JRRCマガジンNo.230 米国DMCA報告書③

山本隆司

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JRRCマガジン No.230  2021/2/18
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緊急事態宣言の解除は今週も見送られ、新型コロナワクチンの接種がはじまりました。
詳しくは厚生労働省のHPをご覧頂ければと思いますが、この状況が早く収束することを願ってやみません。

さて、今回の著作権談義は、米国DMCA報告書②の続きです。

前回までのコラムはこちらから
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◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義(95)━━

  -米国DMCA報告書-③

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2020年5月の米国DMCA報告書は、「ノーティス・アンド・テイクダウン手続」による救済の改善についても提案しています。

米国のノーティス・アンド・テイクダウン手続は、権利者が、著作物および侵害掲載物を特定し、当該著作物の著作権を当該侵害掲載物が侵害する旨の陳述等を記載した書面をOSPに送付すれば、OSPは受領後ただちに当該侵害掲載物を削除しなければならないという制度です。ただし、OSPは、他方で侵害物を掲載したユーザーにその旨を通知し、当該ユーザーから異議があれば掲載を復活させなければなりません。

他方、日本の制度では、OSPは権利侵害の立証がある場合にのみ、削除義務があるので、権利者は著作物および侵害掲載物を特定し、当該著作物の著作権を当該侵害掲載物が侵害する旨の陳述だけでは足りず、著作権の保有および侵害を証明する必要があります。このような証明は、OSPにとってその審査に負担を生じます。また、権利者にとっても、大きな負担となっています。日本では、米国のような著作物の作成自体を登録する著作権登録制度がありませんので、著作権の保有を立証することは極めて困難です。その結果、救済を受けられる権利者が大きく制限されているのが実態です。
そのためでしょうか。日本ではプロバイダ責任制限法を制定したときに、JASRACなどについて上記負担を削除するために、OSPと権利者団体でプロバイダ責任制限法ガイドライン等権等協議会を設立し、信頼性確認団体という制度を作りました。JASRACなどの団体を信頼性確認団体に認定し、信頼性確認団体からのOSPに対する削除請求に対しては、著作権の保有および侵害を証明する必要はないこととしています。その結果、JASRAC等13の信頼性確認団体は、米国並みの手続で削除請求できますが、それ以外の権利者は、目の前に侵害掲載物が存在していても、著作権の保有および侵害の立証に要する費用が障害となって、削除等の救済を受けることができません。

米国の制度では、権利者は日本のような証明を求められることなくOSPに削除を求めることができるので、救済を受けられる権利者の幅はずっと広くなっています。しかし、米国でも問題はあります。ネット上で侵害されていても、それを発見するには常時ネット上をパトロールする必要があります。それを行うには、多大の費用が必要です。その負担に耐えられる権利者は、大規模な事業者(たとえば音楽業界や映画業界)に限られ、小規模の著作権者(たとえばフリーの写真家)にはむりです。この問題を改善するために、著作権局の報告書は、512条(i)(2)の改正を提言しています。

512条(i)(1)(B)は、OSPの免責の条件として、「標準的な技術的手段」(Standard Technical Measures:STM)を採用することを義務づけています。STMは、つぎのように定義されています(512条(i)(2))。
「著作権のある著作物を特定しまたは保護するために著作権者が使用する技術的手段であって、以下の条件を全てみたすものをいう。
(A)公開、公平かつ任意の多産業間標準設定手続において、著作権者およびサービス・プロバイダの広範な合意に従って開発されたものであること。
(B)合理的かつ非差別的な条件においていかなる者にも使用可能なものであること。
(C)サービス・プロバイダに対して多大な費用を課し、またはそのシステムもしくはネットワークに多大な負荷を及ぼすものでないこと。」

以上のとおり、STMの要件はかなり厳格なので、いまだにSTMに該当する技術は存在しません。

しかし、業界では任意的措置として、透かし技術を使って侵害掲載物をフィルタリングするシステムが開発されており、OSPが権利者からデータの提供を受けて、権利者から個別の通知がなくてもOSPが侵害掲載物を削除することが行われています。このような技術の開発と普及を進めるために、米国著作権局は、STMの要件を緩和するとともにその採用を強制ではなく推奨にするよう法改正を提言しています。

このようなフィルタリング・システムは、零細な権利者にも救済の道を開く可能性があります。たとえばフリーの写真家は、自分の撮った写真をflikrという画像サイトや自分のHPを使って公表しています。ネット上での無断複製は、このようなところで公表された画像が元になっています。そこでたとえばflikrがそこで掲載する写真に透かしを付し、OSPにフィルタリングさせるサービスを提供すれば、フリーの写真家でもネット上での侵害をパトロールする負担を軽減することが可能になります。

 以上

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