JRRCマガジンNo.205 著作権法上の侵害とみなす行為について(その3)

川瀬真

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JRRCマガジン No.205 2020/5/28
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こんにちは。
全国的に緊急事態宣言が解除されました。
学校は徐々に再開し、街にも人が増えてきました。
みなさまの周辺はいかがでしょうか。
気持ち的には早く日常を取り戻したいところですが、
今年の夏は熱中症に特に注意が必要だとニュースで知りました。

春から初夏にかけての身体は「暑熱順化」の時期で、
今年はその時期に外出自粛となっていたためにこの「暑熱順化」が出来ていない方が多いからだそうです。
「暑熱順化」とは簡単にいうと、夏の暑さに向けて発汗作用を調整し熱放散しやすい身体にしていくことで、
そのためには気温が20度~25度の時期に外で身体を動かすことがポイントだそうです。
ですから最初から無理は禁物、水分を取りながら日光のもとで少しずつ身体を慣らして行きましょう。

さて、今日のコラムは川瀬先生、著作権法上の侵害行為その3です。
時間のある方はバックナンバーでその2を復習してからご覧ください。
前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━

著作権法上の侵害とみなす行為について
(その3)
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2 侵害とみなす行為の具体的類型(続き)

(5)技術的利用制限手段の回避を行う行為(113条3項 平成28年TPP整備法に基づく著作権法改正で創設)

ITの時代の到来とともに、デジタル複製が普及し、消費者は特に音楽や映像作品について高品質の複製物を作成することができるようになりました。
このような行為は主として家庭内で行われていますが、私的領域の著作物等の複製については、現行法の制定以来長い間、無許諾・無償で複製ができるようになっていました(当初の30条)。
この家庭内の録音録画の問題については、家庭内で高品質のデジタル複製が行われ、
しかも社会全体として膨大な量の複製が行われることにより権利者の利益を脅かしているのではないかとの指摘があり、
1992(平成4)年の法改正により、私的録音録画補償金制度が導入されたところです(30条2項)。

これと並行して、権利者側と機器メーカとの間の話し合いにより、特に私的領域における無制限の複製を禁止又は抑制するために複製を制御する仕組みが導入されるようになりました。
例えば、音楽CDは、それを専用機で複製する場合は、CDからの複製(第一世代の複製)は自由にできるのですが、複製の複製(第二世代以降の複製)はできません。
また、劇映画等のDVDやBDは、一般に第一世代の複製もできません。
さらに最近では地上派デジタル放送の録画に関する複製制限(ダビング10)やインターネットへの送出禁止、
コンテンツのネット配信における複製等の制限があり、多くの分野で複製等の制限が導入されています。

この複製、公衆送信等の著作物等の利用行為を電磁的方法により防止又は抑止する手段を著作権法では「技術的保護手段」(2条1項20号)と定義していますが、
1999(平成11)年の法改正により、私的使用の目的を持って当該技術的保護手段を回避して行う複製が私的使用のための複製(30条1項)の対象外になるとともに(30条1項2号)、
回避装置や回避プログラムを公衆に譲渡・貸与したり、譲渡・貸与のための当該装置等の製造を行った者等や回避行為を行うサービス事業者は罰則が適用されることになりました(120条の2第1号、同2号)。
なお、私的使用目的で回避行為を行った者の行為は軽微であるとして当該者への罰則の適用はありません。

この技術的保護手段の回避規制については、1996(平成8年)に作成された「著作権に関する世界知的所有権機関条約」(WCT)と
「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約」(WPPT)において、「技術的手段の回避を防ぐための適当な法的保護又は効果的な法的救済」が義務付けられており、
両条約を締結するために必要な改正でした(WCT11条、WPPT18条)。

両条約の「技術的手段」とは、一般に、複製等の支分権該当行為の制限(複製等制限)だけでなく、視聴制限も含む広い概念と理解されています。
ただ、法的保護等の範囲については、WCT等の場合、各国に広い裁量権が認められていましたので、
わが国では、1999(平成11)年の法改正により、上記の通り、複製等制限に係る行為規制と機器規制を行いました。
また同年に不正競争防止法が改正され、営業上用いられている「技術的制限手段」(これは、複製等制限か視聴制限かの区別がなく、
両手段が該当します)に係る回避装置等の譲渡等が規制されることになりました(機器規制)。
なお、不競法は事業者間の競争秩序の維持が目的の法律ですので、行為規制は定めていません。

ところで、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)では、WCT等と同様に技術的手段の回避規制が設けられましたが(18・68条)、
行為規制と機器規制(サービス提供行為を含む)の両方の義務が明記されました。

(注)TPPは米国の離脱により発効の要件を欠くことになりましたが、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(TPP11)の作成により、TPP18・68条を含む多くの規定がTPP11に組み込まれました(TPP11第1条)。

このようなことから、WCT等と比べてTPPでは各国の裁量権が狭くなったことから、わが国では法改正の必要性が生じたのですが、
外国の著作権法を見ると複製等制限か視聴制限かの区別をしている国はほとんどなく、また不競法で行為規制は実施しにくいこと等から著作権法の改正で対処することになり、
2016(平成28)年のTPP整備法により著作権法の改正が行われました(施行は、TPP11の発効日である2018(平成30)年12月30日)。

この改正により、創設されたのが、このみなし侵害規定です。
音楽を聴く、映画・放送番組を見る、本を読むといった著作物を知覚する、すなわち視聴する行為は本来著作物等の利用行為である支分権該当行為ではないので、
私的使用の目的を持って技術的保護手段を回避して著作物等の複製を行う行為を権利制限の対象外にするというような行為規制はできません(30条1項2号)。

したがって、著作物等の視聴行為を電磁的方法により防止又は抑止する手段を、「技術的保護手段」とは別に「技術的利用制限手段」(2条1項21号)と定義した上で、
著作物等を視聴するために当該手段を回避する行為をみなし侵害としました(113条3項)。
ただし、回避行為を無制限に規制すると大きな影響が出るおそれがあることから、
例えば当該手段に係る研究・開発のためやその他権利者の利益を不当に害さない場合についてはこの規定の適用を除外することとしています。

なお、回避装置等の提供等に係る罰則の適用については、技術的保護手段の場合と同様です(120条の2第1項1号)。

具体的な例ですが、例えばWOWWOWやスカイパーフェクTVのような有料放送については、放送波が暗号化されていますので、利用者が正規の手続きを行い、
暗号が解除されて初めて視聴が可能になります。その有料放送を無料で見るため、例えば、改竄された地上派デジタル放送用のB-CASカードを用いて、
技術的利用制限手段を回避する行為が違法となり、そのような装置を販売・貸与、販売等のために製造した者は罰則が科されることになります。 

説明は以上ですが、著作権法上に「技術的保護手段」と「技術的利用制限手段」の2つの概念が併存し、
しかも不競法にも「技術的制限手段」という概念があることになり、それぞれに定義規定があるとはいえ、
この3者を明確に区分し理解することはかなり難しいと思います。

次回も引き続きみなし侵害規定の説明をします。

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