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JRRCマガジン No.256 2021/11/11
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています
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◆今回の内容
【1】川瀬先生の著作権よもやま話
【2】12月8日開催 著作権講座中級(オンライン)のお知らせ
【3】日経紙等利用許諾の申込みについて
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みなさまこんにちは。
過日ニュースにて帝国ホテルの建て替えの話題がありました。
https://www.asahi.com/articles/ASPBW5SJ9PBWULFA00M.html (朝日新聞DIGITAL)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC274ZL0X21C21A0000000/ (日本経済新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20211027-OYT1T50179/ (読売新聞オンライン)
本日のメルマガでは、過去にもあった帝国ホテルの建て替えの話題も紹介されています。
バックナンバーはこちら↓からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/kawase/
◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
著作者の権利について(その7)
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8 著作者人格権
(2)著作者人格権の種類とその内容
③同一性保持権(20条)
ア 同一性保持権の内容
前回説明済みです。
イ 同一性保持権が働かない場合
現行法では、前回で説明した著作権制度審議会からの答申を受けて、いくつかの例示規定を定めたうえで、それを含めた一般規定として「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」については、同一性保持権を適用しないとしています(20条2項)。
この例示として3つの項目が定められていますが、そのいずれも社会的な常識に沿った事項となっています。
(ア)学校教育の目的上やむを得ない用字又は用語の変更その他の改変(20条2項1号)
著作物を検定教科書、デジタル教科書、拡大教科書、学校教育放送等で利用するに当たり(33条~34条)、子供たちの年齢や発達段階に応じ、難しい漢字を常用漢字やひらがなに、又は別の言葉に置き換えるなどを行うことを指します。「その他の改変」については、例えば法律上又は道徳上問題がある記述を削除したりすることを指すといわれています。
もっとも、これらの改変は、学校教育の目的上やむを得ない場合に限定されていますので、おのずと限界があることは言うまでもありません。
(イ)建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変(20条2項2号)
建築の著作物は、純粋に鑑賞目的のものもあるかもしれませんが、一般的には実用目的の機能を兼ね備えているものがほとんどです。したがって、建築物が老朽化したり、建築後に用途の変更があるなどの事情の変更により増改築等の必要性が生じることは当然のことと考えられますので、このような場合は同一性保持権の適用がないとしています。
なお、この例示が法律上明確にされたのは、現行法の制定前に建築物の増築にかかる同一性保持権侵害に関する事件(裁判にはなっていません)があったからだといわれています。
事件の内容ですが、昭和15年に開催される予定だった日本でのオリンピックの開催に備えて、帝国ホテルの経営者が同ホテルの増築を計画したところ、同ホテルの設計者である米国人のフランク・ロイド・ライト氏から同ホテルの芸術的価値を考えると現状変更は認めることができないとの抗議がされました。
この抗議に関しわが国の文化団体も賛同し、増築計画は芸術的破壊行為であり、かつ(旧法の)同一性保持権の侵害であるので中止せよという反対運動が起こりました。一部の有識者からは、建築物は絵画や彫刻のような美術作品とは性格を異にするので、一切の増改築が認められないとの著作権法(旧法)の解釈は問題があるとの意見も出されたようですが、大きな声にはならなかったみたいです。
この問題は、結局戦争のため東京オリンピックの開催が取り消されたことにより、増築計画が中止になったことから、うやむやに終わったみたいですが、現行法の制定に大きな影響を与えた事件であることは間違いないと考えます。
この帝国ホテル事件には後日談がありまして、1967(昭和42)年に今度は老朽化に伴う建築物の取り壊しと建て替えの計画が持ち上がり、この時にも反対運動が起こりました。ただし、この時は同一性保持権の問題は議論になりませんでした。すなわち同一性保持権は著作物の改変に関する権利ですので、これは絵画や彫刻を破棄する場合と同様に改変の問題にはなりえません。
もちろん芸術作品の保護という点では問題になりうることですので、今回の反対運動は優れた芸術的価値のある建築物の保存または移築の問題として主張されました。この問題は、結局古い建物は移築されることで決着を見たところです。
(注)帝国ホテル事件は、伊藤信男著「著作権事件百話」(著作権資料協会 昭和52年)を参考にしました。
(ウ)プログラムを電子計算機において実行するための改変(20条2項3号)
著作権法によるコンピュータ・プログラムの保護を明確化するため、1985(昭和60)年に著作権法の改正が行われました。改正前の議論では、プログラムは工業製品と同種のものであり、プログラムに著作者人格権は不要であるとの意見もありましたが、結論として著作者人格権は必要だが、プログラムの特性に合わせて特に同一性保持権については同権利が働かない場合を明確にすべきであるとされました。
本規定では、2つの場合を定めています。1つは、あるコンピュータでは動かないプログラムを動かせるようにするための改変です。
もう一つは、コンピュータで動かせるがもっと効率よく動かすための改変です。
改変の態様としては、プログラム内の誤りの修正(バグの修正)のような機能を維持するための改変だけでなく、機能の向上(バージョンアップ)に伴う改変も該当することになります。
また、この規定は、事実上財産権の権利制限と連動しています。
例えば、プログロムの複製物の所有者は、コンピュータでプログラムを動かすために必要と認められる範囲で当該プログラムを複製又は翻案ができることになっていますが(47条の3第1項、47条の6第1項6号)、その際にプログラムの改変が一切できないとなると同規定の適用に支障が生ずることになるからです。
以上が例示規定ですが、それ以外の利用方法であっても著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないと認められる改変であれば同一性保持権が適用されないことになります(20条2項4号)
同一性保持権が適用されない具体例としては、模写、歌唱・演奏力の未熟さにより著作物を忠実に再現できないとき、複製(印刷、録音、録画等)や放送等の技術力の限界により、元の作品の色彩、音声、映像等を忠実に再現できないとき、情報公開法により著作物の一部分が黒塗りされて提供されるとき、歌手や演奏家が音楽の伝達方法の一つとしてアレンジをして演奏するときなどが該当するといわれています。
やむを得ない改変に該当するかどうかは、事例ごとに判断すべきですが、財産権の制限規定においてよく使われている「必要と認められる限度」よりは狭く、改変利用を認めないと著作物を利用できないという必然性が必要とされています。このように同一性保持権の適用除外については厳格に解釈する必要があるとするのが通説です。
例示の行為については、改変しなければならない必然性についてはよく理解できます。
ただし、改変の程度については、誤字・脱字の修正等の場合を除き、例えば建築物の増改築やプログラムの修正についても必要最小限度にとどめる必要があるとまで言えるかどうかについては疑問の残るところです。
この点について私見では著作物利用の円滑化とのバランスを考えれば、ある程度柔軟に考えてもよいと考えます。
なお、近時では、デジタル・ネットワーク社会の到来を踏まえ、必然性の要件の緩和を主張する考えもあるところです。
ただし、著作者側の主張の多くは、同社会の到来に伴い著作物の改変が容易になった時代だからこそ同一性保持権の重要性が増しており、より厳格に解釈しなければならないとしており、この意見の調整はかなり難しいと考えます。
次回は、翻訳、編曲、変形又は翻案による著作物の利用と同一性保持権の境界領域の問題、契約における同一性保持権の不行使特約の問題及び第4の著作者人格権といわれる名誉又は声望を害する著作物の利用に関するみなし侵害(113条11項)について説明します。
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【2】12月8日開催 著作権講座中級(オンライン)のお知らせ
今年4回目の無料の著作権講座です。この機会に、最近の著作権に関して
解説付きで一緒に学びませんか?参加は事前登録制です。
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【3】日経紙等利用許諾の申込みについて
ご要望が強かった日本経済新聞社発行の新聞「日本経済新聞」「日経産業新聞」
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2021年8月10日より管理を開始しました。
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