JRRCマガジンNo.241 著作者の権利について(その2)

川瀬真

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JRRCマガジン No.241 2021/6/10
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さて、今回のコラムは「著作者の権利について」についての続きです。
前回までのコラムはこちら
⇒https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━

  著作者の権利について(その2)

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3 他の権利等との関係
(1)著作権法に定められている他の権利
①著作隣接権
著作者の権利は、著作物を創作する者に与えられる権利ですが、著作権法では著作物を創作しないが著作物を公衆に伝達するに当たり重要な役割を果たしている実演家、レコード製作者、放送事業者及び有線放送事業者についても保護しています。

例えば、実演家である歌手や演奏家の場合、作詞家・作曲家が音楽を創作しそれを楽譜に表現します。普通の人はその楽譜を見ていい音楽だと感じることはできません。その音楽を公衆に伝えるのは実演家による実演(歌唱・演奏)ということになります。レコード、放送及び有線放送も同様です。

このように著作者と実演家等は一般に創作と伝達という密接な関係にあるので、この実演家等の許諾権を著作権に隣り合わせの権利という意味で「著作隣接権」(英語ではNeighboring Rights)と定義しています。

実演家等の権利の内容については、別の機会に説明します。

②出版権
著作物の伝達者という意味では、出版者は15世紀中葉のグーテンベルクの印刷術の発明以来今日に至るまでその地位を長く維持してきました。著作権はもともと出版者の権利から始まり時間をかけながら著作者の権利へと変化していきました。
その過程で、特に欧米では出版者は著作者との契約を通じて著作権の管理者として地位を確立しました。
近代になって、実演家、レコード製作者及び放送事業者の国際的な保護を図るため1961年に「実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(実演家等保護条約又はローマ条約)が、また、1996年には「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約」(WIPO実演・レコード条約)作成されるなど、実演家等の国際的な保護の枠組みが創設・充実されました。
ただ、出版者については、著作権の管理者という立場があり出版者が固有の権利の必要性を感じなかったのか、出版者の国際的な保護のための条約は作成されませんでした。

わが国では、現行法の策定の際、近い将来の実演家等保護条約の加盟を見据え、実演家、レコード製作者及び放送事業者を保護するための著作隣接権制度を創設しました。しかしながら、出版者については、旧法にもあった出版権制度を継続することとしました(79条~88条)。

この出版権の制度というのは、著作隣接権が独立した権利であるのに対し、著作者(著作権者)との設定契約により生じる出版に係る独占的な権利という性格を有しています(79条)。
民法でいえば、土地の所有権と地上権の関係(用益物権)に相当するものです。
著作者(著作権者)と出版者との密接な関係を前提とした権利ということです。

現在の制度は、紙媒体の出版と電子出版に対応する権利(80条)ですが、出版契約のうち出版権の設定契約を交わしているのは一定の割合にとどまっており、例えば、雑誌等の場合については出版権設定契約はほとんど行われていません。

なお、現行法の制定後、複写複製機器やインターネットの普及に伴い、出版物の複製や公衆送信権が広く行われる時代になって、出版者に著作隣接権と同様の固有の権利を認めることについて議論が行われましたが、現在のところ実現はしていません。

(2)所有権
美術作品、書籍、音楽CD、映画DVDなどは「物」すなわち有体物ですので、例えば美術作品等を購入した所有者には有体物を排他的に支配する権利である所有権(民法206条)が生じることになります。
民法では、所有権について「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。」と定められていますので、購入した作品をどう使おうが、他人に売ろうが貸そうが原則所有者の自由ということになります。
一方、美術作品、書籍等は著作物の原作品又はその複製物の性格も有していますので、その利用については無体物に対する支配権である著作権が働く場合があります。
例えば、美術作品の原作品には展示権(25条)という権利があります。そうしますと、美術作品の原作品の所有者が所有権に基づき当該作品を展示する行為は、美術作品の著作者(著作権者)の展示権に抵触することになり、美術作品の所有者は自由に当該作品を展示することができないということになります。
このように所有権と著作権の抵触関係はこの例示以外にもありますが、著作権法上このような抵触関係を回避するための著作権の制限規定を設けています。
この例の場合であれば、美術作品の原作品の所有者は、著作権者に無断で、当該作品を有償又は無償を問わず公に展示しても、原則として展示権侵害になることはありません(45条1項)。

なお、美術作品の所有権がどこまで及ぶかについて所有権の及ぶ範囲の限界を示した有名な最高裁判例がありますので紹介しておきます。 

(「顔真卿自書建中告身帖事件」最高裁判決(1984(S59)年1月20日))
ア事案の概要

A出版者は、B博物館が所有している中国唐代の書家である顔真卿が書いた書(美術の著作物)を、過去に第三者により適法に撮影された当該書の写真ネガを譲り受けて複製・出版した。
これに対し、BがAを当該書の所有権侵害で訴えた事案である。

イ裁判所の判断
「所有権は有体物をその客体とする権利であるから、美術の著作物の原作品に対する所有権は、その有体物の面に対する排他的支配権能であるにとどまり、無体物である美術の著作物自体を直接排他的に支配する権能ではないと解するのが相当である。」

このことから、
「著作権の消滅後に第三者が有体物としての美術の著作物の原作品に対する排他的支配権能をおかすことなく原作品の著作物の面を利用したとしても、右行為は、原作品の所有権を侵害するものではないというべきである。」
としてBの上告を棄却した。

(3)産業財産権
著作権と同様に知的財産権である特許権及び実用新案権は、発明及び考案というアイデイアを保護する制度です。一方、著作権は知的創作活動の結果生まれた表現を保護するものです。
このアイデイアと表現というのは、例えば推理小説であれば、そこには小説家が考えた殺人、脅迫、詐欺、恋愛等の方法などアイデイアに相当する要素が多数含まれているので、アイデイアと表現というのは密接な関係を有しているといえます。
しかしながら、例えば特許法で保護される発明は「自然法則を利用した技術的思想」(同法2条1項)に係るものですし、また発明の内容が文章になっていたとしてもその複製は発明の実施には該当しないので、著作権との抵触関係は基本的にありません。
ただし、コンピュータ・プログラムについては、プログラムにおけるアルゴリズムが一定の条件の下で特許の対象になることや電子計算機で使用されて一定の経済的効果が生じるという特徴から、例えば、機器の製造等の過程の中でプログラム特許の実施に伴ってプログラムが同時に複製されることがありうるので、権利関係の抵触について問題になることがあります。
また、商標権や意匠権については、表現の保護という意味では著作権と類似していますので、例えば漫画、イラスト等の著作物が商標や意匠として登録されることがあり得ます。この場合、他人が無断で商標等の登録をした場合に備え、商標法や意匠法では他人の著作権等と抵触する使用等はできないとの調整規定が置かれています(商標法29条、意匠法26条)。

(4)不正競争
事業者間の競争秩序を維持する法律として不正競争防止法があります。
例えば、漫画等の著作物を利用したキャラクター商品の場合、その商品の製造や流通についは、漫画(著作物)の複製、譲渡等に該当し著作権の問題が生じるとともに、その利用形態によっては不競法の商品形態の模倣行為(不競法2条1項3号)にも該当することもあり得ます。
また、著作権法では、「技術的保護手段」(2条1項20号)や「技術的利用制限手段」(2条1項21号)を回避して著作物等を利用する行為等について一定の規制を行い、その中で回避装置の提供等についても規制の対象(120条の2第1項1号)としていますが、それらの行為が不競法上の「技術的制限手段」の無効化装置等の提供(不競法2条1項17号・18号)にも該当することがあります。

(5)その他
公文書管理、情報公開、国立国会図書館や他の図書館、博物館・美術館、教育機関等においては著作物等を複製、公衆送信するなどして情報提供が行われていますが、このような利用については、関係の法律により情報提供機関の役割が定められています。
著作権法ではこのような役割に配慮し、著作権の制限規定を整備し、権利者の利益を不当に害さない範囲で著作物等の許諾を得ない利用を認めています。

 次回からは個々の支分権について解説します。
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