JRRCマガジンNo.318 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)14 著作権(4)

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JRRCマガジン  No.318 2023/05/04
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◆今回の内容
【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)14
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皆さま、こんにちは。

鯉のぼりが気持ちよさそうに泳いでいます。
いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は今村哲也先生のイギリスの著作権制度についての続きです。

今村先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/imamura/

◆◇◆イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)━━━
 Chapter14. 著作権(4)
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                 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授 今村哲也

1. はじめに
今回は、イギリス著作権法(1988年CDPA)で保護される著作権のうち、公の実演、上映又は演奏に関する権利(19条)について、日本の著作権法において相当する権利との比較の視点から、見ていきます。

2. 公の実演権・上映権・演奏権

2.1. 権利の対象と内容
文芸、演劇、音楽の著作物の著作権者は、当該著作物を公に実演する排他的権利(公の実演権)を有しています(19条1項)。また、録音物、映画又は放送の著作権者は、それらを公に演奏または上映する排他的権利(公の演奏権・上映権)を有しています(19条3項)。

条文では、公の実演、上映又は演奏に関する権利(19条1項)とされているので、公衆でない者に対するこれらの行為は、実演権・上映権・演奏権の対象となりません。「公に」の概念については、後述します。

「実演」に関して、講義、演説、講演及び説教の場合には、口演を含むとされています(19条2項(a))。

講義、演説、講演及び説教というのは、言語の著作物を口頭で伝達する行為ですが、日本の著作権法の場合、言語の著作物の口頭での伝達については、実演に該当する場合とそうでない場合とに二分して、前者の場合、口演として上演権(日本著作権法22条)の対象となり、後者の場合には(言語の著作物にのみ認められている)口述権(日本著作権法24条)の対象となります。イギリス著作権法の場合、このような区別をせずに、講義、演説、講演及び説教は、口演であり、実演であるという分類をします。

なお、口演にあたるのは、講義、演説、講演、説教に限定されるわけではなく、歴史的な理由から明示的に言及されているにすぎず、小説や詩を人前で読み上げたり朗読したりすることも、実演権の侵害となる場合があるとされます(Laddie Prescott and Victoria (Laddie et al.), The Modern Law of Copyright, vol.1, 5th ed., LexisNexis Butterworths, 2018, p.800)。

文芸の著作物というのは、言語からなるものになりますが(日本の著作権法にいう言語の著作物)、著作物の種類によっては、何が実演なのかという部分は議論があるようです。たとえば、イギリスの著作権法の教科書では、鉄道の時刻表は列車の走行によって「実演」されるのか、取扱説明書は、工場で働く人たちによって「実演」されるものなのか、といった議論が紹介されています(Laddie Prescott and Victoria (Laddie et al.), The Modern Law of Copyright, vol.1, 5th ed., LexisNexis Butterworths, 2018, p.801:いずれも否定されています)。

また、「実演」に関しては、「一般的に、録音物、映画又は放送による著作物の提供を含むいずれの方法の視覚的又は聴覚的提供をも含む」とされているので(19条2項(b))、著作物が明白に実演される場面のほかに、文芸、演劇、音楽の著作物が、たとえばレコードに記録されている場合には、それらを再生する行為も、権利の対象となります。

この点については、日本の著作権法も、上演、演奏又は口述に、著作物の上演、演奏又は口述で録音・録画されたものを再生することを含んでいますので、同じような考え方です(日本著作権法2条7項)。

日本の著作権法との一番大きな違いといえるのは、イギリス著作権法の下では、録音物の著作権者に演奏権があることでしょう。日本の場合、レコード製作者に演奏権がありませんので、お店などで音楽の著作物が固定されたレコードを再生する場合、音楽著作物の著作権者の許諾を得る必要はありますが(具体的には、JASRACなどの集中管理団体と契約して演奏権の許諾を得ることが多いでしょう)、レコード製作者から許諾を得る必要はありません。

これに対して、イギリスでは録音物であるレコードの著作権者も演奏権を有していますので、そこからも許諾を得る必要があります。

公の実演権等と似たようなものとして、イギリス著作権法には、公衆への伝達権という権利が規定されています(20条)。公の実演権と公衆への伝達権との違いですが、一般論として、公衆が実演する者がいるのと同じ物理的な場所に、物理的に存在する場合には、公衆への伝達権は適用されません。他方で、両者は重複して権利が及ぶ場合もありまして、たとえば、前述のように文芸、演劇、音楽の著作物の放送による視覚的・音響的提示も実演に該当しますが、それは同時に公衆への伝達にも該当することになります(See G. Harbottle, N. Caddick, U. Suthersanen, Copinger and Skone James on Copyright (18th edition, Sweet & Maxwell 2021) paras, 7-174, 175, 176. 以下、Copingerとして引用)。

なお、実演家には、実演権・上映権・演奏権に相当する権利はありません。ただし、実演家は、同意を得ずに作成された録音・録画物の使用によって、実演家の権利は侵害されます(183条)。これを実演家の「非財産権」と呼びます。また、利用可能化権として、実演の録音・録画物に関して、「公衆の構成員がその個々に選択する場所から、かつ個々に選択する時間にその録音・録画物にアクセスすることができるように、電子的送信によって公衆に提供する」という権利を有しています(182CA条)。こちらは実演家の「財産権」と呼びます。オンデマンド送信は、この利用可能化に該当するので、利用可能化権が及びますが、放送は、利用可能化権に含まれません。

2.2. 侵害に関する責任主体
実際に著作物の実演行為が行われる場面やその過程では、さまざまな主体が関わります。では、実演権の許諾を得ないで実演行為がなされた場合に、誰が責任を負うことになるでしょうか。

音楽の著作物を歌唱する歌手など、人為的な手段で公の演奏がなされる場合、侵害者の特定は困難ではありません。たとえば、録音された音楽がクラブで再生される場合、歌詞と音楽の演奏、及び録音物の演奏に主たる責任を負うのは、機器の操作者であり、また、ラジオ・テレビ・サウンドシステムなどの手段を用いて再生される場合、侵害の主要な行為について責任を負う者は、音や画像が生成される装置を実際に操作する者とも説明されます(See Copinger, para 7-183)。

これらの者は一次的侵害行為(primary infringement)、あるいは主たる侵害行為と訳した方が意味を取りやすいかもしれませんが、そうした行為の責任者と分類されます。

また、イギリス著作権法では、日本の著作権法とは異なり、著作権者としての正当な権限がない場合に、他人に著作権に関して許可(authorize)する行為も、著作権の侵害となることが規定されています(16条2項)。したがって、実演する者に演奏等を許可した場合にも、責任を負うことになるでしょう。これは許可責任あるいは許諾責任といわれる、責任類型です。

これらに加えて、二次的侵害行為(secondary infringement)、あるいは副次的な侵害行為と訳した方が意味を取りやすいかもしれませんが、こうした責任も、いくつか規定されています。

たとえば、文芸、演劇、または音楽の著作物の著作権が、公の興行の場所での実演によって侵害される場合、その場所を実演に使うことを許可した人も、侵害の責任があります。ただし、許可を与えた時に、実演が著作権を侵害しないということを合理的な理由で信じていた場合は除かれます(著作権法25条第1項)。ここでいう「公の興行の場所」には、主に他の目的で使用される敷地であっても、公の興行を開催する目的でレンタルされる場合もある場所を含むとされています(同条第2項)。

また、侵害実演等のために機器を提供する者の責任についても、二次的侵害行為に関する定めがあり、一定の要件を満たす場合には責任を負うことになります(26条)。

2.3. 公に行われること
実演権、演奏権、上映権の侵害が成立するのは、対象となる作品の利用が公になされた場合のみとなります。1988年の著作権法の法案が審議される過程で、政府は、家庭内又はそれに準じる範囲を除いたすべての利用を対象に含めて定義することが迫られたようなのですが、結果としては、そのような定義は設けずに、裁判所にその判断を委ねることとされました(Laddie et al., 804)。

公の判断については、通常の場合、観客の性質を見ることで判断ができると言われています。Laddie et al.では、次のように述べられています。

「観客の構成員が、家庭内または家庭内に準じるサークルとして集まっていると言える場合は、そこでの実演は公の場所で行われるものとはいえません。それ以外の場合は、公としての性質があります。したがって、ゲストが参加していることや、実演の対価の支払いの有無、公の場所としては通常使用されない場所で行われていることなどは、大きな意味を持たないことになります。また、聴衆の規模も重要ではありませんが、非常に多くの聴衆が家庭的な範囲にいることを認めるのは難しいと裁判所は判断するかもしれません。このように、「公に」は非常に広い意味を持つことになります」(Laddie et al., 804)。

他方で、観客の性質を判断する上で、著作権者にとって公衆の一部として認めることができる観客であるかを重視する見方もあります(Copinger, 7-185)。観客の構成員が、通常はなんらかの形でその特権に対して支払うような条件の下で作品を楽しむ場合が、特にこれに該当することになるとされます。お金を払って作品を見るような立場の者は公衆だということなのでしょうが、これは公の実演権という著作権を推論する上で、著作権者にとっての公衆とは何かを考察するということなので、循環論法ではないかとも指摘されているところです(Laddie et al., 804)。

以下、イギリスの代表的な著作権法のテキスト(Copinger, 7-187)に示されていた公の実演等に関する事例のなかから公に該当すると認定された事例と、否定された事例を幾つか紹介します。ただし、この判断は、いずれもそれぞれの事案の事実関係にもよることになります。

【固定例】
・村の婦人会が演劇の実演を行ったが、実演者はすべて近隣の婦人会の構成員であり、構成員以外は出席せず、入場料も必要なかった事例(ただし、事実上すべての成人女性がその婦人会に加入する資格を有していた)(Jennings v Stephens [1936] Ch.469)
・工場において、作業時間中に、労働者に対してスピーカーで音楽レコードやラジオを演奏した事例(Ernest Turner, etc. Ltd v Performing Right Society Ltd [1943] Ch. 167)
・一般の公衆が視聴できない状況で、11名の社員の前で、社員への指導を目的としたビデオカセットを上映した事例(Australian Performing Right Association Ltd v Commonwealth Bank of Australia (1992) 25 I.P.R. 157)
・ホテルのラウンジでオーケストラの音楽を演奏したが、その聴衆がホテルの滞在者と食事をしていた一般人であったという事例(Performing Right Society Ltd v Hawthornes Hotel (Bournemouth) Ltd [1933] Ch.855) 
・パブの空きスペースでテレビを上映した事例(Football Association Premier League Ltd v QC Leisure [2008] EWHC 1411 (Ch))
・社交クラブのメンバーとそのゲストからなる聴衆に対して音楽を演奏した事例(Football Association Premier League Ltd v QC Leisure [2008] EWHC 1411 (Ch))
・レコード売上の向上を目的、効果として、一般人が入場料も招待もなしに出入りするレコード店でレコードを演奏していた事例(大部分のレコード店経営者は同様の場合にレコード演奏を停止せずに必要なライセンス料を支払っていたという事実が存在した)(Performing Right Society Ltd v Harlequin Record Shops Ltd [1979] 1 W.L.R. 851)

【否定例】
・家庭で子供や大人が演劇をすることは、当然ながら公の場ではなく、家庭的で私的なものである(Duck v Bates (1884) 13 Q.B.D. 843にて言及)
・この日のために借りた家で、友人たちのために行われた劇(Duck v Bates (1884) 13 Q.B.D. 843)
・アマチュア演劇クラブが、病院の看護師、付添人、関係者に向けて行った公演で、入場料は無料、費用は病院の管理者が負担した場合(Duck v Bates (1884) 13 Q.B.D. 843で示された限界事例)。

3. おわりに
今回は、イギリス著作権法で保護される著作権のうち、公の実演権・上映権・演奏権についてみていきました。

日本でも公衆の概念は、権利が及ぶ範囲、保護の有無、そして権利制限規定の該当性を判断するキー概念になっていますが、著作権法上、その内容を明確に定義した規定はなく、さまざまな解釈が生まれています。

公衆の概念はイギリスの著作権法の分野でも重要な問題として考えられている模様です。

特に、イギリスでは、基本的に、日本の著作権法にあるような非営利上映等の権利制限規定(日本著作権法38条1項)はありません。イギリス著作権法にも、教育機関の活動の過程において著作物を実演し、演奏し、又は上映することは、権利侵害にならない場合が規定されていますが(イギリス著作権法34条))、非営利での利用に対しては、日本と比べて寛容ではないようです。

そのため、非営利での上映等も、基本的には許諾を得て行わなければ、侵害になり得ますので、公衆かどうかの判断は、日本の場合よりも、クリティカルなものとなります。

また、イギリスでは録音物であるレコードの著作権者(日本ではレコード製作者は著作隣接権者)も演奏権を有していることは、今後の日本のレコード製作者の権利のあり方を立法論として考える場合には、示唆的といえるかもしれません。

次回は、引き続きこれ以外の著作権について見ていく予定です。

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