JRRCマガジンNo.232 著作物とは何かについて(その5)

川瀬真

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JRRCマガジン No.232 2021/3/4
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みなさま、こんにちは。

東京都内に事務所がある当センターも、東京都の緊急事態宣言の
継続と解除時期が気になるところです。宣言が延長されてもされ
なくとも、気を緩めず感染症対策を今一度確認したいものです。

さて、本日の著作権よもやま話は、ビデオゲーム、プログラムや
映画の著作物についての解説です。

前回までのコラム
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━

 著作物とは何かについて(その5)

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4 著作物かどうかの具体例(続き)
(4)ビデオゲーム
ビデオゲームのソフトの部分はプログラムの著作物であり著作権保護があることに異論を唱える人はいないと思います。
また、ゲームの種類や内容によっては、画面に投影される連続的な影像が映画の著作物として保護されることもよく知られています。
このように著作物の例示規定(10条1項)に照らして、1つの作品が複数の種類の著作物として保護対象になることは珍しいことではありません。
例えば、「書」は言語の著作物であると同時に、美術の著作物の性格を併せ持つ場合があります。前回説明したように、観光地図や鳥瞰図も地図の著作物であり、美術の著作物でもあるということがありえます。

ビデオゲームの場合、そのプログラムが著作権法上の著作物であることは1985(昭和60)年の著作権法改正により明確になり、また今日ではベルヌ条約上の著作物に該当することの国際的なコンセンサスも存在します。
また、映画の著作物としての保護も多くの下級審判例と2002(平成14)年の最高裁判例等により定着しているところです。

このようなことから、本稿では、法改正の経緯や内容、判例の内容等も含め解説することにします。

①プログラムの著作物
コンピュータ・プログラムの法的保護の問題は、現行著作権法の制定当時(1970(昭和45)年)からの課題でありました。
現行法の施行後すぐに著作権審議会(現在の「文化審議会著作権分科会」)の第2小委員会において検討が行われ、1973(昭和48)年に報告書が提出されました。
そこでは、「プログラムの多くは、いくつかの命令の組み合わせ方にプログラムの作成者の学術的思想が表現され、かつ、その組み合わせ方およびその組み合わせの表現はプログラムの作成者によつて個性的な相違があるので、プログラムは、法第2条第1項第1号にいう『思想を創作的に表現したものであつて、学術の範囲に属するもの』として著作物でありうる。」とし、プログラムの著作権法による保護の可能性を示唆しました。

その後、ゲームセンターや喫茶店等にゲーム機器を設置して消費者がゲームを楽しむ方法が爆発的に普及し、その過程の中でゲームソフトの無断複製による模造品が多く出回るようになりました。
そこでゲームソフトのメーカはプログラムの著作権を侵害されたとして各地で訴訟を提起しました。
プログラムの著作物性を最初に認めた事例が「スペース・インベーダ・パートⅡ」事件東京地裁判決(1982(昭和57)年12月6日)であり、そこでは前記の第2小委員会報告書も引用しながら、プログラムの作成過程等の詳細な分析をしたうえで著作物性を認定しています。

また、この時期、プログラムの法的保護を国際問題にまで発展させた事件がありました。
1982(昭和57)年に米国のシリコンバレーでわが国のコンピュータメーカの社員がIBMコンピュータの互換情報を盗み出そうとした疑いで逮捕されました。
この時代、IBMは世界のコンピュータ市場を独占しており、特にわが国のコンピュータメーカは、政府の支援もありIBMコンピュータとの互換性がある機器を販売することでビジネスを展開していました。
したがって、わが国のコンピュータメーカにとって、IBMの新型機種の互換情報は必ず入手しなければいけない情報だったことになります。
米国政府は、それまでIBM互換機の開発・販売を黙認していたのですが、この事件はその政策を転換し、プログラムの法的保護を強く主張する象徴的な事件といわれています。
この事件を契機としてわが国では、著作権法による保護を主張する文部省(現在の「文部科学省」)と特許権的な色彩が強い特別法(プログラム権法)による保護を主張する通商産業省(現在の「経済産業省」)との間で激しい意見対立がありました。
当時の通産省はIBM互換機の製造販売を支援していましたので、例えば強制許諾制度の導入が可能な特別法での保護にこだわったという事情がありました。
しかし、1985(昭和60)年2月に開催されたWIPOとユネスコの合同専門家会議で世界の大勢は著作権による保護ということが明らかになり、同年の通常国会にコンピュータ・プログラムの著作権保護を明確化する著作権法の改正案が提出され成立したところです。
なお、プログラムの著作物がベルヌ条約上の著作物であることは、各国の合意事項でありますが、例えば1996(平成8)年に作成された「著作権に関する知的所有権機関条約」(WIPO著作権条約)においては、「コンピュータ・プログラムはベルヌ条約第2条に定める文学的著作物として保護される」(4条)と明記されています。

このような経緯から、今日ではプログラムが著作権で保護される対象物であることは明らかであり、ゲームソフトについても同様です。

②映画の著作物
前期のスペース・インベーダ・パートⅡ事件と時期を同じくして、ゲームの実行に伴いブラウン管に投影される連続的な影像が映画の著作物の上映に該当するかどうかが争われた訴訟がありました(「パックマン事件」東京地裁判決<1984(昭和59)年9月28日>)。
著作権法上、映画の著作物は、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む」(2条3項)と定義されています。
本事件では、表現方法に関し、「『パックマン』はテレビと同様に影像をブラウン管上に映し出し、60分の1秒ごとにフレームを入れ替えることにより、その影像を動いているように見せる」ものであり、この方法は2条3項で定義されている表現方法に該当するとして、パックマンの連続的な影像は映画の著作物であり、その無断上映は上映権(22条の2)を侵害すると判示しました。

その後、ビデオゲームは進化し、家庭用のテレビゲーム機が普及し、ゲームの内容も例えば主人公が様々な困難を乗り越え目標を達成するまでのストーリが展開されるいわゆるロールプレインゲームや、戦略、経営、歴史、乗り物等を仮想的に体験できるシミレーションゲームが販売され、その内容も多様化・複雑化するようになってきました。

このような中で、ストーリ性を有するロールプレイングゲーム等が映画の著作物といえるかどうか、映画の著作物であるとすればゲームソフトの中古販売は映画の著作物の頒布権(26条1項)を侵害するかどうかが争われた事件の判決がありました(「中古ゲームソフト事件」最高裁判決<2002(平成14)年4月25日>)。
被告側は、映画の著作物であるためには、「著作者の思想又は感情基づいた一貫した流れのある影像が表現されており」、かつ「同一の影像が常に再現される」ことが必要であると主張しましたが、「ディスプレイの画面上に表示される動画影像及びスピーカーから発せられる音声は,ゲームの進行に伴ってプレイヤーが行うコントローラの操作内容によって変化し,各操作ごとに具体的内容が異なるが,プログラムによってあらかじめ設定される範囲のものである。」として、ゲームソフトの連続的影像を映画の著作物であるとした高裁の判断を支持しました。

なお、頒布権侵害ですが、頒布権の譲渡部分については映画フィルムの配給制度を踏まえ創設されたものであること、製品の円滑な流通を確保するため判例で認められた特許権の消尽理論等にかんがみ、適法に販売されたゲームソフト(映画の著作物)の再譲渡には頒布権は及ばないとし、ゲームソフトの中古品の販売は適法であるとしました。
なお、ゲームソフトは前述したようにプログラムの著作物でもあります。映画の著作物以外の著作物については頒布権ではなく譲渡権(26条の2第1項))が認められていますが、当該権利は一旦適法に市場に譲渡されるとその再譲渡には譲渡権が及ばないことが著作権法上明記されています(同条2項)。
したがって、ゲームソフトが、プログラムの著作物と映画の著作物の二面性を有しているとしても、当該商品の中古販売については著作権が及ばないことになります。

以上の裁判例からロールプレイングゲームについてはおおむね映画の著作物と認められると考えられます。

また、シミレーションゲームについては、恋愛シミレーションゲームについて映画の著作物と認めた「ときめきメモリアル事件」大阪高裁判決(1999(平成11)年4月27日 最高裁(2001(平成13)年2月13日判決)も高裁の判断を支持)もありますが、一方でデイスプレイ上に現れる影像等について「影像も連続的なリアルな動きを持っているものではなく、静止画像が圧倒的に多い」として映画の著作物性を否定した事例もあります(「三國志Ⅲ事件」東京高裁判決<1999(平成11)年3月18日>)。
このようなことから静止画が中心のシミレーションゲーム等については、映画の著作物として認められないものもあると考えられます。

以上で「著作物かどうかの具体例」を終わりますが、
次回は著作権法において著作物でないことを明記している10条2項及び3項の著作物でないものを中心に説明をします。

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