JRRCマガジンNo.349 フランス著作権法解説5 著作者人格権

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JRRCマガジン  No.349 2023/12/14
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◆今回の内容
【1】井奈波先生のフランス著作権法解説
【2】【12/15開催】JRRC無料オンライン著作権セミナー開催のご案内(本日受付締め切り!)
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皆さま、こんにちは。

今年も年賀状を書く時季がやってきました
いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は井奈波先生のフランス著作権法解説の第5回目です。

井奈波先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/inaba/

◆◇◆【1】井奈波先生のフランス著作権法解説━━━
第5回 著作者人格権
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(注)フランス語の表記については、アクセントを省略しております。
1 はじめに
 第5回目は、フランス著作権法の大きな特徴の一つである著作者人格権について説明します。フランス著作権法は、111-1条2項に、「この権利は、この法典第1編及び第3編に定める知的及び人格的特質並びに財産的特質を包含する」と規定し、著作者の権利には、財産権と人格権という性質の異なる権利がある(二元論)ことを明確にしています。フランスにおける著作者人格権は、判例により形成され、立法に取り入れられたものです。著作者人格権は欧州指令に規定がなく、EU法における調和がないため、国内法の特徴が最も現れる分野といえます。
 今回は、著作者人格権の概要を説明した後、同一性保持権に関する判例を2件取り上げます。

2 著作者人格権の種類
 フランスの著作者人格権には、公表権、氏名表示権、同一性保持権、修正・撤回権という4種類の権利があります。ここでは、日本法に合わせて氏名表示権・同一性保持権としますが、条文を直訳すると、氏名表示権は「名前や資格の尊重に対する権利(droit au respect de son nom, de sa qualite)」、同一性保持権は「著作物の尊重に対する権利(droit au respect de son oeuvre)」となります。修正・撤回権は、日本法に存在しない権利です。

3 各権利について
 公表権:121-2条1項は、「著作者のみが、その著作物を公表する権利を有する。第132-24条の規定に従うことを条件として、著作者は、公表の方法を決定し、かつ、公表の条件を定める」と定めています。したがって、公表権は、公表するかどうかを決めるだけでなく、その方法や条件を決めることもその内容であることが明確になっています。著作物を公表するということは、著作者が著作物を公の評価に委ねる行為です。そのため、著作物を公の評価に委ねて良いかどうかの判断を、著作者が決定できることとしたのです。
 氏名表示権:121-1条1項は、「著作者は、その名前、資格および著作物の尊重を要求する権利を享有する」と規定しています。このうちの「名前、資格の尊重を要求する権利」が氏名表示権です。これにより、著作者は、著作物に自己の名を表示するように、また、著作物に別人の名前が表示されないように、求めることができます。さらに、資格や肩書を正しく表示することも求めることができます。著作物の評判は、その著作者に帰せられるものです。そのためには、著作物がその著作者に帰属することを明確にする必要があります。そこで、著作者に氏名表示権が認められます。
 同一性保持権:121-1条1項にある「著作物の尊重を要求する権利」が、同一性保持権です。同一性保持権は、著作物の完全性(l’integrite)の尊重(respect)に対する権利であり、著作者はその著作物を変質させるすべての行為に反対することができます。変質させる行為には、第三者が著作物に切除、付加、改変を加える場合と、著作物に表現された著作者の精神を変えてしまう場合があり、フランスの同一性保持権は、両局面に対処できるものです。つまり、同一性保持権は、著作物を著作者がそうあるべきと望むとおりに完全なまま公衆に伝達するという著作物の完全性の保護と、著作物に表現された著作者の精神の保護という二つの側面を有する権利です。我が国では、名誉声望を害する方法で著作物を利用する行為は、著作者人格権のみなし侵害ですが(113条1項11号)、フランスでは、それと同じようなケースを同一性保持権で保護しているといえます。
 修正・撤回権:我が国の著作権法に存在しない権利で、著作者は、利用権の譲受人に対して、著作物の修正ができる権利(修正権)と、著作者が著作物の利用をやめさせることができる権利(撤回権)を有しています(121-4条)。ただし、修正・撤回権は、事前に損害賠償をしなければならないことなど、権利を行使できる要件が厳格であるため、行使されることが稀で、実務上の存在意義が乏しい権利となっています。

4 著作者人格権の性質
 前回の説明どおり、フランス著作権法には、著作物は著作者の個性の延長であると考える人格主義が根底にあります。著作物は著作者の個性の延長であり、人格の発現であるため、著作者から発せられ著作物に反映された人格が保護されるのは当然のことと捉えられます。
 著作者人格権の性質については、知的財産法典121-1条2項が、「この権利は、 著作者の一身に専属する」と規定し、一身専属性を定めていますが、そこから、譲渡不能であり、差押不可であるという性質が導かれます。さらに、同条3項が、「この権利は、 永続し、 譲渡不能で、 かつ、 時効にかからない」ことを定めています。加えて、同条4項は、「この権利は、 死亡を原因として、 著作者の相続人に移転することができる」と定め、同条5項は、「この権利の行使は、 遺贈規定に基づいて第三者に与えることができる」と定めています。
 ざっと概要を説明しましたが、これらを踏まえて、二つの判例を見ていきます。二つとも、著作物を改変したことに対して、相続人が同一性保持権の侵害を主張した事件です。しかし、結論は異なる結果となっています。この結論の違いをどうとらえたらよいのか、一緒に悩んでいただければと思います。

5 Huston事件(破毀院第1民事部1991年5月28日89-19.522 89-19.725)
 ターナー社は、映画製作者から「アスファルト・ジャングル」というモノクロ映画の著作権を取得しており、同作品のカラー版を製作し放映しようとしました。本件は、監督であるジョン・ヒューストンの相続人が、ターナー社を相手に、著作者人格権(同一性保持権)侵害を理由として差し止めを求めた事件です。ヒューストンは米国法の職務著作として映画を製作し、権利はすべて映画製作者に帰属していました。原審は、本件映画の著作者はターナー社であるとして、ヒューストンの相続人には何らの権利はないと判断しました。
 これに対し、破毀院は、著作者人格権の規定は強行法規であるとして、作品がいかなる国で公表されようと、フランスでは著作物の完全性を侵害することはできないと判断しました。破毀院は、相続人の権利主張を認めましたので、著作者人格権の一身専属性および相続性を認めたことになります。さらに、雇用契約を前提として職務著作として映画製作者に権利が帰属していても、フランス法上、著作者の同一性保持権は公序なので、その範囲で契約は無効ということになります。映画製作者にとっては非常に厳しい判断です。

6 カルメル会修道女の対話事件(破毀院第1民事部2017年6月22日15-28.467 16-11.759)
 「カルメル会修道女の対話(Dialogues des carmelites)」は、ベルナレス脚本・プーランク作曲のオペラ作品です。この作品は複数の版がありますが、問題となったのは2010年のオペラ・ミュンヘンの作品です。問題の作品は、セリフや音楽に対する変更はなかったのですが、クライマックスが変更されたように捉えられるものです。本件は、ベルナレスの相続人が、オペラ・ミュンヘンを著作者人格権侵害で訴えた事件です。原審は、演出が、著作物の意味を修正しその精神を変更するものであるとして、著作者人格権の侵害であると判断しました。
 ところが、破毀院は、表現の自由に対する制約を定めた欧州人権条約10条2項を引用し、原審の決定は、演出家の創作の自由と作曲家および脚本の著作者の人格権の保護との間の公正なバランスがどうであるか検証することなく下されたものであり、法的根拠がない、と判断しました。
 Huston事件からすると、同一性保持権は公序であり、オペラのクライマックス部分を変更するなどもってのほか、という結論になりそうです。しかし、カルメル会修道女の対話事件では、創作の自由とのバランスを考慮し同一性保持権の制約もありうる、という結論に至りました。なお、欧州人権条約10条2項は、Huston事件の判決時にも存在しています。時代が変わったということかもしれませんが、どのように創作の自由とのバランスをとるのかは明確であるとはいえません。

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