JRRCマガジンNo.191 著作物等の保護期間について(その3)

川瀬真

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JRRCマガジン No.191 2020/1/23
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

みなさまこんにちは。事務局が新オフィスに移転して2週間が経とうとしています。
虎ノ門界隈は法律関係のオフィスが多いのですが、偶然にも知的財産分野を専門的に学べる社会人大学院として有名な金沢工業大学KIT虎ノ門大学院と同じビルとなりました。
ご存知の方も多いのではないでしょうか。
このような場所に移ったことでJRRCが著作物の複製等に係る集中管理団体として身近に感じていただけたらとも思いますので、
将来的には新オフィスがご利用者様との交流の場にもできたら良いなと個人的には思っています。

今週は川瀬先生です。著作権保護期間の計算をパッと思いつく方は読者の方でどのくらいいるでしょうか。
このコラムも保存版です!

◆◇◆◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━

  著作物等の保護期間について(その3)

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前回(その2)はこちらから
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

3 著作物に関する保護期間の特例(続き)
 
(3)著作権関係条約に基づく特例(特に外国の著作物の利用)

①保護期間の相互主義

著作権に関する基本条約であるベルヌ条約では、著作物の原則的保護期間は著作者の死後50年までですが、
その期間より長い保護期間を定めることは問題ありません(条約7条(1)、同条(6))。
また、条約の原則の一つとして、
「内国民待遇」があります(条約5条(1))。この原則は、自国民に与えている保護と同等以上の保護を条約締約国民に与えることをいい、
例えば、条約で定める水準をすべて満たしているわが国で中国の著作物を保護する際には、
私たちは中国著作権法の詳細を知る必要がなく、わが国の著作権法に従って日本の著作物と同様に取り扱えばいいことになります。
ただし、例外がいくつかありまして、その1つが「保護期間の相互主義」というものです(条約7条(8))。上記の中国の著作物を例にして説明しますと、
中国著作権法では、著作物の原則的保護期間は著作者の死後50年までですので、
中国の著作物をわが国で保護する場合は、わが国の保護期間が死後70年までにもかかわらず、死後50年まで保護すればよいということになります。この取扱いについては、
米国のように内外人を差別していない国もありますが、 わが国では著作権法に明文の規定を置いています(法58条)。
なお、例えば、ベルヌ条約とは別の保護のネットワークを形成しているWTO協定(TRIPS協定)の締約国を本国とする著作物についても、
WTO協定における著作権の保護については原則としてベルヌ条約の内容を遵守することになっているので、同様の取扱いをしています(法58条)。

②戦時加算

わが国が第二次世界大戦中に戦争の相手方である連合国及び連合国の国民の著作権を保護していなかったという理由で、
通常の保護期間に戦争期間を加算して保護することになっています。
これを一般に「戦時加算」と呼んでいます。この戦時加算は、戦後の1952(昭和27)年にわが国が連合国と締結した日本国との平和条約(サンフランシスコ平和条約)に基づくものであり、
戦時加算を実施するために、 同年に「連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律」(連合国特例法)が制定されています。
この特例法では、連合国及び連合国の国民が第二次世界大戦前又は大戦中に取得した著作権について、
通常の保護期間に戦争期間(1941(昭和16)年12月8日(開戦日)又は戦争期間中に著作権を取得した日から平和条約が発効する日の前日までの実際の日数
(例えば米国、英国、オーストラリア、カナダ、仏国は3,794日、オランダは3,844日、 ベルギーは3,910日)を加算することになっています(特例法4条)。
このことを具体例で説明します。例えば英国人A(連合国の国民)が1941(昭和16)年12月8日以前に著作した小説甲の著作権ですが、仮にAが1957(昭和32)年に死亡したとします。
そうしますと、現行法が制定された際(1970(昭和45)年)の原則的保護期間である死後50年までで計算すると、
通常の保護期間が、2007(平成19)年12月31日までとなり、それに3,794日を加えると、 2018(平成30)年5月24日まで保護されることになります(1年を365日で計算)。

 ところで、TPPの交渉にあたり国内で大きな問題になったのがこの戦時加算の取扱いでした。

仮にTPP交渉の結果、わが国が著作物の原則的保護期間を死後70年までに延長せざるを得なくなったとき、70年に更に10年余の戦時加算を加える必要があるかどうかです。
サンフランシスコ平和条約を踏まえてできた連合国特例法の規定では、戦時加算は「著作権法に規定する当該著作権に相当する権利の存続期間」(特例法4条1項)に加算をするとしているところから、
わが国政府の見解は、サンフランシスコ平和条約の改訂は事実上困難であるとしたうえで、一旦消滅した権利は復活しないが、
戦時加算中に保護期間が死後70年まで延長された場合、当該70年に改めて戦時加算をしなければならないということでした。
このことを具体例で説明します。上記の例であれば、保護期間の延長が行われた改正著作権法が施行された2018(平成30)年12月30日時点では既に著作権が消滅していますので著作権は復活しません。

しかし、Aが死亡した年が仮に1年後の1958(昭和33)年であるとすると、戦時加算の終了するのは2019(令和元)年5月24日ということになるので、改正法の死後70年までに乗り移れることになります。
この場合、小説甲の著作権は、Aの死後70年まで、すなわち2028年12月31日まで保護されることになり、その期間に更に3,794日の戦時加算を加えることになります。
わが国の関係者間では、保護期間が死後70年までに延長されたのだから戦時加算は解消されるべきであるとの意見が大勢でした。また、外国の政府や民間団体においても、
わが国が戦後一貫して戦時加算制度を誠実に順守してきたことを評価し、戦時加算制度の解決に向けた前向きの取組が行われました。
例えば、著作権管理団体の国際組織であるCISAC(著作権協会国際連合)では、2007年に各国の著作権管理団体が会員に対し戦時加算の権利を行使しないように働きかけることを求める決議をしています。
また、TPP交渉の過程でわが国政府は、戦時加算の対象国である米国、オーストラリア、カナダ及びニュージーランドとの間で書簡を交わし、戦時加算解消に向けての著作権管理団体の取組を奨励する旨の確認をしています。
 
このようにTPP交渉に当たっては戦時加算の解消に向けての努力が行われましたが、制度的な措置が行われたわけではありませんので、通常の保護期間+戦時加算という原則は維持されることになりました。
確かに、この問題は個々の著作権者の権利にかかわることですので、既得権の保護という点からも簡単に解決できる問題ではないように思われます。 

③翻訳権の十年留保

旧著作権法では、著作物が最初に発行された年から10年以内に翻訳物が発行されないときには、当該著作物の翻訳権が消滅し、自由に翻訳・発行ができるという制度を採用していました(旧法7条)。
これは1896年のベルヌ条約パリ追加規定5条に基づき採用されたものですが、その後この規定が条約上廃止された後も、わが国は留保宣言を続けました(このことから「翻訳権の10年留保」といいます)。
この宣言は現行法の制定時に留保宣言を撤回し、現行法ではこの制度は採用されていませんが、既得権保護の観点から、現行法の施行前に発行された著作物については、暫定的に維持されることになりました(原始附則8条)。
したがって、現行法が施行されたのが1971(昭和46)年1月1日ですから、1980(昭和55)年12月31日を最後に新たに翻訳権が消滅する著作物はなくなりました。
なお、解釈上は、この制度の適用のある著作物については、どの言語への翻訳も可能かどうか、また翻訳権の消滅により可能となる行為はどの範囲なのかという問題があります。
前者については、ベルヌ条約パリ改正条約(最新の条約。わが国は加入済み)に定める
「(ベルヌ条約パリ追加規定)第5条の規定は、その国において一般に使用されている言語への翻訳についてのみ適用されるものと当然に了解される」(同条約30条(2)b 、
括弧書は筆者)との規定の趣旨から、わが国の場合、日本以外のベルヌ条約締約国を本国とする外国の著作物については、日本語への翻訳に限定されているとする考えが有力であります。
なお、著作者が日本人である著作物又は日本で第一発行された著作物については、ベルヌ条約の規定にかかわらず、全言語への翻訳権が消滅していると考えられています。

また、後者については、旧法上の翻訳権は、著作物を翻訳し、印刷発行する権利と解されていましたので、
例えば、インターネットでの送信サービスに供するため外国の著作物を日本語に翻訳をする場合は一般に対象外と考えられています。
<参考>加戸守行著「著作権法逐条講義(六訂新版)」(著作権情報センター 2013年 880頁~882頁)

なお、②で説明した戦時加算については、この翻訳権10年留保に係る規定に基づき外国語の著作物を日本語に翻訳し発行する場合にも適用がありますが、
この場合、戦時加算期間に、更に6か月を加算する必要があります(特例法5条)。
 
以上、今回は特に外国の著作物の保護期間の特例について説明をしました。この他に万国著作権条約に基づく翻訳権の7年強制許諾の制度がありますが、
わが国の場合、本制度を適用できる国はほとんどないので説明は省略します。次回は実演等の著作隣接権の保護期間とその特例について説明をします。
 
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