JRRCマガジンNo.208 著作権法上の侵害とみなす行為について(その4)

川瀬真

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JRRCマガジン No.208 2020/6/25
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

こんにちは。
7月も近くなりました。オリンピックが延期となり連休はあるものの、
新型コロナウイルス第2波の影響を懸念し、先の計画が立てられない方も多いのではないでしょうか。

そんな状況ではありますが、JRRCは例年通り7月から本年度の使用料申請受付を開始いたします。
(対象の方には別途郵便で通知いたします。)

当センターの使用料は、利用者からの使用料申請に基づいて請求額が決定いたします。
こちらからの一方的な請求書の送付はありませんので、期限までに必ず申請を行ってください。

誤解されている方も多いのですが、JRRCの許諾はご契約対象の法人・団体の業務に国内で従事する、
全ての従業員の方が、それぞれの業務において、
契約書・使用料規程および各著作物の許諾条件の範囲で複製することができます。

ご契約者様におかれましては業務や情報収集に文献複製を大いに活用いただき、そして、
使用料を権利者の皆さまへ滞りなく分配するために、使用料申請へのご理解と協力をお願いいたします。

さて、今日のコラムは川瀬先生、著作権法上の侵害行為その4です。
前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━

 著作権法上の侵害とみなす行為について(その4)

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2 侵害とみなす行為の具体的類型(続き)

(6)権利管理情報の除去・改変等に関する行為(113条1項4号 1999(平成11) 年改正により追加)

①はじめに
 
IT時代になり市場に流通しているコンテンツを無断でデジタル複製し、販売や公衆送信されることが多くなり、権利者の利益を不当に害する状況が広がりました。
その対策として、前回説明したようにこのような行為を禁止又は抑制する手段として、権利者と機器メーカ等とが話し合い、
「技術的保護手段」や「技術的利用制限手段」が導入され、複製等や視聴を制限する制度が整備されました。
その一方で、仮に無断複製等が行われた場合、違法行為の発見や立証を容易にするためや、ネットを活用した著作権契約を円滑に行うための方策が整備されるようになりました。
その方策の一つが、権利管理情報の活用です。

どのような方法かといえば、当該情報を電子透かし等の方法によりコンテンツに記録させておき、コンテンツの複製等が行われば、当該情報も自動的に記録され、
その情報を確認することにより、作品や権利者の特定が可能になり、また利用許諾にあたっての利用条件等が明らかになるというものです。
この権利管理情報は、IT時代におけるコンテンツの円滑な流通に資するものとして大きな期待をされていますが、
反対に当該情報を他人が改ざんし、その改ざんされた情報を記録したコンテンツが流通すれば、著作権等の保護に大きな影響を与えることになります。

こうしたことから、1999(平成11)年の著作権法改正により、権利管理情報の改ざんする行為や改ざんされた情報を記録した著作物等を流通させる行為を、
著作者人格権、著作権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害とみなす行為とするとともに(113条4項)、営利目的で当該みなし侵害を行った者に罰則が適用されることになりました(120条の2第3号)。
なお、著作隣接権については、国際的な合意を踏まえ、許諾権だけでなく、放送のための固定物等による放送に係る報酬請求権(94条2項)、
商業用レコードの二次使用料請求権(95条1項、97条1項)及び商業用レコードの貸与報酬請求権(95条の3第3項。97条の3第3項)の債権的な権利も含むことにしています(113条5項)。

②国際条約上の義務

権利管理情報の保護については、1996(平成8)年作成の「著作権に関する知的所有権機関条約」(WCT)及び
「実演及びレコードの関する知的所有権機関条約」(WPPT)に規定されており(WCT12条、WPPT19条)、各締約国に保護義務があります。

また、2016(平成28)年作成の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)においても同様の規定があります(18・69条)。

(注)TPPは米国の離脱により発効の要件を欠くことになりましたが、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(TPP11)の作成により、
TPP18・69条を含む多くの規定がTPP11に組み込まれました(TPP11第1条)。

このように、権利管理情報の保護は、わが国だけの特殊な制度ではなく、条約に基づく国際ルールということです。

③権利管理情報とは、

権利管理情報の定義については、各条約とも定義規定を設けており、わが国の著作権法でもその定義規定を踏襲しつつ、改めて定義規定を設けています(2条1項22号)。
定義規定によると、①同規定に定める3つの要件を満たす情報であること、②電磁的方法により著作物等とともに記録媒体に記録され又は送信される情報であること、
③著作物の利用状況の把握、著作物の利用の許諾等の事務処理その他の著作権等のデジタル方式による管理に用いられている情報のことをいいます。

①の3つの要件ですが、
まず、著作物等及びその権利者を特定できる情報です。法令では、その他の事項は政令で定めることになっていますが、現状では定められていません。
したがって、著作物や実演・レコード等の名称、著作者名・実演家名等又は著作権者名・著作隣接権者名等が該当することになります。

次に、利用許諾を行う場合における利用方法や許諾のための対価等の条件です。この情報に基づき、ネット上で利用契約が締結できるようになる重要な情報です。

最後に上記の2つの要件について、例えば権利者側が有しているデータベースを検索すると必要な情報が検索できるコード情報等のことをいいます。

④侵害と見なされる行為

侵害とみなさる行為には3つの類型があります。

ア 権利管理情報として、虚偽の情報を故意に追加すること
イ 既にある権利管理情報を故意に除去又は改変する行為(技術的制約等やむを得ない場合を除く)
ウ ア及びイにより改ざんされた当該情報が記録された著作物等を、情を知って、その複製物を頒布、頒布目的の輸入し又は所持する行為、及び公衆送信・送信可能化を行う行為 

このように、権利情報の改ざんと改ざんされた当該情報の拡散を対象としています。

(7)著作者の名誉又は声望を害する方法により著作物を利用する行為(113条7項)
  
現行法が制定された1970(昭和45)年に定められた規定で、著作者の名誉又は声望を害する方法により著作物を利用する行為を著作者人格権の侵害とみなすことにしています。
著作者人格権は,公表権(18条),氏名表示権(19条)及び同一性保持権(20条)からなる権利ですが、この規定は特に同一保持権との関係で説明される場合が多いです。
すなわち、同一性保持権の内容は,著作物及び題号(題名のこと)を変更、切除その他の改変から保護するものあり、著作物等に手を加えることが行為の基本になっていますが、
本規定はそれ以外の行為から著作者の名誉又は声望を守る内容となっています。
具体例としては、厳粛な宗教音楽をわいせつな舞台音楽として利用した場合が該当します。

ベルヌ条約では、著作者人格権を「著作物の創作者であることを主張する権利及び著作物の変更、
切除その他の改変又はその他の侵害」(6条の2(1))から保護される権利と位置づけています。
 
このように条約上も「その他の侵害」から保護されることが義務付けられていることから、このみなし侵害規定は、上記の3支分権に加えて第4の支分権ともいわれています。

(8)著作者名詐称の罪(121条)

著作者でない者の実名又は周知の変名を表示して著作物の複製物を頒布した者に罰則を科しています(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(併科も可))。
これは、これまで説明してきたみなし侵害規定ではありません。この規定は、例えば他人が創作した著作物をあたかも著名な著作者の作品として販売等を行うことを、
公衆を欺して利益を得るという詐欺的行為として捉え、罰則により社会の秩序を維持するための制度です。

しかしながら、一方でこの規定は、無断で氏名を使われた者の名誉又は声望を保護する仕組みともいえ、ある意味、著作者の人格権を守る制度としても機能しています。

この制度で問題になるのは、いわゆる「代作」についてです。
アイドルや政治家が書いた書籍等の多くはゴーストライターといわれる人が本人になり代わって執筆しているといわれています。
この場合、書籍等の販売時には,著作者名として当該アイドルや政治家の名前が表示されるわけですから、
ある意味公衆を欺しているとも言えることから本規定が適用されるのかどうか問題になります。

一般に代作については、ゴーストライターが勝手に書いているわけではなく、本人に詳細な取材等を行い、また最終的には本人の了解を得て公表されるのが通常です。
したがって、一般に公衆を欺すという意図はなく、読者も全て本人が書いているとは思っていないのが実情と考えられます。
このことから,代作については一般に本条の適用はないと考えられます。

なお、この場合、誰が著作者かといいますと、著作者とは「著作物を創作する者」(2条1項2号)のことをいいますので、ゴーストライターが著作者になります。
ただし、著作物の公表の際に著作者と表示されている者が著作者であると推定されるという規定(14条)があるため、
ゴーストライターが名乗り出て自分が実際の著作者であると証明しない限り、世の中では当該アイドルや政治家が著作者として取り扱われることになります。

2014(平成26)年に話題になった聴覚障害者といわれていた佐村河内(さむらごうち)氏が作曲したとされるゲームやクラシック音楽が実は別の作曲家の作品であり、
そのことを当該別の作曲家が名乗り出て、佐村河内氏もそのことを認めたという事件がありました。
法律的には、このことにより佐村河内氏が著作者だという推定が覆されたわけですから、その日以降は当該別の作曲家が著作者という取り扱いになります。
なお、財産権としての著作権については、ゴーストライター契約の際にどのような契約内容であったかによって、どちらが著作権を有しているかが決まることになります。

以上、みなし侵害規定等に関する説明を終わります。

次回以降は、学校等の教育機関における権利制限を中心に説明をします。
新型コロナ・ウイルスにより、学校等の教育機関の休校が相次ぎ、ネットを利用した遠隔地教育がにわかに注目されるようになりました。
教育機関における遠隔地教育を権利制限の対象にした著作権法の改正が2018(平成30)年に行われ、2020(令和2)年4月28日に急きょ施行されたこともあり、
世の中の関心も高いので、ちょうどよい機会だと思っています。
  
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