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JRRCマガジン No.236 2021/4/15
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みなさま、こんにちは。
本日お送りする山本先生の著作権談義は、芸名のうちグループ名に関するパブリシティ権の問題についてです。
お詫びと訂正:
前回の山本先生の著作権談義「NYパブリシティ法改正」については、配信前に本文に加筆を頂いておりましたが、事務局の誤りにて皆さまには加筆以前の記事をお送りしておりました。大変失礼いたしました。
なお、山本先生の加筆後の記事につきましては、下記リンクよりご覧いただけます。
◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義(97)━━
-芸名に対するパブリシティ権-
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昨年7月10日、東京高裁は、ヴィジュアル系ロックバンド「フェストバンクール」のグループ名にパブリシティ権を認めました。
個人の肖像・氏名の商業利用に対する排他的権利を認める「パブリシティ権」は、ピンク・レディー事件・最高裁平成24年2月2日判決によって人格権に由来する権利として認められています。
個人の実名だけでなく、グループの名称にもパブリシティ権が認められるとすれば、AKB48や乃木坂46のような大きなグループの名称にも、人格権に由来するパブリシティ権が認められるのでしょうか。今回はこの問題を考えてみたいと思います。
まず、前記東京高裁は、パブリシティ権が人格権に由来すると判示しました。「人は,その氏名や肖像等を自己の意思に反してみだりに使用されない人格権的権利を有している。芸能人等が実演活動で使用する芸名やその肖像等については,これを商品の広告等に使用することによって需要者に当該芸能人を識別,想起させ,当該芸能人に対するあこがれや敬愛等を喚起することにより商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があるが,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(いわゆるパブリシティ権)は,芸名等自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。」
個人の人格と切り離せない氏名や肖像が人格権によって保護されます。
その氏名や肖像が顧客吸引力を持つ場合があります。自他識別表示が顧客吸引力を持つ場合には、いわゆる「商標」として商標法や不正競争防止法で保護されます。しかし、氏名や肖像が顧客吸引力を持つ場合には、商標法や不正競争防止法だけでなく、その顧客吸引力が氏名や肖像に対する人格権でも保護されます。これがいわゆる「パブリシティ権」です。
つぎに、前記東京高裁は、グループ名にもパブリシティ権を認める論拠を「そして,実演活動上のグループ名についても,人物の集合体の識別情報としてその構成員を容易に想起し得るような場合には,芸名と同様に,当該グループの構成員各人に人格権に基づくパブリシティ権が認められると解するのが相当である」と判示しました。
上記の判示は、グループ名にもパブリシティ権を認める論拠になっているでしょうか。
「実演活動上のグループ名についても,人物の集合体の識別情報としてその構成員を容易に想起し得るような場合」というのは、当該構成員がグループ名に対して人格的に不可分であることを意味していません。
たとえば、AKB48というグループ名からは、前田敦子や大島優子という元構成員を容易に想起しますが、すでに脱退した構成員であることからも明らかなとおり、当該構成員がグループ名に対して人格と不可分な人格的利益を持っているとはいえません。
「実演活動上のグループ名についても,人物の集合体の識別情報としてその構成員を容易に想起し得るような場合」というのは、自他識別表示としての機能をいっているに過ぎません。したがって、「実演活動上のグループ名についても,人物の集合体の識別情報としてその構成員を容易に想起し得る」ことは、人格と不可分な人格的利益がある理由にはなりません。
個人の氏名に、人格と不可分な人格的利益があるのは明らかです。しかし、グループ名の場合に、構成員が替わってもグループの同一性が維持されることを考えると、グループ名に、構成員の人格と不可分な人格的利益があるとはいえないように思います。したがって、前記東京高裁は、グループ名にもパブリシティ権を認めましたが、疑問が残ります。
ところで、芸能人が本名で芸能活動を行っていた場合に、芸能事務所を移籍したことによって、本名を使い続けることができなくなる事例があります。たとえば、「あまちゃん」の能年玲奈(本名)が、移籍後「のん」の芸名に変更しました。
芸能事務所によっては、所属芸能人の芸名(本名を芸名として使用する場合も)を事務所に譲渡し、事務所との契約が終了してもその譲渡がそのまま残るとする契約となっているからです。
しかし、この契約は、個人がその本名に人格権(パブリシティ権)を持つという点から見て、問題があります。本名に対する人格権(パブリシティ権)はそもそも譲渡できません。
せいぜい、事務所がその権利管理を受託できるだけです。
その権利管理の受託の法形式として素人的解釈として「譲渡」の文言を使ったとしても、譲渡の効果が生ずるものではありません。
したがって、移籍して事務所との契約が終了すれば、当該権利管理の委託も終了するので、事務所が本名に対する権利を持つことはありえません。
他方、本名でない芸名については、事務所との契約上、事務所に芸名に対する権利が譲渡されることは適法に行うことができます。当該芸名を事務所から与えられた場合とは異なり、当該芸名を事務所に所属する前から使っていた場合には、事務所移籍後も当該芸名に対する権利が事務所に譲渡されたままとする規定の効力には疑問があります。芸名を取り上げしまう正当理由がなければ、当該契約は「拘束条件付取引」(一般指定11号)に該当し独禁法違反(19条)に該当します。
事務所には、所属芸能人の芸名を管理する利益がありますが、移籍してしまった後ではその利益は存在しませんので、移籍後も「譲渡」したままとする正当理由はないと思います。
以上
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