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JRRCマガジン No.248 2021/8/19
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。
山本隆司弁護士の「著作権談義」は先月で最終回となりました。
山本先生の連載は100回に及び海外の著作権事情を中心にホットな話題を提供していただきました。
今月からは、横浜国立大学国際社会科学研究院准教授の白鳥綱重先生に執筆をお願いし、米国の著作権法の概要について、「白鳥先生のアメリカ著作権法のABC」と題して連載いただくことになりましたのでお楽しみください。
白鳥先生は、文部科学省、ユネスコ日本代表部、三重県教育委員会で教育関係等の実務に従事され、文化庁著作権課著作物流通推進室長を経て、2019年から同大学に赴任されています。
専門は知的財産権(著作権)で、米国著作権法に関する著書も刊行されています。
なお、今回は、白鳥先生の記事のほか、前理事長瀬尾太一氏の訃報を受けての追悼文、日本経済新聞社様の受託および利用許諾開始に関する記事と9月の著作権セミナー申込み方法をお届けします。
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「瀬尾太一氏(前理事長)を偲ぶ」
長年当センターの運営に携わってこられました写真家であり、当センターの理事長であった瀬尾太一氏が去る7月に60歳という若さで亡くなられました。
瀬尾氏は長年にわたり、当センターの役員を務められ、当センターの発展に多大の貢献をされました。
また、当センターの運営のみならず、著作権界のリーダーとして、国の審議会等の委員を務めるなどし、ネット時代の到来とともに難しい課題を抱える著作権制度の改正等にも尽力されました。
また、同氏は誰とでも打ち解け話し合いができる人柄に加えて、その決断力・実行力に傑出したものがあり、それゆえに著作権界だけでなく多くの分野で頼りにされていました。
このように同氏の著作権界等に残された業績は計り知れないものがあり、これからのご活躍も期待されていただけに、突然の訃報に接した関係者の悲しみもより一層深いものとなっています。
ここに謹んで同氏のご冥福をお祈りします。
なお、このたび同氏の後任として、ここ数年間著作権講座の講師として、またメールマガジンに著作権制度に関する記事を書いていた私が理事長に就任しました。
講師と連載はこれからも続けますが、同氏の意思を引き継ぎ当センターの運営に尽力していきたいと思います。
皆様のご協力をお願いします。
令和三年八月
公益社団法人日本複製権センター
理事長 川瀬 真
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【日本経済新聞等の管理開始について】
利用者の皆様から多くのご要望が寄せられていた「日本経済新聞」、「日経産業新聞」、「日経MJ」及び「日経ヴェリタス」について本年8月10日より管理を開始しました。
日経紙の管理によりいわゆる五大紙すべての管理が実現したことになります。
また、これによりすでに管理している地方紙を含めほとんどの新聞社の著作権を管理することになりました。
当センターでは、新聞だけでなく、書籍・雑誌等約10万件の著作物を利用いただけます。
この機会にぜひJRRCのサービスをご活用ください。
日経紙等利用許諾の申込み受付の詳細につきましては
下記特設ページにアクセスの上、申込手順及びお見積りをご確認頂くことができます。
日経紙等利用申込特設ページ
⇒https://jrrc.or.jp/nk2021/
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【JRRC著作権講座 中級 オンライン開催のお知らせ】
さて、もう一つお知らせがございます。
本日より著作権講座の参加登録を開始いたします。
ご興味がある方は、この機会に是非お申込みください。
開催日時:2021年9月7日(火) 10:30~16:40 予定
参加費 :無料
開催方法:Zoom利用
詳しくは、当センターのHPをご覧ください。
◆申込み受付はこちら↓↓↓◆
⇒https://jrrc.or.jp/educational/kouza/
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◆◇◆アメリカ著作権法のABC━━━━━━
Chapter1. アメリカ著作権法とは?
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1.1 イントロダクション
皆さま、こんにちは。白鳥綱重と申します。
このたび、こちらのメルマガにて、「アメリカ著作権法のABC」と題しまして、アメリカ著作権法についてご紹介をさせていただくことになりました。
私は現在、横浜国立大学において、知的財産法や法学入門などの授業を受け持っておりますが、本学には、法学部はありません。したがって、「法」を勉強したことがないという学生が多いのですが、そのような学生らは、「法は難しい」という潜在意識(?)も手伝ってか、最初は、カタく構えがちです。
しかし、法学や知財法の面白さ、身近さを伝えていくと、みるみるカタさがほぐれていくのが分かります。本コーナーも、アメリカ著作権法のポイントをご紹介することを旨としていますので、落語のようには参りませんが、堅苦しくなく、また、(できる限り)分かりやすくお伝えしていきたいと思います。
スタバやタリーズあたりのコーヒーでも片手に(渋い日本茶も、大歓迎です)、どうぞ、お気軽にお付き合いください。
さて、「難しい」等といえば、私たちの日常生活にも馴染みのある民法は、大変重要な法律であるにもかかわらず、「眠法」などと可哀そうなネーミング(当て字)がされることがあります。
しかし、同情している場合ではなく、著作権法に至っては、権利制限規定を念頭に、「複雑怪奇」などと言われる始末であり、その際に導入が提案されてきたのが、アメリカ著作権法のフェア・ユース規定です(中山信弘『著作権法』(有斐閣、第3版、2020年)491-503頁等参照)。このため、世間一般では、「アメリカ著作権法といえばフェア・ユース」というイメージが、相当に浸透しているのではないでしょうか。
確かに、「フェア・ユース」はアメリカ著作権法の大きな特徴の1つなのですが、言うまでもなく、アメリカ著作権法は、フェア・ユース規定の1条だけで出来ているわけではありません。
また、そもそも、「法」は、「こうあるべき」「こうしなければならない」といった行為規範(の1つ)として位置づけられるものであり(伊藤正己=加藤一郎編『現代法学入門』(有斐閣、第4版、2005年)7-9頁等)、その意味で、法は、それぞれの社会とともにあるものです。私たちが外国法を参照する際、無意識のうちに、現在の日本の法文化・法制度を理解の前提として、そのまま日本に当てはめようとしてしまいがちですが、まったく同じように考えることができるのか、前提部分に違いはないのかについては、常に意識しておくことが必要であるように思います。
というわけで、前置きが少し長くなってしまいましたが、第1回目となる今回は、そもそも「アメリカ著作権法」とは何を指すのかについて、確認をしておきたいと思います。
1.2 制定法(成文法)がすべてではない:大陸法系と英米法系
よく知られていることですが、近代法にはおおきく2つのアプローチがあります。1つは、大陸法系(シビル・ロー系)、もう1つは、英米法系(コモン・ロー系)です。
大陸法系諸国では、基本的に、ルールは法典(制定法)に書き込み、具体化されます。日本の著作権法も大陸法系に属し、著作権法(とその下位法等)に個別に書き込まれ、具体化されています。逆に、そのことが、「特に技術革新の激しい時代においては、必要に応じて権利制限規定を設けるのでは間に合わないであろう」といった批判(中山・前掲495頁)にもつながったりしています。これに対して、アメリカ合衆国は、その名の通り、「英米法系」に属します。コモン・ローを中心とするイギリス法の強い影響を受け、発展してきた英米法系諸国の法は、大陸法系と比較して、「非体系性を特徴とし、判例法主義を基本とする」といった特徴があります(伊藤=加藤・前掲218-219頁)。
もちろん、日本でも、判例は先例拘束力を持ちますし、また、英米法系諸国でも、一般に、制定法は判例に優越しますので(伊藤=加藤・前掲50頁)、大陸法系と英米法系の違いといっても、実際上はそれほど変わらないのでは?と思われる向きもあるかもしれません。また、その限りでは、日本もアメリカ合衆国も、「制定法(成文法)がすべてではない」という点では共通します。しかし、そもそものスタートラインが違うので、「制定法がすべてではない」という意味合いも、大きく異なります。
特に、英米法系諸国では、判例法が果たす役割がとても大きく、アメリカ合衆国の著作権法に関する制定法を参照する際には、判例法の蓄積が背景にあることを意識しておく必要があります。
逆に、日本において、著作権法に関する最高裁判例が30程度しかないという事実は、日米のアプローチの違いを如実に表しているという側面があるともいえそうです。そして、これらのアプローチの違いの象徴的な存在が、フェア・ユース規定といえるのではないか、と考えています。
また、大陸法系と英米法系のアプローチの違いは、著作権という権利に対するアプローチの違いにも特色がみられます。すなわち、大陸法系諸国では、「著作者の権利」としての位置づけが基本であり、自然権的な発想とも親和性があります。これに対して、英米法諸国では、“Copyright”(著作権)としての位置づけが基本であり、産業政策的な発想(インセンティブ論)と親和性があります。
もとより、これらの点も、各国の著作権制度は接近が見られ、完全にスッキリと二分しきれるものでもありませんが、それでも、アメリカ著作権法の特徴を理解する上では、重要な視点となりますので、留意しておきたいところです。
1.3 アメリカ合衆国:連邦法と州法
このように、「アメリカ著作権法」という場合の「法」は、制定法だけではなく、判例法も重要なポイントであることを確認してまいりました。
そして、それともう1つ、日本と違う点として、「連邦法」と「州法」の関係にも、気を配る必要があります。
というのも、アメリカ合衆国の場合、知的財産権の保護は、権利の内容によって、連邦法による保護を受けるものや、州法による保護を受けるものなど、構造が複雑だからです。
それに、独立した主権をもつ50の州がありますから(それぞれの州には、州の憲法があり、独立の管轄権をもつ裁判所も存在しています)、著作権法が州法でカバーされているものだとすると、フォローするのも一苦労ですよね(まぁ、これは単なる自己都合ですが…)。
しかし、その点はご安心下さい! 著作権は、「連邦法」で保護することになっています。その直接の根拠規定は、アメリカ合衆国憲法第1編8条8項(いわゆる「特許・著作権条項」)です。
同規定は、連邦議会(Congress)の権能として、「著作者(Authors)及び発明者に対し、それぞれの著作(Writings)及び発明に対する排他的な権利を、限られた期間(limited Times)保障することにより、学術及び有用なる技芸の発展を促進すること」を明記しています。
そして、著作権法の制定法として具体的に定めるものが、合衆国法律集(US Code)の第17編(連邦著作権法)です。
しかも、連邦著作権法は、著作権に関して、「連邦法」のみによる保護を宣言しています。すなわち、連邦著作権法により保護される著作権と実質的に同じ保護を求めたとしても、州の制定法やコモン・ローによる保護は受けられません(連邦著作権法301条(a))。これを、「専占」(preemption)といいます。もっとも、連邦著作権法が保護の対象とは想定していないものであれば、州法による保護の余地も残されています(白鳥綱重『アメリカ著作権法』(信山社、2004年)7-12頁参照)。
ちなみに、連邦控訴裁判所としては、地理的に区分された11の巡回区(+コロンビア巡回区控訴裁判所と連邦巡回区控訴裁判所)があります。ニューヨーク州が位置する第2巡回区、カリフォルニア州やワシントン州が位置する第9巡回区の判決は、事件数の多さから判例も豊富にあり、特に注目されます(なお、ハワイ州やアラスカ州は第9巡回区です)。
1.4 小括
今回は、「アメリカ著作権法のABC」の「A」の部分、すなわち、「アメリカ(America)著作権法とは?」として、判例法主義の国であることの確認と、制定法としての連邦著作権法の存在、そして、連邦著作権法(連邦法)と州法の関係(「専占」)について、確認をしてまいりました。
なお、蛇足ながら、そして、当然のことながら、連邦法による「専占」は、連邦制をとっていない日本には、そのままでは当てはまりません。
しかし一方で、この考え方(発想)自体は、何だか、馴染みがある気がしませんか? それは、日本の北朝鮮事件最高裁判決(平成23年12月8日民集65巻9号3275頁)です。
同判決は、「…著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない」としましたが、このような、「著作権法」と「著作権法以外」による保護の関係は、上記の「専占」の考え方に通じるものがあるように感じます。
外国法や著作権法以外の領域に目を向けてみると、新たな気づきが得られることもあり、面白いですね。本稿が、少しでもその一助になれるようなことがありましたら、望外の喜びです。
さて、本題に戻りまして、次回以降は、アメリカ著作権法の中でも、制定法である「連邦著作権法」に焦点を当ててまいります。
今後、条文をご紹介することもあると思いますが、その際は、特段の断りがない限り、連邦著作権法(Title 17 of US Code)を指すこととしますので、予めご了承下さい。
次回は、「ABC」の「B」に移ってまいります。「B」が何なのか、気になる方は、次回をどうぞお楽しみに!
(横浜国立大学国際社会科学研究院准教授 白鳥綱重)
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