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JRRCマガジン No.265 2022/2/3
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◆今回の内容
川瀬先生の著作権よもやま話
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皆さまこんにちは。
今日は節分ですね。
さて、複製利用について著作権法に抵触するかどうかのお問い合わせを時々いただきます。
当センターの複写及び電磁的複製利用許諾でできる利用範囲については下記よりご確認いただけます。
⇒https://jrrc.or.jp/digital_lic/
それでは、本日の著作権よもやま話は前回の続きをお楽しみください。
バックナンバーは下記からご覧いただけます。
⇒https://jrrc.or.jp/category/kawase/
◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
著作者の権利について(その10)
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9 著作権(財産権)について
(1)著作権の性質
ア~ウ 前回説明済み
エ 著作権を担保にした資金調達
著作権は財産権ですので、譲渡や相続の対象となると同時に資金調達のため著作権に質権を設定することができます。また、譲渡担保の対象にもなります。
質権については、土地又は建物に対する抵当権と同様に質権が設定されたとしても、著作権の行使は、原則として著作権者自身が行うことになっています(66条1項)。これは著作権者自身が権利行使をした方が収益を上げる確率が高く債務の弁済にも有利であるとの考えから設けられたものです。
譲渡担保については判例で認められている担保方法ですが、債務の発生と同時に著作権は一旦債権者に譲渡されますが、債務が弁済されると著作権が自動的に変換されるという仕組みです。譲渡担保については、財産権一般に広く使われている手法です。なお、権利行使を誰が行うかについては、形式的には債権者である譲受人ですが、契約により質権と同様に債務者が行うことになる場合が多いと考えられます。
著作権を担保にして資金を調達するという方法は2000年代の初めに当時の小泉内閣が知的財産立国を提唱したのを契機として、金融機関等において実験的な試みが行われました。しかし、様々な課題があることが分かり今日では資金調達の手段として普及しているとは言えません。
課題のいくつかを紹介すると、まず著作権の価値判断の問題があります。土地や建物については、その価値を判断する専門家がいますので価値判断は容易なのですが、著作権については金融機関にその知見がなく、価値判断ができる専門機関もごくわずかです。
次に、多くの資金が必要とされる著作物の代表が映画ですが、わが国の場合、映画会社、タレント事務所、広告代理店、放送局等が資金を持ち寄り映画の製作を行うという製作委員会方式による製作が一般的です。製作委員会方式というのはわが国の独特の方法です。以前は映画会社が独自で資金調達を行っていたのですが、製作費の高騰により映画会社が独自に資金を調達しにくくなり、しかも映画は必ずヒットするわけではないのでリスクを分散させる必要から採用されています。また、映画の製作から広告宣伝・二次利用まで関連する企業が資金を出すことにより、企画の段階から一連の事業展開の手順が確立することになり、事業展開をより確実又は円滑に行うことができるという利点もあります。このように製作委員会方式は、ある程度密接な関係者が資金を持ち寄るという性質上、そこに金融機関からの資金が入ると、かなり厳格な資金管理や工程管理が金融機関から求められることになり、それが著作権担保の導入の障害となっていると指摘する関係者もいます。
さらに、例えば映像作品の利用に当たっては、原作、脚本、映画製作、音楽、美術、レコード、実演等様々な権利が同時に働くことになっています。したがって、例えば映画製作者が持つ著作権を担保にしても他の権利者が当該利用について許諾をしなければ、その作品は事実上利用できないことになります。また、債務の弁済が出来ず、例えばその著作権を誰かが譲り受けたとしても同様のことが起ることになります。このような権利に関する複雑性が著作権担保に積極的になれない理由の一つでもあります。
コンテンツ産業は一般に土地や建物のような資産を有していない企業が多いので、劇映画、アニメ、プログラム等の知的財産があれば、本来は資金調達の有力な手段になると思われます。例えば、著作権を担保にした資金調達が最も進んでいるのがフランスだと思いますが、映画製作の融資に特化した専門銀行の存在、映画館で上映する一定割合を自国の映画で行うという法的なルールの存在、映画業界が行っている独自の登録制度の存在等著作権を担保にした資金調達を円滑に行うための基盤の整備が整っています。
わが国でもある地方銀行では著作権を含めた知的財産権の価値評価を専門にしている機関と組んで資金提供を行っているという事例があります。このようにわが国でも実例は少ないですが、著作権担保の活用に本気で取り組んでいる企業等もありますので、今後の展開に注目しています。
(注)著作権担保に興味がある方は、川瀬真・原謙一共著「知的財産権を用いた資金提供・調達―日仏における実態調査をふまえて」(2016年 日本評論社)を参照してください。
オ 利用の許諾
著作権は排他的・独占的な権利ですので、利用者側から見ると著作物を利用する際は原則として著作権者の許諾がないと適法に利用できないことになります。これを権利者側から見ると、著作権者は他人に対し著作物の利用を許諾できる(63条1項)ということになり、著作権のことを許諾権という所以でもあります。許諾に当たっては利用方法や条件を付すことができ(63条2項)、その範囲内で著作物を利用できる権利(利用権<債権>)は、著作権者の承諾を得た場合のみ他人に譲渡することができます(63条3項)。
また、その利用権は、当該利用権に係る著作権の譲受人等の第三者に対抗することができます(63条の2)。この条項は、2020(令和2)年の改正で導入されたものですが、それまでライセンシーの保護の問題として文化審議会著作権分科会で議論されてきたところです。
問題の発端ですが、著作権者(ライセンサー)が利用者(ライセンシー)に対し著作物の利用の許諾(ライセンス)を行い、利用者が著作物を提供するサービスを行っていたとします。その際例えば著作権者が第三者に著作権を譲渡すると、利用者はその利用権を第三者に対抗できず、当該第三者から利用契約の継続を拒否されると利用者は著作物を利用できなくなるおそれがあることになります。また、ライセンサーが破産・倒産した場合,利用契約が双方未履行のときは,ライセンシーは破産管財人等から契約を解除されるおそれがあります(破産法53条1項)。
著作権の場合、従来は利用契約の継続が拒否される事案は少なかったので大きな問題にはなっていませんでした。
ただし、2000年の初頭からプログラムのクロスライセンスが盛んに行われるようになり、プログラム特許と著作権が契約者間で相互に利用できるようになりました。特許権については、当時通常実施権には対抗要件としての登録制度がありましたが、登録内容が公示され企業秘密が第三者に漏れるおそれがある等の理由であまり利用されていませんでした。
またクロスライセンスの場合は、例えば、ある装置に関連するプログラム特許一式といった契約もあり特許の内容が特定できない場合も多かったようです。
特許権については、2007(平成19)年の産業活力再生特別措置法の改正による公示内容に制限を設けた「特定通常実施権登録制度」の制定を経て、2011(平成23)年に特許法が改正され、当然対抗制度(登録等を行わなくても利用契約が交わされていれば特許権者等がかわったとしても利用が継続できる)が導入されました(通常実施権登録等は廃止)。
著作権については、2004(平成16)年に文化審議会著作権分科会からライセンシーを保護する制度の必要性を認めた上で、基本的には公示制度による対抗要件の制度の創設が必要としながらも、他の知財法との整合性等を踏まえて制度の内容をさらに検討すべきとされましたが、業界からの強い要望もなかったことから、著作権法の改正は見送られました。しかし、2004(平成16)年の特許法の改正を契機として、ライセンシーの保護の問題が改めて課題となり、2020(令和2)年に著作権法が改正されたところです。
なお、利用の許諾については、いわゆる単純利用許諾と独占的利用許諾の2通りがあります。独占的利用許諾というのは、一般に利用契約の中で、ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンサーは当該ライセンシー以外に許諾を出さないので、ライセンシーが著作物を独占的に利用できることを約束した許諾のことをいいます。
これは、例えば、出版権の設定(79条)のように、著作権者と出版者との間の出版権設定契約により著作物の出版行為について出版者に排他的・独占的な地位を与えるというものではありません。あくまで、ライセンシーの独占的な利用を認める債権的契約です。この独占的利用許諾については、著作物の商業的利用の分野でよく行われる契約ですが、独占的な利用を認めるという合意は、一般的に「利用の方法又は条件」に該当せず、それは単にライセンサーに契約上の義務を課したものと解されているところから、ライセンシーは独占的な利用までは対抗できないとされています。
次回からは、個別の支分権の内容について説明をしていきます。
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