JRRCマガジンNo.196 写真撮影上の工夫

山本隆司

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JRRCマガジン No.196 2020/3/5
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みなさまこんにちは。
今日は写真における創作性についてのコラムです。
写真家の田沼武能先生が今年度の文化勲章を受章されました。
写真分野では史上初の受章となり、多くの写真家が先生の受章を喜びました。

田沼氏は報道写真から世界の情勢とその中で生きる子供たちを中心に撮影していらっしゃいますが、
写真家には、報道写真、スポーツ写真、風景写真、広告写真、商品写真、肖像写真など
数多くの専門分野で活躍している方が多くいらっしゃいます。

私は商品写真や広告写真の仕事に多く携わってきましたが、同じ商品を撮影するにも撮り方によって、
仕上がりは全く異なります。商品写真であれば、リアルであればあるほど良しとされる写真、
リアル感よりもシズル感を重視する写真さまざまです。

このことを著作権上の創作性として立証する場合は一体どのような要素が必要なのでしょうか。

前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/yamamoto/

◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義(85) ━

  -写真撮影上の工夫-

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東京地裁は、令和元年9月18日、商品写真の創作性を肯定する判決を下しました。
3次元の被写体を撮影した写真であれば、創作性を肯定することには違和感はありませんが、
その認定方法に問題があるように思います。
この判決では、原告の商品写真61点すべてについて、
商品の形状や質感等を「視覚的に認識しやすいものとなっており、商品の販売用写真として相応の工夫がなされている」と認定し、
「写真の表現上の諸要素につき相応の工夫がなされており、撮影者の思想又は感情が創作的に表現されている」と述べて、創作性を肯定しました。

撮影上の工夫に創作性を認める判決は、この判決以外にもよくありますが、いくつかの疑問が生じます。

第1に、撮影上の工夫を創作性に求めることは、表現方法・表現手法における新たなアイデアを要求しているのではないか、という疑問があります。
著作権は、表現自身を保護するものであって、表現の手法というようなアイデアを保護するものではありません。
判決は、「写真の表現上の諸要素につき相応の工夫」と言っているので、表現に特徴があるということを間接的に言っているのだと思います。
 
第2に、創作性を工夫というような努力に認めている(額の汗の理論)のではないか、という疑問があります。
如何に努力しても個性が表現に表れていなければ、著作権で保護されることはありません。
逆に、何ら努力をしなくても個性が表現に表れていれば著作権で保護されます。
たとえば、天才的な芸術家は、何の工夫もせずに独創的な作品を作ります。表現上の特徴と表現上の工夫とは同義ではありません。
おそらくこの判決は、その努力の結果、表現に特徴が生まれたということを間接的に言いたいのだと思います。
しかし、そうだとすれば、端的に表現上の特徴の有無を議論すればいいのであって、その原因である「工夫」を問うべきではないと思います。
 
第3に、創作性は、工夫によって一般の写真を越えるプラスの付加価値を表現に付け加えたことに認めているのではないか、という疑問があります。
しかし、工夫によってプラスの付加価値を付けることも、創作性とは無縁だと思います。
醜悪に作ることもそれが独創的であれば、明らかに個性が存在し、創作性が認められるべきことは明らかです。
結局、プラスの付加価値であろうがマイナスの付加価値であろうが、そもそも付加価値があろうがなかろうが、
作者の個性が表現に現れていれば、創作性を認めていいのだと思います。
結局、表現上の工夫を基準に創作性を認めることは、創作性概念に以上のような誤解を招くおそれがあるので、適当とは思えません。

創作性の認定においては、端的に、どこに表現上の特徴があるか、作者の個性がそれを作り出したかを問えばいいと思います。
写真における表現には、①具体的な影像自体のほか、当該影像を作り出している、②被写体の選択、③構図の設定、④照明の設定などがあると思います。
ただ、被写体の選択や、構図を構成する各要素や、照明方法などは、それ単体ではアイデアであって、その組み合わせが表現の要素になると考えられます。
たとえば、原告の商品写真には、ネクタイの写真があります。ネクタイの中程を波打つように浮かせた構図を採っています。
①具体的な影像自体については、他人が撮った写真と識別可能なので、作者の個性を認めていいと思います。また、③構図にも作者の個性を認めていいと思います。
少なくともこの2点の表現上の特徴に創作性を認めることができると思います。

では、第三者がこの写真の構図を真似て他のネクタイの写真を撮った場合に、この写真の著作権を侵害するでしょうか。
ここで複製されているのはネクタイの中程を波打つように浮かせた構図です。
他の表現要素の複製がなければ、アイデアの複製でしかないので、著作権侵害とはならないと考えられます。
また、原告の商品写真には、フロアーマットの写真があります。ここでは、被写体の選択は商品写真の性質上不可避であり、
構図も照明もありふれたものとして個性を認めるのは困難だと思います。
しかし、①具体的な影像自体については、他人が撮った写真と識別可能なので、作者の個性を認めていいと思います。
この写真をデッドコピーした場合には、当該具体的な影像の複製があるので、著作権侵害は成立すると思いますが、
他人が同じ商品を似たような構図と照明で撮影しても、当該具体的な影像の複製はないので、その写真には著作権侵害は成立しないと思います。
 
なお、絵画のような2次元のものを撮影した写真には、被写体を忠実に再現したものであればあるほど、創作性は認められないと思います。
被写体を忠実に再現するには相当の工夫が必要です。しかし、工夫自体が創作性の基準でないことは前述のとおりです。被写体を忠実に再現した写真であっても、
①具体的な影像自体という作者の表現は存在します。しかし、被写体を忠実に再現した写真は、被写体自身の表現と写真の表現とが識別困難となるために創作性が否定されると考えられます。
 
以上の分析は、創作性を表現の創造性、非自明性および識別可能性という3つの基準からアプローチするものです
(詳しくは、著作権情報センター「コピライト」2019年4月号)。妥当な結論に適合するように思います。

以上
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