JRRCマガジンNo.226 著作物とは何かについて(その3)

川瀬真

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JRRCマガジン No.226 2021/1/7
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今年の年末年始はいつもより多めに休暇の方も多かったのではないでしょうか。
2021年度もJRRCをどうぞよろしくお願い申し上げます。

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さて、今年こそはオリンピック開催と聞いています。今回のテーマは美術の著作物の「五輪マーク事件」等、著作権についても考えていただく良い機会となれば幸いです。

前回までのコラム
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━

 著作物とは何かについて(その3)

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4.著作物かどうかの具体例(続き)

(2)美術の著作物関係

②造形美術作品としての建築の著作物
わが国の場合、著作物の例示規定(10条1項(の中で、美術の著作物(4号)と建築の著作物(5号)は別々に規定しています。
しかし、建築の著作物の著作物性を説明する場合、①で説明した鑑賞目的(純粋美術)か実用目的(応用美術)の議論と関連し、
著作物(2条1項1号)の定義中にある創作性とは別の基準により著作物性を判断する必要があるかどうかの問題があります。
このことから本稿では、建築の著作物の著作物性について美術の著作物関連の問題として説明します。
 
建築の著作物については、住居、仕事、催物等に供される建物だけでなく、門、塔、橋、庭等の工作物も対象になるとされています。
これらに共通するのは、建築物というのは実用的な工作物であるということです。
また、創作性の問題ですが、部屋の配置や間取りが適切で使いやすいという創意工夫もありますが、
表現の保護という点からは、やはり見た目の美しさすなわち美観という要素が大きいことは当然のことです。
 
したがって、同じような建物でも建築の著作物として著作権保護がある場合とそうでない場合があることになり、
その基準はどうなのかという問題が残ります。

判例を見ると、実用品である建築物が著作物として著作権保護を受けるためには、
「美的鑑賞の対象」となる「造形芸術」である必要があるとしたものがあります。

判例1 
工場で部材を生産し現地で組み立てる高級注文住宅について、
建築の著作物に該当しないとし著作権保護を否定した事例(「グルニエ・ダイン事件」大阪高裁判決<2004(H16).9.29>)
一般住宅について建築の著作物といえるためには、「客観的、外形的に見て、
それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、
居住用建物としての実用性や機能性とは別に、[独立して美的鑑賞]の対象となり、
建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような[造形芸術]としての美術性を備えた場合と解するのが相当である。」([ ]は筆者)
☆別の判例では、建築の著作物とは「建築芸術」と見られるものでなければいけないとしたものがあります(「シノブ設計事件」福島地裁決定<1991(H3(4.9>)
 

確かに、建築家は芸術家として世の中で広く認知されており、建築物の中には建築家の名前を冠したものがたくさんあります。
例えば、東京都庁は丹下健三氏(1980年 文化勲章)、最近できた国立競技場は隅研吾氏(2019年 紫綬褒章)がデザインしたものですが、
私見では、このような建築物が著作物であることは間違いないと考えます。
しかし、一方で多少仕上がりのデザインは異なっても大量生産の一般住宅やビルについては著作物でないものがほとんどだと考えられます。
また、一棟ごとにデザインが異なるビル等については、単なる機能美を超えた創作性の有無により個別に判断する必要があると考えます。

③ロゴマーク
ロゴマークについては、商標法上の「標章」との関係で論じられる場合が多いと考えられます。
「標章」については、商標法の「商標」の定義の中で、「人の知覚によって認識できるもののうち、
文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」と定義されています(商標法2条1項)。
このように標章は、様々な形態のものが想定されますが、この標章の著作物性が争われた事件があります。

判例2 
「アサヒロゴマーク事件」東京高裁判決(1996(H8).1.25)

この事件は、原告標章と被告標章(資料1参照)の商標上の類似性が争われた事件ですが、
原告は、それと並行してロゴマークは著作物であり被告の行為は著作権侵害であるとの主張を行いました。
それに対し、裁判所は、ロゴマークは単なる文字の組み合わせではなくデザイン的要素を付加したとは認められるが、
この程度の付加では美的創作性を感得することはできないとして著作物性を否定しました(商標上の類似性も否定)。

また、古い判例ですが、オリンピックの五輪マークは著作物でないとしたものがあります。

判例3
「五輪マーク事件」東京地裁判決(1964(S39).9.7)

「いわゆる五輪マークが『美術の範囲に属する著作物』に該当するか否かは、はなはだ問題であるが、
それが比較的簡単な図案模様にすぎないと認められるので、直ちにこれを肯定するに躊躇せざるを得ず、消極的に解するものである。」
印刷用書体については、最高裁は美術鑑賞の対象となりうるもの以外の著作物性を否定しているので
(「ゴナ書体事件」最高裁判決<2000(H12).12.7>)、
少なくとも文字主体のロゴマークについては美術の著作物として認められる特殊なものを除き著作物性はないものと考えられます。

それでは、ロゴマークが美術の著作物といえるかどうかの事例について、
これはわが国では裁判になっていませんが、面白い事例がありますのでその概要を説明します。

現在採択されている東京オリンピックの五輪エンブレムの前に採択されたロゴマーク(旧五輪エンブレム)に関する紛争です。
資料2の旧五輪エンブレムは2015(H27).7に五輪エンブレムとして正式に採択されましたが、
採択直後からこの作品は資料2のベルギーのある劇場のロゴマークと酷似しているのではないかとの指摘が行われました。
旧五輪エンブレムの作家はエンブレムの作成に当たって世界的な標章の調査等も行っているが劇場のロゴマークは指摘されるまでその存在を知らなかった等の反論を試みたものの、
同年8月には劇場のロゴマークの作成者等がベルギーの裁判所に、IOC(国際オリンピック委員会)が行う旧五輪エンブレムの使用の差止等を求める訴訟を提起する事態になりました。

この件は、結局作家が採択を辞退したため、旧五輪エンブレムの使用が中止となり、
現在の五輪エンブレムが改めて採択され今日に至っています(旧五輪エンブレムの使用中止に伴いベルギーの裁判所への提訴も取下になったようです)。
この紛争について、様々な事情が明らかになっていますが、ここでは著作権侵害の有無という点に絞って整理しますと、2つの争点があることが分かります。

一番大きな争点は、劇場のロゴマークが著作物かどうかです。どちらのロゴマークもコンセプトは異なりますが「T」という文字を基調にそれと図形を組み合わせたものであります。
私自身は、これまでの応用美術に関する判例により示された「美的鑑賞の対象」という基準を使うと少なくとも劇場のロゴマークは著作物ではないという判断になるのではないかと考えます。
また、著作権法上の著作物の定義(2条1項1号)に照らしても、作家の個性が表現されているといえるかどうかは微妙だというのが私の感想です。

次の争点は、仮に著作物だとして、旧五輪エンブレムの作家が劇場のロゴマークに依拠し模倣したかどうかです。
見た目似ているからといって著作権侵害を認めてしまうと、この分野の作品は、表現の幅が狭いこともあり、
新しく作成された作品は、多くの場合先行作品の模倣作品になってしまう可能性があります。

したがって、現実問題としてこの分野での著作権侵害を立証するためには、一般に劇場のロゴマークがこの分野の専門家の間である程度周知されていること、
また訴えられた作品が先行作品の全く又はほぼ同じものでないと依拠性・模倣性の立証は難しいのではないかと考えます。
このように仮にわが国で裁判になったとしても、私見では劇場側が勝訴するのはむずかしいのではないかと考えます。
著作権侵害に関する疑惑以外にも様々なことが報じられましたが、一旦正式に採択したものを取り消すためには単なる疑惑・憶測だけでは難しいと思いますので、
作家の採択辞退は日本のオリンピック関係者にとっては渡りに船で、「ほっと」したのではないかと感じます。

次回は、同じ美術の著作物関係ということでキャラクターの保護を中心に説明します。
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