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JRRCマガジン No.319 2023/5/11
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◆今回の内容
【1】三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法8
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皆さま、こんにちは。
新緑の香りがすがすがしい季節になりました。
いかがお過ごしでしょうか。
さて、本日は三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法の続きです。
三浦先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/miura/
◆◇◆━三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法8━━
【1】パロディの保護と芸術の自由
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国士舘大学法学部 三浦 正広
ヨーロッパ法のなかでも、フランス著作権法にはパロディを許容する条項が存在していたが、ドイツ著作権法にはそのような具体的な規定は存在しなかった。ところが2021年のドイツの著作権法改正により、芸術表現としてのパロディを許容する条項が新たに設けられた。これまで著作物のパロディ利用に対して、きわめて消極的であったドイツの法政策としては、若干遅きに失した感はあるが、著作権法の現代化に即した画期的な法改正であると評価することができる。
デジタル・ネットワーク時代の到来により、著作物がデジタル化され、改変が容易になったことにより、改変による利用可能性が飛躍的に増大した。風刺、模倣、オマージュ、二次創作、翻案などと同様に、著作物を改変して利用する表現方法の1つとしてパロディがある。とりわけ欧州では芸術表現の一形式として評価されている方法ではあるが、著作物を対象とするパロディについては、著作権法上のトラブルは絶えない。パロディは、全世界的にみられる伝統的な芸術表現であるといえるが、パロディに対する芸術的な理解や評価は、それぞれの国によって異なるだけでなく、それぞれの時代によっても異なり、その定義づけは明確ではない。
ドイツ著作権法にはパロディを許容する明文の規定はなく、パロディなどの芸術的利用は、学説および判例において、旧24条の規定を根拠として認められていた。すなわち、2021年著作権法改正前の規定では、著作物を改変して利用する場合には、著作者の同意が必要であるとされるが(23条1項)、これにより著作者の同意を得て作成された著作物は、著作者の同意を必要とすることなく、自由に利用できるものとされていた(旧24条)。先行著作物の改変による利用形態であるパロディは、この旧24条1項を根拠として許容されていた。
ところが2021年の法改正では、23条の規定の条文構成および文言が改正されるとともに、その自由な利用を認めていた旧24条の規定が削除されることとなった。それに代えて、とりわけパロディ等による芸術的要素を内包する著作物の利用については、著作権の制限規定としてこれらを許容する制限条項が設けられることとなった。制限規定においてではあるが、「パロディ」という文言が明文化されたことで、今後の解釈論の蓄積に拍車をかけ、パロディ利用の要件が明確化されることで、著作物の改変による芸術的利用が促進されると考えることができる。
欧州各国の立法のなかで、古くからパロディを許容する法規定を有していたのはフランス法である。過去の判例や学説によって確立された理論が、1957年制定の著作権法において、著作者は、その著作物の「パロディ、パスティシュおよびカリカテュール」による利用を禁止することができないと規定され、現行法に受け継がれている(知的所有権法典122-5条4号)。これは、著作者の権利のために、表現の自由が抑圧されることがあってはならないとする思想を具体化するものであり、パロディ表現の自由を認めて、その潜在的な利用の可能性を広く許容しようという趣旨であると解されている。
このフランス法の規定を範として、2001年EU情報社会指令(2001年)5条3項kでは、「カリカテュア、パロディまたはパスティシュのための利用」の場合に、加盟国は、著作物の例外または制限を規定することができるとする規定が置かれることとなる。パロディに関する権利制限の可能性を明示するとともに、デジタル時代における著作物の改変による利用を促すことで、著作権の現代化を実践することを目的としていた。この指令を受けて、ベルギー、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポーランドが、同様の著作権の制限規定を設けている。EU法において、パロディの保護政策が積極的に推し進められてきた。
2021年のドイツ著作権法改正では、このEU指令の規定を国内法に導入し、「カリカテュア、パロディおよびパスティシュを目的とする、公表された著作物の複製、頒布および公の再生は許容される。」とする規定が設けられた(ドイツ著作権法 51a条)。法解釈として、これらの概念はいずれも芸術的な概念であって、法律的な定義づけには馴染まない。パロディについてさえ、その意味内容の理解はEU各国において異なっており、域内における統一的な解釈は容易ではない。著作権法上許容されるパロディの判断基準については、各国の文化芸術に対する考え方、これまでの歴史、さらには国民性などが反映されると考えられており、EU域内においても調和が図られているわけではない。文化的アイデンティティを尊重する立場からは、必ずしも調和的な解釈を求める必要もなく、各国の文化の独自性を反映するような解釈がなされるべき領域であるといえよう。
さらに、EUデジタル域内市場(DSM)指令(2019年)においても、インターネット上でのパロディ利用による著作権の制限規定が設けられ(DSM指令 17条7項)、ドイツでは、この指令に基づいて制定された著作権プロバイダー責任法(UrhDaG)5条1項においてオンライン上のパロディが許容されることとなった。
ドイツ法がパロディの許容に向けて重い腰を上げることができた大きな理由として、ボン基本法(GG)で保障されている表現の自由や出版の自由(GG 5条1項)に加えて、基本法 5条3項において「芸術の自由」が保障されていることが挙げられる。このような憲法条項をもたない日本の場合とは異なり、文化芸術に対する認識にも大きな格差があると言わざるを得ない。パロディ許容条項は、各国の文化芸術やエンターテインメントに対する考え方や価値観が直接的に反映される規定であり、各国の文化レベルを見て取ることができる。そもそもパロディという芸術表現を法律的な枠組みのなかに嵌め込むこと自体好ましいことではなく、著作権法の解釈には限界がある。パロディの法的保護の問題は、法律的な視点からだけではなく、文化芸術の観点から幅広く考慮されなければならないテーマである。
日本法においては、パロディ・モンタージュ写真事件の最高裁判決(最判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁)が、著作権侵害の上にパロディは認められないと判示している。控訴審の東京高裁は、憲法21条1項の表現の自由を根拠として、パロディ利用は著作者の権利を侵害することにはならないと判示したが(東京高判昭和51年5月19日民集34巻3号315頁、無体例集8巻1号200頁)、最高裁は、この高裁判決を覆し、表現の自由より著作者の権利を優先させた。
最高裁判決の影響は大きく、さまざまな場面においてその後のパロディ表現を委縮させたと言われている。時代は変わり、デジタル時代に相応しい法政策を求めて、パロディを許容しようと試みる多くの学説が展開されてきたが、著作権法の枠組みを踏み外すこともできず、法改正には至っていない。文化審議会において議論がなされたものの、芸術の自由を尊重するような議論の展開はみられず、法律的に形式的な議論に終始している(文化審議会著作権分科会法制問題小員会「パロディワーキングチーム報告書」(平成25年3月)参照)。
他方、アメリカ法では、表現の自由や公共の利益とのバランスを基礎とするフェア・ユース法理が効果的に機能している(Oh, Pretty Woman事件(Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U.S. 569(1994).)。フェア・ユース法理は、パロディ表現に対して最大限にその効果を発揮する法理であるといえよう。
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