の特徴
皆さまは、1976年法、すなわち、Title 17 of the United States Code(合衆国法律集第17編)の条文(→https://www.copyright.gov/title17/title17.pdf)をご覧になったことはありますでしょうか。条文をご覧いただくとお分かりになりますが、日本の著作権法と異なり、「1条」は存在しません。いきなり「101条」から始まりますので、思わず、1条から100条まで探してみたくなりますが(ならないですかね…)、誤植ではありません。この法律は、全部で15章から構成されており、第1章(「著作権の保護対象及び範囲」)は101条から、第2章(「著作権の帰属及び移転」)は201条から、という具合に、章の建付けに応じた付番となっています。ちなみに、フェア・ユース規定は、107条ですので、第1章に書かれている条文です。
また、章立てをざっと見ていくと、この制定法には、「著作権」とは関係ないものも含まれていることに気がつきます。典型的には、例えば、第9章は半導体チップの保護、第13章は船体デザインの保護についての定めです。ごちゃごちゃ感を感じられるかもしれませんが、これらの登録も著作権局が担当していることから、同じ法律内にまとめて書かれています。
なお、「ごちゃごちゃ感」ついでに言えば、条文は、結構細かいです。フェア・ユース規定はそうでもないのですが、他の条文を見ると、日本では省令(施行規則)以下で書かれていそうなことまで書かれていたり、条文自体が長いものも目につきます。総じて、「アメリカ著作権法はシンプルでわかりやすい」とは言えないように思うのですが、いかがなものでしょうか。
さて、そのようなアメリカ連邦著作権法ですが、著作権関係に焦点を当てて、日本法と対比してみると、主に、以下のような特徴が挙げられます。今回はまず、全体イメージをつかんでおきましょう。

3.3  日本法との対比からみた特徴
(1)著作物
アメリカも、(今では)ベルヌ条約加盟国です。このことから、保護の枠組は日本と同じと思いきや、いくつか、目立った違いがあります。

まず、アメリカ連邦著作権法には、著作隣接権制度がありません。代わりに、日本であれば著作隣接権制度により保護される「レコード」は、アメリカでは「著作物」として、著作権による保護の対象です(102条(a)(7)参照)。
また、既にご紹介したことですが、著作物の保護要件として、アメリカでは、著作物の種類を問わず、「固定」が求められています。さらに、アメリカ合衆国を本国とする著作物については、「登録」が訴訟提起要件として求められているという点が特徴的です。

(2)権利の種類
日本の著作権法では、著作物に関する権利として、「著作者人格権」と「著作権(財産権)」が置かれており、その限りではアメリカも同じです。しかし、アメリカにおける「著作者人格権」は、日本法に比べて、保護される範囲がかなり狭いものです(106条A)。アメリカ連邦著作権法には、1990年の改正で追加されました。
また、「著作権(財産権)」について、日本の著作権法では、複製権や翻案権等のほか、著作物の公衆への提示・提供行為の種類(上演、演奏、上映、譲渡、貸与等)に着目した支分権が、比較的細かく置かれています(21条~28条)。これに対して、アメリカの連邦著作権法は、割とざっくり定められており、大きくみれば、5つの権利が書かれています(106条)。それは、複製権(to reproduce)、翻案権(to prepare derivative works)、頒布権(to distribute to the public)、実演権(to perform publicly)、及び、展示権(to display publicly)の5つです。

なお、これらの権利の邦訳として、ここでは、とりあえず、意味が近そうな日本語を当てていますが、紹介する人によっては、違う用語を使うこともあり得ます。アメリカの著作権法(アメリカ法に限らないとも思いますが…)について日本語で理解する場合は、用語のニュアンスが日本の著作権法とは異なる場合がありうることは、頭の片隅に置いておく必要があります。

(3)著作者・保護期間・利活用
「著作者」に関して、日本の著作権法は、職務著作制度(15条)を置いている点が特徴的といえますが、アメリカ連邦著作権法にも、同様の規定があります。…といいますか、むしろ、日本法よりも成立範囲は広いです(101条:“work made for hire”参照)。
「保護期間」は、日本法と同じく、原則として「死後+70年間」です。しかし、無名・変名著作物や職務著作物については、保護期間は日本法よりも長く、「発行から95年」又は「創作から120年」(のうち短い方)とされています(302条)。
権利の「利活用」に関しては、日本法と同様に、譲渡やライセンスといった方法がありますが、アメリカ法においては、いわゆる終了権についての定めがあります。すなわち、著作権者は、譲渡やライセンスによる権利付与について、35年後に権利付与を終了する機会が保障されています(203条)。

(4)権利制限規定等
(言わずと知れた?)フェア・ユース規定が置かれています(107条)。この他、著作物の種類や利用行為の別に応じた権利制限規定等が、(読み飛ばしたくなる衝動を禁じ得ないほど…)細かく定められています。強制許諾に関する規定も置かれています(108条~122条)。最近(2018年)の大きな改正であるMMA(音楽近代化法)は、この強制許諾に関わる内容を含むものです。

(5)権利侵害
 著作権侵害がある場合には、民事的救済として、差止請求や損害賠償請求が認められますが(502条~504条)、アメリカ法では、法定損害賠償制度(statutory damages)が置かれている点が特徴的です。これは、法律が定める一定の範囲内(1著作物につき、750ドル~30,000ドル)で、裁判所が裁量により損害額を認定するという制度であり、故意侵害の場合は、150,000ドルを限度として、裁判所の裁量により増額されます(504条(c))。なお、法定損害賠償の恩恵を受けられるためには「登録」が必要であるということ(412条)は、既に前回ご紹介したとおりです。

刑事罰については、日本法のような親告罪に関する規定は見当たりません。他方、刑事罰が科されるのは、一定の場合に限定されています。すなわち、故意による侵害のうち、①侵害が利得目的の場合、②180日の間に1点以上、コピーやレコードを複製又は頒布(電磁的方法による場合を含む)した場合(ただし、小売価格が合計1,000ドル超の場合に限る)、又は、③商業的頒布が予定されている著作物を、その事実を知りながら(知りうべき場合も含む)送信可能化することにより頒布した場合、のいずれかの場合です(506条(a)(1))。量刑は、①~③の類型に対応し、かつ、侵害コピー等の量や小売価格の多寡等に応じて定められており、懲役刑としては、1年から10年の幅で設定されています(合衆国法律集第18編2319条参照)。

3.4  小括

いかがでしたでしょうか。何となくでも結構です。全体のイメージをつかんでいただくことができたのでれば、今回の本稿の目的は達成です。

次回(Chapter 4)からは、上記でご紹介した(1)~(5)の流れに沿って、また、気持ちだけ少し深堀りをして、アメリカ連邦著作権法における考え方をご紹介してまいります。具体的には、各論として、以下の内容を取り上げていく予定です。

  第4回(Chapter 4):著作権の保護①(著作物)
  第5回(Chapter 5):著作権の保護②(権利の種類・著作者等)
  第6回(Chapter 6):著作権の制限等
  第7回(Chapter 7(最終回)):著作権の侵害

というわけで、次回以降は、「ABC」の「C」(Copyright)に続き、その「D」(Detail:ディテール)に入ってまいります。

本連載のタイトルにある「アメリカ著作権法のABC」というのは、実は、「ABCD」なのではないか?と気になってきた皆さま、次回もどうぞお楽しみに!

(横浜国立大学国際社会科学研究院准教授 白鳥綱重)

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