JRRCマガジンNo.206 塞翁記-私の自叙伝13

半田正夫

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JRRCマガジン No.206 2020/6/4
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みなさまこんにちは。

早速ですが蚊に刺されました。

送迎を持つ10分ほどで、少しだけ露出していた足首に4ヵ所、
その刺されたところがかゆいこと、かゆいこと、
かゆみが3日間続いています。
蚊にしてみてもやっと街に人々が戻り、飢えから解放されて嬉しいのかもしれないなと思いながらも、
家に籠っている間に季節は完全に移ってしまったのだなぁと少しさみしい気持ちになりました。

これからの季節、外出の際は虫よけ対策も忘れないようにしましょう。

さて、今回は半田先生の塞翁記です。
病を克服した先生は、いよいよ研究者としての道を歩み始めます。
前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/handa/

◆◇◆半田正夫弁護士の塞翁記━━━━━━
           -私の自叙伝13

第6章 北大助手時代
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■研究テーマの模索

1961年4月、幸いにも私は北大法学部助手に採用された。助手といっても研究助手で、現行法制のもとでは助教といわれ、研究者の末端に位置付けられることになった。
任期は3年である。学生のころから指導教官は五十嵐教授であったから当然五十嵐教授のもとにつくことになった。
挨拶に伺うと教授は、「私は東大の助手時代に恩師の山田晃先生から、お前の好きなテーマを選んで自由にやっていいと言われて、非常に有難かった。
そこで君にも同じように扱いたいから、自由にやってくれたまえ。」との言葉をいただいた。
修士論文との兼ね合いから不法行為における損害賠償範囲の問題を続けなければならないと考えていただけにこれは嬉しい言葉だった。
それは、前にも述べたように、損害賠償の範囲の問題は長年扱ってきただけにいい加減これに食傷気味であったのと、
東大の平井宜雄助教授の素晴らしい論文が出たことで怖気がついていたからであった。
自由にテーマを選んでもいいといわれて、その呪縛から解き放たれることになったのである。

そこで、なにをテーマに選ぼうかと夢は大きく膨らんだが、実際にその場になるとハタと当惑することになる。
当時に民法学は東大の我妻栄教授の全盛時代で、壮麗な我妻民法学体系がすでに構築されており、
それが同教授の「民法講義」(岩波書店刊)に結実されていた時期に当たっていた。
われわれ若手研究者の間ではこれが一点の非の打ちどころがない素晴しいもののように映り、いわばバイブル化されていた。
友人同士で議論しているうちに、誰かが「我妻先生がこう言っている」と発言すると、議論はそれで終わりという状態であった。
我妻先生に異を唱えることはタブーだという雰囲気が学会全体を支配しているといっても過言ではない時代であったのである。

そこで、私は毎日暗くなるまで図書館の書庫に入り込み、我妻先生の触れていない格好のテーマを探すのに必死の状態が続いた。

■ウルマ―教授の著作との出会い

ある日のことである。いつものように薄暗い書庫をウロウロしていた私は、一隅に光が差し込んで1冊の本を照らし出しているような感覚にとらわれた。
後になってよくよく考えてみると、だれも手に触れることのなかった本であるうえに、白いカバーで覆われていたために、ひときわ明るく目立っていたのかもしれないが、
当時の私には天の啓示であったかのように感じられたのである。

その本とは、ドイツの著作権法の権威として著名なウルマ―教授(当時はウルマ―が世界的に有名な教授であることすら知らなかったのである)の
「URHEBER-UNDVERLAGSRECHT」、
日本語に訳すと「著作権と出版権」というものであった。なにげなくこの本を取り上げてパラパラめくったところ、
そこに「著作権は財産権と人格権とが渾然一体となった1個の権利である」いう記述を発見し、電気で打たれたようなショックを受けた。
民法学の常識では、財産権は相続も譲渡もできるが、人格権は一身専属権であるから譲渡も相続も許されず権利者と一体不可分であり、
従って両者は水と油であって決して融合することはないものと解されていたのであるが、ウルマ―の見解はこの常識を根本から覆すものであったからである。
なるほどこんな考え方もあるのかと、蒙を啓かれた思いがした。
地球にいれば地球の全体像をみることができないが、地球を離れて宇宙の彼方から地球を見れば地球の全体がよくわかるように、
民法から離れて別の法分野から民法を眺めれば、民法の泥沼にはまっていたのでは見えない新たな展望が開けるのではないかと思うにいたったのである。
まさに天の啓示である。
ときあたかも指導教授の五十嵐先生が博士論文を執筆中で、テーマが人格権であり、
その清書の一部を手伝っていたことも、人格権というコトバが躍るその本に惹かれた一因であったのかもしれない。
 
ちょうどそのころ(昭和36年)、私は高橋叡子と結婚した。
10月3日、挙式は札幌グランドホテルで、媒酌人は五十嵐教授ご夫妻にお願いした。伴侶を得て勇躍一路邁進研究に専念することになった。

つづく
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