JRRCマガジンNo.272 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)2

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JRRCマガジン  No.272 2022/4/14
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◆今回の内容
【1】イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)
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みなさまこんにちは。
春風が心地よい季節ですね。皆さまいかがお過ごしでしょうか。

今回は3月から始まりました今村哲也先生のイギリスの著作権制度について(初級編)の続きです。
どうぞお楽しみください。

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◆◇◆イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)━━━
     Chapter2. 基本的な概念(1)
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1 はじめに
日本とイギリスは、互いにベルヌ条約やローマ条約など、著作権やそれに関連する権利についての基本的な条約の加盟国であるため、保護の内容には同様の部分があります。
しかし、こうした国際条約で義務付けられていること以外の内容については、各国の法制度にはさまざまな相違があります。
また、条約で定める保護水準を担保する場合でも、その法的形式にはさまざまな手段がありますし、保護水準を上回る保護を与えることは、基本的には加盟国の裁量として認められます。加えて、ベルヌ条約などでは、保護の条件について同盟国の立法に留保される場合を定めており、それらの場合に該当するケースにおいて、加盟国の著作権法に相違が生じることもあります。
たとえば、ベルヌ条約では文芸・美術の著作物が物への固定を保護の条件とするかどうかは、同盟国の立法に留保していますが(ベルヌ条約2条2項)、イギリスの著作権法では、著作物の保護について固定要件があり、文芸や音楽作品なども、文書その他に記録して固定されていないと保護されませんが、日本法にはそのような要件はありません。
今回は、日本の著作権法では当たり前と考えられているが、イギリスの著作権法では異なっているという点について、著作権の種類と分類を例に紹介しておきたいと思います。

2 著作物の種類と分類
 イギリス著作権法では、著作物(works)を(a)「文芸、演劇、音楽又は美術のオリジナルな著作物」、(b)「録音物、映画又は放送」、(c)「発行された版の印刷配列」と8つの種類の著作物を3つのカテゴリーで分類します(1条1項)。これについて日本法との比較では、以下の3つの点が注目されると思います。

(1)クローズド・リストであること
1つ目は、イギリス著作権法における著作物の列挙は、限定列挙つまりクローズド・リストであると考えられてきたという点です。
こうしたリストのいずれかに該当しないと、著作物として保護されないということです。なお、著作権法1条1項のリストの他に、各著作物の定義が別途定められており(3条から8条)、美術の著作物についてはサブカテゴリのリストもあるのですが、このサブカテゴリのリストもクローズド・リストとなります。たとえば、4条1項(a)-(c)では、美術の著作物として、図面、写真、彫刻、コラージュ、建築物とそのひな形、美術工芸品が示されています。
日本の著作権法では、10条1項各号に著作物のリストがありますが、これは例示列挙、つまりオープン・リストとなっています。
10条1項各号に著作物のリストに該当しなくても、著作権法2条1項1号における「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」という著作物の定義に該当すれば、著作物として保護されることになります。
なお、著作権法2条1項1号における「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」という部分を、これらのいずれかの範囲に該当しないと著作物に含まれないと解するとある種のクローズドリストとして読めるようにみえます。
しかし、立法担当者は、この部分の文言について、「文芸学術美術音楽という知的・文化的な包括概念の範囲」ということを意味すると解しており(加戸守行『著作権法逐条講義 7訂新版』(CRIC、2021年)25頁)、この部分についても、クローズド・リストと捉えてはいません。
 このように、イギリス法と日本法とでは、「著作権の種類についてクローズド・リストとオープンリストという違いがある」というと、これは非常に大きな違いのように見えます。
しかし、実際の運用面をみると、その相違はあまり大きくないかもしれません。
というのも、日本の著作権法においても、多くの事例で問題となる表現物は、10条1項各号のいずれかに該当します。したがって、著作物の種類に関しては「ほぼ網羅リスト」とも言えそうです。
実際、10条1項の条文では「例示すると、おおむね次のとおりである」という言い方をしていますが、まさにそのとおりという感じです。この「おおむね例示リスト」に含めることが難しいものとして、立法担当者の解説書では、「棋譜」とか「数学の問題」を挙げていますが(加戸守行『著作権法逐条講義 7訂新版』(CRIC、2021年)126頁)、いずれにしましても、例示されているもの以外の著作物の例を考えることは、なかなか豊かな創造力が求められる楽しい作業となるでしょう。
他方で、イギリス著作権法でも、それぞれの著作物の種類とその定義規定の文言を解釈するという法解釈の作業を行いますので、クローズドリストとはいっても、結局のところその外延はある程度ぼんやりした部分があるといえます。
また、たとえば、日本の著作権法では10条1項において、言語の著作物(1号)とは別に例示されているプログラムの著作物(9号)についても、イギリスの著作権法では、「文芸の著作物」に含まれることが明確にされています(3条1項(b))。条文やその解釈を具体的にみていくと、日本では保護されているが、イギリスでは類型的に保護から除外されている著作物、というものはほぼないような感じもいたします。
以上のことを考えると、クローズド・リストとオープン・リストといっても、日本とイギリスとでそう大差はないと言えるかもしれません。

(2)放送や録音物が「著作物」(works)に分類されていること
日本の著作権法の下では、放送、レコードおよび実演は、著作物ではなく、著作隣接権の保護対象とされています。これに対して、イギリス著作権法には、著作隣接権という分類は用意されていません。
イギリスも、実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約である、ローマ条約などを批准していますので、これらの者の権利について保護する義務がありますが、著作隣接権という枠組みではなく、著作権あるいは著作権とは別の権利として保護しています。
具体的にいうと、イギリス著作権法では、放送とレコードは、著作物(works)として分類されています。著作物という表現を用いると、日本の著作権法につられて「著作者の権利の対象」と見てしまいかねませんが、むしろ「著作権の対象」と表現したほうがよいかもしれません。
また、実演家の権利については、1988年の著作権法では、その第2部に実演家の権利に関する規定が設けられています。レコードも放送も著作権として位置づけているのであれば、実演家の権利についてもそれにならって著作権のカテゴリに入れても違和感はないように思われますが、何らかの法技術的な困難があったようで、特に理由は説明されていませんが、現行法のような構成になっている模様です(R. Arnold, Performers’ Rights, 5th ed., Sweet & Maxwell, 2015, p.36)。
つぎに、イギリス著作権法1条1項(b)における「録音物、映画又は放送」の類型には、1条1項(a)の類型と異なり、「オリジナリティ」の要件がありません。
オリジナリティの要件については別の回に説明しますが、日本の著作権法の著作物の定義における創作性の要件と似ている部分もあります。仮に似ている概念だとすると、日本の著作権法の理解では、著作隣接権の対象である録音物と放送については、オリジナリティの要件がないのは何となく理解できますが、映画についてその要件がないことは、納得がいかないかもしれません。
実は、イギリスでは映画に関して、オリジナリティの要件を満たさない映画と、満たす映画の2つが観念されます。オリジナリティの要件を満たしていなくても、動く映像が媒体に固定されてさえいれば、1条1項(b)および5条のBで定義される「映画」として保護されます。他方、オリジナリティの要件を満たす映画は、別途、1条1項(a)および3条で定義される演劇の著作物としての保護も併存することになります。
日本法でも、動く映像が媒体に固定するときの映画の著作物としての創作性は、固定された監視カメラの映像でもない限り、かなり緩く認められると思うので、イギリス法がオリジナリティの要件を満たしていなくても映画として保護する場合を認めることと、大差ないのかもしれません。

(3)イギリス独自の権利があること
イギリスでは、版の発行者に対して、発行された版の印刷配列(typographical arrangement of a published edition)の複製等に関し、著作者の著作権とは別個に著作権が与えられています。
いわゆる版面権です。著作隣接権という用語を用いるとすれば、出版者に著作隣接権を与えたものということができます。
つまり、著作権のある文芸作品において版の権利も発生する場合、出版物に二重の著作権が成立していることになります。
したがって、版面を複写コピーする場合、内容をなす著作物の著作権と版面の著作権の双方を処理しなければなりません。
いずれの著作権も、一定範囲の複写行為などに関する利用許諾は、イギリスの集中管理団体によって管理されています。

3 おわりに
以上、「基本的な概念(1)」と題して、著作物の種類と分類について、日本法との相違から見ていきました。
この中で、日本法との最も大きな違いは、版面権の存在かもしれません。日本の著作権法では、出版者にこのような権利は生じません。
日本でもこの権利に関して、過去に何度か立法論もあったのですが、立法に結実はしませんでした。
次回も、基本的な概念の点で、両国の著作権法の相違点をみていく予定です。

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