JRRCマガジンNo.197 著作権法上の侵害とみなす行為について (その1)

川瀬真

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JRRCマガジン No.197 2020/3/12
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みなさまこんにちは。
ここ数日の東京は春の陽気です。
オフィスにいると外で羽を伸ばしたくなる衝動にかられてしまいます。
近所の虎ノ門ヒルズには空地が多く、各所に椅子が用意されていて
このような日は満席状態で、くつろぐ人の他に仕事をする人も見受けられます。

当センターは通常業務を行っておりますがご利用者様におかれましては
テレワークを行っていらっしゃる方とのやり取りも多くなりました。

現在の事態が収束した頃には、多様な働き方が定着し「働き方改革」が一気に進むのではないでしょうか。

本日は川瀬先生のコラムです。今日から著作権法上の侵害行為についての解説です。
川瀬先生のコラムは、著作権法の学び直しに最適な内容です。
在宅時間が増えているこの頃、是非過去のコラムもご覧ください。

前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━

著作権法上の侵害とみなす行為について
(その1)

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1 はじめに

著作権法では、人格権として著作者人格権及び実演家人格権が、財産権として著作権、著作隣接権及び出版権が定められており、
他人がこれらの権利を侵害すると、法的責任を課されることになっています。
例えば、著作物を権利者に無断で複製すれば、権利制限等の法定の除外事由に該当しない限り、著作権(複製権)侵害を問われることになります。
一方で、ある人の行為は、著作権等を直接侵害しているわけではないが、その行為によって権利侵害が助長されるなど権利者の利益が著しく脅かされることが想定される行為も存在します。
著作権法では、このような行為は著作権等を直接侵害する行為ではないのですが、それと同等の行為、すなわち「侵害とみなす行為」として法的責任を課しています(113条)。

この侵害とみなす行為については、現行法の成立時(1970(昭和45)年)から現在に至るまでにいくつかの類型が追加されています。
侵害とみなす行為の制定の背景には様々な理由がありますので、その理由とともに規定の内容について解説します。

2 侵害とみなす行為の具体的類型

(1)権利者の許諾・同意を得ずに作成された著作物等の複製物(いわゆる「海賊版」)を輸入する行為(113条1項1号)

特許法、商標法等の産業財産権では、輸入に関する権利が定められています。しかし、著作権法では、著作物等の複製物の流通に関する権利として、
映画の著作物については頒布権(26条)が、その他の著作物、実演及びレコードについては譲渡権(26条の2、95条の2、97条の2)及び貸与権(26条の3、95条の3、97条の3)が定められているものの、
輸入に関する権利については認められていません。

この規定は、著作権法で保護されている著作物等に係る権利者に、事実上輸入権を与えた規定と言ってもよいと考えられます。
制限される行為ですが、「国内で頒布する目的をもって、輸入の時において国内で作成したとしたならば、
著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権及び著作隣接権の侵害となるべき行為によつて作成された物を輸入する行為」です。
頒布目的ですから海賊版を輸入して、それを公衆に譲渡(販売等)したり、貸与したりする目的がなければ、仮にそれが海賊版であったとしても適法ということになります。
具体的には、海外旅行で個人視聴を目的として海賊版を買って、それを日本に持ち帰る場合です。
また、国内で作成したとすれば侵害になる行為ですから、例えば条約に加入していない国で権利者の承諾を得ずに作成された物(これは当該国では適法となる)や
外国の著作権法の権利制限規定に基づき作成された物の輸入にも適用されることになります。
 
問題は、国外で権利者の許諾・承諾を得て作成されたものを輸入する場合です。昭和50年代に、「輸入レコード問題」として議論されました。
事の発端は、わが国の音楽著作権の管理団体からの問題提起であり、この規定が正規盤レコードの輸入にも及ぶのであれば、
レコードの輸入業者から改めて音楽著作権の使用料を徴収できるのではないかということでした。
著作権等の知的財産権については、日本の法律は原則として国外には及ばないという属地性の原則から、
日本における著作権と、例えば米国における著作権はたとえ権利者が同一人だとしても別の権利だという考えがあります。
この考え方を厳格に解釈すると、米国で権利者の許諾を得て作成されたレコードにおける許諾の効果は米国内にとどまり、
たとえ日米の権利者が同一人だとしても、そのレコードを輸入すればこの規定の適用があり、
輸入業者が適法に日本にレコードを輸入したければ改めて日本における権利者の許諾を得なければいけないという主張です。

これに対し、著作権法の所管官庁である文化庁は、この規定は権利者の許諾を得て作成された物(レコードに限らない)の輸入を想定した規定ではないので、
正規版の輸入には適用されないとしたため、使用料の徴収は断念されたと聞いております。
なお、この規定に関連して、著作権等の知的財産権を侵害する物品は輸入禁制品として、税関は当該物品の没収・廃棄又は積戻しを命ずることができ(関税法69条の11)、
また罰則の適用もあります(同法109条)(これを一般に「水際措置」と呼んでいます)。

(2)国外で作成された一定の正規盤レコードを輸入する行為等(音楽レコードの還流防止措置)(113条6項)<2004(平成16)年改正>

(1)の解説で、113条1項1号のみなし侵害規定は、レコードに限らず正規版のコンテンツの輸入には適用されないと説明しましたが、
その例外規定がこの規定です。正規盤レコード(権利者の許諾を得て作成された市販用レコード。音楽CDなど)がわが国で適法に流通している場合、
国外で流通している正規盤レコードを輸入する行為等に適用されます。
もともとこの規定は、小泉内閣の際に、資源のないわが国が今後発展していくためには知的財産の創造活用を盛んにし、著作権の分野では優れたコンテンツの創作と市場の拡大、
とりわけ海外へのコンテンツの普及を推進していくという、いわゆる「知的財産立国」を宣言したことに起因します。
2003年(平成15)年に知的財産基本法が施行され、その後毎年知的財産推進計画が策定されるようになると、コンテンツの流通拡大に関しても多くの政策提言が行われるようになりました。
 
その中で問題になったのが、この正規盤レコードの輸入の問題です。
わが国のレコード会社は、邦盤といわれる主に日本人アーテイストが主演したレコードを国内でおおむね3000円程度で販売していますが、
日本の音楽の普及を拡大するためには、日本の音楽が受け入れられやすいアジア地域への進出を促進しようと考えました。
しかしながら、アジアの国とわが国との間では大きな経済格差がある国も多いため、そのような国ではわが国と同様の価格でレコードを販売するわけにはいきませんので、
例えば現地のレコード会社と提携し、原盤の供給を行い、現地で生産したうえで、現地の方が購入できる価格で販売する必要が生じました。
また、レコードを普及させるためには、日本において販売されているレコードと同じジャケット、同じ品質等で、販売する必要もありました。

そこで問題になったのが、現地で誰かが当該正規盤レコードを大量に購入し、それを日本に輸入して、わが国の量販店等において安値で売ることを抑止するための対策でした。
このようなことが横行すると、販売価格が異なる内容が同じレコードがわが国で併存することになり、
わが国のレコード会社から見ると、海外展開を強化・拡大すればするほどわが国において国内正規盤レコードが売れなくなるおそれが出てくるので、
わが国の音楽の海外展開の支障になるのではないかとの危機感があったわけです。

この点については、(1)で説明したように当時制度としてあった海賊版の輸入にかかるみなし侵害規定(113条1項1号)では対応できませんし、
1999(平成11)年の著作権法改正で導入された譲渡権(26条の2等)では
国内のみならず国外で権利者の許諾を得て市場に提供された著作物等の複製物のわが国での再譲渡についても譲渡権が消滅するため(譲渡権の国際消尽)、
著作権法を改正して、特にアジア地域からの正規盤レコードの輸入、販売等を規制する措置を導入してほしいとする要望が政府に提出されました。
一方で、消費者、特に音楽フアンからは、改正法の内容によっては、特に米国等からの安い輸入盤に規制が及ぶのではないかとの危惧が表明されました。
例えば、現在でも同じですが当時米国等のレコード会社から原盤の供給を受け、日本のレコード会社が複製・販売している、いわゆる洋盤といわれる正規盤レコードがありましたが、
その一方で、米国等から直接輸入された同じ正規盤のレコードが洋盤の販売価格より安く販売されており、消費者はどちらのレコードを購入するか自由に選ぶことができる状況でした。
消費者は、著作権法改正により、安い輸入盤が値上がりし、場合によっては輸入が禁止されるような状態になることを恐れたわけです。

このように音楽レコードの還流防止措置については、賛否両論があり、一般国民にとって身近な問題でもあったところから、社会問題に発展したところです。
これについては、還流防止措置自体は、アジア地域への音楽の普及拡大には必要であるとし導入は認められましたが、
一方で米国等の正規盤レコードの輸入など当時行われている輸入事業に影響が及ばない制度設計を行うことで決着したところです。
具体的に制限される行為は、国外で販売等の目的で作成された正規盤レコードを、わが国で販売等の目的で輸入する行為、
当該レコードを国内で販売等する行為及び国内で販売等する目的で所持する行為(倉庫での保管、販売店での陳列等)の3種類です。
また、その適用に当たっては厳格な要件が課されています。主な要件は次のとおりです。

①輸入しようとする正規盤レコードと同じ正規盤レコードが国内で既に又は同時に販売等(発行)されている必要があります。
すなわち、還流防止措置は、正規盤レコードの輸入がわが国で現に流通している正規盤レコードの販売等に大きな影響を与えることを防止することを目的としているので、
競合関係が生じる場合に限定するということです(④により期間の制限あり)。

②正規盤レコードの輸入等を行うと①に定める競合関係が起こるという事情を知って輸入等を行う必要があります。
この立証を容易にし、事情を知らない輸入業者等とのトラブルを防止するため、
文化庁は、国外で販売等する正規盤レコードのジャケット等に日本への輸出制限に関する注意事項を記載するよう指導しています。
なお、関税法に基づく輸入差止の申請を税関に行う際には、この表示が行われていることを示す資料を提出する必要があります。

③①の競合関係が生じているといえるためには、権利者が得ると見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限定されます。
「利益」とは正規盤レコードの売上額ではなく利用許諾の対価(いわゆるライセンス料)のことをいい、国内で販売等される正規盤レコード一枚のライセンス料を1として、
国外で販売等される正規盤レコードのそれが0.6以下であることが「不当に害される」基準としています。
なお、この計算に当たっては、日本銀行が定める「基準外国為替相場および裁定外国為替相場一覧」に基づき計算した各国ごとの基準レートが適用されることになっています。
なお、導入時に問題になった米国等からの輸入盤が規制の対象になった例はないと聞いています。

④国内で販売等される正規盤レコードが最初に販売等(発行)された日から起算して4年以内(法律では7年以内。政令で4年)であること。
すなわち、当該期間を過ぎれば、正規盤レコードの輸入等は、仮に国内において正規盤レコードが流通していたとしても自由に行えるということになります。

主な要件については以上のとおりですが、
詳細について知りたい方は、文化庁のHP(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h16_hokaisei/)を参照してください。
また、基準レートや対象レコードの一覧等を知りたい方は日本レコード協会のHP(https://www.riaj.or.jp/f/return/)を参照して下さい。

次回も引き続き侵害とみなす行為の解説をします。

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