JRRCマガジンNo.238 著作者の権利について(その1)

川瀬真

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JRRCマガジン No.238 2021/5/13
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さて、今回のコラムは「著作者の権利」についてです。
前回までのコラムはこちら
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━

  著作者の権利について(その1)

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1 はじめに
「著作者の権利」は、わが国では著作者の人格的利益を保護する「著作者人格権」(18条~20条)と財産権である「著作権」(21条~28条)の2つの異なる権利で構成されています(17条1項)。
著作権法上「著作権」とは財産権のことをいいますが、世の中では「著作者の権利」を著作権と呼んだり、著作者の権利だけではなく、実演家、レコード製作者、放送事業者及び有線事業者の権利も含めて著作権と総称することもあります。
本稿では、この著作者の権利について何回かに分けて解説をしていきます。

2 権利の享有と行使
著作者の権利は、著作物を創作した時点で、登録、著作権表示等何らの方式の履行を必要とせず自動的に発生します(17条2項)。
これを「無方式主義」と呼んでいます。
同じ知的財産権の中でも、特許権、実用新案権、商標権、意匠権、育成者権(種苗法)、回路配置利用権(半導体集積回路の回路配置に関する法律)については、権利の享有に登録を必要とする「方式主義」を採用しているのに対し、特別な取扱いとなっています。

この無方式主義は、著作権条約の基本条約であるベルヌ条約の基本原則の一つです。著作者の権利が初めて法律上認められたのは、1709年のイギリスのアン法といわれていますが、当時は各国とも方式主義を採用しており、それが長く続いていました。
その後、著作者の権利は財産権だけでなく人格権も併せて保護されるという考え方が定着し、著作者の権利は自然権として位置付けられるようになりました。
ベルヌ条約は1886年に創設されましたが、同条約は内国民待遇の原則を導入しただけで、無方式主義については規定されませんでした。無方式主義が国際ルールになったのは1908年のベルリン修正条約の際です。それ以降このルールは改正条約に引き継がれ今日に至っています(現在はパリ改正条約)。
もう少し詳しく説明しますと、同条約では著作者の「権利の享有及び行使にはいかなる方式の履行も要しない」(同条約5条(2))としており、権利の享有(取得)だけでなく、その行使についても方式を要しないとしています。
わが国の場合、先述したように権利の享有については明文の規定がありますが、行使については明文の規定はありません。
ただし、法律全体を見ても、権利者の権利行使について登録や著作権表示等の必要性もないところから、条約上の要件は満たしていることになります。

(米国著作権法と無方式主義)
世界のほとんどの国は、自国民か外国人かにかかわらずその著作物を無方式で保護しています。
ただ、世界の著作権法の中でも米国著作権法は変わっていて、米国もベルヌ条約に加盟しているのですが、無方式主義は条約上保護義務を負う外国の著作物だけに適用され、合衆国著作物(米国で第一発行された著作物、米国国民の著作物等)についてはそれまでの経緯もあり方式主義を残しています。
これは条約違反ではないかとのご意見もあると思いますが、ベルヌ条約は条約上保護義務を負う著作物の保護に関するルールですので、米国のような方法であっても条約違反にはなりません。

それでは何故このような制度になったのでしょうか。

米国著作権法の旧法では、著作権保護を受けるためには米国議会図書館にある著作権局に登録及び複製物を納付することにより原則として登録後28年、更新登録により更に28年保護されることになっていました。
1976年に現行法が制定され、著作権の発生要件としての登録制度は廃止され、著作権は創作した時点で自動的に発生することになったものの、訴訟要件としての登録制度と権利主張するための著作権表示(原則C記号(丸の中にCの文字)、第一発行年、著作権者名を一体的に表示)の制度が残されました。
先述したようにベルヌ条約では権利の享有(取得)だけでなく、権利の行使についても無方式を要求していますので、訴訟を提起するためには登録が必要であるとか、権利を主張するためには著作権表示が必要であるとする制度は方式主義と解され、ベルヌ条約の加盟要件を欠くことになりました。
このように長い間、米国はベルヌ条約に加盟できない時代が続いたのですが、1988年にベルヌ条約執行法が成立し、1989年にベルヌ条約への加盟を果たしました。
改正の内容ですが、条約上保護義務を負う著作物(日本、欧州等の著作物)については、登録と著作権表示の制度は任意の制度となりました。ただし、登録や著作権表示をしておく方が権利者として有利な取扱いを受ける制度(例えば、登録があれば法定賠償制度の選択(504条(c)(1))又は弁護士費用の請求(505条)が認められ(412条)、著作権表示があれば善意侵害による損害賠償金額の減額の抗弁は認められない(402条(d)。)を残し、登録等の促進を図る制度を設けています。
一方、合衆国著作物については、著作権表示は任意になりましたが、訴訟要件としての登録制度は残しているので、方式主義はそのままになっています(411条(a))。
なお、複製物の納付の制度は、わが国の国立国会図書館への納本制度に相当する制度ですので、登録制度の存続は米国著作物の集中的な収集・保存・活用の制度を維持する意味もあると思われます。

(著作権表示について)
お手元の文庫本や単行本の奥付を見てもらうと著作権表示が付されている場合が多いです。米国がベルヌ条約に加盟する前は、この表示を付しておかなければ米国で保護されませんでしたので、わが国で出版されるものであってもこの表示を付しておくことが出版界の慣行でした。
それでは著作権表示にはどのような意味があるのでしょうか。
先述したように米国は長い間ベルヌ条約に加盟できませんでした。
そのため米国は例えば二国間で著作権保護の条約を締結して外国の著作物の保護を図っていました(わが国も日米著作権条約を締結し相互に著作権保護を行っていた時期がありました)。
戦後の1952年に方式主義の国と無方式主義の国との間における著作権保護のルールを定めた多国間条約である万国著作権条約が作成されました。
この条約は無方式主義の国の著作物が方式主義の国で保護されるためには、著作物の複製物に著作権表示を付しておけばいいという内容(同条約3条1項)であったため、わが国でも著作物の複製物にこの表示を付すことが定着しました。

しかしながら、米国がベルヌ条約に加盟した現在、万国著作権条約の意義はほとんど失われ著作権表示が付されていなくても米国で保護されることになりました。
ただ、著作権表示については先述したように米国における法的効果とは別に、著作権を主張していることを表す代表的な表示として世界的に認知されていましたので、わが国のコンテンツ業界でも著作権表示を付す習慣が続いているようです。

次回は、著作権法と他の権利等との関係について説明をします。

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