JRRCマガジン No.161 柔軟性のある権利制限について(その2)

川瀬真

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JRRCマガジン No.161  2019/3/22
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◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話 ━━━━━━━━━━━━━
第31回 「柔軟性のある権利制限について(その2)」
(2009(平成21)年の著作権法改正の関連部分)
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3 2009(平成)21年の著作権法改正
(1)背景
 前回説明したように、「デジタルコンテンツ流通促進法制」につ
いては、「ネット法」のような著作権法の特別法で対応するのでは
なく、①「コンテンツの二次利用に関する課題として、権利者不明
の場合の利用の円滑化」、②「インターネット等を活用した創作・
利用に関する課題として、関連の権利制限規定の見直し」、③「権
利者が安心してインターネットにコンテンツを提供するため環境整
備としての海賊版の拡大防止策」の3つの柱について著作権法を改正
すべきであるとの文化審議会著作権分科会の提言を受け、著作権法
の改正が行われました。
 
(2)改正の内容とフェアユース法理との関係
 改正部分のうち権利制限規定については、関係機関等からの要望
を踏まえ事項を整理した上で、法改正が必要な事項については個別
制限規定方式で規定されました。個別制限規定方式というのは、わ
が国においては一般的な規定方法で、著作物等の利用目的、利用条
件等を限定した上で、対象となる利用行為について個別に規定して
いく方法です。前回記述したように法改正前に、民間を中心にフェ
アユース規定のわが国の導入について議論のあったところですが、
まだ課題の整理の段階で、法改正の手法として取り入れるまでの議
論の成熟はありませんでした。

(3)改正の具体的な内容
①権利者不明の場合の利用の円滑化(67条1項及び103条の改正、67
条の2の新設、)
(1)の①関連の改正です。前回説明したように映像コンテンツの
流通の中でも過去の放送番組の需要が多いにもかかわらず、放送番
組のビジネス上の特殊性から、ネット配信する場合は改めて権利者
と契約を結び直す必要がありました。この契約については、法改正
を行わなくても、ネット流通の拡大を踏まえ権利者や権利者団体と
の協議を通じ契約ルールの変更を行えば解決ができるのですが、権
利者の中には再契約をしたくても連絡先が不明で連絡ができず、契
約交渉ができない結果、コンテンツの二次利用ができないことにな
るおそれがありました。
そこで権利者不明の場合に権利者に代わって文化庁が著作物の利用
を強制的に認めるという裁定制度(67条)の拡充と手続き明確化等
が行われました。
具体的には、
ア 改正前の裁定制度は、著作物の利用に限定していましたが、そ
れを実演、レコード等の著作隣接権にも拡大しました。
イ 改正前の裁定制度は、文化庁による裁定後に著作物を利用する
必要がありましたが、改正後は一定の条件が整えば、裁定の申請を
すれば裁定前であっても利用ができることになりました(申請中利
用制度の創設)。
ウ 利用者は権利者に連絡するために相当の努力を払う必要がある
のですが、その内容を明確化しました。

②インターネット等を活用した著作物利用に関する権利制限規定の整備
(1)の②関連の改正です。改正項目はかなり多岐に渡りますが、
重要な事項のみについて説明します。なお、これから説明する権利
制限規定は、昨年(2018年)の著作権法改正で整理統合され、条文
の規定方法が大きく修正されたうえで、本年(2019年)の1月から
施行されていますので、改正前の条文を旧〇○条、改正後の条文を
新△△条と表記します。

ア インターネット情報の検索サービスを実施するための権利制限
(旧47条の6、新47条の5)
 検索エンジンサービスについては、インターネット上の情報を収
集・格納し(クローリング)、検索用インデックス及び検索結果表
示用データを作成・蓄積し、検索結果を表示するという手順を経て
行われます。これらの過程においてネット上の情報(著作物)の複
製・公衆送信等が行われることになりますが、これらの行為を適法
とする権利制限規定はなく、そのことが原因でわが国独自の検索エ
ンジンが開発できないという指摘があったところです。
 検索サービスは、著作物をアーカイブ化して、著作物そのものを
提供するサービスとは異なり、あくまで著作物の所在情報を提供す
るものですので、権利者の利益を不当に害するとは言えないことか
ら、一定の条件の下で行われる検索サービスの過程で行われる著作
物の複製等について権利制限の対象としました。

イ 情報解析研究のための著作物利用に関する権利制限
(旧47条の7、新30条の4))
 ネット上の著作物を収集・格納し、それらの著作物をコンピュー
タを用いて調査・分析し新たな知見を得ることは、検索エンジンサ
ービスと同様、著作物を他人に提供する行為ではないので、権利者
の利益を不当に害するとはいえないことから、一定の条件の目的で
行われる情報解析のための著作物の複製等について権利制限の対象
としました。
 なお、ここでいう「情報解析」とは、「多数の著作物その他の大
量の情報から当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係
る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。」
と定義されています。当時要望が多かったウエッブ解析、言
語解析、画像・音声解析等を念頭に置いた定義になっています。

ウ 通信過程で行われる送信の障害防止等のための権利制限
(旧47条の5、新47条の4)
 通信過程やコンピュータの使用に伴い、著作物の利用者が意識し
ていないところで著作物の複製が行われています。このような利用
は、通信やコンピュータの使用の効率化を図るための技術的問題を
解決するためのものであり、著作物の送信等にともなう付随的・不
可避的な利用といえます。著作権法では、瞬間的・過渡的な蓄積を
除く一時的な蓄積も複製に該当すると解されていますので、一時的
な蓄積も含め通信過程で行われる複製について権利制限の対象とさ
れました。
 なお、対象となる行為ですが、インターネットサービス事業者等
が行う①アクセスの集中による送信の遅滞や故障による送信の障害
の防止(ミラーリング)、②サーバーの障害に備えたバックアップ
の作成、③送信の中継の効率化等のための複製についてです。

エ コンピュータの使用時に行われる複製のための権利制限
(旧47条の8、新47条の4)
 ウと同様の理由により、コンピュータの使用時に行われる一時的
な蓄積(キャッシュ)等の複製について権利制限の対象とされました。

③海賊版の拡大防止策
ア海賊版の頒布の申出の違法化(113条1項2号の改正)
 改正前の著作権法では、著作権等を侵害する行為によって作成さ
れた物(海賊版)の頒布(例 お店や通販での販売・賃貸)及び頒
布のための所持(例 お店や倉庫での保管、お店での陳列)等につ
いては、著作権等を侵害する行為(みなし侵害)として違法でした。
 ネット時代になって、ネット上のHP等を使って海賊版の販売等の
申し出を行い、消費者から注文を取ったうえで、海賊版業者が海賊
版を作成するという事例が多くなりました。
 この場合、注文を取る業者と海賊版を作成する業者とが異なる場
合もあることから、海賊版の拡散を防止するため、頒布又は頒布の
ための所持だけでなく、頒布の申出についても違法とされました。

イ 違法公衆送信を受信して行う著作物等の私的使用目的の録音録
画の違法化(30条1項3号の創設)
 私的使用目的の録音録画については、従来から国民の間で広範囲
に行われており、そのことが権利者の利益を不当に害しているとの
指摘が行われ、わが国も含め多くの国で補償金制度の導入により権
利者の利益と消費者の利益の調整を図っています(30条2項)。
わが国の場合、この補償金制度の見直しの中で、違法にアップロー
ド(送信可能化)された海賊版サイトからの私的使用目的の録音録
画についても権利者が補償金を受領することによって事実上権利者
がこのような録音録画を容認したことになるのは問題であるとの指
摘がありました。
 また、海賊版サイトについては、著作権等を侵害する行為により
アップロードされているので違法性は明らかなのですが、それに対
する法的措置をするのは困難な場合も多く、海賊版サイトを少しで
も減少させるためには、アップロードとダウンロードの両面から法
的措置を可能にさせることが効果的であるとの指摘もあったところ
です。
 このようなことから、著作権等を侵害する自動公衆送信を受信し
て行うデジタル方式の録音・録画を、違法送信であるとの事実を知
りながら行う場合は、仮にその行為が私的使用のために行われたと
しても、私的使用のための複製(30条)の適用はないとされました。
 なお、個々の利用者の行為は軽微であるとして罰則の適用はない
こととされましたが、その後の2012(平成24)年の改正で罰則が適
用されることになりました(そのことについては次回に説明します)。 

 次回は、権利制限の一般規定(日本版フェアーユース規定)の導
入の経緯等やそれに伴う2012(平成24)年の著作権法改正について
解説します。
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