JRRCマガジンNo.244 著作者の権利について(その3)

川瀬真

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JRRCマガジン No.244 2021/7/8
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。

みなさま、こんにちは。
内閣府のHPによりますと、2021年に限り「海の日」は7月22日に
「スポーツの日」は7月23日になるとのことです。
予定を立てる際に気を付けたいですね。

さて、7月最初のコラムは「著作者の権利について」の続きです。
職務上作成する著作物について企業等が著作者になる要件など、
この機会にご確認いただくのも良いのではないでしょうか。

前回までのコラムはこちら↓
⇒https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━

 著作者の権利について(その3)

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4 著作者の権利の性質
前回説明したように著作者の権利は、著作者の人格的利益を保護する「著作者人格権」(18条~20条)と財産権である「著作権」(21条~28条)の2つの性格が違う権利で構成されています。
著作者の権利はもともと財産権のことをいいましたが、19世紀以降特に欧州で人権思想が発達し、生命権、自由権、氏名権、名誉権、プライバシー権等の個人権が広く認められるようになりました。
その過程の中で、著作者の精神性が表れる著作物について、創作者であることを主張し、無断改変を阻止する権利等の人格権が承認されてきました。ただ、その発展の仕方は国によって異なり、例えばドイツのように著作者の権利は人格権を起点とするものであり、その中に財産的権利は内包されるとする考え(著作権一元論)の国もあるところです。
一方、同じ大陸法系の国においても例えばフランスは、著作者の権利は人格権と財産権から構成されるとする考え(著作権二元論)もあり、わが国ではこの著作権二元論の立場に立って法律が構成されています。
また、著作者人格権は、権利の性質上、他人に著作物の利用を進めて積極的に利益を得るという著作権(財産権)と異なり、権利が侵された場合にそれに効果的に対抗できる権利という性格を有しており、いわゆる防御的な権利と考えられています。
 
なお、ベルヌ条約では方法は問いませんが人格権と財産権の両方の保護が加盟国に義務付けられています。

5 著作者の推定(14条)
著作者とは、「著作物を創作する者」(2条1項2号)のことをいいます。したがって、著作物を誰が創作したかという事実関係により著作者が決まることになります。
ただし、私たちは、例えば、店頭に置いてある書籍の著作者名をみて、あるいは映像作品の最後の製作関係者の表示を見て初めて著作者が誰かを知ることになり、創作の過程という事実関係を知ることはできません。

したがって、著作権法では、著作物の公表の際に表示された著作者が著作権法上の著作者として推定されるとしています(14条)。
著作者として推定されるというのは、真の著作者がこの作品は私が創作したものであるということを立証しない限り、法律上は表示された氏名又は名称の者が著作者として取り扱われるという意味です。
例えば、アイドルが書いた作品にはゴーストライターが存在する場合が多いといわれています。
この場合、真の著作者は誰かといえば、実際に本を執筆したゴーストライターですが、本に表示されている著作者名はアイドルの名前ですので、ゴーストライターが名乗り出て証明をしない限り世の中は当該アイドルが著作者として取り扱われることになります。

なお、この場合、その著作権は誰に帰属するのかという問題があります。
この場合は大別するとアイドル自身、アイドルが所属している芸能プロダクション又はゴーストライター自身の3つのケースが考えられますが、この点は、いわゆるゴーストライター契約の際の取決めにより決まるのではないかと考えられます。

6 職務上作成する著作物の著作者(15条 法人著作・職務著作)

著作者の権利は、人間の知的創作活動を保護するためのものですので、基本的に著作者は自然人です。しかしながら、世の中の実態を考えると、会社や役所の名義で公表される著作物は世の中に広く存在し、その内容に関する責任はそれを実際に書いた従業員ではなく、当該企業等が負うことになるのが普通です。
このようなことから、わが国では、一定の要件を満たせば、著作者を自然人ではなく当該企業等として取り扱い、社会実態との整合性を取っています。
なお、外国の著作権法を見ると各国の考えに差があり、例えばドイツでは著作者は自然人ですが(独著7条)、米国では職務著作の規定(米著201条(b))があり、「使用者その他著作物を作成させる者」が著作者とみなされることになっています。

企業等が著作者になる要件は次のとおりです。
1つは、法人その他の使用者(法人等)の発意があるかどうかです。著作権法上「法人」には、法人格のない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものも含みますので、同窓会等の任意団体も著作者になることができ(2条6項)、著作者の権利を享有することができます。発意というのは、上司が部下に指示を出すという積極的な行為を指すのが一般的ですが、部下の企画を承認する等の行為も含まれる広い概念と解されています。
2つ目ですが、その法人等の業務に従事する者が作成したかどうかです。
法人等の従業員は、一般に会社との間で雇用関係にある者とされていますが、労働者派遣事業法による派遣労働者のように会社等との間で雇用関係はないものの、会社等の指揮監督に服するという実態がある場合は、法人等の業務に従事する者と解して差し支えないとするのが一般的です。また、雇用関係がない委任や請負型の形態の場合は、勤務形態、報酬の支払い方法等の実態を総合的に判断して決めることになると考えられます。
この点からですが、例えば会社の従業員とフリーのプログラマーが共同開発したプログラムの著作物は、その実態によっては、当該会社とフリーのプログラマーの共同著作物という考えも成り立つわけです。
3つ目ですが、職務上作成したかどうかです。この要件は法人等の従業員の場合はあまり問題にはならないと思いますが、例えば、趣味でイラストを描いている従業員の作品群の中から会社の上司が1枚を選んでそれを会社のために利用したような場合はこの要件を欠くものと考えられます。
4つ目が、法人等の著作名義で公表するかどうかです。これまでの要件は、法人等の内部関係によるものでしたので、一般の人から見てそれらの要件が充足されているかどうかは分かりませんでした。
しかし、この要件は、著作名義が外部に表示されることになるので、一般の人でもこの著作物が法人著作の対象かどうか簡単に理解できることになります。
例えば、教育白書には通常「文部科学省」という著作者表示が付されていますので、他の要件のこともあるので絶対とはいえませんが、ほぼ100%法人著作が成立し、著作者は文部科学省になります。なお、プログラムの著作物の場合は、社会実態として、未公表のまま又は無名により著作物が利用されることが多いところから、この要件は不要とされています(15条2項)。
ところで、公表名義をめぐってはいくつかの課題がありますのでそれを少し整理しておきます。
最初は、著作物が未公表の状態のときの著作者は個人か法人等かという問題です。プログラムの著作物については、先述したとおり、公表名義の要件が不要ですので問題は生じません。
しかし、他の著作物についてはこの問題が生じる可能性があります。
この点については、法律の条文が、「公表したもの」ではなく、「公表されるもの」と規定しているところから、法人等の名義で公表を予定しているものを含むと解されています。また、公表を予定していない著作物であっても仮に公表するとすれば法人等の名義になるものも同様と考えられています(「新潟鉄工事件(刑事)」東京高裁判決<1985(H60)12.4>)。
次に、新聞や雑誌の記事の場合です。
例えば新聞の場合、社説は社説欄に著作者の表示はありません。一方、解説記事の場合は、「解説委員 著作権太郎」というように著作者表示をした上で解説文が続くことが多いです。
社説の公表名義は無名ではなく新聞社名だと考えられるので、この公表名義の要件を満たしていると考えられますが、解説記事の場合は、肩書付きの個人名義は、法人等の著作名義ではないとの判例(「計装工業会事件」知財高裁判決<2006(H18).10.19>)もあることから、公表名義の要件は満たしていないと考えられます。
問題は、一般の記事のように例えば記事の最後に括弧書で(国際部 著作権花子)と書かれている場合です。このような形態の一般記事が増えていますが、多分新聞社としては記者の名前を出すことにより記者に責任を自覚させ、また今後の記者活動の励みになることからこのような取扱いにしているものと思われます。ただ、私見では、新聞記事の執筆形態を関係者に聞いてみると通常の法人著作の場合と同様に多くの関係者が記事に手を入れることが一般的のようですので、この執筆実態等も考えると、括弧書の表示は著作者表示というよりも記事の担当者表示として考えた方がよく、一般記事の場合は通常新聞社名義と取り扱った方がよいと考えます。なお、関係者に聞くと、新聞社の場合、一般に就業規則等で業務上作成した記事等の著作権は名義等にかかわらず全て新聞社に帰属するとしているところが多いということでした。
なお、自然人著作と法人著作の違いですが、最も大きな違いは著作者人格権の帰属の違いです。
仮に従業員個人が著作者であった場合でも、著作権(財産権)は譲渡可能ですので、授業員との契約によってその権利を会社は譲り受けることができます。
しかし、著作者人格権は他人に譲渡できませんので、例えば、著作権の譲渡契約の際に、必要に応じ、公表の時期・方法、著作者表示の方法等、著作者の同意なしに著作物を改変できる場合等の取り決めをすることになります(著作者人格権の不行使特約)。

7 映画の著作物の著作者(16条)
映画の著作物については、その創作に関与する人が多数に上るため、著作権法では、「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする」(16条)とし、著作者になりうる者の条件を定めています。この定義を見るとプロデューサー、監督(総監督だけでなく、撮影監督、美術監督、照明監督等を含む)、演出家等が該当しますが、このことから、映画の著作物は一般に総監督単独の著作物というより、主要なスタッフの共同著作物ということになります。

もちろん、映画の製作方法によっては前述した法人著作が成立し、映画製作者が著作者の権利を享有する場合もありますが、近年の映画製作は、監督その他のスタッフが映画会社の従業員であることは珍しく、映画製作の企画ごとに映画製作者が監督等と契約を結び、映画製作に参加してもらうという形態がほとんどですので、法人著作が成立することは少ないと考えられます。

なお、映画の著作物の著作者は一般に監督等ですが、映画の製作の実態を勘案して、監督等の著作者が、映画の著作物の製作に参加していることを約束しているときは、放送番組等を除き、著作権(財産権)は映画製作者に帰属することになっています(29条1項 法定帰属)。

 次回は、著作者人格権の内容について説明をします。
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