JRRCマガジンNo.190 職務著作物

山本隆司

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JRRCマガジン No.190 2020/1/16
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2020年最初の配信です。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
JRRCは今週から再開発が著しい虎ノ門に事務所を移しスタートいたしました。
隣には虎ノ門ヒルズがそびえ、霞ヶ関の官庁街へも徒歩圏となり、青山とは雰囲気も一転しました。
新しい街でJRRCはこれからも権利者の皆さまの信頼に応え、利用者の皆さまにはより利便性が高まるよう、
新たなステージに向かって心機一転取組んでいきますので是非ご期待ください。

今週は山本先生のコラムをお届けします。
テーマは「職務著作物」。
JRRCのご利用者様の多くは法人や団体様ですので業務で創作した著作物についての理解は押さえておきたいところですね。

前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/yamamoto/

◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義(83) ━

  -職務著作物-

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先日、著作権法学会の判例研究会において、コンタクトレンズ販売店チラシ事件の大阪高裁令和元年7月25日判決が紹介されました。
報告者は、判決が触れていない論点をいろいろ掘り起こされていましたが、そのなかに職務著作の成否がありました。
報告では論点のみでどのように考えればいいのか解説はありませんでしたので、この論点について掘り下げて考えてみたいと思います。

上記事件では、原告は、概ね、被告がそのコンタクトレンズ販売店の経営を原告に委託し、原告従業員がその販売店用チラシを作成しました。
原告は、その著作権は職務著作として原告に帰属すると主張しました。判決は複製ノフ存在を認定したので、職務著作については判断しませんでした。
職務著作に関する問題は、当該チラシが、原告の名義でも原告従業員の名義でもなく、被告のコンタクトレンズ販売店の名義で作られていた点にあります。

著作権法は、職務著作の要件を
「法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」(15条1項)と規定しています。
上記事案で論点になるのは、
「その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」という要件(公表名義の要件)です。前記チラシは原告ではなく被告の名義で公表されたからです。
たとえば、アメリカ著作権法では従業員が職務上作成した著作物であれば、公表名義の如何を問わず、職務著作物として使用者を著作者としています(101条)。
また、日本法でも、コンピュータ・プログラムについては、公表名義の要件を求めていません。
日本法上、その他の著作物について、職務著作の成立になぜ公表名義の要件を求めているのでしょうか。
日本法では、従業員が職務上作成した著作物であっても、従業員を著作者とするか使用者を著作者とするかは当事者の意思に任せており、その意思の徴表として公表名義を問題にしていると考えられます。
それゆえ、公表名義の要件は、現実に使用者の名義で公表されること自体は必ずしも必要ありません。
立法担当者は、「公表したもの」とせず「公表するもの」と規定したのは、使用者の名義で公表される予定があれば足りる趣旨であると説明しています(加戸・逐条)。
そもそも未公表著作物には使用者の名義での公表はありませんが、職務著作の成立を否定するのは不適当です。
また、公表自体予定していない著作物では、使用者の名義で公表される予定がありませんが、
「仮に公表されるとすれば法人等の名義で公表されるものも含まれる」と解釈されています(新潟鉄工事件・東京高判昭和60年12月4日)。
しかも、その基準時は、公表時ではなく創作時が基準と解釈されています(上記判決)ので、
公表が実際には第三者の名義になったとしても、職務著作の成立が認められうることになります。

やはり、従業員が職務上作成した著作物であっても、著作者を従業員とするか使用者とするかは当事者の意思に任せており、その意思の徴表として公表名義を問題にしているだけだと考えられます。
したがって、従業員の名義または使用者の名義で公表された場合を除いては、
状況証拠から、当事者の意思が著作者を従業員とする意思であったか使用者とする意思であったかを判断して、職務著作の成立を決定すべきこととなります。

本件においては、原告が被告の委託を受けて、前記チラシを作成し被告の名義で公表している事実から、
原告と原告従業員との間では使用者を著作者とする意思があったと推認できると思います。
したがって、職務著作の成立を認めることができた事案であると考えます。

以上
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