JRRCマガジンNo.245 米国少額著作権紛争処理制度

山本隆司

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JRRCマガジン  No.245  2021/7/15
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みなさま、こんにちは。

山本隆司弁護士の著作権談義は今回で第100回となりました。
早速、本日の著作権談義「米国少額著作権紛争処理制度」をどうぞお楽しみください。

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⇒https://jrrc.or.jp/category/yamamoto/

◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義(100)━

  -米国少額著作権紛争処理制度-

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さて、著作権侵害の事件は、特許事件に比べると請求金額の小さいものがほとんどです。
写真の侵害などでは多くの場合、損害賠償額が数万円にしかなりません。
日本での訴訟では、請求金額が100万円以下では、弁護士費用を賄うことは困難ですので、権利の侵害があっても裁判所の救済を受けられずに泣き寝入りになります。
長い歴史を持つ法治国家でありながら、そこには救済から見放された権利者の放置国家が存在します。

米国でも、様相は多分に異なりますが、似たような状況が存在します。著作権侵害訴訟では法定賠償制度があります。
現実損害が1ドルでも、著作物1件当たり最高150,000ドルの法定賠償を受けることができます。
これによって零細事件にも救済の道が広げられています。しかし、米国には、ディスカバリーの制度があります。
日本では自分に有利な証拠は自分で探し出す必要がありますが、米国では訴訟になると両当事者は関係書類をすべて提出する必要(ディスカバリー)があり、相手の持っている自己に有利な証拠を吐き出させることができます。
ディスカバリーは客観的正義の点から優れているのですが、相手から出てきた膨大な書類を弁護士が分析する必要が生じるので、弁護士費用はすぐに億円の単位になります。
その代わり、著作権侵害訴訟では勝訴すれば相手から弁護士費用全額を回収できます。そのため、1000万円の損害賠償を求める訴訟でも、1億円の弁護士費用賠償が認められることがあります。
敗訴した場合にはそのような多額の弁護士費用を自己負担する必要があります。

結局、米国では、日本におけるのとは比べものにならない多額の弁護士費用を負担できる資力のある者しか、裁判所の救済を受けることが事実上困難です。

そこで、米国は、2020年の改正法(CASE Act)で、著作権法にあらたに第15章を置いて、著作権の少額請求(30,000ドルを上限)に対する救済制度(ADR)を規定しました。
2021年12月27日から、運用される予定です。

著作権局に、独立性を持った著作権請求審判所(Copyright Claim Board)が置かれます(1502条)。
ここでは、著作権に詳しい法曹の中から著作権局長が推薦し連邦議会図書館長の任命する3名の著作権請求審判官(Copyright Claim Officer)が著作権請求審判所を構成し、著作権局長が採用する2名以上の著作権請求法務官(Copyright Claim Attorney)が著作権請求審判官を補佐します。

通常の訴訟では、現実損害の賠償および侵害利益の回収、またはこれに代えて法定賠償、弁護士費用の回復、訴訟費用の賠償を求めることができます。
しかし、著作権請求審判所では、請求は、現実損害の賠償、侵害利益の回収、法定賠償に限られ、金額も総額で上限30,000ドルに制限されています(1504条(e))。
弁護士費用回復および訴訟費用賠償の請求は認められていませんが、嫌がらせ目的での請求など悪意のある行為には、5,000ドルを上限として、その賠償請求が認められます(1506条(y)(2))。

権利者が著作権請求審判所に請求書を提出することにより、手続は開始します(1506条(e))。
相手方は、送達受領後60日以内に限り、著作権請求審判所に書面で通知することによって手続を拒否すること(opt-out)ができます(1506条(h)(2)(i))。
相手方は、当該通知を期限内に行わないと、手続開始が確定し、著作権請求審判所の決定に拘束されることになります。
手続開始の確定後に、手続に参加しないと、欠席裁決を受けることになります(1506条(u))。

通常の訴訟では、ディスカバリーとモーション・プラクティスと証人尋問の手続に時間とお金が掛かりますが、著作権請求審判所では、モーション・プラクティスと証人尋問の手続はなく、ディスカバリーと証拠も関係書類の提出に限られています(1506条(n))。
そのため、通常の訴訟よりずっと時間を費用が掛かりません。

著作権請求審判所の裁決に対しては、裁決後30日間に限り、著作権請求審判所に対して再審査を請求することができます(1506条(w))。
また、それが退けられたときは著作権局長に対して見直しを求めることができます(1506条(x))。
しかし、著作権局長による見直しは、著作権請求審判所による裁量権の濫用の有無に限られます。

著作権請求審判所の裁決は、事件について既判力が認められていますが、米国の裁判所の判決と異なり、争点効は認められていません(1507条(a))。

著作権局は、著作権請求審判所による手続のための規則を制定することとなっています(1510条)。
これがうまく実務とかみ合うようになれば、著作権請求審判所による救済は、少額著作権侵害に対する救世主になるかも知れません。

さて、わたくしの連載も今回で100回を迎えることとなりました。
ここで連載も一区切りしたいと思います。
これまでのご愛読ありがとうございました。

  以上
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山本隆司弁護士のコラムは今回もって終了いたします。
次回からは、横浜国立大学国際社会科学研究院准教授の白鳥綱重先生の
「アメリカ著作権法のABC」をお送りさせていただく予定です。

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