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JRRCマガジン No.253 2021/10/14
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています
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◆今回の内容
【1】川瀬先生の著作権よもやま話
【2】日経紙等利用許諾の申込みについて
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みなさまこんにちは。
秋の夜長のこの季節、みなさまはいかがお過ごしでしょうか。
今回のメルマガは、「著作者の権利について」の続きです。
お時間のある方は、復習をかねて連載のまとめ読みはいかがでしょうか。
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◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
著作者の権利について(その6)
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8 著作者人格権
(2)著作者人格権の種類とその内容
③同一性保持権(20条)
ア同一性保持権の内容
この権利は、著作物とその題号の同一性を保持する権利であり、著作者の意に反して著作物の変更、切除その他の改変を受けないことを内容としています(20条1項)。
この権利は著作者人格権の中でも最も消極的な権利と解されており、例えば、公表権(18条)の場合は、無断で自己の著作物が公表されたときに働くだけでなく、公表の時期や態様を指定できる積極的な内容を含む権利です。
一方、同一性保持権については、既に公表された著作物の内容や題号の変更等を求めることができるという積極的な内容は含まれず、著作者の意に反して改変された場合にだけ働く権利という内容になっています。
同一性保持権に関する問題はいくつかありますが、ここでは論点を絞って、「著作者の意に反する改変」の意味と「同一性保持権とパロディ」の問題について解説をします。
(ア)著作者の意に反する改変の意味
(同一性保持権と著作権条約)
著作者人格権は、著作権の基本条約であるベルヌ条約において締約国が定める必要がある権利の一つでありますが、条約上の保護のレベルは、「著作物の変更、切除その他の改変(中略)で自己の名誉又は声望を害するおそれのあるものに対して異議を申し立てる権利」(条約6条の2(1))となっています。
既にお気づきの方もおられると思いますが、条約上は「名誉又は声望」を害する改変を阻止することができる権利と構成しているのに対し、わが国の著作権法では、「著作者の意に反する」改変を阻止することができる権利と構成しているところに大きな違いがあります。各国法制を見てもわが国のような構成をしている国は少ないようであり、多くの国はベルヌ条約に準拠した形で権利を認めています。
なお、著作権法で認められている実演家人格権の同一性保持権(90条の3)については、著作者人格権と異なり、実演及びレコードに関する知的所有権機関条約(WIPO実演・レコード条約)等の条約の定めと同様に、「名誉又は声望」を害する改変を阻止できる権利として定められています。
このようにわが国では同じ著作権法の中で著作者人格権と実演家人格権では同一性保持権の内容が異なるという珍しい状況になっています。
(同一性保持権の制定経緯)
著作者人格権の内容については、旧著作権法(旧法)の改正について審議した「著作権制度審議会審議記録(一)」(1966(昭和41)年11月)の人格権に関する審議結果を見るとよく理解できます。
わが国の旧法は、旧法の制定以来一貫して著作者の同意なしに著作物の改変等はできないと定めていました。
同審議会での検討に当たって、ベルヌ条約(ブラッセル改正条約<当時の最新の条約>)の内容や各国法制も踏まえ、各国では名誉又は声望を害するおそれのある改変を阻止できる権利としている国が多いとしながらも、基本的には旧法の内容を維持しつつ、旧法のままでは著作者の同意がない限り著作物の一切の改変ができないと解されるおそれがあるとし、「著作物の性質又はその利用の目的に照らし、信義誠実の原則に従って容認される限度の改変は行うことができるように措置する必要がある」としました。
なお、旧法では著作物の題号の改変も内容の改変と同様の取り扱いになっていましたので、その取扱いも現行法に引き継がれることになりました。
これらのことから、現行法の同一性保持権は、旧法の権利の内容を原則維持したところから、著作者人格権と実演家人格権の内容の違いや各国法制との違いが生じているのだと考えます。
(「意に反する改変」と「名誉声望を害する改変」の違い)
それでは、「意に反する改変」と「名誉又は声望を害する改変」とはどのような違いがあるのでしょうか。前者については、同一性保持権が働く判断基準をある程度著作者の主観的意図に委ねていると考えられます。中山信弘先生がその著書「著作権法(第2版)」(有斐閣 2014)で、わが国の同一性保持権は著作者の「こだわり」を保護していると書かれていますが私も同感です。後者については、その判断基準は社会通念といわれており、ある適度客観的な基準によると考えられています。もっとも学説では、後述する同一性保持権が適用されない「やむを得ない改変」や「意に反する」そのものの解釈等により、同一性保持権の内容を社会的な常識に近づける試みが行われていますが、両者は本質的に異なる権利であることは間違いないところです。
(イ)同一性保持権とパロディ問題
わが国でパロディ文化が発展しないのは、同一性保持権の内容に原因があると指摘する意見があります。これまで見てきたようにわが国の同一性保持権は、旧法の制定以来現行法に至るまで著作者の意に反する改変を阻止できる権利とされていました。
基本的に著作者の主観的意図(「こだわり」)を保護するこの権利は、パロディのように社会風刺等を意図とし、かつ著作物の改変を伴う利用に当たっては、例えばある程度客観化された基準がない限り、事実上著作者の同意なしに著作物を利用できないことになります。
したがって、わが国では、パロディ作品と称し商業的に利用されている作品はおおむね著作者の同意を得ているようです。
これは相当前の出来事ですが、あるお笑い関係の芸能人が歌う戦後日本歌謡史というアルバムが音楽関係者の抗議により発売中止になったことがありました。
このアルバムでは、例えば、「あこがれのハワイ航路」という既存の楽曲のメロディーをそのまま利用したうえで、題名を「たそがれのオワイ航路」と変更し、歌詞そのものも内容を変えて利用されていました。
この出来事はレコード会社が自主的に販売を中止したため、訴訟にはなりませんでしたが、「たそがれのオワイ航路」の作詞者が、この題名と歌詞は元のものの改変利用ではなく、新たに作成したものを利用しただけであると主張した場合、改変利用とはどこまでの行為を指すのか、改変利用に該当しなくても不法行為は成立するのか等興味深い問題が争われたことになったと思います。ただ、レコード会社側から見ると音楽関係者からの指摘を無視し、しかも訴訟リスクを抱えたままで商業的利用を行うのは困難だと思われるので、販売中止もやむを得ない選択だったと思います。
また、これは旧法下の事件に関する最高裁判例(パロディ事件(1980(昭和55)年3月28日判決)ですが、雪山から滑降する複数のスキーヤーのシュプールを撮影した写真の一部を切り取り、そこにタイヤの写真を合成したフォトモンタージュ技法に基づく合成写真について、合成写真作成者の同一性保持権侵害を認めました。
この裁判が面白いのは、1審は原告写真家の主張を全面的に認め同一性保持権侵害を認めましたが、2審では合成写真は旧法30条1項2号に定める節録引用に該当し、その利用に当たって写真の一部改変が行われているとしてもそれは同一性保持権の侵害にはならないとしました。すなわち、合成写真は新著作物であるとしたものです。最高裁では、旧法の節録引用について「明瞭区分性」や「主従関係」を節録引用の要件とし明確化するとともに、その要件に合致しない合成写真は同一性保持権侵害であるとし、事実審理を更に尽くす必要があるとし2審に差し戻しました。
このように著作物のパロディ利用を容認するかどうかについては、単に同一性保持権の内容を変更するだけでなく、複製権等の財産権の制限も併せて考える必要があります。各国法制を見ても、例えばフランスでは、財産権の権利制限の1つとして一定の条件の下に著作物のパロディ利用を認めています(仏知財法典122の5条1項(4))。
また米国では、権利制限規定の1つであるFair Use規定(米著107条)にかかる最高裁判例で、著作物の作成意図や方法と異なる態様で利用することを意味する著作物の変容的利用(transformative use)が認められており、その理論の中で著作物のパロディ利用も認められると解されています(この利用の場合、財産権だけでなく人格権も制限されるという考えです)。
わが国でもデジタル・ネットワーク社会の到来とともに、デジタル化された著作物については、表現の修正や増減が容易になり、パロディ作品も作成しやすくなりました。現に、保護期間が満了している歴史的な作品等は法的問題が起こりにくいことから、当該作品等に変更を加えたパロディ作品が商業的に利用されているのをよく見ます。
このようなことから、わが国でも文化審議会著作権分科会においてパロディ作品の作成に関して同一性保持権や財産権の権利制限のあり方等について法的課題が整理されましたが、法改正への提言までには至りませんでした(文化審議会著作権分科会法制問題小委員会パロディワーキングチーム(2013(平成25)年3月)。
先述したように著作者の意に反する改変を阻止できる権利としての同一性保持権は旧法からその内容は基本的に変わっていないこと、パロディ作品の作成に関する最高裁判決があること等から、わが国には著作者の同意を得ずにパロディ作品を作成し、それが商業的に利用されるという文化は根付いているとは言えません。
また著作者団体等の中では、デジタル・ネットワーク社会の到来により著作物の改変が容易になったからこそ、今の同一性保持権が必要であるとする意見が大勢であり、それを弱めることに対し著作者側の大きな抵抗が予想されます。
法改正の提言にまで至らなかった理由としてはこのようなことが背景にあったのではないかと思います。
本当は、同一性保持権が働かない場合も書く予定でしたが、「パロディと同一性保持権」のところで紙面をだいぶ使ってしまいましたので、同一性保持権が働かない場合は次回にします。
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【2】日経紙等利用許諾の申込みについて
ご要望が強かった日本経済新聞社発行の新聞「日本経済新聞」「日経産業新聞」
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