JRRCマガジンNo.204 デジタル消尽

山本隆司

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JRRCマガジン No.204   2020/5/21
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みなさまこんにちは。
沖縄県は既に梅雨入りしましたが、東京も曇天がつづき、このまま梅雨入りとなってしまうのでしょうか。
せっかくの新緑の季節もゆっくり愛でることなく過ぎてしまうのはさみしい気がしています。
街中は少しずつ停滞した経済活動を取り戻すべく動き始めています。活気が戻る日が待ち遠しいこの頃です。

さて、今回のコラムは山本先生です。コロナ禍で日本ではデジタルコンテンツが急速に普及しました。
また、個人で発信する機会も手段も増えています。テーマはデジタル消尽について、新しい判例の紹介です。

前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/yamamoto/

◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義(87) ━

  -デジタル消尽-

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昨年(2019年)12月19日、欧州司法裁判所は、デジタル消尽について新しい判決(Tom Kabinet事件)を出しました。
デジタル消尽についてのこれまでの欧州司法裁判所の判決をたどりながら、この判決の持つ意味を見ていきたいと思います。
 
2012年7月3日、欧州司法裁判所は、中古ソフトの販売について判決(UsedSoft事件)を下しました。
コンピュータプログラム指令(Directive 2009/24/EC)によって保護されるコンピュータプログラムに対する頒布権が争点になりました。
コンピュータプログラムについて、
①権利者が著作物を複製したCDなど有形的媒体の販売だけが「first sale」に該当するのか、
②権利者が購入者にダウンロードさせてできたPC内の複製物もライセンス契約の締結によって「first sale」に該当するのか、
③権利者が配信して受信者のPC内にできた複製物についても「first sale」に該当するのか、が一つの争点となりました。
裁判所は、①だけでなく、②も「first sale」に該当すると判示しました。
さらに、裁判所は、②の場合について、ユーザーAが権利者と契約してAのPCの内の複製物を消去した上で、
ユーザーBに再度同じ著作物を権利者からダウンロードさせて複製物をBのPC内に作ることは、
当該複製物の「再販売」に当たり、この行為に対しては権利者の頒布権が消尽すると判示しました。

Tom Kabinet事件では、ダウンロードして閲読する電子書籍に対する頒布権が争点になりました。
欧州司法裁判所は、もっぱら情報社会指令(Directive 2001/29/EC)の元になったWCT(WIPO Copyright Treaty)の解釈に基づいて、
①権利者が著作物を複製したCDなど有形的媒体の販売だけが「first sale」に該当し、
②権利者が購入者にダウンロードさせてできたPC内の複製物もライセンス契約の締結によって「first sale」に該当しないと判示しました。
したがって、電子書籍をダウンロードしてできた複製物には、頒布権は及ばず、公衆伝達権(とりわけ公衆利用可能化権)のみが及び、
その複製物の利用に対する権利について消尽は生じないと結論づけています。

なお、Tom Kabinet事件判決は、UsedSoft事件判決を破棄していません。
情報社会司令は、その保護対象からコンピュータプログラムを除いています。
そこで、この判決は、コンピュータプログラムとそれ以外の著作物とを切り分け、
コンピュータプログラムについてはなおもUsedSoft事件判決を先例として残しています。
電子書籍にはコンピュータプログラムも含まれていますが、コンピュータプログラムは主たる著作物ではなく、
付随的なものに過ぎないとして、電子書籍に情報社会指令による保護を認めています。
 
ところで、なぜ頒布権という権利が認められているのでしょうか(頒布権の目的)。
なぜ、複製物のfirst saleには、頒布権の消尽が認められているのでしょうか(消尽制度の目的)。
 
いろいろな制度目的が考えられますが、結局のところ、違法複製物が市場で流通することを阻止することを目的とする権利ではないでしょうか。

しかし、各国の著作権法は、それぞれ別の理由で、違法複製物だけでなく、適法複製物についても頒布権が及ぶと考えています。
アメリカ法では、適法複製物が盗まれた場合にも頒布権が及び、その流通を阻止できることを頒布権に求めています。
しかし、盗まれた場合に対する救済は財産権一般に共通する問題として民法上の救済があるので、著作権の一支分権としてこれを構成する必要はないように思います。

ドイツ法では、適法複製物であっても、転得者による著作物の鑑賞に対して対価を回収する手段として頒布権を位置づけています。
しかし、10回転売されれば10人の転得者による鑑賞があるのに、なぜ最初の一人の転得者からのみ対価を回収して、
残り9人の転得者からは対価を回収しなくていい(消尽理論)のか、矛盾を生ずると思います。
 
以上のように頒布権の目的を捉えると、コンピュータプログラムか否かを問わず、頒布権の対象とすべきはTom Kabinet事件判決のように、
権利者が著作物を複製したCDなど有形的媒体の販売だけが「first sale」に該当し消尽の対象となると考えるべきように思います。

以上
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