JRRCマガジンNo.215 学校等の教育機関における著作物等の利用について(その2)

川瀬真

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JRRCマガジン No.215 2020/9/10
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さて、本日のコラムは学校等の教育機関における著作物等の利用について(その2)です。
以前ここでご紹介しました
9月7日に行われた「関西知的財産セミナー 令和2(2020)年著作権法改正にかかる説明」には
多くの方が出席されていて、関心の高さを感じました。
(その1)からご覧になる方はこちらから
前回までのコラム
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━

 学校等の教育機関における著作物等の利用について(その2)

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4 授業目的公衆送信補償金制度

(1)補償金制度の導入

改正35条2項により、公衆送信を用いた遠隔地授業等を行ったときは、
原則として権利者に相当な額の補償金(授業目的公衆送信補償金。以下「補償金」という)を支払わなければならないことになりました。
1970(昭和45)年の35条の創設時には、学校現場にはガリ版程度の複製機器しかなく、
将来の複製機器の普及は予想されていたとはいえ、教育目的という公益性を考慮し、
無償での権利制限を認めました。
また、対面授業の同時遠隔地授業に関する権利制限を認めた2003(平成15)年の改正の際にも、
範囲を限定した拡大であったため、無償の利用を認めました。
 
しかしながら、2018(平成30)年の改正に当たって、著作物等の教育利用に関する権利制限について審議した文化審議会著作権分科会では、
教育機関における著作物等の利用の現状を考慮すれば、
利用方法を問わず一定の補償措置の導入が必要とする複数の委員の意見を紹介した上で、
諸般の事情を考慮すれば、新たに権利制限の対象となる公衆送信を用いた授業に限定して補償をするべきであるとの見解を示しました。
各国法制を見ると教育目的の著作物等の利用について権利制限を認めている国は多いです。
また、権利制限に当たり、複製、公衆送信等の利用形態に限らず、
一定の補償措置を導入している国も多くあります(独国、仏国、オーストラリア、韓国等)。
また、著作権等の集中管理団体との利用許諾契約により対処している国もあります(英国、米国等)。
 
35条の教育機関は、学校教育法上の幼稚園、小学校、中学校、高校、高専、大学、専門学校、各種学校等のみならず、
職業教育、社会教育等を含むかなり広範囲で多数の機関が対象です。
これらの学校等で著作物等の利用が行われるわけですから、1970(昭和45)年の35条の創設時と異なり、
複製機器等の発達・普及を考慮すれば、仮に個々の学校における著作物等の利用の程度が軽微であったとしても、
教育機関全体としては、大量の著作物等が利用されると考えられます。
また、一般に複製・配布は閉鎖的な場所で行われますが、
公衆送信は場所や時間の制約があまりなく著作物等の拡散がより拡大し権利者の利益を害する可能性が高いと考えられます。
権利制限を公衆送信一般に拡大するとなれば、権利者の被る不利益は大変大きなものになると予想されます。
 
私見では、今日の現状を見ると教育利用一般について補償措置の必要性であるがとする見解を支持しますが、
現行法の制定以来長い間複製利用については無償で行われていたこと等から、
補償金制度の円滑な導入を優先すれば、今回の措置はやむを得なかったものと考えます。
 
なお、権利者側にとっては、教育目的の著作物等の利用については一定の補償措置が必要だという見解が明記されたわけですから、
後述する補償金制度の運用について政府や教育機関から一定の評価を得ることができれば、
将来的には複製利用等についても補償措置が導入される道筋はできたと考えてよいと思います。

(2)補償金制度の仕組み

改正35条2項では、公衆送信を用いた授業を行う場合、
教育機関の設置者は相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならないとしています(102条1項により実演家等の著作隣接権について準用)。
また、一方で改正104条の11では、補償金の行使を目的とする団体が設立され文化庁の指定(全国で1個の団体に限定)を受けたときは、
個々の権利者が補償金請求権を行使することはできず、
当該指定管理団体によってのみ補償金請求権が行使されることになっています。
 
この仕組みは、私的録音録画補償金制度と同様の仕組みです(30条2項、102条1項、104条の2)。改正35条2項を見ればわかるように、
補償金請求権は本来個々の権利者に与えられているのですが、
個々の権利者が個別に補償金請求権を行使することは事実上困難であり、
また教育機関側も事務的負担が過重なものとなるため、膨大な補償金請求権を1つの団体がまとめて行使することにより、
権利保護と補償金の受領に係る契約処理の簡素化を図る最適な手段として採用されています。
 
この指定管理団体として、
既に一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)(代表理事 土肥一史一橋大学名誉教授)が2019(平成31)年2月に指定されています。
本来改正35条は、改正著作権法の公布(2018(平成30)年5月)から3年以内の政令で定める日から施行されることになっていました。
SARTRASでは2021(令和3)年4月からの実施を目指して準備を進めてきましたが、
新型コロナウイルスの影響で、2020(令和2)年4月28日に急きょ施行されたところです。
また、補償金の額についても新型コロナ対策の緊急性等にかんがみ0円で認可されたところです。
 
このように、補償金制度は新型コロナウイルスの影響で指定管理団体の準備が整わないまま変則的な形で実施されましたが、
円滑な実施に向けて本来指定管理団体はどのようなことをすべきかについて説明をしておきます。

①改正35条の運用指針と補償金の額の認可(104条の13第1項)等
補償金の額については、文化庁の認可が必要です。
認可申請に当たっては、教育機関側の意見を聴取する必要があり(同条3項)、認可に当たっては、その意見とともに所定の書類を備えて申請を行う必要があります。
なお、教育機関側の意見聴取に当たっては、文化庁の指導により、改正35条の具体的な運用方法を定めた運用指針を教育機関側に提示することが必須とされています。
前回説明した権利者、利用者及び有識者から構成される「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」においては「改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)」を作成中ですが、
現在、8月5日までの審議の状況を整理した令和3(2021)年度版案に基づき教育関係団体に対し、
補償金の額に関する意見募集を行っているとことです。

なお、補償金の額については、教育機関側の事務的負担を考慮し、
継続的利用機関向けに履修者一人当たり〇〇円という包括的な支払方法と、
非継続的利用機関向けに著作物等の公衆送信当たり〇〇円という利用ごとの支払い方法の併用制を採用することで補償金規程案が作成されています。
また、補償金規程案では、教育機関の種類が多く、そこで行われる公衆送信を用いた授業も様々な態様で行われることから、
これらの事情に対応して徴収金額の設定方法も複雑になっているところから、
補償金額の認可後は、補償金制度の仕組と補償金規程の内容に関する周知徹底が求められるところです。

②分配方法の検討
補償金規程案では、包括的な支払い方法と利用ごとの支払い方法の併用制ですが、
利用ごとの支払い方法は、教育機関側の事務的負担が重いので、通常は包括的な支払い方法が選択されると考えられます。
これを補償金の権利者への分配という点から見ると、本来は利用ごとの支払い方法の方が、
誰のどの著作物を何回公衆送信したかの報告が得られるので正確な分配ができることになります。
 
包括的な補償金額で受領した場合であっても、音楽の放送使用料のようにIT技術を活用して全ての利用報告が可能となれば問題はなくなるのですが、
教育機関の現状ではサンプリング調査にならざるを得ないと考えられています。
この場合、教育機関の種類、期間、報告内容等の設定が難しく、統計、情報処理技術等の専門家の助言も踏まえながら、合理的な分配資料の収集方法の策定が望まれるところです。
また、サンプリング調査の結果作成された分配資料に基づき分配する場合においても、
分野ごとの分配割合、組織化されていない権利者への分配、連絡先不明の権利者への分配、外国の権利者への分配等検討すべき課題は多いと思われます。
教育機関側から見れば、教育機関が支払った補償金が適正に分配されているかは大きな関心事であり、
例えば、今後補償金の額を増額する際にも分配が適正に行われているかが教育機関側の理解を得られるかどうかの重要な要素になると思います。
また権利者側から見ても、補償金請求権は権利者の意思に基づくものではなく強制管理であるがゆえに、
一般の集中管理以上に分配方法の妥当性が求められると考えます。

③共通目的事業(104条の15)の実施に関する検討
補償金制度は、私的録音録画補償金制度と同様に、指定管理団体が収受した包括的補償金の総額に対し、
政令で定める方法により算出した金額を「著作権又は著作隣接権の保護に関する事業」と「著作物の創作の振興及び普及に資する事業」(以下「共通目的事業」という)に支出する必要があります。
共通目的事業に関する内容については、私的録音録画補償金制度における共通目的事業の内容等も参考にしながら、今後SARTRAS内で検討されることになっていますが、
教育利用の場合は、私的録音録画の場合と異なり、あらゆる著作物等が利用される可能性があるので、
その内容についてはおのずと違ったものになると考えられます。
なお、分配方法と共通目的事業については、補償金の徴収後に行われるものですので、
SARTRAS内部での検討も当面は補償金の徴収方法について重点的に行われると思われますが、
分配方法及び共通目的事業の内容ともSARTRASの業務開始前に文化庁に届け出る必要がある「補償金関係業務の執行に関する規程」(104条の14)の必要記載事項になっていますので、
詳細な内容はともかく業務の概要については決めておく必要があると考えられます。

補償金制度の概要については以上のとおりです。
次回は、教育機関が著作物等の利用を円滑に行うためには、改正35条で定める授業目的の利用だけでなく、
改正35条の適用がない教育目的の利用やそれ以外の業務用の利用等について、
適法に利用できる集中管理方式による利用許諾システムの構築が求められています。
SRTRASでは、補償金制度の運用以外に、このような利用許諾システムの整備による教育機関による著作物等の利便性向上の検討も行っていますので、
次回は利用許諾システムの整備に関する説明をします。
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