JRRCマガジンNo.263 アメリカ著作権法のABC 6. 著作権の制限等

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JRRCマガジン  No.263 2022/1/13
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◆今回の内容
【1】白鳥先生のアメリカ著作権法のABC Chapter 6.著作権の制限等
【2】1月25日開催 大阪工業大学共催 著作権講座(オンライン)参加登録受付中
【3】使用料規程変更に伴う2022年度からの使用料について
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みなさまこんにちは。

年が明けてから2週間が過ぎようとしています。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、本日の連載は白鳥先生の連載の続きです。

これまでの連載は↓こちらからもご確認いただけます。
⇒https://jrrc.or.jp/category/shirotori/

◆◇◆アメリカ著作権法のABC━━━━━━
Chapter 6.  著作権の制限等
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6.1  イントロダクション
年も改まりまして、令和もいよいよ4年目に入りました。そして、早いもので、本連載は、残すところあと2回を数えるまでとなりました。
さて、年忘れとともに、昨年取り上げた内容をすっかり忘れてしまった方のためにごく簡単に振り返りますと、本連載は表題のとおり、「アメリカ著作権法のABC」です。ただ、その内容はと言いますと、Chapter4からは各論(「D」etail)に入りまして、前回(Chapter5)は、排他的権利(「E」xclusive rights)の種類といった、「著作権の保護」について、取り上げてまいりました。
こうして、「ABC」でスタートした本連載は、これまで、「ABCDE」と続いてきたというわけです。ということは、この流れからすると、今回は…「F」?
はい、ご名答です。新年早々、幸先が良いですね。
今回はおまちかね(?)、フェア・ユース(「F」air Use)が登場します。まずは、「著作権の制限等」の全体像から、確認していきましょう!

6.2 全体像
(1)条文の置かれ方
権利制限等は、連邦著作権法の第1章に書かれています。
前回取り上げましたとおり、著作権の排他的権利として、106条にその種類が書かれ、106条Aでは著作者人格権の定めが置かれていますが、それに続く107条から122条にかけて、権利制限等に関する規定が置かれています。
その筆頭に置かれているのが、一般的・包括的な権利制限規定であるフェア・ユース(107条)です。
そして、個別の権利制限の規定としては、例えば、図書館等による複製(108条)、消尽(いわゆるファースト・セール・ドクトリン)(109条)、営利を目的としない実演等(教育目的の実演・展示も含む)(110条)、放送同時再送信(111条)、放送事業者等による一時的固定(112条)、コンピュータ・プログラムの複製物の所有者による複製等(保守・修理のための一時的複製も含む)(117条)、視覚障害者等のための複製等(121条・121条A)などがあります。

(2)「権利の範囲」と「権利の制限」
上記は「権利制限」(Limitations on exclusive rights)と条文のタイトル(見出し)に書かれている規定なのですが、この他にも、「権利の範囲」(Scope of exclusive rights)という見出しの規定もあります。
とはいえ、「権利制限」も、広くいえば「権利の範囲」の一部です。実際、例えば、114条では、「録音物」の権利の範囲として、「固定された実際の音」について複製権等が及ぶこと(逆に、その音を模倣した別の録音物に対しては権利が及ばないこと)等が定められているのですが、同条では、同時に、権利制限に関する定めも置かれています。
すなわち、デジタル音声送信による実演権(106条(6))について、一般の非加入契約型のデジタル放送等は同権利の侵害にはならないとする一方、加入契約型のデジタル放送や、非加入契約型かつ入力型(nonsubscription)の自動公衆送信(いわゆるウエブキャスティング)等は、強制許諾(法定許諾)の対象とされています。

(3)強制許諾について
強制許諾といいますのは、著作権者の許諾がなくとも、法定の手続きに則り、使用料を支払うことで、著作物を利用できる仕組みです。
日本の著作権法でいえば、裁定制度がありますが、アメリカ連邦著作権法では、強制許諾制度が、こと細かに置かれています(条文も長くてややこしい…)。
具体的には、114条以外にも、111条(ケーブル・システムによる同時再送信)、115条(音楽著作物のレコード盤の作成・頒布等)、118条(公共放送)、119条及び122条(衛星による一定の放送同時再送信)等があります。中でも、「メカニカル・ライセンス」と言われる115条は、2018年のMMA(音楽近代化法)による改正で、大きく見直されました。
115条は、非演劇的(nondramatic)な「音楽の著作物」について、カバー曲の作成など、音楽のレコード盤の複製・頒布(106条(1)及び(3))に関する強制許諾を定めるものです(114条と異なり、実演権(106条(4))は対象外です)。「デジタル・レコード盤配信」(digital phonorecord delivery)を含むことが明記されており、これには、オンデマンド型のストリーミング配信(interactive stream)を含みます(日本法でいえば、レコードを用いた「蓄積型」自動公衆送信に相当すると考えられます)。2018年改正により、「デジタル・レコード盤配信」について、指定管理団体(Mechanical Licensing Collective)による包括ライセンスを可能とする仕組みが導入されています。

6.3  フェア・ユース
(1)107条とその特徴
さて、フェア・ユース規定です。著作物の利用が「公正」といえる場合には、著作権侵害とはならないとするもので、連邦著作権法の107条に規定がありますが、いくつか注意しておくべきことがあります。
まず、アメリカはコモン・ローの国であることを思い出しましょう。107条は、判例において確立されてきた法理が明文化されたものだということです。
既存の判例法理を変更したり狭小化したり、あるいは拡大したものではないと説明されています。
その上で、実際に「公正」な利用(フェア・ユース)といえるかどうかは、あくまでも、ケース・バイ・ケースで判断されるということです。
判断に際しては、以下にみる4つの要素(ファクター)を総合考慮して判断することになりますが、判断基準としての柔軟性が高い分、具体的な事案を前に、実際に著作権侵害といえるかどうかは、裁判で決着しないと良く分からないという場面も多くなります。

(2)4つの判断要素
考慮すべき要素として、次の4つを含むことが明示されています。
① 利用の目的や性格(商業目的か、非営利教育目的か等を含む)
② 利用される著作物の性格
③ 利用される著作物全体における、利用される部分の量や本質性
④ 利用される著作物の潜在的な市場又は価値に対する影響
フェア・ユースが成立するといえるか否かは、これら各要素についての個別判断を行った上で、総合判断によって決せられます。
例えば、「4つの要素のうち、②はフェア・ユースの成立に不利といえるが、①と③と④の各要素はフェア・ユースの成立に有利」と認められる場合には、最終的な総合判断としては、「フェア・ユースが成立する」との判断がなされると考えられます。

(3)「トランスフォーマティブ」(な利用)ということ
条文には書かれていないのですが、これら4つの要素の重みは、実は、全く同じではありません。
このうち、判例において一般的に重視されてきたのは、④の要素です。そして、これに加え、①の要素に関係して、「トランスフォーマティブ」な利用かという要素が、いわば公知の隠れキャラ(?)のように存在し、重宝されてきました。
ただし、この「トランスフォーマティブ」という概念は、クセ者です。裁判例の蓄積の中で、この概念自体が「変容」しているという印象すら受けます。
その言葉の響きからは、何か、実際に新しいものに変えていくといったイメージを受けますが、改変を伴う利用に限りません。
例えば、107条柱書は、フェア・ユースが認められる利用の目的として、批評やコメント、ニュース報道等を例示していますが、「トランスフォーマティブ」というのは、こうしたものを包摂しうる概念です。
逆に、改変をし、二次的創作を行えば、直ちに、ここにいう「トランスフォーマティブ」な利用として位置づけられるものでもありません。
なかなか、理解及び説明が難しいのですが、かなり大雑把なイメージとしては、本人も気付がついていなかった特徴や魅力に新しいスポットライトを当てることで、それが観客(世の中)に大ウケするような場合であれば、「トランスフォーマティブ」な利用となります。抽象的にいえば、著作物に新しい意味付けを与える利用のうち、もとの著作物が予定していない利用であって、著作権が目標とする学術又は技芸(science and the arts)の発展につながるものが、「トランスフォーマティブ」な利用として、フェア・ユースの肯定に傾きます。そのような利用であれば、もとの著作物の市場とも競合はしにくいことから、④の要素にも関係してきます。
フェア・ユースの判断において「トランスフォーマティブ」が重視される傾向にあるというのは、このように、これが、①の要素に留まらず、通則的な意味合いも持ちうるためだと考えられます。
「トランスフォーマティブ」か否かの線引きは、何とも難しい気がするのですが、このような広がりをもった捉え方は、近時の最高裁判決において、顕著に現れています(Google LLC v. Oracle Am., Inc., 141 S. Ct. 1183(2021))。
これは、グーグル社が、サン・マイクロシステムズ社によるJava API(もともと、デスクトップ等のコンピュータ用に開発)の一部を複製し、スマートフォンであるAndroidのプラットフォームづくりに活用した事案です。最高裁は、グーグル社による複製行為は、創造的で革新的なスマートフォン環境の構築に向けて、プログラマーが直ちに利用できるために必要な限度で行ったものである等として、「トランスフォーマティブ」な利用であると認定し、フェア・ユースの成立を認めました。
こうして、公共の利益の観点からみて価値創造的な利用と認められるものを、「(本来的に)トランスフォーマティブ」であると捉えているようです。
なお、「トランスフォーマティブ」は、このような感じの概念ですので、和訳が難しいのですが、改変を伴わない場合もあることや、本来的に、公共の利益の観点を踏まえて判断されると考えられることを踏まえると、そうした言葉を内包する用語としては、「変移的」という言い方が良いのではないかな、と考えています(著作物のステージ(段階)が移り変わるというニュアンスを込めてみました)。
なお、他の候補として、「変質的(利用)」という言葉も考えましたが、コトバの響きがいかにも怪しいので、やめておきます…。

6.4 小括
フェア・ユースの判断は、ケース・バイ・ケースでの微妙な判断が求められ、本当に難しいと思います。
上記のグーグル社のケースも、下級審と控訴審で判断が分かれていた事案でした。
特に、「トランスフォーマティブ」か否かということは、実際の判断に当たっては、数学の公式のあてはめのようにはいかないと思います。
本件で最高裁がフェア・ユースの成立を認めたのは、「トランスフォーマティブ」という認定がまず先にあったということではなく、その実際は、フェア・ユースの成立に肯定的であった陪審の認定と、Android市場の成功の現実という本事案特有の事情を勘案しながら、フェア・ユースを肯定するという結論を導くために、その理屈として、「トランスフォーマティブ」という概念を「利用」したということだったのではないかと、私は想像しています。

さて、早いもので、本連載は、いよいよ次回で最終回です。順番から言えば、次回は「G」となりますが、「G」の正体は果たして??
次回もどうぞお楽しみに!

(横浜国立大学国際社会科学研究院准教授 白鳥綱重)

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【2】1月25日開催 大阪工業大学共催 著作権講座(オンライン)参加登録受付中
本年度最後の著作権講座です。参加は事前登録制です。
内容は初級レベルの講義と利用者が関心をお持ちと思われる2つのトピックス
「検索サービスとfair use」と「コンテンツ流通促進の現状と課題」を予定しています。
↓詳細は当センターHPをご参照ください。
⇒https://jrrc.or.jp/educational/kouza/
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【3】使用料規程変更に伴う2022年度からの使用料について
当センターは、使用料規程を2021年7月7日に一部変更いたしました。
(2021年8月10日実施)
詳しくは、次のHPにてご確認いただけます。
⇒https://jrrc.or.jp/shiyoryo2022/
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JRRC代表理事 川瀬 真

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