JRRCマガジンNo.227 米国DMCA報告書②

山本隆司

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JRRCマガジン No.227  2021/1/14
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。

東京都を含め緊急事態宣言が発出され自粛が求められる中、オンライン開催のセミナーを多く見かけます。
今回はJRRC主催 自治体様限定セミナー のご紹介をいたします。

【2月2日オンライン開催の”自治体様限定”著作権セミナーのご案内】
単年度契約更新時期を前に、自治体様限定のオンライン著作権セミナーを開催する運びとなりました。
ご興味のある自治体の皆様、奮ってご参加ください。

開催日時:2021年2月2日(火) 13:00~15:30
※申込締切:2021年1月27日 12:00 まで(先着450名様につき、定員に達し次第締切ります。)
詳細につきましては以下のアドレスよりご確認いただけます。
https://jrrc.or.jp/koza210202/ 

さて、今回の著作権談義は、米国DMCA報告書①の続きです。
日本にとって参考になる視点でお読みいただけるのではないでしょうか。

前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/yamamoto/

◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義(94)━━

  -米国DMCA報告書②-

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2020年5月の米国DMCA報告書は、米国著作権法512条が定めるプロバイダ責任制限規定に問題があると著作権局があると考えてその改正を求める目的で作られたものはありません。
①制定後20年を経過した現時点で制定時の想定を超えてその運用がどのように発展しているかを整理して、連邦議会が改正の必要の有無を検討する資料を提供するという目的と、
②「ノーティス・アンド・テイクダウン手続」で救済の対象となりにくい著作権侵害をどのように救済すべきなのかについて考えられる措置を提案することを目的にしています。
今回は、前者①についてお話しし、後者②は次回お話ししたいと思います。前者①は、もっぱら米国固有の制度における現状の整理なので、日本にとってはあまり参考になることはありません。参考になるポイントのみを以下でご紹介したいと思います。

米国のプロバイダ責任制限規定は、OSPを4つのサービス類型に分けています。
a.接続サービス(512条(a))、b.システムキャッシング((b))、c.ホスティングサービス((c))と、d.インデックスサービス((d))です。
4つのサービス類型ごとに免責要件を定めていますが、判例法上形成された寄与侵害責任と代位侵害責任を当てはめて明文化しています。寄与侵害責任と代位侵害責任の要件それぞれについて、判例法理の発展が見られます。

まず、寄与侵害責任は、日本法における教唆・幇助に対する間接侵害に相当します。ホスティングサービスの文脈では、OSPがユーザーにホスティングサービスを適法用途に使ってもらうことを意図していても、ユーザーの中には違法用途に使用する者も存在します。そのような者の著作権侵害に対して、OSPはどのような場合に著作権侵害責任(損害賠償責任)を負うのかという問題です。このような場合、寄与侵害責任は具体的な(specific)侵害行為を認識した場合に、ただちに削除しなければ損害賠償義務を負います(ナプスター判決)。512条(c)は、当該認識要件について「著作権侵害にあたることを現実に知らないこと」((1)(A)(i))または「かかる現実の知識がない場合、侵害行為が明白となる事実もしくは状況を知らないこと」(同(ii))と規定しています。前者はactual knowledge、後者はred flag knowledgeと呼ばれています。他方、OSPには「サービス・プロバイダがそのサービスを監視し、または侵害行為を示す事実を積極的に探索する」義務のないことが明記されています(512条(m)(1))。

そこで、第1の問題は、red flag knowledgeとして、「侵害行為が明白となる事実もしくは状況を知」った場合には、削除する必要がありますが、侵害行為を探索してまでそうする必要があるのか。そうでないとすれば、red flag knowledgeとはどのような場合をいうのか。探索義務免除(512条(m)(1))は、あるかないか分からない侵害行為を探し出す必要はないことを意味しています。red flag knowledgeは侵害行為があることが明らかな場合に成立します。どの程度具体的な侵害行為について、red flag knowledgeが問題になるのか。裁判例は、URLで特定されたコンテンツについて「侵害行為が明白となる事実もしくは状況を知」った場合にのみred flag knowledgeが成立し、OSPにURLを探索する義務まではないとしています(Viacom International, Inc. v. YouTube, Inc., 676 F.3d 19 (2d Cir. 2012); Veoh IV, 718 F.3d 1006 (9th Cir. 2013))。ただし、裁判例は、OSPが特定の著作物の違法使用を煽った場合には、特定のURLの認識がなくてもred flag knowledgeが成立するとしています
(Columbia Pictures Industries, Inc. v. Fung, 710 F.3d 1020 (9th Cir. 2013))。

第2の問題は、裁判例は512条(c)の認識の成立に「Willful Blindness(故意ある無知)」の判例法理が適用されるとしています(前掲Viacom判決)。したがって、OSPがactual knowledgeまたはred flag knowledgeを回避する行為を行う場合には、512条(c)の適用を受けず、寄与侵害責任が成立します。では、どのような場合にその回避が認められるのか。探索義務が免除されているので、侵害行為の有無を探索しなかったことがWillful Blindnessには当りません。裁判例は、URLで特定された侵害行為について侵害の有無を判断しない場合にそれに当るとしています。米国著作権局は、法文の解釈からも伝統的な判例法理の解釈からも、そのような解釈は不当に狭すぎると指摘しています。

つぎに、代位侵害責任は、日本法の使用者責任(民法715条)に近い考え方で、適用範囲をより一般化した判例法理です。直接侵害者でない者が著作権侵害を管理する権限と能力を有しており、かつ当該著作権侵害に対して直接の経済的利益を有している場合に、当該著作権侵害に対して責任を負います(ナプスター判決)。OSPは、侵害物を削除する能力も(利用規約で)削除する権限も保有していますが、裁判例は、伝統的な代位責任の法理を離れて、OSPに代位侵害責任を認めるには「something more(それ以上の何か)」が必要であるとしています(前掲Viacom判決、前掲Fung判決)。something moreとして、侵害を助長するような特段の行為を求めています。

最後に、OSPには、反復侵害者に対して契約解除する運営方針を採用し合理的に実行すること(512条(i)(1)(A))が求められています。しかし、OSPはそのような方針を採用・運用していれば足り、文書化することもこれを公表することも求められていません。米国著作権局は、その文書化・公表が必要であると指摘しています。
 
以上
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